「……疲れたね、雪菜ちゃん……」
「……そうですね、先輩……」
二人は病院の待ち合い室のソファーに座りながら、自販機で買ったお茶を飲んでいた。あれからだが、固有結界から解放された明久達の近くに、那月が現れた。
その那月の指示で、明久と雪菜は一度身を隠し、防衛隊をやり過ごした。アンジェリカは拘束され、セレスタは今居る病院に運ばれた。
「……そろそろかな?」
「あ、来ましたよ」
明久が呟いた直後、雪菜はある方向を指差した。その先には、那月が付き添う形でセレスタが居た。
明久達は缶を捨ててから、セレスタ達に歩み寄り
「セレスタちゃんの容態は?」
と問い掛けた。
「長年邪神を宿したことで、体内には凄まじいまでの神気が宿っているが、体調は概ね問題はない。暫くの間経過観察は必要だがな」
「つまり、暫くの間は
「そうなるな」
雪菜が問い掛けると、那月は應楊に頷いた。
どうやら、セレスタは暫くの間は絃神島に居ることになるらしい。すると、那月は
「それと、あの女隊長は暫くは地下の牢獄に監禁されることが決まった。それに合わせて、厳しい尋問もセットだな。どうやら、アメリカ連合国に対する外交の切り札にする気のようだ。ククク……内容によっては、
「那月ちゃん、悪い顔になってるよ……うごっ!?」
「吉井兄、貴様はいい加減に教師をちゃん付けで呼ぶな」
明久は余りの痛みに、額を押さえながら呻いていた。その間に、雪菜がセレスタに近寄り
「セレスタさん……」
何かを言おうとしたらしいが、上手く言葉に出来ずにいた。するとセレスタは、雪菜の耳元で
「あんたは、あいつとイチャイチャするんでしょ?」
と囁いた。その瞬間、固有結界内での発言を思い出した雪菜の顔は、まるで瞬間湯沸し器を彷彿させる速度で真っ赤になった。
それに気付いた明久は、雪菜に
「雪菜ちゃん、何かあった?」
と明久は問い掛けた。それは、単純に雪菜を心配したからだが、顔が大分近い。その行動に、雪菜は更に顔を赤くして
「なんでもありません!?」
と明久の腹に、見事に腰が入った拳を叩き込んだ。
「ぐふっ……な、なぜ……」
明久の脳内に、何故かゴングの音が鳴り響いた。雪菜は顔を両手で覆いながら壁際で踞り、一連を見ていた那月はやれやれと首を振っていた。
それを見たセレスタは、ひとしきり笑うとまだ倒れてる明久に近寄り
「ありがとうね、バカ真祖……」
と小さな声で、感謝の言葉を述べた。
その頃、日本本土のある神社の石段の前。
「ようやく、着いた……ババア、生きてるか?」
「もう、牙城君がネズミ海に行きたいって言うから遅くなったんじゃない」
「いやいや、たまには家族サービスをってな……ん?」
凪沙の言葉に反論した牙城は、視線を高い石段の先に向けた。そして少しすると牙城は
「凪沙、まだ降りるな。車の中で待ってろ」
と降りようとしてた凪沙を止めた。
「えー! ここ、携帯の電波状況悪いのにー!」
「俺のゲーム貸してやるから」
「牙城君のゲームは、脱衣麻雀しか入ってないじゃない! そんなのを、娘にやらせる!?」
凪沙のごもっともな指摘に、牙城は
「なぁに、どうせ怒ってるババアを少し宥めるだけだよ。いい子で待ってな」
と言ってから、石段を上り始めた。そして数分後、凪沙は空に幾何学的な模様が写ってることに気付いて、それを携帯で撮影し、明久に送信した。
それが、新たな騒動に繋がることも知らずに。