そして時は戻り、今
「あー……そうだった……そこまでは、なんとか思い出した……」
縛られたままだが、明久は一日の内に起きたことを思い出した。
それは浅葱も同じようで、頭痛に悩まされて痛みを堪えながら頷いていた。
そして明久は、雪菜に視線を向けて
「それで、雪菜ちゃん……あれは、結局誰だったわけ?」
と問い掛けた。明久が言ったのは、明久達の前に姿を見せた一人目のアヴローラのことだ。
すると雪菜は
「
と教えた。
その名前は、世界規模で有名だ。南北アメリカ大陸を支配する第三真祖、ジャーダ・ククルカン。
意外と気さくらしく、度々街中に出没しては街の人々と話しているという。しかし、真の姿を知っているのは極一部のみと言われており、会う度に姿が違うことから幻惑系の眷獣を有していると推測されている。
「……なんで、そんな
「なんでも、今代の第四真祖たる先輩を見に来たそうです……」
明久の問い掛けに、雪菜は呆れ半分といった表情でそう告げた。
確かに、その為だけに密入国した挙げ句にトラブルを引き起こしているのだから、呆れるしかないだろう。
「……それで、ジャーダ・ククルカンは?」
「あの後、姿を消しました……目的を達したからと」
雪菜のその説明に、明久は深々と溜め息を吐くことしか出来なかった。
トラブル引き起こすだけ引き起こして、去っていったのだから。
まさに、嵐のように現れて、嵐のように去っていく。である。
「それで……何時、この縄を解いてくれるのかな?」
「まだです……本来の目的を果たしていませんから」
明久の問い掛けに、雪菜は毅然とした態度でそう答えた。
「本来の目的……?」
「はい……先輩だけでなく、藍羽先輩も……先輩が第四真祖となる所以となったことを思い出してもらいます」
雪菜がそう言うと、那月が立ち上がり
「ふん」
と指を鳴らして、明久の全身を鎖で拘束した。
「ホワッツ!?」
「何が起きてもいいようにな……さて……私の得意分野は空間魔術だが……他の分野も使えない訳ではない」
那月がそう言うと、明久を中心にして地面に魔法陣が描かれた。
そして、魔法陣から光が溢れてきて、明久の意識は闇の中に落ちた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時は遡り、今から約二年前。
場所は、ゴゾの遺跡発掘地域。そこが、今の明久達の始まりの地となる。
そこでは、様々な時代の遺跡が見つかり、考古学者達にとっては宝の地と言えた。
しかし同時に、失われた技術による厄介事も起きるのだ。
「ガホ! 落ち着いてる場合か!?」
「カルーゾ、だからガホじゃねぇっての……本音としたら、なるべく無傷で捕獲したいね。それに、何もしなけりゃ、あの守護像だって反撃も」
と東洋人の男が言った直後、遺跡の中から現れた巨像に一発のロケット弾が命中した。
その直後、閃光が走って展開していたPMCの一隊が吹き飛んだ。
「あーあ……勝手に調査した挙げ句、地雷踏みやがって……」
「ガホ!」
ガホと呼ばれた男は、呆れた様子で髪をかき揚げた。
そこに、出来る雰囲気の女性が駆け寄り
「どうするんですか? あのままでは、彼等全滅しますよ?」
と問い掛けてきた。
「しゃあねぇな……やりますか……後カルーゾ、俺はガホじゃなくて、
そう言いながら吉井牙城は、何処からともなく対物ライフルを取り出して構えた。
そして轟音と共に放たれた弾丸は、見事に命中したが巨像の表面に不思議な模様が浮かび上がるだけで、動いている。
「あ、やっぱりそのタイプか。だったら、こいつだな」
牙城はそう言いながら、懐から一発の貴金属によって出来た弾丸を取り出して、装填した。
そして、迫ってくる巨像を冷静に見ながら
「悪いな、起こしちまってよ……」
と謝罪しながら、発砲。巨像を破壊した。
彼こそが、明久と凪沙の父親にして、通称死都帰りと呼ばれる考古学者の吉井牙城である。