ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

14 / 182
終結

明久の放出した雷光が、瞬く間に獣の姿を形作った

 

そして現れたのは、雷光の獅子だった

 

戦車に匹敵するその巨体は、全てが荒れ狂う雷の魔力の塊だ

 

全身は目が眩むような輝きを放っており、咆哮は雷鳴の如く大気を震わせた

 

明久が先代の第四真祖から引き継いだ眷獣は、全て合わせて十二体

 

だが、雪菜の血を吸っても明久を宿主と認めたのは、たった一体

 

この雷光の獅子だけであった

 

だが、それは予想出来ていた

 

雪菜と出会って、僅か数時間

 

なぜか、この雷光の獅子は異様なまでに活性化していたのだ

 

倉庫街では、雪菜を守るたむに、自ら暴走するほどだ

 

その理由も、今ならよくわかる

 

この雷光の獅子は、初めて会った時から雪菜に懐いていたのだ

 

雪菜の血の臭いに、強烈に惹きつけられていたのだ

 

「これが貴方の眷獣か……! これほどの力を密閉された空間で使うとは、無謀な!」

 

ルードルフは雷光の獅子が放つ魔力の波動に圧倒されて、動きが鈍っていた

 

その隙を突いて、雷光の獅子が前足をルードルフ目掛けて振り下ろされた

 

その一撃は、ルードルフが咄嗟に後ろに跳んだので、カスる程度だった

 

だが、それだけでルードルフのその巨体が数メートルも跳ね飛ばされた

 

更には、衝撃波でルードルフの纏っていた装甲鎧から火花が散り、熱で戦斧の刃が溶け出した

 

そして攻撃の余波は、もちろんキーストーンゲートにも及んだ

 

撒き散らされた稲妻が、ゲートの外壁を伝って周囲に拡散し、設置されていた非常灯や監視カメラのほとんどが破壊された

 

ワイヤーケーブルを固定していた巻き上げ機(ウインチ)も、鈍い悲鳴を上げている

 

戦闘が長引いたら、島すら無事では済まないのは明々白々だ

 

「アスタルテー!」

 

ついに、殲教師が己が従者を呼んだ

 

次の瞬間には、雪菜と戦っていたアスタルテは爆発的な魔力を放出した

 

自然災害に匹敵しうる猛威を振るう明久の眷獣に対抗出来るのが、アスタルテの眷獣は薔薇の指先しか存在しないと判断したのだろう

 

アスタルテは圧倒的な魔力に物を言わせて、雪菜を振り切って、雷光の獅子の前に立ちはだかった

 

雪菜の危機と判断したのか、宿主たる明久の意思を無視し、雷光と化してアスタルテへと襲いかかった

 

次の瞬間、薔薇の指先が虹色に輝き、雷光の獅子は跳ね返された

 

跳ね返しのは、薔薇の指先の神格振動波駆動術式である

 

本来だったら全て消し去る筈なのに、消しきれずに跳ね返すだけになったらしい

 

とはいえ、跳ね返した雷光に残された魔力も膨大で、雷撃は一撃で天井を破壊

 

瓦礫が降り注いだ

 

「うわたたたたた!?」

 

「きゃあああ!?」

 

流石に瓦礫はどうしようもなく、明久達は逃げ惑った

 

そして、なんとか瓦礫を避けきり、明久はアスタルテに視線を向けた

 

獅子の一撃を受けたというのに、アスタルテの薔薇の指先は無傷だった

 

「くっ! ……ダメなのか!? 僕の眷獣でも、アスタルテの結界は突破出来ないなんて……!」

 

無傷のアスタルテを見て、明久は唇を噛んだ

 

獅子の一撃にすら耐えたのだ

 

どんな攻撃をしようが、全て簡単に防がれるだろう

 

それに、これ以上の戦闘には、キーストーンゲートの方が耐えられない

 

もし、キーストーンゲートの外壁が壊れたら、水深二百二十メートルの水圧が一気に押し寄せて、明久達は一瞬で押し潰される

 

雪菜は間違いなく即死で、明久はどうなるのか予想出来なかった

 

「先輩……」

 

雪菜が心配するように明久に寄り添い、明久を支えた

 

はっきり言って、明久も雪菜も疲労はピークに近い

 

明久は慣れない戦いで精神的に疲れて、雪菜はあれほど強力なアスタルテを相手にしたのだ

 

もはや、決着が近いのは目に見えている

 

「ごめんね、雪菜ちゃん……アスタルテちゃんは、倒せないかもしれない……!」

 

明久は不甲斐ない自分に腹が立ち、声を震わせた

 

あと少し

 

あとほんの少しで、島を救える

 

だというのに、その少しが明久には余りにも遠く感じられた

 

だが、雪菜は正反対に華やかな笑みを浮かべて

 

「いいえ、先輩。この聖戦(たたかい)は、私達の勝ちですよ」

 

と宣言した

 

雪菜がそう言った理由が分からず、明久は不思議そうな表情を浮かべた

 

すると、雪菜は明久の前に出て

 

「……獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る」

 

銀色の槍を振るいながら、雪菜は舞った

 

まるで、神に勝利を願う剣士のように

 

あるいは、勝利の預言を授ける巫女のように優美に

 

「破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて、我に悪神百鬼を討たせ給え!」

 

粛々とした祝詞を雪菜が唱えると、雪霞狼が神々しい光を放ち始めた

 

仄白いその光は、あらゆる結界を切り裂く神格振動波である

 

だが、その形はアスタルテのものとは違った

 

細く、鋭く、まるで光り輝く牙の如く

 

「ぬ、いかん!」

 

雪菜の狙いに気づいて、ルードルフは無防備な雪菜目掛けて戦斧を投げようとした

 

だが

 

「させない!」

 

それを、明久の放った高速の突きが阻んだ

 

それをルードルフは、戦斧で防いだ

 

そして、雪菜にとってはそれだけで充分だった

 

その一瞬で、雪菜はまるで飛ぶように駆け出した

 

それはまるで、しなやかな純白の雌狼のように

 

雪菜の速度に、アスタルテの反応が遅れた

 

互いに、同じ神格振動波駆動術式が槍と眷撃に刻印されている

 

だが、アスタルテは鎧のように全身を覆っているのに対して、雪菜の槍は、その力を穂先の一点に集中していた

 

ただただ、細く鋭く、相手の結界()を貫くためだけに

 

「雪霞狼!」

 

雪菜が繰り出した一撃は、アスタルテの防御結界を突き破り、顔のない人型眷獣の頭部に深々と突き刺さった

 

その時には、明久にも雪菜の言葉の意味が分かっていた

 

結界を貫通したとはいえ、雪菜の槍は、巨大な眷獣にとっては大したダメージにはならない

 

だが、その槍は今も眷獣の頭に深く突き刺さっている

 

それはまるで、雷を呼び寄せる避雷針のように

 

「獅子の黄金!!」

 

明久が命ずるよりも早く、まさしく光速で雷の獅子が疾った

 

そして雪菜はすでに、槍を手放して空中に舞っていた

 

その数瞬後、雪菜が突き刺した槍へと明久の眷獣が降り注いだ

 

雷へと姿を変えて、眷獣は薔薇の指先の体内へと流れ込んだ

 

魔力の塊たる眷獣を倒すには、より強い魔力をぶつける

 

真祖の眷獣の圧倒的な魔力が、今度こそ一撃でアスタルテの眷獣に致命傷を与えて、消し飛ばした

 

「アスタルテ……ッ!?」

 

ルードルフが呆然と見ていた先では、アスタルテが力無くその場で倒れた

 

アスタルテの存在こそが、ルードルフの目的たる聖遺物の奪還には必要不可欠だった

 

そのアスタルテが倒れたことで、ルードルフの野望は潰えた

 

そして、現実を受け入れられずに固まっていたルードルフの目の前に、雪菜が華麗に着地

 

そして、放心していたルードルフは反応が完全に遅れた

 

気が付けば、ルードルフの装甲鎧に雪菜が掌を押し当てていた

 

「響よ!」

 

放たれたのは、鎧を貫通して人体内部にダメージを与える剣巫の掌打だった

 

雪菜の一撃を喰らい、ルードルフは苦悶の呻き声を漏らし、それと同時にルードルフの長身がくの字に曲がった

 

そこに

 

「これで、終わりだ!」

 

明久が追撃に斬撃を放った

 

斬撃とはいえ峰打ち

 

しかし、峰打ちとはいえ吸血鬼の腕力を全開で放った一撃は、ルードルフの装甲鎧を打ち砕き、ルードルフをまるでボールのように飛ばした

 

飛ばされたルードルフは、数メートル吹き飛び壁に激突

 

地面に倒れると、震える手をキーストーンへと伸ばしたが、そのまま力無く落ちた

 

こうして、戦いの幕は下りた


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。