ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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三つ巴

「邪魔はさせんぞ、第四真祖!」

 

アンジェリカはそう言って、明久を狙って拳銃を撃った。45口径、それも対魔族用の法銀弾頭弾。普通の魔族だったら、確実に致命傷間違いなし。しかしその弾を、明久は持っていた刀で弾き

 

「邪魔は、あんた!!」

 

と足下にあった石を蹴り飛ばし、アンジェリカが持っていた拳銃を弾き飛ばした。それにアンジェリカが舌打ちした直後、ザザラマギウに著しい変化が起きた。それまで一定のサイズを維持していたのだが、突如として肥大化。それだけでなく、中から夥しい数の触手。否、とてもなく太い蔦を生やして、周囲に伸ばした。その内の何本かが明久達を捕まえようとしたが、全員素早く回避した。その瞬間、周囲の景色までも変わった。

鬱蒼と生い茂る太い木々に、一目で分かる古代の遺跡。

 

「これは……」

 

「先輩、固有結界です! あの邪神は、自分の力を最大限発揮するための場所を再現したんです!」

 

明久が周囲を見回していると、雪菜が明久の背後を守りながらそう告げた。

固有結界。魔術の中でも、秘奥に分類される魔術で、本来は自身の心象風景を世界に上書きする空間魔術に分類される。魔術師や魔法使いが発動した場合、僅か数分で世界の修正力と使い手の魔力が尽きてしまい、終了する。

しかし、相手は一応とは言えども邪神。その魔力量と世界の修正力に抗う力。それが、今の状況を形作った。

 

「つまり、ザザラマギウが力を解放しようとしてるってことか!」

 

明久はそう言うと、少し黙考し

 

「ねえ、雪菜ちゃん……血を、吸わさせてくれるかな?」

 

と雪菜の耳元で囁いた。

 

「今、そんな場合では……先輩!」

 

雪菜が声を挙げた瞬間、気が付けばアンジェリカが目前に居た。そして、左手を無造作に振るった。それを見た雪菜は、反射的に雪霞狼を掲げた。その直後、凄まじい衝撃が雪菜を襲った。

 

「ぐうっ!?」

 

「雪菜ちゃん!?」

 

雪菜が押し飛ばされた直後、新たな声が響いた。三人の視線が集中した先には、夏音が居た。その夏音に気付いたアンジェリカは、今度は夏音に向けて左手を振るった。見えない衝撃が、夏音に襲いかかる。だが

 

「夏音ちゃん!!」

 

その前に、明久が布陣した。その直後、明久の体を、右肩から左腰に掛けて、大きく切り裂かれ、血が吹き出した。

 

「先輩!」

 

「お兄さん!?」

 

雪菜は一瞬目を見張るが、直ぐにアンジェリカに突撃し次撃を未然に防ぎ、夏音は膝を突いて後ろに倒れてきた明久を、何とか抱えた。

 

「夏音……ちゃん……無事……?」

 

「私は大丈夫でした! しかし、お兄さんが!?」

 

明久が息絶え絶えに問い掛けると、夏音は明久の傷口を見た。今も激しく出血しており、人間だったら長くは持たなかっただろう。

そんな二人の前に、アスタルテが現れて

 

執行(エグスキュート)薔薇の指先(ロドダク・キュロス)

 

アンジェリカが放っていた、衝撃から二人を守った。

 

「アスタルテ……ちゃん……なんで、ここに……」

 

「返答、彼女の買い物に付き合っていました」

 

明久の問い掛けに、アスタルテは視線をアンジェリカに向けたまま答えた。それを見た雪菜は、アンジェリカを蹴り飛ばし

 

「アスタルテさん、夏音ちゃん。先輩をお願いします! その間、私は彼女を押さえます!」

 

と言って、アンジェリカに突撃。そのまま、樹海の中に姿を消した。それを見送ったアスタルテは、一度眷獣を納めると、夏音と明久に近寄り

 

「提案。彼を運びましょう」

 

と夏音に提案した。

 

「そ、そうでした! お兄さん、立てました?」

 

夏音の問い掛けに明久は何とか立ち上がろうとしたが、足に上手く力が入らず、倒れそうになった。それを、夏音とアスタルテは二人掛かりで支えた。そうして、アスタルテが

 

「あそこに、運びましょう」

 

と一ヶ所を指差した。そこには大木があり、その根元が大きく開いている。アスタルテと夏音の二人は、ゆっくりとだが、何とか明久をそこまで運びいれた。

中は予想以上に広く、三人が入ってもまだ余裕がある。

 

「お兄さん……お兄さん……!」

 

「大……丈夫……放っておけば……勝手に、治るから……」

 

明久はそう言うが、夏音は涙を流しながら一生懸命に傷口を押さえている。すると、アスタルテが

 

「提案……彼に血を与えれば、直ぐに治ります」

 

と夏音に提案した。それを聞いた夏音は、思い出した。目の前に居るのは、世界でも最強級の第四真祖だと。

 

「お兄さん……」

 

「夏音ちゃん……それは……ダメだ……僕に血を与えたら……夏音ちゃんも、狙われるかもしれない……」

 

夏音は着ていた服の胸元のボタンを外そうとしたが、その手を明久が掴んで、制止した。

今も明久は、様々な勢力に狙われている。

少し前に那月から聞いた話では、欧州から吸血鬼ハンターが討ちに来たらしい。しかしその吸血鬼ハンターは、西村によって一発KOされたとか。

更に言えば、夏音はあの人造天使の影響か霊媒能力が人並み外れて高い。それを狙う輩も居て、夏音が那月の家に一緒に住んでるのは、夏音を護る意味合いも有るのだ。夏音の周囲には、アスタルテ、那月、ユスティナといった護衛が着いているのだ。

雪菜も実は多数狙われたが、雪菜の場合は自身で対処が可能であり、今まで大した問題にはならなかった。

しかし、夏音自身には戦闘力は皆無に等しい。もし夏音までが明久に血を与えたと知られたら、今まで以上に狙われることになる。

それを、明久は危惧したのだ。

しかし、アスタルテがいつの間にか下着姿になっていて

 

「問答している暇は、ないかと」

 

と言って、明久の背中に抱き付いた。アスタルテは吸血鬼の吸血衝動が性欲が起因していると知ってるので、手早く吸血衝動を起こさせるためにそうしたようだ。

そうして、夏音も胸元のボタンを外し

 

「お兄さん……」

 

と明久に抱き付いた。どうやら、決意しているようだ。だから明久も、意を決して

 

「ありがとう……夏音ちゃん……」

 

感謝の言葉を告げてから、その牙を夏音の首筋に突き立てた。


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