ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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ゴゾ遺跡

「牙城、連れてきましたよ」

 

と四駆車から、眼鏡を掛けた女性。

リアナ・カルアナが出てきて、椅子に座っていた牙城に告げた。

そして、リアナの後に巫女服を着た少女。凪沙が降りて

 

「牙城君!」

 

と手を振った。その直後、立ち上がった牙城は

 

「おお、よく来たな!」

 

と凪沙を抱き上げた。

 

「大きくなったな!」

 

「それは、一年ぶりだからねぇ」

 

牙城の言葉に、凪沙がそう言った時、新たに車から一人の少年。明久が降りて

 

「父さん、この荷物はどうするの?」

 

と牙城に問い掛けた。

 

「なんだ、てめぇも来てたのか。ガキ」

 

「実の息子に対する態度か、それが」

 

牙城の第一声に、明久は思わず牙城を睨んだ。余りにも、凪沙とで扱いが違い過ぎる。

 

「俺が呼んだのは、凪沙だけだ。てめぇは何処かに失せろ」

 

「OK、わかった。リアナさんのことを母さんに連絡するから」

 

「待てやめろ、ふざけんな。いや、止めてください。本気で」

 

明久が携帯を取り出すと、牙城は凪沙を下ろして土下座を敢行した。

明久と凪沙の母親であり、牙城の奥さんの深森だが、牙城の女性関係のだらしなさには大変厳しい。

それで以前、大惨事が起きたことがある。

すると、凪沙が

 

「それで、牙城君。私を呼んだ理由はなに? しかも、態々道具まで一緒だなんて」

 

と牙城に問い掛けた。何気なく扱いが雑だが、何時ものことだから慣れてるだけである。

 

「ああ、そうだった。あの遺跡の封印が厄介でな。ちょっとばかり手伝ってほしいんだわ」

 

凪沙の問い掛けに、牙城はそう言いながらある方向を指差した。その先には、ちょっとした小高い丘があり、その真ん中にポッカリと穴が開いている。

その手前には、大破した石像の残骸が転がっていた。

それを見た明久は

 

「あの石像……守護像? 何をやらかしたのさ?」

 

と眉を潜めた。

明久は今回も含めて、度々牙城に呼ばれる凪沙の護衛のために遺跡に来ており、時々守護像を見たことがあるのだ。

そして明久は、隣に居たリアナに

 

「あの遺跡、何に関する遺跡なんですか?」

 

と問い掛けた。

するとリアナは、眼鏡の位置を直してから

 

聖孅(せいせん)に関する遺跡です。牙城の推測では、今回の遺跡は核心に迫る遺跡だとか」

 

と明久に教えた。

それを聞いた明久は、

 

「聖孅か……」

 

と呟いた。

聖孅。それは、遥か古代に起きた神々による戦争と言われており、時々通常では考えられない物。

殺神(さつじん)兵器と呼ばれる物の残骸が、世界各地の遺跡から出土している。

そして牙城は、その聖孅を専門に世界中を渡り歩く学者なのだ。

そして一度、危険な遺跡。通称死都と呼ばれた都市遺跡に発掘隊のオブザーバーとして同行。

だが、発掘隊は牙城を残して全滅した。

それにより牙城は、死都帰りと呼ばれていた。

死都帰りの吉井牙城と。

 

「それで、吉井明久君」

 

「あ、明久で構いませんよ。リアナさん」

 

明久がそう言うと、リアナは僅かに黙考してから

 

「では、明久君と……先ほど、牙城に見事な土下座をさせていましたが……」

 

と明久に問い掛けた。

 

「まあ、あのダメ親父は何度か女性関係で母さんを怒らせてましてね。一度、部屋が吹き飛ぶ程の喧嘩に発展。その部屋の修理代をダメ親父に全額負担させたんですよ。その時からか、母さんには逆らえなくなりまして」

 

「ほう」

 

明久の話を聞いて、リアナは興味深そうにした。

なおその喧嘩が理由で、明久と凪沙はしばらくの間ビジネスホテルから学校に通うハメになった。

そしてその宿泊費も、牙城持ちにさせた深森である。

 

「それで……何かありました?」

 

と明久が問い掛けると、リアナは努めて冷静さを保ちながら

 

「私を含めてですが……炊事班の女性メンバーにセクハラ紛いを度々……」

 

と、地を這うような声で明久に告げた。

それを聞いた明久は、携帯を取り出して

 

「OK、詳しく」

 

と言った。

容赦なく父親(牙城)を売る息子(明久)だった。

そして少しすると

 

「そういや、リアナ。カルーゾはどうした?」

 

と凪沙を肩車した牙城が、リアナに聞いてきた。

するとリアナは、端末を取り出して

 

「だから、端末を持ってくださいと言ってるんです……」

 

と言って、軽く牙城に投げ渡した。

そして、それを牙城がキャッチすると

 

「カルーゾさんでしたら、先ほどの独断専行に関しまして、抗議に行きました。今回の調査は、牙城の指示に従うという約束を反故にしたと」

 

と牙城に教えた。

それを聞きながら牙城は、端末を見て

 

「あー……しかも、さっきので内部の防衛システムが起動したか……仕方ねぇな……いっちょ、入りますか」

 

と凪沙を下ろした。

どうやら、遺跡に入るつもりのようだ。

 

「という訳だ、凪沙。テントを一つ押さえてあるから、そこで休みな……ガキはそこらで野宿な」

 

「OK、母さんにここでやってたことを残らず送るから」

 

「待てやめろ」

 

明久の言葉に、牙城は慌てた様子で振り向いた。

だが、明久は

 

「もう遅い、リアナさんのボイスメッセを送ったから」

 

とメールを送った後の画面を見せた。

 

「チクショウ!? なんてことしやがる!? 親を敬う精神が無いのか!?」

 

「自分の胸に手を当てて、原因を振り返れ!」

 

と明久が言った直後、牙城の体がビクッと震えた。

そして、恐る恐ると携帯を取り出して

 

「はい、もしもし……」

 

と出た。

 

「あ、いや……あれはその……はい、すいませんでしたぁ!!」

 

そして再び、電話しながら見事な土下座を敢行した。

それを見たリアナは

 

「明久君、奥様の電話番号を教えてもらっても?」

 

と問い掛けた。

 

「いいですよ、携帯を出してください。赤外線で送りますから」

 

着々と出来つつある父親包囲網。そして凪沙は、地面に頭を打ち付けるように土下座を繰り返している牙城を見て

 

「自業自得だよ、牙城君……」

 

と溜め息混じりにしか、言葉が出なかった。


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