「……気付いたら、縛られてる件について」
意識が快復した明久は、思わずそう呟いた。
その理由が、今言った通りに椅子に縛られていたからだ。すると、背後から
「明久、起きた?」
と浅葱の声が聞こえた。
肩越しに見てみれば、もう1つの椅子に浅葱が縛られていた。
「今起きた……何が起きたんだっけ?」
浅葱の問い掛けに、明久は答えてから首を傾げた。
どうにも、記憶があやふやだった。
すると、浅葱が
「それより、明久……よくも、隠してたわね……あんたが吸血鬼……それも、第四真祖だって……」
と言って、明久は固まった。
「ナズェ、知ッテルンディス!?」
「日本語喋りなさい……あの雪菜って子を問い詰めたのよ!」
浅葱の言葉を聞いて、明久は縛られたまま身もだえた。何が起きたか分からないが、何故喋ってしまったのかと。
そこに
「起きましたね、先輩方」
と新たに、第三者の声が聞こえた。
二人が見た先、薄闇の中から、雪菜が現れた。
その直後に、三人が居た場所が一気に明るくなったのだが……
「……あれって……」
「拷問器具?」
雪菜の背後の壁に、夥しい数の拷問器具が展示されていた。
それを見た二人は、困惑した表情で
「ちょっと、明久、どうなってるのよっ……あの子、あんなことする性格だったわけ……!?」
「うぅーん……確かに、少し生真面目過ぎるし、思い込み激しい処あるからなぁ……」
浅葱の問い掛けに、明久は思わず視線をさまよわせながらそう呟いた。それを聞いた浅葱は
「つまり、私があんたの秘密を知ったから、私達に拷問をしようっての!? あんた、あの子を追い込み過ぎたんじゃないの!?」
と明久を非難した。
そう言われた明久は、唸ることしか出来なかった。
すると、雪菜が
「……お二人が、私をどう思ってるのか、よく分かりました……私だって、泣きますよ……」
と二人を睨んだ。そして、壁の拷問器具を見て
「これは、中世欧州で使われた本物のようですね……」
と呟いた。それを聞いた二人は、ビクリと震えて
「だ、だから、なんでそんな物が有るのかなぁ?」
「そ、そうよ……少し落ち着きましょう、姫柊さん……私、秘密は喋らないから……確かに、ハッカーで信用ないかもしれないけど、約束するわ……」
と雪菜に言った。
その言葉に、雪菜は深々と溜め息を吐いて
「ですから、落ち着いてください。先輩方……拷問する気は微塵もありませんから……この拷問器具は、触媒です」
と二人に教えた。
その時、明久は今居る場所が何処だか分かった。内部に入ったとは言え、部屋の中は初めて見たから分からなかったのだ。
「ここは、まさか……」
「そう、監獄結界だよ……」
明久に続けるように、新しい声が聞こえた。そして気づけば、部屋の片隅に大きな椅子に座った那月が居た。
「那月ちゃ……」
「だから、教師をちゃん付けするな、バカ者」
空間魔術を使ったデコピンを受けて、明久は身もだえた。
縛られているために、衝撃を逃がせないのだ。
すると、浅葱が
「ここが、監獄結界……の、中……」
と興味深い様子で、部屋の中を見回した。
すると、雪菜が
「ここなら、大抵の事態には対処出来ます……ですから、南宮先生に頼みました……今から、先輩方の記憶を甦らせます」
と告げた。