ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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二人の共通点

夏音から血を吸った明久は、体の傷が治り、更には新しい眷獣を掌握したのを自覚した、そして明久は、自身の上で寝ている夏音に視線を向けて

 

(さて、どうしようかな……)

 

と悩み始めた。そこに

 

「夏音ならば、ワシに任せよ。第四真祖」

 

と新たな声。体を僅かに海老反りさせながら、明久は声が聞こえた方を見た。すると、入り口にエキゾチック美人が立っていた。

 

「ニーナ……どうやって」

 

古代から生きる錬金術師、ニーナ・アデラードは、明久の問い掛けに、フフンと笑い

 

「ワシ程にもなると、異空間に入る為の物の錬金も容易いものだ。それに、夏音が着けている、そのネックレス。位置をワシに教えるものだ」

 

と言いながら、左手には何らかの杖を持ち、右手で夏音の首もとを指差した。確かに、よく見ればネックレスがある。羽を模したネックレスで、聖女然とした夏音によく似合っている。

 

「それじゃあ、アスタルテちゃんは……」

 

「アスタルテならば、既に外に居るよ。どうやら、警戒していたようだ」

 

実を言えば、明久が気付いた時にはアスタルテの姿が消えていたので、少し気になっていた。しかしどうやら、既に外に居たらしい。

するとニーナは、近くに落ちていた夏音の服を拾ってから、夏音を優しく持ち上げて

 

「さあ、行け。第四真祖よ……この戦いを、終わらせてこい」

 

と告げた。素早く立ち上がった明久は、軽く体を動かしてから

 

「うん、終わらせてくるよ」

 

と言って、駆け出した。

時は遡り、明久と別れた雪菜は遺跡を駆けていた。不安定な足場だが、その程度ならば雪菜からしたら、大した障害ではない。しかし、問題は

 

「はあっ!」

 

今居る世界そのものだった。蔦だけでなく、大木の枝。遺跡の防衛機構。否、空間そのものが、侵入者を排除しようとしてくる。それを雪菜は、槍で次々と払い除ける。

 

(予想はしてましたが、予想以上です……しかも)

 

「隙ありだ、剣巫」

 

突如として現れるアンジェリカが、雪菜に対してナイフを振るう。それを雪菜は、体を大きく反らして回避。槍を繰り出すが、アンジェリカは優々と回避し、大木の裏に消えた。

 

(流石は、ゼンフォースの隊長クラス……身のこなしが並大抵では……)

 

実は、既に数回程アンジェリカから奇襲を受けており、雪菜はその全てを回避している。しかしアンジェリカは、時に上から、またはワイヤーを駆使して横からと、様々な角度から奇襲してきていた。

 

(地の利は、相手にありますね……)

 

雪菜も様々な地形で戦えるように訓練したが、アンジェリカには遠く及ばない。それは、装備面からも明白だ。恐らく、ワイヤーは都市戦を想定したのだろうが、森林内でも十分に有効な装備だ。

今のように奇襲にも使えれば、罠にも使える。

そして、ナイフと拳銃。ナイフはどうやら特殊な加工が施してあるようで、雪霞狼と互角に打ち合っている。それだけでなく、拳銃にも加工が施してあるようで、ナイフは障壁を切り裂き、拳銃は弾が容易く障壁を貫通した。

 

(流石は、対魔排斥国家……対魔族用装備では、世界でも群を抜いています……)

 

アメリカ連合国(CSA)

CSAは世界で唯一と言える魔族特区条約非加盟国で、更に言えば、魔族排斥国家である。

魔族は世界の毒であり、徹底的に排除すべきだ。もしくは、人類が徹底的に管理し、使えても実験用。人権を与える必要など無い。というのが、CSAの一貫したスタンスだ。その対魔族用に編制されたのが、対魔族非正規特殊部隊。ゼンフォースだ。

ゼンフォースの活動は多岐に亘り、他国に入り込み、魔族の仕業に見せ掛けた破壊工作。魔族特区に対する破壊工作。魔族と争う者達に対して教習したり、武器の供給等となる。

しかし、只の人間では魔族に勝てる確率は非常に低い。やはり、全体的に能力が低いのだ。そこで、CSAが開発したのが、魔導強化兵である。

外科、薬物、魔導技術、あらゆる手段を用いて、徹底的に兵士の能力を強化したのだ。

つまりは、人体実験。その検証にも、捕らえた魔族を使ったと思われ、結果として、魔族と互角と戦える性能を入手した。

 

「なぜ、CSAがセレスタさんを捕まえようとしているんですか!」

 

「あの小娘になど、要はない。私達が欲しいのは、ザザラマギウのみだ」

 

雪菜が問い掛けると、何処からかアンジェリカが答えた。しかし、ザザラマギウはセレスタに憑いている形の邪神だ。それを無理矢理奪うとなれば、最悪の場合、セレスタが死ぬことになる。

更に言うと、もしCSAがザザラマギウの膨大な力を兵器として使ったら、どうなるか予想がつかない。

 

「そんなこと、させません」

 

「貴様に出来るか、剣巫」

 

アンジェリカの言葉を聞いた雪菜は、走る速度を上げた。そうして雪菜は、懐から数枚の札を取り出して投げた。札は空中で金属の鳥に変わり、ある方向に飛んでいった。式紙に命じたのは、アンジェリカの妨害。

その間に雪菜は、祭壇と思われる場所に入った。その直後、雪菜を奇妙な感覚が襲った。

真っ暗な上に、上下の感覚が無くなったのだ。雪菜は槍を突いて杖代わりにすることで、辛うじて平衡感覚を保った。

床だと思ったのは壁で、天井だと思ったのは床。階段だと思っていたのは、階段の裏側で、少し離れた位置の窓を見てみれば、そこに見えたのは空。天窓を見てみれば、そこに広がるのは海。

このままでは正気すら失いそうで、雪菜は唇の端を軽く噛み切ることで意識を強引に引き戻し、視線を前方の奥に向けた。その先には、黄金の祭壇があり、祭壇の上にはセレスタが力なく浮いていた。

 

「セレスタ……さん!」

 

雪菜は近づこうと、走り出した。だがその瞬間、雪菜は上下の感覚を奪われて転んだ。

それは、防衛機構ではない。今居るのは、神の間。つまり、居ることを許されているのは、ザザラマギウの花嫁だけなのだ。

 

「お願いです! 答えてください、セレスタさん……!」

 

その理屈を理解しながらも、雪菜は懸命に足を踏み出した。その時、セレスタの目がゆっくりと開いた。それを見て、雪菜は確信する。セレスタはまだ、引き戻せる。セレスタの精神は、まだ人間のままなのだ。

 

「地味……女……」

 

セレスタは祭壇の上で身動ぎしながら、雪菜の方に視線を向けた。だがその声には、絶望と諦めが混じっていた。しかし、それも無理からぬことだろう。なにせ、セレスタの体からは、おぞましいまでの神力が溢れてきている。

 

「あんた……なにやってんのよ……早く、逃げなさいよ……見てよ……あたしは、もう……」

 

「いえ、駄目です。あなたを連れて帰ります」

 

セレスタが最後まで言う前に、雪菜は迷いなくそう告げる。するとセレスタは

 

「あたしがどうなろうと、あんた達には関係ないじゃない!? あんたは、明久と二人で家でイチャイチャしてなさいよ!」

 

「言われずとも、そうします!」

 

セレスタの言葉に、雪菜は顔を赤くしながらも即答した。セレスタは、雪菜が叫ぶように答えたからか、気圧された様子で

 

「ひ、開き直ったわね……地味女のくせに!」

 

「だけど、その前に、あなたをここから連れ出さないと駄目なんです!」

 

セレスタの言葉を無視し、雪菜はゆっくりと祭壇の階段を登っていく。そうしていく間にも、遺跡の防衛機構が作動し、雪菜を魔力の奔流が襲う。それを雪菜は、雪霞狼の結界で耐えて登っていく。

 

「……どう……して……どうして、そこまで……?」

 

理解出来ないという様子で、セレスタは雪菜を見た。邪神たるザザラマギウの降臨を防ぐのが目的ならば、セレスタを殺すのが確実かつ最速の解決法だ。

そうして雪菜は、階段を登り

 

「……そうでなければ、わたしが救われないからです」

 

「え……?」

 

雪菜のその言葉と泣きそうな表情が予想外で、セレスタは固まった。

 

「……わたしも、あなたと同じなんです……神を喚び出すための生け贄として、死ぬはずでした……七歳の誕生日を迎える前に……誰も……吉井先輩も知らないことです……だけど、殺される直前にわたしを連れ出してくれた女性(ヒト)が居たんです」

 

そう語りながらも、雪菜は重力の歪みと魔力の奔流で倒れた。まともに受け身も取れず、倒れた。衝撃が体の芯にまでダメージが響き、息が止まる。

その時雪菜は、幼い頃に初めて出会った剣巫の姿を思い出した。

その時は随分と大人に見えたが、今思い出してみれば、今の雪菜と同じ位だった。それでもその女性は、単身で雪菜を救いだしてくれた。

 

「その女性は、吉井先輩と同じことを、わたしに言ってくれました……どうして助けてくれるのかと訊いたわたしに、理由が必要か、って……」

 

雪菜は最早、床を這いずるように、祭壇の真下に到着した。そして雪菜は、街中でセレスタが走り出した時、明久は迷いなく走り出した。

それを見た雪菜は、嬉しかった。邪神の生け贄になる忌まわしい立場の少女(セレスタ)を、明久は迷わず助ける選択を選んだ。

雪菜には、それがまるで自分にまで向けられた選択のように思えたのだ。

 

「わたしは、その女性のおかげで剣巫になって、先輩やあなたに出会えた……だから……」

 

私には、セレスタを助ける理由がある。そう言おうとしながら、雪菜は祭壇に手を触れた。その直後、雪菜はまるで砲弾のように吹き飛ばされ、それと同時に壁を突き破って現れた蔦が濁流のように雪菜に襲い掛かる。

 

「地味女ーっ!?」

 

轟音と共に叩きつけられた雪菜の姿に、セレスタは思わず叫んだ。その直後、青い光が刃のように伸びて、蔦を裁断した。

その中から、雪菜が姿を見せる。だが、絶望的な戦いだ。傷付き、消耗し、残った霊力も少ない。

それに対して、ザザラマギウは邪神らしく無尽蔵の神力を撒き散らしている。戦いの素人のセレスタから見ても、結果は見えていた。

 

「もういい! あんた一人で、神に勝てるわけが無い! 逃げなさいよおぉ!! あんただって、わかってるでしょう!?」

 

「逃げません、わかっています」

 

セレスタの絶叫に、雪菜は微笑む。しかし、ザザラマギウは雪菜を排除するために神力を消費する。その分、実体化が遅れることに繋がる。

そうすれば、時間稼ぎが出来る。

()が回復し、駆け付けるまでの時間を。


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