「しっ！！」
男は逆手に持ったナイフを素早く連続で繰り出してきたが、それを雪菜は難なく防いだ。霊視で先読みしたからだ。男は一旦距離を取ると、冷静に
「なるほど……霊視か……ということは、貴様が獅子王機関の剣巫……そしてその鎗が、秘奥兵器とやらか……」
「貴方は……軍人ですね？ それも、特殊部隊の」
雪菜は何やら確信した表情で問い掛けるが、男は答えない。そして、雪菜と明久を見て
「余り時間が無いからな……手早く片を付ける」
と呟いた。次の瞬間、姿が消えた。
「つっ！？」
驚きの表情を浮かべながらも、雪菜は雪霞狼を頭上に掲げた。その直後、火花が散った。あの男の姿が、雪菜の頭上にあった。その瞬間、またも男の姿が消えた。そして雪菜は今度は、雪霞狼を右に構え、それと同時に火花が散った。
「この、速度は……！？」
余りにも、人間離れした速さの動きに、雪菜は目を見開いた。雪菜は獅子王機関で並大抵の特訓はしておらず、実力的にはそこらの武装降魔官を越えており、獣化した獣人の速さも視認出来る。その雪菜が、完全に視認出来ない。霊視に助けられて、何とかギリギリ間に合うというレベルだった。男は消えては現れるを繰り返しながら、雪菜にナイフを繰り出していく。
戦い方としたら、普通の
雪菜も善戦するが、徐々に防御がギリギリになっていき、滔々限界が来た。
「しまっ！？」
大きく深呼吸した際に叩き込まれた一撃で、雪菜の態勢が崩れた。そして男は、その隙を見逃さずに
「終わりだ、剣巫」
と呟きながら、ナイフを雪菜の首目掛けて突き出した。しかし、次の瞬間
「しっ！！」
明久が振るった刀が、男の突き出したナイフを根元から切り飛ばした。
「僕のこと、忘れないでくれるかな？」
無視されていたからか、少し怒った様子の明久がそう言いながら刀を突き付けた。すると男は、切られて柄だけになったナイフを放り捨てて
「ブイン、何をしている。ブイン」
と言った。本名かコードネームかは分からないが、それが恐らくは一番最初に狙撃をしてきた人物の名前なのだろう。ふと気付けば、最初の一発以降は狙撃が来ない。
多分、眼前の相手が雪菜を担当し、ブインという人物が明久を抑える手筈だったのかもしれない。しかし、手筈通りにいかなかったから相方を呼んだのだろう。そこに
「あら、この方はブインという方だったんですね」
「余りにも多くの武器を持っていたから、武器商人かと思いましたよ」
と明久と雪菜からしたら、聞き慣れた声が聞こえてきた。驚いた二人が視線を向けると、路地裏から数人の派手な色彩の迷彩服を着た女達が現れた。
「お、オシアナスガールズ！？」
「なんで！？」
二人が驚いていると、一人がその手に持っていた人。恐らくブインだと思われる人物を放り投げて
「第四真祖樣、大丈夫ですか？」
とまるで、散歩中に会ったかのような気楽さで、手を振ってきた。
「ブイン……！」
やはり、オシアナスガールズに倒された人物が、ブインだったらしい。すると一人が、散弾銃を持って
「この
と問い掛けた。
「アメリカ連合軍！？」
「ということは、魔導強化兵ですか！？」
魔導強化兵。それは、アメリカ連合軍にて行われている魔道具をその身に移植されて更には魔術や魔導薬物を使って強化を施された兵士であり、その力は普通の兵士の数倍に匹敵する。聖域条約に加盟せず、更には降魔官が居ないアメリカ連合に於いて、対魔族戦力とされている。
「しかし、納得しました……貴方は、移動系の魔道具を移動されているんですね……」
「じゃないと、さっきの移動速度は説明出来ないしね」
雪菜と明久の二人が納得していると、男は舌打ちして
「ブインめ、不甲斐ない……」
と言って、身を翻して走り出した。
「待て！！」
「逃がしません！！」
その男を追い掛けるために、明久と雪菜。オシアナスガールズも走り出した。そして一同は、この事件の発端を知る。