ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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逃走開始

物置から冬服を取り出し、更に少し大きめのボストンバッグを出した明久は、冬服を仕舞っていく。雪菜も少し大きめのリュックに学園の冬服と本土に居た頃の冬服を詰めていく。

 

(冬服自体を見るの、久しぶりだなぁ)

 

明久はそう思いながら、冬服を詰めた。そして、準備を終えると家を出た。しかし行き先は、空港や港の方向ではなかった。すると雪菜が、それを不思議に思ったらしく

 

「先輩、一体何処に向かっているんですか……?」

 

と明久に問い掛けてきた。すると明久は

 

「ほら、僕って未登録魔族でしょ? だから普通に空港や港に行っても乗れないんだ……だから、外に出してもらうように頼みに行くんだよ」

 

「誰にですか?」

 

「那月ちゃん」

 

雪菜の問い掛けに、明久はそう答えた。そして、モノレールに乗って十数分。明久は、那月が住んでるマンションに到着すると、慣れた様子で入り口のセキュリティを操作し

 

「吉井明久です、那月ちゃん、居る?」

 

と問い掛けた。すると、返事は無かったがドアの鍵が開いた。

 

「ん? 返事は無かったけど……」

 

明久は不思議そうにしながらも、ドアを潜って奥のエレベーターに乗った。そして目的の階で降りて、ドアの呼び鈴を鳴らした。すると、ドアが開き

 

「入ってください」

 

とアスタルテが入室を促してきた。明久と雪菜は入ると

 

「アスタルテちゃん、那月ちゃんは居ないの?」

 

と問い掛け、アスタルテがそれに答えようとした。その直後、周囲の空間が歪み、周囲に物々しい装備の警備隊が10人程。そして、那月と西村が現れた。

 

「……これは、つまり……」

 

「察しがいいな、吉井」

 

「お前を島の外に出す訳には、いかないんだよ……吉井兄……」

 

二人の気配から気付いた明久が身構えると、西村と那月が構えた。どうやら西村と那月の二人は、人工島管理公社から命令を受けたのか、明久の島の外に行くのを妨害するようだ。

 

「先輩……」

 

「ダメだよ、雪菜ちゃん……この二人相手に、いくら雪菜ちゃんでも勝ち目は無いに等しいよ」

 

雪菜が雪霞狼に手を伸ばそうとしたが、それを明久が制止した。二人の実力は明久もよく知っており、いくら雪菜が強かろうが、規格外と言ってもいい二人と戦い、行動可能な範囲で島の外に出るのは絶望的と言っても過言ではなかった。しかも周囲には、手練れらしい警備隊も10人近く居る。

 

(絶対的不利ってやつだ……どうする……)

 

明久がそう考え始めた直後

 

「那月よ……それは幾らなんでも、大人気ないというものではないか?」

 

と声が聞こえ、那月が周囲に巡らせていたレーシングが溶けるように形を替えた。

 

「なに!?」

 

「錬金術だと!? まさか!?」

 

西村と那月が驚きの声を上げた直後、再び空間が揺れて明久と雪菜の前に新たに三人現れた。

 

「優麻、夏音ちゃん、ニーナ!?」

 

現れた三人を見て、明久は驚いた。その三人は、那月の下で監視保護となっている三人だった。更に

 

執行せよ(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテュロス)

 

眷獣を展開したアスタルテが、明久達に銃口を向けていた警備隊達を吹き飛ばした。

 

「お前達……」

 

「どういうつもりだ……」

 

「なに、これも大人の務めというやつよ……家族の為に頑張る若人を、進ませるというものだ」

 

西村と那月の問い掛けに、ニーナが余裕綽々という風体で答えた。すると、優麻が

 

「明久、ここはボク達が時間を稼ぐ……行きなよ」

 

と言って、指を鳴らした。すると、優麻の背後にあの青い騎士が姿を現して、剣を抜いた。どうやら、空間魔術を使って明久達を逃がすつもりのようだ。

 

「使わせると……!」

 

「させると思うか?」

 

それを見抜いた那月は、即座に妨害しようとした。だがそこに、ニーナが錬金術で作った針を那月に飛ばして妨害。更には、動こうとした西村をアスタルテが殴り飛ばした。その隙に、青い騎士は剣を振るい、空間を切り裂いた。

 

「行って、明久!」

 

「行ってくださいでした、お兄さん!」

 

「行け、第四真祖よ!」

 

三人の言葉を聞いた明久は、後ろ髪を引かれる思いだったが

 

「ありがとう、皆!」

 

と言って、雪菜と一緒に空間の裂け目に飛び込んだ。

そして気付けば、海岸沿いの道路に立っていた。素早く周囲を見回すと、明久は

 

「ここは……空港に繋がる道路だ!」

 

と直ぐに、現在地を割り出した。

 

「先輩、これからどうすれば……」

 

「どうするか……」

 

雪菜の問い掛けに、明久が考え始めた。その時、後ろから一台の白いバンが明久達の横に止まり

 

「乗りなさい、吉井明久、姫柊雪菜」

 

中からドアを開けて、かつて敵対した太史局六刃神官。妃崎霧葉が、二人に車に乗るように促してきた。

 

「な……妃崎霧葉!?」

 

「なぜ!?」

 

「いいから、早く乗りなさい。本土に行きたいのでしょう? 手助けしてあげるわ」

 

明久と雪菜の二人は驚くが、霧葉は再度車に乗るように促してきた。確かに、今はどんな手段だろうが本土に渡りたい。ならば、使わない手はない。

そう判断した明久は

 

「わかった、今は乗ってやる」

 

と言って、雪菜の手を引いて車に乗り込んだ。それを見た霧葉は、ドアを閉めて

 

「出しなさい、行き先は空港よ」

 

と運転席に乗っている運転手、に見える式紙に指示を下した。その指示を受けて、車はスルスルと走り始めた。

それを確認した明久は、霧葉を睨み

 

「どういうつもりだ、妃崎さん……何が狙いだ?」

 

と問い詰めた。すると霧葉はふてぶてしい態度で

 

「簡単よ……私達太史局は、獅子王機関の作戦を失敗させたいだけよ……神縄湖……そこに、獅子王機関三聖が指揮官として自衛隊の攻魔第1大隊が展開してるわ……展開目的は、魔導災害に対処するためとなっているけれど、それは表向き……どうやら、聖孅に関する何かを呼び起こす気のようよ……」

 

「神縄湖!? あの人工湖には、古代の遺跡を隠すために作られたと聞きましたが……本当だったんですね……」

 

霧葉の説明を聞いた雪菜は、何処か納得した様子で頷いた。神縄湖、神緒多神社の裏手に広がる国内でも大きい人工湖だ。表向きはダムのために作られたとなっているが、実際は聖孅の遺跡を封印するために作られた。

 

「あ、そうそう……これ、貴方達の偽造身分証よ」

 

霧葉はそう言いながら、明久と雪菜の前に二冊の身分証を投げた。それを見た二人は、顔を真っ赤にして

 

『なんで、夫婦になってるの!?』

 

と同時に声を上げた。すると霧葉は、ニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべ

 

「その方が、二人で居る理由が簡単でしょう? 他に、何かいい方法があるかしら?」

 

と二人に返した。そう言われた二人は、返す言葉を失った。何せ、那月の手伝いが使えない時点で本土に渡る方法は一切無かった。

つまり、霧葉の方法に頼るしかないのだ。その時、雪菜が車の外を見て

 

「異様な呪力です!」

 

と声を上げた。その瞬間、気が付いたら車が宙を飛んでいた。そう思った瞬間、明久は刀を抜刀。車のドア部分を切り裂いて、雪菜を脇に抱えるようにして跳んだ。それに僅かに遅れて、霧葉も車から脱出。三人は砂浜に着地した。

 

「なんだ、今の!? まるで、時間が跳んだみたいに!?」

 

明久には呪力が高ぶったと同時に、車に攻撃が当たり飛ばされたようにしか感じなかった。そんなこと、理論上はあり得ない。

それこそ、時間が跳んだ(・・・・・・)としか説明が付かない程に。

すると雪菜は、顔を蒼白にしながら

 

「ま、まさか……!?」

 

と砂浜に立つ四人目を見た。その格好は、巫女のような服装で、顔立ちはそこら辺に居そうなごく一般的な女子のそれ。しかし、その気配を雪菜は知っていた。

 

「獅子王機関三聖……閑古詠様……!?」

 

「姫柊雪菜……これは、明確な裏切り行為になりますよ……?」

 

獅子王機関だけでなく、日本国内でも最強の術者と名高い三聖の人。閑古詠だった。


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