ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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対閑古詠

「まさか、獅子王機関の三聖が動くなんてね……予想外にも程があるわ……」

 

「そういう貴女は、太史局の六刃神官ですか……まさか、第四真祖の手伝いをするとは予想してませんでしたが……まあ、大丈夫でしょう」

 

閑古詠は一度妃崎霧葉を見たが、気負いした様子もなく視線を明久と雪菜に向けた。そして雪菜は、閑古詠を前にガタガタと震えていた。接近戦ならば非常に高い戦闘能力を有する雪菜だが、自分が所属する組織のトップの一人にして、世界でもトップクラスの術師たる閑古詠を相手にするのは絶望的だった。

 

「再び問います、姫柊雪菜……今貴女がやろうとしてるのは、組織に対する反逆行為では?」

 

「あ、わ、私は……」

 

「雪菜ちゃんは、僕の監視者として僕に着いてくるだけだ……別に、命令違反ではない筈だよ?」

 

雪菜が言い澱んでいる間に、一歩前に出た明久がそう答えた。確かに、雪菜に下された最大命令は、第四真祖たる明久の監視に他ならない。そして今は、それ以外の命令は(・・・・・)一切受けていない(・・・・・・・)

つまり、明久の監視のために明久と一緒に本土に渡るのは、なんら命令違反ではないのだ。

 

「……なるほど、確かに一理ありますね……」

 

「せ、先輩……!」

 

「大丈夫……僕に任せて……」

 

そう言って、明久は一歩前に出た。それに合わせるように、霧葉も前に出ながら槍。乙式降魔槍(リチェルカーレ)を構えた。

リチェルカーレは太史局が作った対魔装備で、本人が使えない魔術を充填し、使用することが出来るのだ。

ブルエリの時は、精神操作の魔術を使って沙矢華を操っていた。

今は何を充填しているか分からないが、強力な装備であることは変わらない。そして霧葉は、好戦的な光を瞳に宿しながら駆け出した。その直後、気付けば霧葉の背後に閑古詠が居た。

 

「なっ……!?」

 

「がっ……」

 

本当に、一瞬としか言えなかった。一瞬で、雪菜と同等クラスの霧葉が敗北し、倒れ付した。

 

「まただ! また、時間が跳んだ!?」

 

明久は驚きながらも、刀。安綱を構えた。閑古詠相手に、生半可な刀では意味が無いと判断したのだ。それに触発されたように、雪菜も雪霞狼を構えていた。

 

「後は、あなた達だけですよ……」

 

「そうか……貴女が、父さんの言ってた静寂破り(ペーパーノイズ)か……!」

 

明久がその名前を言うと、閑古詠みの眉がピクリと動いた。静寂破り、それが閑古詠の二つ名だった。獅子王機関の三聖の一人としての二つ名。

 

「……死都帰りの吉井牙城……それに、連牙の吉井明久……親子揃って、高い戦闘能力を有する……貴方の父親には、こちらの降魔官もてこずったという報告が上がってます」

 

(あのエロ親父は、本当に何処で何をやってるんだか……)

 

閑古詠の話を聞いて、明久はそう思った。

そして、雪菜は

 

「閑古詠様……そこまでして、先輩を本土に行かせたくないのですか……?」

 

「そうです……今、本土で行っている秘匿作戦……それに、彼は最大限のイレギュラーになります……ですから、ここで足止め……最悪は、滅ぼします」

 

雪菜の問い掛けに答えると、閑古詠は更に呪力を高めた。その呪力の高さに、空気が震える。

そして雪菜は、一気に駆け出した。雪菜の雪霞狼は確かに対魔族用装備だが、同時に対魔法装備でもある。

並の術師相手ならば、十分に優位に立てる程だ。

しかも雪菜は、近い未来を視ることを可能とする霊視もあり、近接戦闘では比類なき戦闘能力を得ている。

例え実力のある術師でも、雪菜に勝つのはかなり難しいのだ。だが

 

「……甘いですよ……無策で、私に勝てると?」

 

閑古詠は、その上を行く。

気付けば、雪菜は倒れ付していて、閑古詠の手に雪霞狼が有った。

 

「な……あっ……」

 

雪菜は何をされたのか分からないのと、ダメージで動けなくなっていた。そして閑古詠は、雪霞狼を軽く回して

 

「……やはり、貴女を選んで正解でしたね……ここまで受け入れられている……私が、軽く拒絶される程に」

 

と呟き、明久を見た。

 

(……時間が跳んだような感覚……まるで、相手だけが動いている……時間を止めてる? けど、だったら那月ちゃんの空間魔術と相性最悪で、この島では使いにくい筈だ……固有技能……まさか)

 

「……時間の差し込み?」

 

明久の言葉に、閑古詠は体をピクリと震わせた。

 

「貴女の能力は、過応適応者(ハイパーアダプター)に近い時間制御……それも、任意の時間差し込み……それなら、色々と説明が着く」

 

「……中々の洞察力ですね……流石は二つ名持ち、ということですか」

 

閑古詠は明久の洞察力に感心した様子で頷きながら、雪霞狼を構えた。その直後、砂浜の一ヶ所で爆発が起きた。

 

「な、なんだ!?」

 

明久が驚いていると、海の方から

 

「第四真祖様ー! お手伝いしまーす!」

 

と声が聞こえ、視線を向けると、大きめのモーターボートに乗ったオシアナスガールズの姿があった。その内の一人が、両手でロケットランチャーを持っている。どうやら先ほどの爆発は、ロケット弾を撃ったらしい。

 

「雪菜ちゃん達に当てないようにして!」

 

砂浜には、未だに気絶してる霧葉とダメージで動けなくなっている雪菜が倒れている。

その時、明久はあの感覚を覚え、ある眷獣を選択した。

その直後、明久の眼前に閑古詠が居て、閑古詠は雪霞狼を突き出してきた。

明久はそれを右手を盾にして受け止めたが、容易く貫通して体に刺さった。

だが同時に、明久は自身目掛けて獅子の黄金を降らせた。

自爆覚悟のカウンター、それが閑古詠に対する明久が取れる唯一の戦略だった。

砂浜に落雷が降り注ぎ、大轟音が鳴り響いた。


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