ストライク・ザ・ブラッド おバカな第四真祖   作:京勇樹

10 / 182
復活

「ったく……2日連続で呼び出すなんて!」

 

そう悪態を吐いたのは、この部屋の主と言っても過言ではない美少女

 

藍羽浅葱である

 

彼女が居るのは、人工島管理公社の本部

 

キーストーン・ゲートの地下深く

 

サーバールームである

 

彼女は学校からの帰り道、寄り道して帰ろうと思っていたら、人工島管理公社から呼び出されたのである

 

内容としては、モノレールの運行プログラムに不具合が発生して、我々には手に負えないので、助けてほしい

 

というものだった

 

どうやら、先日の落雷の影響が残っていたらしい

 

そして、その修正が終わり背伸びをした時だった

 

ズズンという鈍い音と共に、部屋が揺れた

 

「なに、今の……モグワイ!」

 

彼女が名前を呼ぶと、メインモニターに不細工なコアラのような姿のアバターが映った

 

このアバターが、今彼女が使っているスーパーコンピューターの管理AI、モグワイである

 

「今の揺れはなに?」

 

浅葱が問い掛けると、モグワイは数秒してから

 

『驚いたな……侵入者だ』

 

と何とも人間くさく言った

 

「侵入者!? 未登録魔族のテロリスト? それとも、どこかの夜の帝国(ドミニオン)の軍隊でも侵攻してきたの?」

 

浅葱は一瞬驚くが、すぐに気を持ち直してモグワイに問い掛けた

 

何せ、このキーストーン・ゲートにはアイランドガードの精鋭二個大隊が常駐しており、並大抵の軍隊やテロリストならば、簡単に撃退できるのだ

 

だが

 

『いや、侵入者はたった二人だ……しかも、神父と眷獣を宿したホムンクルスの二人』

 

というモグワイの言葉を聞いて、浅葱は驚愕した

 

たった二人に侵入を許したというのは、この島でも初めてだったからだ

 

『しかもさっきの揺れは、そいつらとの戦闘で支柱の一本が折れたみたいだな』

 

「支柱が折れた!?」

 

モグワイの言葉を聞いて、浅葱は再び驚愕した

 

ここ、キーストーン・ゲートはテロや侵攻を想定して建造されたので、軒並み耐久性は高く作られている

 

その中でも、支柱はプラスチック爆弾を使っても破壊されない。という謳い文句だった

 

それが折れたなど、浅葱は初めて聞いたのだ

 

『今エレベーターやエスカレーターをオススメしないぜ、嬢ちゃん。奴らと鉢合わせする確率が高すぎるからな』

 

モグワイはそう言うと、非常階段を使った避難ルートを表示した

 

「そのルートなら、鉢合わせする確率は低いってこと?」

 

『一応な』

 

モグワイの言葉を聞いて、浅葱は少し考えると

 

「OK、そのルートで脱出するわよ!」

 

と言うと、愛用のノートパソコンと端末を持って立ち上がった

 

場所は変わって、旧製薬会社跡

 

「先輩……起きてください。先輩」

 

「後五分……」

 

なんともベタな寝言を聞いて、雪菜は深々とため息を吐いてから

 

「いい加減に、起きてください!」

 

明久の頭に、拳を振り下ろした

 

「あ痛っ!?」

 

殴られた明久は、殴られた部分を抑えながら跳ね起きた

 

「あ、雪菜ちゃん」

 

「ようやくお目覚めですか……」

 

惚けた様子の明久に、雪菜は深々とため息を吐いた

 

その間に明久は周囲を見回して

 

「ここは……?」

 

と雪菜に問い掛けた

 

「どうやら、彼らが休憩所として使っていたらしい部屋です」

 

雪菜が答えると、明久は何があったのか思い出したらしい

 

「あぁ……そっか、僕……一回死んだのか」

 

と呟いた

 

「そうです……ルードルフの攻撃を受けて、死んでました……」

 

雪菜はそこまで言うと、涙混じりで明久を睨んで

 

「生き返るなら生き返るって、先に言ってから死んでくださいよ! 私がどれだけ心配したと思ってるんですか!」

 

となんとも、ハチャメチャなことを叫びながら明久をポカポカと叩いた

 

「ごめんごめん……けど、これでアヴローラが言ってたことがようやく分かったよ……」

 

「先代の第四真祖が言ってたこと?」

 

明久の言葉を聞いて、雪菜は首を傾げた

 

「そ……真祖にとって、不死というのは権能じゃない。呪いだってね……ああ、これは恨むよ……アヴローラ……」

 

「先輩……」

 

雪菜が心配そうに声を掛けると、明久は天井を見上げて

 

「死にたくなっても死ねないし、年も取らない……だから、周りの人達に置いていかれる……これは確かに、呪いだよ……」

 

旧き世代の吸血鬼といえど、普通ならば心臓を破壊されたら死に至る

 

だが、第四真祖の明久にはそれが当てはまらない

 

ルードルフの攻撃により、完全に破壊された心臓も再生し、流れ出た血もほとんどが明久の体に戻った

 

もしかしたら、神話に出てくる吸血鬼のように、灰からでも復活出来るかもしれない

 

「だからって……だからって、どうして私を庇ったりしたんですか!? 呪いだろうがなんだろうが、必ず復活出来る保証なんてなかったんですよ!? 生き返れなかったら、どうする気だったんですか!?」

 

雪菜は涙混じりではあるが、本気で明久に怒っていた

 

「まあ、それでも良かったと思うよ?」

 

「なにが良かったんですか!?」

 

「だって、雪菜ちゃんが無事だったから」

 

明久の言葉を聞いて、雪菜は感情が複雑に入り混じった表情を浮かべた

 

泣くことも笑うことも出来ないで、苦悶している壊れた人形のような表情だった

 

「……て……よかったんです」

 

「え?」

 

雪菜の言葉がよく聞こえず、明久は首を傾げた

 

すると雪菜は、まるで感情を無くした能面のような表情を浮かべて

 

「先輩は、私を庇ったりしなくてよかったんです……もう忘れてしまったんですか? 私がここに来たのは、先輩を殺すためなんですよ?」

 

雪菜のその言葉に、明久は思わず眉をひそめた

 

「あの殲教師が言ってたことは本当です。私は使い捨ての道具です。ずっと前から気づいてたけど、認めたくなかっただけなんです。私は実の両親にお金で売られて、ただ魔族と戦うための道具として育てられてきたんです……だから、私が死んでも、誰も悲しまない。でも、先輩は違うじゃないですか……!」

 

そう言った雪菜は、泣いているのを見られたくないからか、明久に対して背を向けた

 

そして、その姿が明久には、ルードルフに連れられたアスタルテと重なった

 

創造主の命令に縛られていた、哀れなホムンクルスに

 

「雪菜ちゃん……」

 

ルードルフとの戦闘中、雪菜が動揺した理由を明久はようやく悟った

 

僅か十四歳だというのに、ロタリンギアの殲教師を圧倒する戦闘能力を持っている獅子王機関の剣巫

 

降魔の槍を操り、魔族と戦うためだけに育てられた戦闘のエキスパート達

 

だからこそ、同じように戦いの道具として造られたアスタルテに、雪菜は自分を重ねてしまったのだ

 

そして、ルードルフの言葉はそんな雪菜の心を深く抉ったのだ

 

それが理由で、雪菜は動揺したのである

 

(雪菜ちゃんをそこまで追い込んだのって、僕が原因かも……)

 

明久はそう思っていた

 

なぜなら、雪菜と出会って僅か数日だが、明久は第四真祖の力を持っているのに、人間であろうともがいていたのだ

 

そして雪菜は、戦う力を得るために、当たり前の日常を捨てている

 

だが明久は、誰よりも強い力を与えられたというのに、何の変哲もない日常を選んでいた

 

そんな明久の行動は、雪菜のこれまでの道のりの全否定しているように見えたのかもしれない

 

だから彼女は、自分が死ぬべきだったと言ったのだ

 

だからこそ明久は、行動を起こした

 

明久に背を向けて、俯いていた雪菜を、明久は抱き寄せた

 

「せ、先輩?」

 

「泣く人が居ない? そんな訳ないでしょ?」

 

雪菜が戸惑った様子でいると、明久は囁くように喋りだした

 

「人は誰かしら、誰と出会って育っていく……雪菜ちゃんだってさ、友達が居たはずだよ? お姉さん代わりが居たと思う……その人達はどうなのさ?」

 

明久のその言葉に、雪菜はハッとした

 

確かに居た

 

自分と同年代でありながら、自分を妹のように扱ってくれた人が

 

「それにさ、凪沙も悲しむし、僕も悲しい……誰だってさ、人が死んだら悲しいんだ……だから、そんなことを言わないでよ……」

 

「でも、私は……」

 

明久の言葉を聞いて、雪菜はまだ躊躇っていた

 

「もし、支えが欲しいのなら……僕じゃダメかな?」

 

「……え?」

 

明久の言葉の意味が分からず、雪菜は首を傾げた

 

「雪菜ちゃんは一人じゃないよ……僕が居る」

 

「先輩……」

 

明久の言葉を聞いて、雪菜は顔を赤くした

 

「まあ、僕じゃ嫌かもしれないけどさ」

 

明久はそう言いながら、立とうとした

 

だが、復活したばかりだからか、足から力が抜けて、雪菜の方に倒れた

 

「先輩!?」

 

「ごめん……まだ上手く動けないや……」

 

雪菜が心配そうに声を上げると、明久は震える手を見つめた

 

「血が……足りないんですか?」

 

「多分ね……」

 

ほとんど戻ったとはいえ、地下水道に流れたのや、薬物と混じってしまった分は減っている

 

雪菜はそれに気づいたのだ

 

「まあ、少し時間を置けば、多少は……」

 

明久はそう言いながら手を動かすが、雪菜は首を振って

 

「いえ……そんなに時間はありません」

 

と言った

 

「どういうこと?」

 

「先ほど、大きな爆発音が聞こえました……それに、アスタルテさんが言ってた要……」

 

雪菜がそこまで言うと、明久はハッとして

 

「まさか、キーストーン・ゲート!?」

 

と声を上げた

 

「恐らくは……」

 

「でも、至宝ってなんだろう……あ、そうだ」

 

明久はポンと手を叩くと、ポケットから携帯を取り出した

 

「流石は魔族特区製の携帯だよ……壊れてないや」

 

明久はそう言いながら、携帯を操作した

 

「浅葱なら分かるかな……」

 

と呟いた

 

そして、おバカな第四真祖はこの島の隠された秘密を知る


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。