明久の家にセレスタが配達された数十分後、人工島管理公社。
「だー、もう! 年末にまで女子高生を働かせるんじゃないってぇの!!」
と浅葱が、サーバールームで怒りの声を上げていた。なんでも、年末に際してか予想以上の客入りや物資の輸送により、データ管理が間に合わず、一部がパンク。
新しいプログラムを組んでほしいと頼まれたのだ。
「だから、こんな程度が知れる安物を使うなって言ったのよ! ワンオフ使いなさいってのよ! ついでに、サーバーも新しいのにして!!」
『嬢ちゃん、さりげに無茶を言うなって。言っとくと、このサーバーだってフルチューニングしてあるんだぞ?』
「あたしが気に入らないの!!」
『何気にひでぇ』
浅葱の言葉に、サーバー管理用AIのモグワイはメソメソと泣く仕草をした。何とも、人間臭いAIである。
すると、モグワイは一枚のウインドウを表示させて
『ん、こいつは……』
とその映像に映っている女性を見た。長い金髪に、女性にしては高い身長とガタイの良さだが、それでも美人と分かる女性だった。
「どうしたの、モグワイ……まさか、性欲でも湧いたわけ?」
『そんなわけあるか。こいつだ』
浅葱の言葉にモグワイは、一枚の写真を表示させた。
どうやらパスポートの写真らしく、名前はミーナ・パスティーヤと表示されている。
「ただの観光客でしょ?」
『いや、こいつの本名はアンジェリカ・ハーミダ。
モグワイが新しく表示したのは、アメリカ連合軍のデータベースから持ってきたらしい、全く同じ写真だが、軍服を着た彼女だった。確かに、アンジェリカ・ハーミダと書かれてある。
「偽名で入国してきた!? まさか、何らかの作戦行動で!?」
この時、浅葱の脳裏には明久の姿が過っていた。明久は世界では非公式の第四真祖だ。しかしその存在は一部では知られており、先日もジャーダ・ククルカンが密入国してきてまで、会いに来ている。
それを考えると、もしかして殺しに来たのではないか、と浅葱は思ったのである。
更に
『今確認したが、他に三人は居やがる! そいつらも、全員ゼンフォースの所属で、偽名で入国してきてる! 明らかに何らかの作戦行動だ!』
「モグワイ、すぐに警備隊に出動要請! それと、民間人の誘導とこいつらの誘導を開始! 孤立化させて、隔壁で閉じ込めるわよ!」
『あいよ!』
浅葱の指示にモグワイが答えた直後、激しく警報が鳴り響いた。
「モグワイ!?」
『どうやら、遅かったようだぜ。嬢ちゃん。アンジェリカ・ハーミダを含めた四名が何らかの爆発物を使用。壁を破壊した後、そこから脱出!』
「行き先を
浅葱は指示を出しつつ、追跡プログラムの構築を開始。そして、明久に通話しようとしたが
「繋がらない……あのバカ、何やってんのよ!?」
最初自宅に居た明久だが、雪菜の部屋に行く時に携帯を持つのを忘れていたのである。そうこうしている間に、モグワイが
『嬢ちゃん、警備隊の先発隊が交戦開始した!』
「よし、本隊を早く向かわせるのよっ!」
事態が動き始めたので、浅葱は携帯を私物が置いてある辺りに放り投げた。