ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

130 / 182
ザザラマギウ

逃げた魔導強化兵を追い掛けていくうちに、明久と雪菜は前方から激しい魔力を感じた。それは、明らかに旧い世代の魔力。それも、波動からして吸血鬼が眷獣を呼び出した際のもの。

 

「一体、誰が!?」

 

明久がそう言ったタイミングで、出た広場で数人の人影を見つけた。一人は、捜していたセレスタ。その近くにはバトラー、そして、女性にしては大柄な金髪の女性が居た。その女性の前に、明久達と戦っていた軍人が片膝を突いて

 

「ハーミダ大尉、ブイン軍曹は戦死。残るは、自分だけです」

 

と女性。アンジェリカ・ハーミダに報告した。よく見れば、右腕が肩辺りから無い。恐らくは、バトラーによって斬られたのだろう。

 

「そうか……私も、右腕を失った……ルード曹長、貰うぞ」

 

「は……我が身は、大尉と共に」

 

ルードと呼ばれた男が頷くと、アンジェリカは左手をルードの肩に置いた。そこに

 

「バトラー樣! その女の左手は、《女神の抱擁》です!!」

 

とジャガンの声が響いた。その瞬間、ルードの姿が消えて、アンジェリカの右腕が再生した。否、肌の色や左右非対称になった腕の太さを見るに、融合した。が、正しい表現だろうか。

 

「女神の抱擁!? 前大戦期に喪われた筈の、他者融合の魔道具!?」

 

と雪菜が驚愕した直後、バトラーの頭が消し飛んだ。

 

「バトラー……樣……? いや……イヤァァァァァァァァァ!?」

 

それを見て、セレスタは頭を抱えて絶叫。その直後、セレスタの頭上に空間を歪ませながら黒い球体が現れた。

 

「なんだ、あれは……凄い魔力だけど……」

 

と明久が驚いていると、雪菜の携帯が鳴った。見てみれば、掛けてきているのは浅葱だ。

 

「藍羽先輩? どうし……」

 

『どうせ、そこにあのバカも居るんでしょ!? あの邪神……ザザラマギウの完全出現を阻止して!!』

 

雪菜が問い掛けようとしたが、それに被せるように浅葱の声が携帯から響いた。

 

「ザザラマ……ギウ……?」

 

『そう! 南米の隠れ里、シアーテが長年封印してきた邪神よ! 詳しい情報は分からないけど、シアーテでは長年生け贄として巫女を捧げ続けて、ザザラマギウを封印し続けてきた。一説には、その力が解き放たれたら、一国を壊滅させるだけの力が無秩序に撒き散らされるって!』

 

浅葱の説明に明久達が驚いていると、重い音を立てながら二人の獣人が現れた。片方は、いっそ神々しいまでの雰囲気を持つ虎柄の獣人。もう片方は、黒い毛並みの獣人だったのだが、黒い毛並みの獣人には見覚えがあった。なにせ、セレスタが目覚めた直後に襲ってきた獣人だった。

 

「まさか、神官団の中に裏切り者が居たとはな……」

 

「生涯を辛気臭いジャングルの中で終われるか! アメリカ連合国軍からは、10年は遊んで暮らせる金を前金で貰ってる! ザザラマギウを捕獲出来たら、一生遊んで暮らせる額になる! それを持って、俺は欧州辺りにでも高飛びさせてもらう! そうすりゃ、晴れて自由だ!」

 

よく分からないが、どうやら内部分裂が起きたようだ。黒い毛並みの獣人の方が若いようだ。そして黒い毛並みの獣人は、神官の役割に嫌気が差してきていたらしい。

虎柄の獣人は、セレスタの頭上に現れている黒い球体を見て

 

「ここに祭壇は無い……もはや、これまで!」

 

と言って、自身の胸部をその爪で抉った。それに驚いている間に、虎柄の獣人は

 

「目覚めよ、ザザラマギウ!!」

 

と言って、抉り出した心臓を球体に投げつけた。それを取り込んだ直後、更に凄まじい魔力が周囲に放たれた。

 

「雪菜ちゃん!」

 

「はい!!」

 

明久の意図を察した雪菜は、雪霞狼を突き立てて簡易結界を展開。魔力波を耐えた。しかしその間に、劇的な変化が起きた。セレスタは意識を失ったらしく、その場に倒れ、黒い球体。ザザラマギウの中から、数本の触手が伸びて、黒い毛並みの獣人に絡み着いた。

 

「クソ! 放せ……や、やめろぉぉぉぉぉぉ!?」

 

黒い毛並みの獣人は必死に抵抗するが、あっという間に取り込まれていった。すると、中から更に数十本の触手が出てきて、周囲にまるで蜘蛛の巣のように張り巡らし、球体を形成した。

 

「一体、何がどうなって……」

 

「ザザラマギウが目覚めようとしているのサ」

 

明久が呆然としていると、突如として軽薄な声が横から聞こえた。見てみれば、そこには頭が吹き飛んだ筈のバトラーの姿があった。

 

「バトラー!? あんた、死んだ筈!?」

 

「ああ、キラの眷獣サ」

 

バトラーがそう言いながら指差した先には、チロチロと燃える炎があった。その近辺の空間が揺らぐと、キラが姿を見せて、恭しく一礼してきた。どうやら、幻覚系の眷獣のようだ。

 

「……バトラー、あんたの目的……もしかして……」

 

「うん、戦いたいのサ」

 

明久がジト目で睨みながら問い掛けると、バトラーはシレッとしながら答えた。その返答を聞いた明久は内心で

 

(この戦闘狂……何時か、痛い目見させるからな……)

 

と怒りながら、密度を増していっているザザラマギウを睨んだ。

 

「どうせ、ザザラマギウのことも調べたんでしょ? 教えてくれてもいいんじゃないの?」

 

「ふむ、いいだろう。ザザラマギウというのは、土着の邪神でネ。その正体は、地脈から溢れだす行き場の無かった力の塊……それは不定期に暴走しては、周囲に甚大な被害を与えた……しかしある時期から、それを制御する術を編み出した……それが、シアーテの巫女……つまり、人柱だネ。人柱に選ばれるのは、若い少女……その少女を祭壇に寝かせて、少女に力を寄り付かせて、少女は死ぬまで夢を見させる……そうして、千年以上封印し続けてきたのサ」

 

バトラーの説明を聞いて、明久はギリッと拳を握り締めた。明久と雪菜は、短い時間だったが、セレスタと街を歩き回った。その姿は年相応の少女で、見たことの無い光景に興奮していた。それを知っているからこそ、明久は怒りを覚えた。

 

「セレスタだって、少女なのに……いや、一体何人の少女を犠牲にした……!」

 

「ん? 少女達は、幸せだった筈だよ? 少なくとも、夢の中ではネ」

 

「そんなの関係あるか!! セレスタもだけど、生け贄に選ばれた少女達にだって、普通の幸せがあった筈だ!! 恋人を見つけて、子供を産んで……家族として過ごして、皆に見守られながら死んでいく……そんな普通の幸せが! それを、あんな訳の分からない邪神の生け贄に使われて、夢を見ながら死んでいく? そんなの許せるもんか!!」

 

「先輩……」

 

明久は怒りの表情を浮かべながら、少しずつ密度を増していくザザラマギウを睨んだ。そして、明久の言葉を聞いた雪菜は、胸元で手を握り締めた。そこに、アンジェリカが駆け出し

 

「ザザラマギウは、我らが兵器として使う! アメリカ大陸の平定のために!」

 

と言いながら、ザザラマギウに手を伸ばした。しかし、その前面の道路を雷が焼いた。明久が喚んだ獅子の黄金だ。

 

「あんたもだ……軍人だか何だか知らないけど……他所の国の土地に来て、無関係な人を巻き込んで作戦行動だ? 軍人なら、一般人を作戦行動に巻き込むな!! あんたらは、軍人じゃない! テロリストと一緒だ!! これ以上作戦行動を取るっていうのなら、僕がその作戦行動を阻止してやる! ここから先は、第四真祖(ボク)戦争(ケンカ)だ!!」

 

「いいえ、先輩! 私達の戦争(ケンカ)です!!」

 

今ここに、一人の少女を解放する戦いが始まった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。