ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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到着

「くあっ!?」

 

「地味女!?」

 

雪菜に雪崩のように押し寄せる蔦。雪菜はそれらを、雪霞狼で切り払うか、回避する。しかし、余りにも膨大な数に対処が追い付かず、一本の太い蔦が雪菜を打ち据える。それでも雪菜は止まらず、祭壇に向かって前進する。一歩ずつでも、確実に。

その時、セレスタが目を閉じた。目の前の光景を見たくないからか。否、それは抗ったからだ。その運命(さだめ)から。死の運命から。

 

「痛った……」

 

「セレスタさん!」

 

それまで雪菜に襲い掛かってきていた蔦が、消滅していく。雪菜が視線を向けると、セレスタが全身に力を込めて動いていた。祭壇から離れようと。雪菜が最後の一本を切った時、セレスタは祭壇から転げ落ちた。それと同時に、蔦が全て消えた。雪菜はセレスタに駆け寄ると、身動き出来ないらしいセレスタを助け起こした。雪菜も満身創痍に近いが、まだ動ける。

その時、神殿が大きく揺れた。

セレスタを失ったことで、力の供給源が無くなり、結界そのものが震えているのだと、雪菜は気付いた。

その証拠に、祭壇が。邪神を実体化させるための魔術装置が、激しく明滅し、莫大な神気が不規則に乱れ始めていた。

このままでは、邪神として実体化することも出来ずに、溜め込んでいたエネルギーだけが解放され、神気の大爆発が起きる。最低でも、半径数十kmが吹き飛び、絃神島はほぼ確実に消滅する。

 

「セレスタさん!?」

 

セレスタは何とか立ち上がると、祭壇に手を触れた。雪菜はセレスタを制止しようとしたが、それをセレスタは振り払い、祭壇によじ登って

 

「大丈夫よ……地味女……あたしが、なんとかしてみせる……」

 

セレスタはそう言って、祭壇に横たわった。邪神の卵を召喚したのは、セレスタである。セレスタの絶望と同調(シンクロ)することにより、ザザラマギウの実体化が始まった。ならば、ザザラマギウの実体化を止められるのもまた、花嫁たるセレスタだけになる。

勿論だが、上手くいくという確証も保証もない。セレスタにも自信はないだろう。だが、ほんの僅かでも可能性が有るならば、今はセレスタを信じるしかない。

その証拠に、少しずつだが不規則に乱れていた神気が収まっていく。

これならば、と雪菜が期待した。その直後、ズガンという予想外の音が響き、祭壇と階段が砕け散った。

 

「なっ!?」

 

階段に居た雪菜は、崩落する階段に巻き込まれないようにと後退。それにより、雪菜とセレスタの距離は開いた。

気付けば、神殿の床に大きな亀裂が走っていた。

つまり、祭壇と階段を砕いたのは、圧倒的な破壊力を持つ不可視の斬撃。その攻撃を、雪菜は知っていた。

 

「よくやってくれた……と言っておこうか、民間人。貴様のおかげで、生贄の間(ここ)に入れた」

 

神殿の入り口には、左手を振り上げた姿勢のアンジェリカ・ハーミダが居た。

アメリカ連合国(CSA)陸軍所属、第十七特殊任務部隊分遣隊。アンジェリカ・ハーミダ率いる特殊部隊(ゼンフォース)は、今や残存戦力は二名のみ。

その一名は、入り口から少し離れた場所で軽機関銃を持ってアンジェリカの脱出経路の確保をしている。同様の任務は過去に何度も繰り返し行われ、その度に多くの血が流れた。敵と味方、双方で。

血塗れアンジェリカの異名の理由だ。

アメリカ連合国の歴史は、戦争の歴史である。そもそもアメリカ連合国そのものが、欧州北海帝国に対する独立戦争、北米連合(NAU)との武力衝突の末に成立した軍事国家だからだ。

戦争の直接の原因は経済的な面からだが、その背景には魔族に対する差別があった。

人間と魔族の共存を目的にしたのが、聖域条約。それに、アメリカ連合国は調印していない。

人類純血政策を掲げ、人類至上主義に傾倒しているアメリカ連合国にとって、魔族は淘汰か家畜以下の下等な存在なのだ。

過剰と言える差別政策により、国際的に孤立しているアメリカ連合国では、軍事力の整備が最優先課題とされていた。国家を存続させるには、世界各地の紛争に常に介入し、軍事パワーの調整を続ける必要があった。

そのような軍事介入の主力となっているのが、特殊部隊だった。故に、彼等の国家に対する忠誠心は篤く、そして死を厭わなかった。

そして、アンジェリカ率いる部隊は何度も激戦地に投入された精鋭だった。

 

『隊長! 今しがた、謎の衝撃が!』

 

「……警戒態勢を強化。視界に入ったモノは、全て殺せ」

 

『了か……な、あれは、眷獣!?』

 

「眷獣だと!? まさか、第四真祖か!?」

 

部下からの報告に、アンジェリカは驚いた。アンジェリカの記憶では、第四真祖たる吉井明久は、瀕死の重傷を与えた。幾ら第四真祖と言えども、たった十数分で行動可能域まで回復するとは思えなかったのだ。

 

『クソッ!? こいつ、俺の魔道具では!? しまっ……があぁぁぁぁぁ!?』

 

「ランド! どうした、ランド曹長!?」

 

アンジェリカが繰り返し呼んだ直後、瓦礫によって塞がれていた入り口が、瓦礫が吹き飛ばされて開いた。そうして入ってきたのは、血で汚れたジャージを着た明久だった。

 

「ランドって、こいつのこと?」

 

明久はそう言って、右手で引き摺っていた男を無造作に放り投げた。上半身だけになっており、その胸には深々と刀が突き刺さっていた。

 

「こいつ、聞いてもいないのに、僕で60人目の獲物だって言ってたよ……まあ、その過半数が罪もない民間人だろうし……殺したよ」

 

明久は感情を感じさせない声でそう言って、ランドに刺さっていた刀を抜いて

 

「ここで終わりだ、アンジェリカ・ハーミダ……切り捨てる」

 

と突き付けた。


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