「……ま、さか……その眷獣は……貴女は……!?」
焼け野原と化した旧アイランド・サウス。
その一ヶ所で、ヴァトラーは血塗れになり、更には球状の空間型眷獣に囚われていた。
「ふむ……流石は、戦闘狂の坊やだ……私の正体に、気付いたか……」
そう呟いたのは、背後に巨大な骸骨の眷獣を従えた金髪赤目の少女だった。
その長い髪が波打つ度に、まるで風に揺らめく炎のように色が変わっていく。
すると、ヴァトラーは
「その眷獣を操るのは……世界宏しと言えど、貴女のみ……先の無礼な振舞い……お許しいただきたく……」
とその人物に謝罪した。
ヴァトラーの謝罪に、その人物は
「よい。私も、少々遊びが過ぎたからな……不問にする……」
と告げた。
だが、ヴァトラーを閉じ込めている空間に触れながら
「しかし、邪魔されたくないからな……暫くは、その中に居てもらうぞ……まあ、安心しろ……お主ならば、半日以内には出てこれるだろうて」
と告げた。
それを聞いたヴァトラーは、肩を竦めて
「仕方ありません……ボクは負けたのですから……しかし、貴女がこれからやるだろう事を予想すると、非常に楽しみだ!!」
と獰猛な笑みを浮かべた。その直後、ヴァトラーの姿は消えた。
それを見送ったその人物は、高い所に登り、絃神島本島を見て
「さて……会いにきたぞ……新たな第四真祖よ……」
と呟いた。
その頃、絃神島本島の彩海学園の校門。
「え!? 凪沙が倒れた!?」
「はい……体育の授業中に、顔色が悪くなって……」
校門で待っていた明久は、雪菜からの話を聞いて驚いた。妹の凪沙が、倒れたようなのだ。
「それで、凪沙は!?」
「はい、行き付けという病院に搬送されました」
「あそこか!!」
雪菜の話を聞いた明久は、一気に駆け出した。背後から雪菜が呼び掛けてくるが、それを聞き流して駅まで走った。
明久が向かったのは、MAR直系の病院であり、今まで何回も凪沙が入院してきた病院である。
全速力でモノレールの駅まで走り、モノレールに乗った所で
「先輩……早い……です……」
とようやく、雪菜が追い付いてきた。
「あ、ごめん」
そこまで来て明久は、自身が縮地で走ってきていたことに気付いた。靴から、異臭がする。どうやら、少し焼けてしまったようだ。
「あー……新しいの買うかな……」
軽く靴底を見た明久は、頭を掻きながらそう呟いた。
すると、呼吸を整えた雪菜が
「先輩、いきなりどうしたんですか……凪沙ちゃんが倒れたのが心配なのは分かりますが……」
と明久に問い掛けた。
それを聞いた明久は
「最近は、新しい薬のおかげで安定してたのに、倒れたなんて……」
と呟くように言いながら、モノレールの窓から見えてきた大きな病院を見た。そこに、凪沙が居る。
そして病院に到着すると、明久はカウンターにて凪沙の居る部屋を聞き、その病室に向かった。
「個室なのは、母さんのコネなのかな」
凪沙に宛がわれたのは、個室だった。
そして明久は
「凪沙、入るよ」
と言いながら、ドアを開けた。
が、中では凪沙が検査用の服からパジャマに着替えていた最中だった。
「あ」
「出てけぇ!!」
固まった明久の顔面に、届けられたらしい学生鞄がめり込んだ。
数分後
「信じられない! 普通、いきなり開ける!? ノックして返事がされてから、開けるでしょ!?」
「すいませんでした」
凪沙の怒濤とも言える指摘に、明久は素直に土下座を敢行。凪沙が許すのを待った。
そして、一通りに言い終えたらしく
「まあ、今回は大丈夫だよ。明久くん。たまたま貧血が起きただけだから。ついでに、予定を早めて検査入院することになっただけだよ」
と明久に教えた。
「……もしかして、母さん?」
「うん。貧血が起きたの、何処で知ったんだろうね」
明久の問い掛けに、凪沙は心底不思議そうに首を傾げた。確かに、明久も不思議である。
「まあ、そういう訳だから、三日位したら帰るから、大丈夫だよ」
「ん、分かった……何かあったら、連絡してね」
明久はそう言って、凪沙の頭を撫でてから外に出た。
そこでは、雪菜と浅葱が対面していた。
「……嫌な予感が……」
明久はそう呟きながら、逃げようとした。だが
「逃がさないわよ、明久……」
その首根っこを、浅葱に掴まれた。
「……詰んだか……」
明久は、窓から見える青空を見上げたのだった。