ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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焔光の宴 4

「ここなら、奴等には見つからない筈だ」

 

「……この船、どうやって入手したのさ……」

 

牙城に案内された明久は、目の前で停泊している一隻のクルーザーを見て思わず呟いた。

いくら明久でも、そのクルーザーが決して安くないと分かる。すると、牙城は

 

「なに、ある貴族が税金逃れのために買ったのを少し拝借しただけだ」

 

と告げた。それを聞いた明久は、今は緊急事態だから何も言わないことにして、中に入った。

中は人が二人位ならば、楽に住める環境だった。

 

「いいか、明久。今から俺は、宴を終わらせるために動く……お前は大人しくしてろ」

 

牙城はそう言って、クルーザーから出ていった。

 

「宴……」

 

「真なる第四真祖を生み出す焔光の宴よ……我々は、既に参加することが可能……」

 

アヴローラがそう言うと、明久は右下側の肋骨に触った。本当に直前にだが、明久はそこから高い魔力が流れ込んでいることに気付いた。

そしてそれが、高い身体能力の理由だと分かった。

 

(ある意味、剣術部を引退したのは必然だったのかな)

 

今から少し前に、明久は剣術部を引退している。その理由は、大会で起きた一つの事件。引退すると顧問に話した時は強く引き留められたが、明久はそのまま引退した。しかし、どっちみち剣術部には居られなかっただろう。剣術大会では、魔族の参加は認められていないのだから。

しばらくすると、明久の携帯が鳴った。画面を見てみれば、母親たる深森の名前。

 

「……はい」

 

『よかった……明久、無事ね?』

 

その声音から、深森が本当に心配していたことが分かった。

 

「うん、なんとかね」

 

『今、どこに居るの?』

 

「……父さんが用意してたクルーザー」

 

『ふんふー……ということは、あそこらへんかしら』

 

明久の説明を聞いて、深森はそう呟いた。そして

 

『明久、貴方に起きたことは牙城くんから聞いたわ……』

 

「……うん」

 

『私から言えるのは、一つだけよ……どんなことをしてでも、生きなさい……それが、母親たる私からのお願いよ……』

 

「わかった……」

 

その会話を最後に、電話は終わった。

携帯を仕舞うと明久は、一度ベッドに寝転がり

 

「……大丈夫か?」

 

「大丈夫……ただ少し、考えたいだけなんだ……この後、どう動くべきなのか……」

 

アヴローラからの問い掛けに、明久はそう答えた。

その頃、ある大学の一室。そこで牙城は、腹部から血を流して倒れていた。

 

「いっつつつ……ちょいとばかり、やり方をミスっちまったか……」

 

牙城がそう言ったタイミングで、その部屋のドアが開き

 

「ふんふー……やっほ、牙城くん……それで、少しは懲りたかしら?」

 

と深森が現れた。その肩には、クーラーボックスがある。

 

「まったく……ただでさえギリギリの女の子を、更に追い込むからそんなことになるのよ?」

 

「返す言葉も無いぜ……」

 

本来なら逃げたい牙城だったが、刺された傷が深い為に動けないでいた。

そんな牙城の頭に、深森は持っていたクーラーボックスを落とし

 

「さーて、どうしてあげましょうか……私としては、女癖の悪さを改善させるために、放置してもいいのよ?」

 

「お願いします、深森さん……治してください……」

 

これが、久し振りに再会した夫婦のやり取りなのだから、ある意味で末恐ろしいだろう。

その後、深森の伝で牙城はMARの医療ブロックに運ばれ治療を受けることになる。

しかし同時刻に、予想していなかったことが起きていた。

今回の焔光の宴を要請した暫定ネプラシ自治区の議長兼ネプラシ武器商のリーダーだった男が、暫定ネプラシ自治区の住人の過半数を生け贄にして喚んだ原初(ルート)アヴローラに、惨殺されたのだ。

彼は第四真祖を兵器として利用するために、霊媒師としての能力が高かった妹を殺害し、その遺体を封印兼人形に加工していた。だが原初アヴローラは、その企みに気付いていて、その遺体を魔力で破壊。一番目に命じて男を惨殺させた。

提案者が死んだからと言って、焔光の宴が止まる訳が無かった。

裁定者役だった獅子王機関は、続行を決定。

焔光の宴は続いたが、原初アヴローラは自身が宿るに相応しい肉体を探し、見つけた。

そもそも、焔光の宴とは何か。

それは遥か過去に造られ、十二に別たれた第四真祖を一つに戻す儀式だった。

なぜ、十二に別たれたのか。確かに、造られた時は第四真祖は一人だった。しかし、造られた第四真祖は闘争本能に従い、世界を破壊しようとした。それは何とか防がれたが、まだ暴れられたら抑えられる可能性が低かった。

その為に、造った人物は原初アヴローラの魂と肉体をその眷獣の数と同じ十二に別けて、世界各地に造った遺跡に分割・封印した。

そして、封印が何らかの理由で解かれた時を考えて、ある一つの策を講じた。

それが、焔光の宴という儀式だった。

焔光の宴に参加させるには、各アヴローラは血の従者を選定・参加させ、最後まで生き残った一人が第四真祖となるようにしたのだ。

だがそれは、同時に大きな賭けでもあった。

もしその最後の一人の精神力が弱ければ、再び全力を取り戻した原初アヴローラが世界に解き放たれることになり、世界は確実に大災害に焼かれる。

無責任かもしれないが、それしか方法がなかった。

その最後の一人の精神力が、原初アヴローラに勝つと信じて。

そうして、焔光の宴は最終局面を迎える。


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