ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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突然の通達

「なんで、絃神島に居るのさ」

 

「あん? そんなん、帰省に決まってるだろ。婆さんから、珠には顔を見せに来いってせっつかれてんだよ」

 

明久の問い掛けに、缶コーヒーを飲みながら牙城が答えた。それを聞いた凪沙が

 

「あぁ、そういえばこの二年位は行けてないからね」

 

と納得していた。

確かに、記憶を振り替えってみると、ここ二年程はなんだかんだと祖母に会えていない。有名な神主兼巫女である明久達の祖母は、その役職故に神社から簡単に離れることが出来ない。だから最低でも、一年に一度は祖母に会いに行っていたのだが、この二年は様々なことが重なって行けてなかったのだ。

 

「確かに、会いに行かないとな……で、何時行くの?」

 

「今日」

 

『今日!?』

 

牙城の言葉に、明久と凪沙は揃って驚愕の声を上げた。そして気付けば、牙城は懐から飛行機のチケットを出して掲げていた。確かに、今日の日付である。

 

「いくらなんでも、急過ぎるわ!? もっと常識的に考えろ!?」

 

「本当だよ! こっちだって、色々と予定とか有るんだからね!?」

 

二人して牙城を非難するが、牙城はどこ吹く風という様子で缶コーヒーを飲んでいる。そんな牙城に呆れたのか、二人は深々と溜め息を吐いた。その横では、浅葱と雪菜の二人が牙城を見ながら喫茶店で買った飲み物を飲んでいた。

なお、今五人は公園の休憩所に集まっている。

 

「あれが、明久の……」

 

「なんというか、あまり似てないような……」

 

確かに、明久の顔立ちは牙城と余り似ていないだろう。明久と凪沙は、どちらかと言えば母親たる深森寄りだろうか。

 

「今のうちに、点数を稼いでおこうかしら……」

 

浅葱は何やら真剣に考えながら、何やらブツブツと呟いているが、雪菜は

 

(この人が、先輩と凪沙ちゃんのお父さんにして、あの死都帰り……)

 

と牙城を観察していた。

死都帰りの吉井牙城と言えば、降魔師達で知らぬ者は居ないと言える程に有名な人物である。まず、考古学者としては聖孅を専門としているが、時々出す論文が他の分野でも高い評価を得ることがあるのだ。

次に、フィールドワークを通じた火事場泥棒染みた武器の収集。

特に有名となったのは、その二つ名の由来ともなった伝説の遺跡。死都からの帰還だった。

廃都市型遺跡・死都。紀元は不明だが、その規模からかなり高い文明を誇ったとされる都市型遺跡で、様々な調査隊がその技術を調べようと入っていった。しかし、一人を残して、誰も帰らなかった。

中に入ったのは、延べ数万に上るとされているが、詳細な人数は不明。

その調査隊の一つが、牙城率いる調査隊だったが、その調査隊は牙城だけが生きて帰り、そして、全調査隊の中で生きて帰ってきたのは、牙城だけだった。

以後、国連と魔族特区協議会の決定で、場所の秘匿と封鎖が行われ、誰も入ることが出来ないようにした。

そして牙城は、死都からの唯一の生還という事実から、死都帰りという二つ名で呼ばれるようになったのだ。

 

(あの記憶映像で名前を聞いた時は、まさかと思いましたが……)

 

監獄結界で明久の記憶を見て牙城の名前を聞いた雪菜は、あの獅子王機関の出張所が赴き、師家に牙城という名前で有名な人物が他に居ないか確認した程だ。

 

(聞いた情報では、かなりの数の銃火機を使っているということですが……一瞬にして銃を持ち変えるというのが気になります……)

 

獅子王機関には、かつて牙城と共闘したという降魔師が居て、その人物の話では多彩な銃を使い分けていたという。しかし、何らかのケース等は持っていないのに、何処からともなく銃を取りだし、更には一瞬にして銃を持ち変えていたという。

 

(あり得るのは、空間魔法位ですが……吉井牙城は魔法使いではない……一体……)

 

と雪菜が思考していると、明久が

 

「あー、もう……急いで帰って荷物を作らないと……でないと、飛行機に乗れない」

 

と言って、飲み物を飲み干そうとした。だが牙城が

 

「あ? 誰がお前まで連れていくって言ったよ」

 

「……は?」

 

「俺が連れていくのは、凪沙だけだ。行くのなら、自腹でどうにかしろ」

 

「牙城君……」

 

牙城の言葉に、明久は真顔になり、凪沙は額に手を当てた。

 

「俺が、男のために金を払うと思ったか」

 

「そういう奴だったね、このバカ親父。そんなんだからあんた、母さんから女ったらしって言われるんだよ、自重しろ」

 

明久が白い目を向けながら言うが、牙城は気にした様子もなくタバコを吸い始めた。そんな牙城に、凪沙が

 

「牙城君……また深森ちゃんから、踏まれるよ?」

 

「やめろ、凪沙……古傷が開きそうになる……」

 

凪沙の言葉に、牙城は脇腹辺りを押さえた。

 

「何があった、何が」

 

「聞くな……色んな意味で、古傷が開きそうになる……」

 

思わず明久が聞くと、牙城は視線を逸らした。本当に、何があったのか。この後、凪沙は荷物を急いで纏めて牙城と一緒に空港に向かったのだった。

 

「さて……僕は、どうするか……」

 

そう言って明久は、背伸びした。

だがこの後、まさか厄介事が配達されてくるとは、この時の明久は思いもしなかったのだ。


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