ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

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焔光の夜伯編
序章


虹色に燃え盛る焔の中、一人の少女が血溜まりに倒れる少年を見ながら

 

「……なぜ、恐怖せぬ……」

 

と短く問い掛けた

少年は致死量の血を流し、最早その命は風前の灯火

だがその顔にあるのは、死に対する恐怖ではなく、まだヤッてやるという気概に満ちている

 

「……まだ、動く必要があるからだ……あの子を、助けないと……それが、僕の役割なんだ……っ」

 

少年はそう言って、震える両手で必死に体を動かそうとした

しかし、自身から流れ出た血で手が滑り、無様に仰向けに倒れた

そんな二人を見下ろすように、マーメイドのような妖鳥のような見た目の存在が浮いていた

その妖鳥は、冷厳な双眸で少年を睨んだ

そして少女の意思は、この世界を支配する冷徹な(ルール)そのもの

少年が一瞬でも恐怖に圧され、自身の死を受け入れたら、その瞬間に、圧倒的力で少年にとどめを刺していただろう

だが少年は、己の死を受け入れずに、その行動で不屈を示していた

 

『汝の生は、既に尽きかけている。もはや、出来ることは何もない』

 

一切感情が感じられぬ声が、少年の頭の中に響いてくる

 

『ここは、第四真祖の血の記憶……悠久の生によって無限に堆積する時間の墓場。我らはその血脈の中に潜み、真祖の記憶を糧として生きる者。今や、汝もその一部になりかけている……』

 

巨大な氷の翼を動かし、妖鳥はその姿を変えていく

逆巻く炎のような虹色の髪に、焔光の瞳

美しい少女の姿へと

 

『死にゆく人の子よ、何故、我を恐れぬ? 何故、我の名を呼んだ?』

 

「うるさいよ……!」

 

少女の問い掛けを遮り、吐き捨てるように少年は叫んだ

虚空に沈みかけていた血まみれの腕に、力を込めて体を起こそうとしながら

 

「まだ終わってない! 僕は、あいつを守るために来たんだ! そのためなら、どんな力でも使う! それが、世界を滅ぼす力だとしても……!!」

 

と魂の叫びを上げた

 

『真祖ならぬ只人の身で、我が悠久の《血の記憶》を喰らうか……?』

 

少年の言葉に、少女は感嘆した表情で問い掛けた

妖精のような顔立ちに相応しい、無邪気な笑み

喪われていく筈だった少年の血が、肉が、骨が、内臓が、何もない虚空から再生されていく

少年を呑み込もうとしていた《血の記憶》を、少年は逆に喰らおうとしているのだ

吸血鬼の真祖のみが制御出来る無限の《負の生命力》を、無力な筈のただの人間の少年が

 

『その代償、高くつくぞ、哀れなる人の子よ……』

 

焔光に輝く瞳を細めながら、少女は少年に告げた

彼女が掲げた手の中に、小さな氷の破片が現れた

それはあっという間に成長し、一本の長大な槍へと変わった

二又の穂先を持つ、氷の槍へと

少年は、それを見て

 

「それでもいい……だから、力を貸してくれ……アヴローラ(・・・・・)!!」

 

血に濡れた腕を懸命に伸ばし、少年は少女の名前を呼んだ

その直後ら少女の瞳に過ったのは、泣き笑いに似た優しい表情だった

微笑みを浮かべて、少女は小さく

 

よかろう。受け取れ……!

 

と囁き、少女は無防備に手を伸ばしていた少年の胸に、氷の長槍を深々と突き立てた……


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