ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

113 / 182
準備段階

明久達が記憶を遡っていた時、雪菜は

 

「まさか、聖殲とは……」

 

那月が空間魔術と精神魔術の併用で投影していた記憶映像で、明久の過去を見ていた。

雪菜も獅子王機関の剣巫として、聖殲のことは知識として知っていた。

 

「というより、南宮先生は先輩のお父様をご存知だったのですね?」

 

「ん? まあな。聖殲の遺跡は、欧州に多くあるからな。捕縛や討伐に赴けば、鉢合わせすることも多々あったという位だ」

 

雪菜の問い掛けに、那月は何処から出したのか紅茶を飲んでいた。そして、飲み終わると

 

「それより、構えておけ剣巫……そろそろ、来るぞ」

 

と那月は、扇子を広げた。

それと同時に、明久の頭上に映されていた映像にノイズが走り、もう一人の明久が現れた。

 

「やはり、システムトラップか」

 

那月がそう言うと、その明久は機械的に

 

『禁忌領域に侵入を確認……目標を、殲滅する』

 

と告げて、眷獣を召喚した。だが、即座に雪菜が

 

「雪霞狼!」

 

と雪霞狼を展開し、召喚された眷獣を撃破。そのまま、雪霞狼をその明久に突き刺した。

 

『ギ、ジジ……システム領域に……命的な損傷……』

 

刺されたその明久は、そう言った後にフッと消えた。それを見た雪菜は、視線を那月に向けたが

 

「ちっ……やられたな。吉井の記憶が見れなくなった」

 

と苛立たし気に舌打ちした。どうやら、システムトラップの一環で、明久の記憶が見れなくなったようだ。

それを聞いた雪菜は、心配そうに明久を見ながら

 

「先輩……」

 

と見守ることにした。

場面は、記憶の中の明久に戻る。正体不明の鎧を着た相手に襲撃された明久だったが

 

「……あれ?」

 

痛み処か、衝撃すら来ないことを不思議に思い、ゆっくりと目を開いた。

気付けば、目の前に居た筈の鎧を着た相手は居なくなり、居なかった人影もいつの間にか戻っていた。

 

「何かが……起きようとしてる……?」

 

明久はそう呟くと、取り敢えず家路に付いた。

その頃、遠く離れた場所で

 

「ルール違反ですよ、五番目……ルールは守ってもらわないと……」

 

「人の定めし約定に、我が従う道理はない」

 

眼鏡を掛けた少女。閑古詠の言葉に五番目と呼ばれた鎧姿の相手は、にべもなく断った。

その直後、五番目の周囲で二つの魔力が吹き荒れた。音波、次元食い。

その二つの中から、同じ姿の少女が姿を現した。

揺らめく度に色を変える炎を彷彿させる金髪に、切れ長の目。

 

「……九番と三番か……」

 

「まだ時に非ず」

 

「引け、五番目よ」

 

二人に言われたからか、五番目は昂らせていた魔力を引かせて、身を翻して姿を消した。

それを確認したからか、九番と三番も姿を消した。

三人が姿を消すと、閑古詠は

 

「……いよいよ、焔光の宴ですか……日本に、真祖が誕生する……世界最強の第四真祖が……」

 

と呟いて、姿を消した。

再び場所は変わり、MARのある一室。

 

「なぜですの!? なぜ、私の宴への参加が認められませんの!?」

 

「理由は至極単純……領地を失っているからですよ、ヴェルディアナ・カルアナさん」

 

ヴェルディアナの前に座っていた眼鏡を掛けた出来る雰囲気を纏った女性が、ヴェルディアナに参加出来ない理由を突き付けた。

あのゴゾ遺跡での事件後、カルアナ辺境伯は跡継ぎだったリアナが亡くなったことと、当主だった父親が殺害された為に、領地を失ってしまったのだ。

 

「それは、あのザハリアスが卑怯な手を使ったからで!」

 

「しかし、領地を失ったのは事実です……残念ですが、それも回収します」

 

その女性が指差したのは、ヴェルディアナの足下に置いてあった一つのケース。

 

「これだけは、ダメ! 父様と姉様が残した、たった一つの!!」

 

ヴェルディアナはそれを胸元に抱き締めながら、涙を流した。

家族が残した、唯一の遺品。ケースの中に入っていたのは、姉が発掘に立ち会い、父親が長年保管していた聖殲に関する聖遺物。

それを見たもう一人の女性、吉井深森は悲しそうな表情を浮かべた。

そして、窓の外を見て

 

「お願いだから……誰も、犠牲にならないで……」

 

と小声で呟いた。

しかし、刻一刻と宴の時は近付いてきていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。