二〇一七年六月十七日 修正
そうだった。そういえば、こいつらはこういうやつらだった。
頭を道路にめりこませたまま、レッドはそんなことを思った。
躰に力が入らない。トゥアールも含めて絆を深め合い、どんな相手が来ようとも勝ち続けてみせると改めて決意した矢先に、巨乳やら貧乳がどうとかいうヒドイ言葉が聞こえてきたため、いつも以上に力が抜けていた。
基地ではトゥアールに対して、闘う前の緊張感がどうとか言ったが、そもそもこの連中と闘う時は緊張感など霧散しかねないのだから、遅いか早いかの違いだけかもしれない。
エレメリアンたちが変態であることを思い出し、そんなあきらめに近いことが頭に浮かんでいた。
「なによ、なんなのよ、最近のこいつらは! なんで乳ばっかにこだわってんのよ!?」
「っ!」
怒りを多分に含んだブルーの声に気を取り直したレッドは、道路から頭を引っこ抜くと、すぐに彼女の方に顔をむけた。すでにブルーは道路から頭を抜いており、思った通り剣呑な気配を漂わせていた。
「落ち着け、ブルー! いままでだって、ブルマとかスク水とか大概なものばっかりだっただろ!?」
「あたしは! 乳を力に変えて闘うすべての存在が許せないのよおおおおおおおおおおおおおお!!」
これが、性別の壁なのだろうか。男である総二には理解できない理由によって、辺り一帯の建造物をも粉砕するのではないかと思えるほどの雄叫びが響き渡った。
当然といえば当然だが、それが気づかれたのだろう。二体のエレメリアンがこちらにむき直った。
『むっ、現れたな、ツインテイルズ!!』
「っ」
まずい。エレメリアンたちが同時に声を張り上げたところで、レッドはそう思った。
周囲を見渡す。場所は、都心のビル群の、大型プラザホール前。入り口には看板が掛けられており、なにかのコンテストかオーディションが開催されていたようで、先ほどの二体の台詞から、目的の
周りには、大勢の人がいた。距離を多少置いてはいるものの、ひとりとして逃げ出す様子がない。みんな見物するつもりのようだった。アルティメギルの怪人は、闘う力を持たない一般人に直接的な危害を加えることはない。そういった話が浸透しているためだろう。
確かにそれは事実だが、闘いの余波で被害が出る可能性は、充分にあった。事実、ドラグギルディとの決戦において戦場となった山奥は、辺りが盛大に焼け焦げ、地形が変わったほどなのだ。
二体のエレメリアンはどちらも、ドラグギルディに匹敵する巨体と威圧感。全力でぶつかり合ったら、周囲にどれだけの被害が出るのか、考えるだけでも恐ろしい。
「これが、ツインテイルズか。映像で確認してはいたが、どちらも実に見事なツインテール。それだけに惜しいッ。テイルレッドが成長した時に出会えていれば、夜空を飾る綺羅星のごとき素晴らしい巨乳が
「妄言はそこまでにしろ、俗物が! 彼女の美しさはすでに完成されているっ。神の造形に手を加えようとすることこそ、破滅を導く傲慢と知れ! そして、テイルブルー、――――」
「なによ?」
ブルーを見た途端、烏賊のエレメリアンが硬直した。
軽く構えをとりながら訝し気にブルーが問いかけるが、エレメリアンは固まったまま微動だにしない。
ブルーは首を傾げると、レッドに顔をむけた。
なんだろうな、とレッドも首を傾げながら応答しようとした次の瞬間、烏賊のエレメリアンがブルーの目の前にいた。
「っ、ブルー!!」
「っ!?」
視界に映った信じられない光景に、レッドは大声を上げた。ブルーも一瞬遅れて視線を戻し、驚愕する。
気配を絶っていたのか、それともレッドたちにも知覚できないほどの速さで動いたのかは知らないが、いずれにせよ、あの距離ではブルーでも躱せるかどうか。
間に合うか。硬直するブルーをかばうため、レッドは足に力をこめた。
レッドが飛び出そうとした瞬間、烏賊のエレメリアンが地面に片膝を突いた。
「美しい」
「え?」
「は?」
その体勢のまま、まるで忠臣が
烏賊のエレメリアンはレッドたちの様子に頓着せず、ブルーにむかってなおも言葉を続けた。
「美しい。映像で見た時から、まさか、と思っておりましたが、やはり私の眼に狂いはなかった。なんという神のいたずらっ。なんという、悲劇なる運命か!」
「いや、あんた、なに言って」
エレメリアンは戸惑うブルーに構わず、なにかの儀式を思わせるような動きで、腰に
「私の名は、クラーケギルディ。我が剣をあなたに捧げたい。我が心のプリンセスよ」
「あんた、正気!?」
「あなたの美しさに魅せられたのです!
「え、ええっと」
「っ」
誰に断ってブルー、愛香を口説いてやがる、この烏賊野郎。苛立ちとともに、レッドはそんなことを思った。
もう一体のエレメリアンが、ため息をついた。
「とうとう出たか、やつの悪癖が。騎士道を奉ずる堅物がゆえ、ああなったらもう止まらん」
知った仲であるらしく、うんざりしたような声だった。
「どうか、我が想いを! 愛しきプリンセスよ!」
「ええ、や、でも、その、困るからっ」
「――――」
止まらないクラーケギルディの言葉に、どんどんか細くなるブルーの声。レッドの苛立ちは、ますます強くなっていく。
『見ましたか、総二様!』
耳が痛くなりそうな大音量で、トゥアールが通信越しに声を上げた。
『これが、女です! 女の本性です! 口ではどんな綺麗言をほざいても、ほかの男にちょっと甘い言葉をかけられればそっちにころっと行ってしまう! そして愛香さんこそ、まさしくビッチ! さあ、張り切って幻滅しましょう!!』
「――――」
別にそういうわけじゃないだろう、と思う。ブルーの反応はつまり、相手が本気の好意をぶつけてくるなら、それがエレメリアンであっても
そう思いはするものの、目の前で愛香が口説かれるなど、見ていて気分のよくなるものではなかった。告白こそできてないものの、愛香は俺のものだ、という独占欲と言える思いもあった。
クラーケギルディの熱い告白が、
「かつて、我らが偉大なる首領様に剣を捧げる誓いを立てた時、
そろそろ黙らせよう。考えてみれば、なんで自分の女が口説かれるのを黙って見ていなければならないのか。
苛立ちが怒りにまで高まり、レッドはその怒りに身を震わせると、クラーケギルディに殴りかかるためにゆっくりと拳を握りこんだ。
混乱が収まったのか、ブルーがやんわりと返しはじめた。
「いや、まあ、気持ちはありがたいけどさ、あたしたち、敵同士だし。そもそもあたしのナイトは」
「最高の貧乳を持つ、麗しきプリンセスよ!!」
辺りに響いたクラーケギルディの言葉に、世界の音が消えた。
「――――、――――、――――、――――は?」
たっぷり数呼吸ほど間を置いて、ブルーが声を洩らした。
周りのギャラリーは、レッドも含めて身動きひとつとれず、ただ、見続ける。
「ツインテールは貧乳こそがふさわしい。私は、そう信じ続けてきました。その理想を体現する方を求め、あらゆる世界で、あらゆる貧乳を見てきました」
そこでわずかに言葉を切り、躰を震わせると、クラーケギルディは再び声を上げた。
「そして、あなたと出会った。最大級のツインテール属性を持ち、私の理想を体現した、いえ、その理想すら超えた、
早く黙らせよう。さっきとは違う理由でレッドの躰が震える。やばい、このままでは世界の破壊者が降臨しかねない。
焦燥が、身を焦がさんばかりに湧き上がっていた。
『あ、もしかして』
動こうとしたところで、楽しそうなトゥアールの声が届き、レッドは思わず動きを止めてしまった。
『愛香さんがさっき変身できなかったのって、愛香さん自身が
ププププー、とトゥアールは笑い声を続けた。さっき基地で確認し合った絆は、なんだったんだろうか。
茫然自失といった
「嘘よ――。あたしは、巨乳を拒絶なんか」
『こればっかりはわかりませんねえ! 嫌よ嫌よも、ということなのか、はたまたその逆なのか。いやー、面白いですよねえ。やっぱりどれだけ科学が万能になっても、人の心はわからないってことですね!』
やめろ。もう、やめてくれ。ブルーの声を遮ったトゥアールの言葉に、ブルーの表情がなくなっていくのを見て、レッドは声も出せずに心の中でトゥアールに懇願した。
それが聞こえるはずもなく、トゥアールは嘲笑するようになおも言葉を続ける。レッドには、トゥアールが自ら進んで
『まー、でも、よかったじゃないですか、愛香さん。声はなかなか男前ですし、眼を
この闘いが終わったら、おまえの貧乳が大好きだって言おう。なにやらいろいろと早まった言葉に思えるが、気のせいだろう。顔を引きつらせていたレッドは、トゥアールの言葉にそんなことを思った。
ブルーは、さっきよりも落ち着いたように見えた。それなのに、受けるプレッシャーがどんどん大きくなっていく。
大津波が来る前には
「ねえ、
『え?』
ブルーがにこやかに呼びかけると、トゥアールがキョトンとした。
K・Tというのは、ツインテイルズとして活動する際、トゥアールへ呼びかける場合に使う、いわゆるコールネームだ。
トゥアールの発案によるものなのだが、なんでK・Tなんだと訊いたところ、
それはともかく、ブルーの様子にレッドの背筋が冷えた。にこやかな表情を浮かべてはいるが、彼女の眼は笑っておらず、声も絶対零度を思わせるほど冷たかった。
『あの、愛香さん。いきなりなにを』
「最期の
『――――!?』
さらば、トゥアール。
どこかの映画のタイトルのようでいて物騒極まりない言葉と、愛香によって次々と急所を
絶句していたトゥアールが、大声を上げた。
『そ、そ、そ、総二様! その人は敵です! 人類の脅威! 許されざる存在! 排除すべきイレギュラー! 倒せるのはあなたしかいないんです、総二様あああああああーーーーーーーっ!!』
「すまん、目の前にも強敵がいるんで」
貧乳のことに触れなければ、愛香が総二に攻撃してくることはないだろう。だが、だからといって、いまの愛香が行うであろうトゥアールの処刑を止められるかと聞かれれば、無理と答えるしかなかった。なにが来ても止まりそうにない、やると言ったらほんとうにやる、そう思わせる凄みが撒き散らされていた。
ブルーが、手に槍を呼び出した。
「あー、そうよね。エレメリアンってこういう連中だったわけだしね、うん。とりあえず、暴れるけどいいわよね。答えは聞いてないけど」
「聞けよ!? そこは聞いておいてくれよ!?」
誰にともなく投げやりな調子で言うブルーに、レッドは慌ててツッコむが、彼女の物騒な笑顔が変わることはなかった。彼女が手に持った槍からは、いまにも握り砕かれそうな、ミシミシという嫌な音が聞こえてくる。
終わりだ。世界の破壊者が、現れてしまった。
絶望によって自分の心が
青き怒涛、テイルブルー。
行け、
いつの日か、他人にも、わかって欲しい。
わずかな膨らみさえ、欲しかった人生だけど。
立て、壁のごとく、貧乳の化身よ。
乳求める
世界に轟く、破壊の化身よ。
迫りくる乳を、一網打尽、叩き潰し、雄々しく吼えろ、ブルー。
行け、
「ツインテイルズーッ! がんばってくださいましーっ!」
「はっ!?」
幼い少女の声援に、レッドの意識が引き戻された。
そうだ。まだ絶望するわけにはいかない。
このままでは、ブルーが破壊者になってしまう。ツインテールが、テイルブルーが恐ろしいものだとされ、世界から排斥されてしまうかもしれない。
そんなことを見過ごすわけにはいかない。世界のツインテールを、そして愛香を守ることが、自分の役目なのだから。
やるべきことを思い出し、レッドは自らを鼓舞した。同時に、いま自分を救ってくれた声の主に感謝の意を伝えるため、声が聞こえた方向に顔をむける。
見覚えのある顔だった。
「って、また会長っ!?」
「っ!?」
声量こそ抑えたが、驚きに思わず声が出た。
婚姻届を配りまくるメイド先生こと桜川尊教諭と、神堂慧理那生徒会長が、そこにいた。
レッドの声が聞こえたのだろう、ブルーも同じ方向を見たあと、焦りの声を洩らした。
「まずいわね。この騎士馬鹿が気づいたら、会長を狙いはじめるわ。あたしよりも、会長は胸が小さいからね。――――あたしよりもねっ!」
「なんで、二回言った!?」
ブルーにとっては大事なことなのかもしれない、とツッコんだあとでふと思った。それはともかく、エレメリアンが狙うのは、まず第一にツインテール属性の強い者。そのうえで、それぞれの備えた属性を狙う傾向がある。
クラーケギルディが狙う基準が、胸が小さい、ツインテールの娘だとすれば、愛香の次に危険なのは慧理那だろう。
慧理那を、ツインテイルズを応援してくれる最高のファンを、守らなければならない。
レッドたちの視線の先に、クラーケギルディたちが顔をむけた。
「むっ、あちらにもなかなかのツインテールが。――――だが、いずれにせよ巨乳ではない、か。ままならぬものよな」
「確かに見事なツインテール属性だ。だが万が一にも、
当人たちには失礼かもしれないが、貧乳にツインテールという、ブルーと同じ要素を持っているはずの慧理那に対し、こんな反応をすると思わなかったのだ。
慧理那の傍らで警戒していた尊が、困惑と怒りの混じった声を上げた。
「貴様、お嬢様にむかって突然なにを言う!?」
「幼き少女は胸が小さくて当然なのだ。ときめく道理などない!!」
一分の迷いもなく、クラーケギルディが言い切った。その言葉には、信念すら感じられた。
しかし、できることならば、ちょっとぐらいは、ときめいて欲しかった。
「あはは、なるほどー。あたしは、当然じゃないってことね。あはははは――」
案の定、その言葉に怒りの収めどころを失ったためだろう、ブルーが乾いた笑い声を上げた。ひとしきり笑ったあと、ブルーが拳を振り上げる。もう、止めようがなかった。
慌てた様子もなく、クラーケギルディは両手を八の字に広げ、レッドから見てもわかるほどの闘気を、全身に
「さあ、プリンセスよ、ご覧あれ。これで、私が本気だとわかっていただけるはず!!」
「っ!?」
クラーケギルディが叫ぶと同時、彼が身にまとっていた鎧のようなものが弾け、辺りが仄暗くなった。
「あれはっ!?」
鎧と見えたものは、触手だった。
その触手で人を海中に引きずりこむという、海の魔物クラーケン。その伝説の怪物を
「あれが、あいつの戦闘形態か!?」
全力を出すためにドラグギルディは、闘気を、竜の翼を思わせるツインテールのかたちに拡げていた。さっきのクラーケギルディの言葉から、それと同じものではないかとレッドは思ったのだ。
「い、い、い、いやああああああああああああああああーーーーーーーっ!?」
「ブ、ブルー!?」
突然ブルーが、レッドですら一度たりとも聞いたことがない、恐怖に満ちた悲鳴を上げた。
「い、嫌、やだやだやだ!」
「落ち着け、ブルー! いったい、どうしたんだ!?」
「しょ、触手、触手やだー!!」
尻餅をつき、後ずさりながら、ブルーは幼い子供のように怯えていた。ついぞ見たことがないブルーの様子に困惑しながらも、落ち着かせようとレッドが声をかけるが、彼女はまったく聞いた様子がなかった。
クラーケギルディの触手を改めて見てみる。確かに、ウネウネと不気味な動きはしているが、ホラー映画に出てくるもののような醜悪さはなく、むしろどこかコミカルな感じがあるものだった。だというのに、ブルーは完全に怯えきっていた。
「姫よ、なぜ怯えられますかっ。これは我が求婚の儀。あらん限りの愛の照明なのですよ!?」
「嘘オオオオオオオオオオオ!? 触手にプロポーズされたあああああああああーー!?」
「っ!! クラーケギルディイイイイイイイイイイイーーーーーーーーーーーーーー!!」
「むっ!?」
燃え上がる怒りに身を任せ、レッドはクラーケギルディに殴りかかった。その顔面目掛けて思いっきり拳を振り抜くが、当たる直前クラーケギルディは大きく跳び
攻撃を躱したクラーケギルディが、非難の声を上げた。
「
「ふざけんじゃねえ! 愛っ、ブルーは俺のだ! 勝手にプロポーズなんかしてんじゃねえ!!」
クラーケギルディの勝手な言葉にレッドは、怒りのまま怒鳴り返す。途中、本名を言いそうになったが、なんとかそれは言い直した。
『――――』
再び辺りが静寂に包まれたことに、レッドはふと気づいた。
なんだ、と周囲を見渡す。
『うおおおおおおおおおおおお!!』
『きゃあああああああああああ!!』
『嘘だあああああああああああ!?』
『いやあああああああああああ!?』
「うおっ!?」
突然、方々から同時に上がった叫び声にレッドは驚く。
男女ともに、歓声と悲鳴が入り混じった声だったが、ビリビリと大気が震えるような大合唱となっていた。レッドは顔を
「レッドたんが、ブルーちゃんひと筋みたいな発言した時から、まさかって思ってたけど―――!」
「勘違いじゃなかったんだ! テイルレッド×テイルブルー! これはっ!」
「嫌いじゃないわ! こうしちゃいられない! 早く夏に向けて準備しなきゃ!!」
「どっちが攻めなのかしら!? やっぱりあの様子からすると、テイルレッドちゃんの方なのかしら!?」
「いや、そう見せてブルーちゃんの方かも知れないぜ!?」
人々の言葉に、自分がなにを言ってしまったのか思い至り、レッドは脂汗をかきながらブルーの方に眼をむけた。
ブルーは顔を
それ自体はいい。ブルーに、愛香に喜んでもらえるなら、総二としてはこの上なく嬉しいことだ。
「見ろ! テイルブルーちゃんの嬉しそうな顔を!!」
「そんなっ。テイルブルーちゃんもだったなんて!?」
「嘘だ、そんなこと!?」
「なんで!? なんでなのよ!? ブルーお姉さまは、いずれ私がモノにするはずだったのに!!」
「レッドたああああーーーーん!?」
嘆きの声を上げる人たちを、どうすればいいのか。う、裏切られた、と思ったファンがアンチに走るというのは、よく聞く話である。
「逆に考えるんだ。百合だっていいさ、と。どちらかを落とせば、もう片方もモノにできるんだと思えばいい!」
「はっ!?」
「その発想はなかった!」
「確かにその通りだ。よし、俺が目を覚まさせてやるぜ~~っ!」
「なに言ってんのよ! それは私の役目よ! むしろ女の方が可能性が上がったってことなんだからね!」
「それじゃ変わんねえだろ! 健全な道に戻してあげるんだよ!!」
「同性愛はいかんぞ! 非生産的な!!」
「馬鹿野郎!! ブルーちゃんとレッドたんは本気なんだよ! 分かる!? 愛し合う二人の間に割り込もうなんて、無粋な真似するんじゃないよ!!」
「そうよ! ここは、二人の行く末を見守るのが、本当のファンってものじゃないの!?」
「なにいっ!?」
ここで聞くかぎりでは一応、自分たちの仲を応援、見守っていこうという声が大きいようではある。あるが、だからといってどうすればいいのか。
「トゥ、いや、K・T」
『すいません、無理です』
「いや、そこをなんとか」
『いえ、すでにネット上に拡散しておりまして。こうなってしまっては、もうどうしようもありません』
「――――そうか」
『すごいですよね。まだ数分も経ってないのに、もう世界中に広まってますよ』
「うわあ」
「いいだろう。ならば、
「な、なに!?」
どうしよう、と
その反応を怯えと見たのか、クラーケギルディが馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「どうした。そんな立派なツインテールを持っていながら、威勢がいいのは口だけか。貴様のような
「っ、上等だ。ブルーは誰にも渡さねえ! その決闘、受けてやるぜ!!」
レッドの言葉の直後、周りから歓声と悲鳴が上がったが、レッドはもう気にしなかった。
さっきの言葉は挑発なのだろう。だが、たとえ挑発であろうと、自分のツインテールを馬鹿にされ、愛香にふさわしくないなどと言われたのだ。断じて許さん。
これは、男の闘い。絶対に、負けない。いまは女だがそれはともかく。
クラーケギルディと睨み合うと、ブレイザーブレイドを呼び出し、構える。クラーケギルディを見据えながら、レッドはブルーに呼びかけた。
「ブルー、こいつは、クラーケギルディは俺がやる。もう片方は、任せていいか?」
「う、うん。ごめん、レッド」
「謝ることなんかないさ。こいつは、俺が闘わなきゃならない相手だからな。こっちは見ないようにして闘え」
「――――うん!」
申し訳なさそうなブルーの言葉に笑顔で返すと、彼女はいくらか調子を取り戻した様子で返事をし、もう一体のエレメリアンの方にむかった。
腕組みし、眼を閉じていたエレメリアンが、ゆっくり瞳を開き、槍を構えたブルーを見据える。
「よかろう。相手になってやるぞ、テイルブルーよ。俺の名はリヴァイアギルディ。
「――――槍なんて、どこにあんのよ?」
リヴァイアギルディの躰には、鎧のようなものが巻きついているが、槍らしきものは見当たらなかった。ブルーの疑問も、もっともである。
ドラグギルディのようにその場で形成するのだろうか、と横目でレッドがリヴァイアギルディの方を見たところで、彼は躰に巻きつけていた鎧を解いた。いや、鎧ではなかった。
それは、股間から生えた、一本の巨大な触手だった。勢いよく
もうちょっと、うしろの方から生やせ。神話にある、海竜リヴァイアサンの名にふさわしい立派な尻尾ではあるが、そう思わざるを得なかった。
ブルーの顔が、引き
「ちょっ!?」
「いまこそ見よ、我が槍の
「ちょ、ウソ、いやああああーーーーっ!?」
「ブルー!」
「よそ見をする暇があるか、テイルレッド!」
「ち、いいいーーーっ!!」
思わず呼びかけたレッドに、クラーケギルディが無数の触手を伸ばしてくる。
小さな触手を斬り払い、ひと際大きな触手をレッドは剣で受け止めた。硬いもの同士がぶつかった時のような音が、響き渡った。
ある日、突然現れたツインテールの戦士、テイルパープル。
「あ、パパ、ママ!」
「パ、パパ?」
「マ、ママって、あたしのこと!?」
彼女は、いったい何者なのか。
「可愛らしい幼女ですねえ、ウヘヘ」
「あ、トゥアールおばさんだっ。久しぶりー!」
「お、おば――?」
「しっかりしろ、トゥアール!」
「傷は浅いわよ、っていうか、なんでおばさんって言われてそんなにダメージ受けてんのよ!?」
「あらあら」
「あっ、未春おばーちゃんだ!」
「ふふっ。おばあちゃんって言われるのも、意外と悪くないわね」
彼女は、いったいどこから来たのか。
「あの、あなたは?」
「あ、慧理那さん! ――取ってこーい!」
「む、むう、君はいったい?」
「あっ、尊さん。これ、どーぞ」
「むっ、これは、お見合いパーティーのお誘いっ!?」
彼女の目的は、いったい、なんなのか。
「俺の」「あたしの」
――に、手を出すなあああああ!!
「じゃ、またね!」
劇場版 さらば、仮面ツインテール ファイナル・カウントダウン
公開日未定
『さらば、トゥアール』のフレーズで、電王にそんな感じのタイトルあったなー、と。あっちは孫ですが。
K・T。
人前で『トゥアール』って呼びかけて大丈夫なんだろうか、ってなんか気になったもんで。ロケーションムーブ。