「はああぁぁぁ!!」
雷切を構えた明久は、原初のアヴローラが憑依している凪沙に向かって駆け出した。しかしながら、明久に凪沙を攻撃することは出来ない。出来る訳が無い。
それを知ってか知らずか
「愚直に向かってくるだけか? この戯けが!!」
罵倒しながら、明久に対して高密度の雷撃を放った。
明久に到達するのは、正に一瞬。普通ならば回避も防御も儘ならないだろう。
しかし、明久は
「しぃっ!!」
気合いの声と共に雷切を振るい、その雷撃を弾いた。
もとより、雷切は雷を切ったという伝承を持つ対雷の概念を持つ概念武装。
合わせられれば、弾くのは容易いこと。
特に明久は、自身が世界最強と唄われる第四真祖の血の従者だと自覚したことで、高い能力を開花させていた。
「む!? 貴様は!!」
原初のアヴローラは驚いた表情を浮かべるが、すぐに新しい眷獣を召喚した。
召喚したのは、三体。
水銀色の双頭龍と雷光の獅子、そして銀色の霧を纏う灰色の亀。
「くっ!?」
その眷獣達から感じる魔力波で、どれ程デタラメか明久には分かった。いくら血の従者とは言っても、確実に一撃が致命傷に至る。だから、一撃も当たるわけにはいかない。
そう考えた明久は、更に速度を上げようとした。だが、その必要が無く、明久は驚愕で目を見開いた。
何故ならば、原初が呼び出した眷獣達が、その原初に攻撃を始めたからだ。
「貴様ら!?」
まさか裏切られるとは思わなかった原初は、悪態を吐きながら回避を始めた。
そして明久も眷獣が主を裏切るということを予想しておらず、固まっていた。すると、近くに来たアヴローラが
「三番、四番、五番……お主達……」
と呟いた。そこで明久は気付いた。
その眷獣達は、明久の為に戦っているのだと。
「君たちは……まさか!?」
しかもその眷獣達は、あのスーパーでアイスを買ってあげた三人だと気付いた。
「まさか、一回アイスをあげただけで……!?」
と明久が驚いていると、獅子が軽く一鳴きした。
まるで、私たちの意思だと言わんばかりに。
「ありがとう……!」
それに感謝の言葉を述べた明久は、一気に駆け出した。三体が原初を引き付けている内に、出来るだけ接近しようと考えたのだ。
「侮るな!!」
しかし流石に気付いたらしく、原初はその全身から凄まじい魔力を放った。
その魔力波に明久は吹き飛ばされそうになったが、刀を地面に刺して耐えた。しかし
「今だ、アヴローラ!!」
と明久が呼んだ瞬間、明久の背後からアヴローラが駆け出していた。今までは明久の背後に隠れていたのだ。
原初は先ほど、膨大な魔力を放ったばかりで、直ぐには動けず、アヴローラに押し倒された。
「貴様!?」
「我々の勝ちだ、原初!」
アヴローラは勝利宣言をすると、原初の首筋に噛み付いた。
「が、あぁぁぁぁぁ!?」
アヴローラが成そうとしているのは、俗にオーバーライドと呼ばれる、吸血鬼同士による上書きだった。
相手の血を吸いとることにより、その相手の能力を奪うのだ。しかも原初は、本来の体ではないために、それ即ち敗北を意味する。
アヴローラが原初に噛み付いた数秒後、原初の動きが止まり、更には召喚されていた三体も消えた。
それを見て明久は、ようやく終わったと思い、アヴローラが退いて動かなくなっている凪沙に近寄り、名前を呼ぼうとした。
「……あ、れ……?」
しかし、凪沙の名前が出てこない。
それだけでなく、凪沙のことを忘れそうになっていた。
「な、なんで……!?」
妹を忘れそうになっているという異常事態に、明久は困惑していた。すると、アヴローラが
「宴が、終わろうとしているのだ」
と呟いた。
「アヴローラ……どういうこと?」
「宴は、余りにも規模が凄まじく、人間達にも被害が大きい……終わる時、関わった者達から記憶を奪うのだ……宴に関わる記憶の全てを」
つまり、一時とは言えども第四真祖の仮の肉体に選ばれた凪沙に関する記憶も、奪われるということなのだ。
「そんな……!?」
「安心しろ……策はある」
明久が絶句していると、アヴローラは振り向いて
「お前が、我を……食らうんだ……」
と告げながら、スッとクロスボウを明久に差し出した。