あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

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2014年中にもう一話と思ってたのですが
家のことやらなんやらで時間がとれず
加えて、文章がいまいち納得がいくものにならず
遅くなってしまったため
どうせなので、この時間に投稿することにしようか、と。

拙作共々、今年もよろしくお願いします。


二〇一六年四月十四日 修正
 


1-13 白の主張 / 双房集結成 / 竜との友情

 もはや語る言葉はない、とブルーとドラグギルディが構えをとり、レッドが開戦の声を上げようとした瞬間、それをぶち壊すような高笑いが、辺りに響いた。

 その声にレッドは山中に響く絶叫を上げ、出鼻をくじかれて力が抜けたブルーは首をカクンと傾かせ、ドラグギルディは空を見る。いや、空ではない。

「何者だ! 名を名乗れい!!」

 声の主の位置を即座に把握したのだろう、ドラグギルディが誰何(すいか)の声を上げた。彼が見ていたのは、周囲に生えている木の中でもひときわ目立つ大木の天辺(てっぺん)。最も高い枝の上に、人影が見えた。

 

「私の名は、世界を渡る復讐者、仮面ツインテール!!」

 

「ブ~~~~~~~~ッ!!」

「は? え? 誰?」

 人影が名乗りを上げると、レッドは吐血せんばかりに噴き出し、ブルーはその怪しさに困惑した。

「ようやく姿を現しましたね、ドラグギルディ。この時を待っていました!」

「むむう、仮面ツインテールとな!?」

 仮面ツインテールと名乗った、白衣を羽織り怪しい仮面を被った怪しすぎる人物は、空気をぶち壊したことをまったく気に留めず喋り、ドラグギルディもまた、まったく気にせず、大仰かつ律儀に反応する。

「なにやってんだ、トゥアール」

「トゥアールって、さっき言ってた、このテイルブレスを渡してきたっていう?」

「ああ」

 レッドの答えを聞くと、ブルーは改めて仮面ツインテールの姿を見た。

 頭をすっぽりと包む、いわゆるフルフェイスのヘルメットを被っており、そこから出ている髪型は、真っ直ぐにおろしたロングストレートだった。ヘルメットにもツインテールらしきかたちはない。

「どのへんが、ツインテールなのよ」

「あのウイングパーツだな」

「は?」

「ほら、ヘルメットの左右から雄々しく展開してるパーツがあるだろ。多分、あれがツインテールなんだと思う」

「はあ」

 生返事を返し、改めて見てみるが、やはりツインテールには見えなかった。レッドが言うからにはそうなのかもしれないが。

 頭を振って、再び視線を仮面ツインテールにむける。視線が、一か所で止まった。止めざるを得なかった。

 思わずギリッと歯を喰いしばり、拳を握りしめた。悔しさや嫉妬などのいろいろ複雑な感情に衝き動かされ、口が思わず動いた。

「なによ、あの乳っ。それに、これ見よがしな服なんか着て――っ!」

「いま気にすることか、それっ!?」

 いまブルーが着ている衣装は、ただでさえ自身のコンプレックスである貧乳を刺激するデザインなのだ。そこにあんな、たわわに実った巨乳を見てしまえば、怨念のこもった声を漏らしてしまっても仕方ないではないか。

 ふとブルーは、さっき流していた言葉をなぜか思い出した。

 朗らかな笑顔をレッドにむけ、努めて明るく声をかける。

「そういえば、そーじ。さっき、浮気がどうとか言ってなかった?」

「――――」

 その言葉にレッドは一瞬固まったあと、眼を泳がせて油汗をかきはじめた。数秒ほどして、彼女はどこか引きつった笑顔をむけてくる。

「い、言ってないぞ?」

「――――いまの間と、その疑問形のセリフは、なーに?」

 まだ付き合ってないだろ。レッドに追及しはじめたところで、そんな声が聞こえた気がした。

 

「トゥア!」

 グダグダな空気を切り裂くような鋭い、それでいてどこか微妙に自己主張を感じる声を上げ、仮面ツインテールが枝から跳び立った。かなりの高さであるが、その跳躍にはまったく恐れた様子がなかった。

 彼女は空中で一回転すると、どうやって入れていたのかわからないが、白衣のポケットから傘らしき物を取り出し、落下しながらそれを開いた。

 不思議な力でもあるのか、仮面ツインテールの落下速度がどんどん遅くなっていき、そのまま地面に、激突した。

「なんとっ!」

『――――』

 ドラグギルディは驚いていたが、ブルーはどう反応していいかわからず、レッドの方に顔をむけた。困った顔をしたレッドと顔を見合わせる。自分も同じような表情をしているだろうことは、鏡を見なくてもわかった。

――――どうしよう。

――――いや、どうしろってんだ。

 困った眼と表情で、なにを言いたいのかはわかった。その気持ちが通じ合ったこともわかった。なにをどうすればいいのかは、まったくわからなかったが。

 仮面ツインテールが墜落した場所に、どちらともなく視線を戻す。土煙が盛大に上がっていた。おそらく傘を開くタイミングが遅かったため、減速しきれなかったのだろう。

 ドラグギルディも、じっとその場所を見つめている。なんとなく出待ちに見えるのは気のせいだろうか。

 さらに二、三秒ほどして、土煙のむこうに人影が映った。

「おおっ!」

『――――』

 人影、もとい仮面ツインテールは、開いた傘を持ったままぐったりとした様子で、一メートルほどの高さに浮かび上がっていた。というか、まだ浮かび上がり続けていた。

 ドラグギルディは再び律儀に驚くが、頭の痛くなったブルーは頭を抱えると、やはり同じように頭を抱えたレッドと顔を見合わせた。

――――帰ろっか。

――――いや、ホントになんもかんも放り出して帰りたくなるから、そういうこと言わないでくれ。

 再びアイコンタクトが成立したことを感じ取るが、なにか解決策が出るわけでもない以上、やはりなんの意味もなかった。

 二人で揃って頭を振り、ため息を吐いてから仮面ツインテールの方を見る。

『――――』

 何事もなかったかのようにと言うべきか、それともなにがあったと問うべきか、腕組みをして、その長く美しい銀髪を(なび)かせ佇む仮面ツインテールの姿があった。どことなく白衣が薄汚れている気がするが、気にしない方がいいのだろう。

 いろいろな意味で場の流れについていけず、ブルーはレッドとともになんとも言えない表情を浮かべ、仮面ツインテールとドラグギルディを見つめた。

「仮面ツインテールと申したな。だが貴様、気迫とは裏腹に際立(きわだ)った属性力(エレメーラ)も感じぬが、よもやツインテイルズの加勢に来たなどとは言うまいな?」

「加勢するつもりはありません」

「ほう?」

「じゃあ、なんで出てきたんだよオオオオオオ!!」

「これだけは、いま話しておかねばと思いまして」

 俺のドヤ顔返せよオオオオ、と叫ぶレッドを気に留めず、仮面ツインテールが静かに言葉を紡いだ。その声にレッドは叫びを止め、ブルーとともに眼を(しばたた)かせた。

「えっ?」

「あんた」

「それに、ここで登場しておけば私の印象を残しやすくなりますし」

 ボソッとした呟きが聞こえたあと、仮面ツインテールはゴホンと咳ばらいをし、言葉を続けた。

「ドラグギルディの言っていた通り、私はそのテイルギアを装着して戦っていました」

『オイ』

 出番が欲しかったから、と聞こえた理由に、ブルーとレッドは揃って半眼でツッコミを入れた。入れたが、やはり仮面ツインテールは気にした様子がなかった。

 そこでドラグギルディが、はっとした様子を見せた。

「そうか、貴様。かつて我らと死闘を繰り広げた、あの戦美姫。やはり、世界を渡ってきていたか。だが、なぜだ。いまのおぬしからは、弾けんばかりに輝いていた無敵のツインテール属性がまったく感じられぬ。我らは、ついぞ奪わずじまいだったはずだ」

「それは、託したからです」

「なにっ!?」

 信じられん、とばかりに驚愕するドラグギルディから仮面ツインテールが視線を外し、レッドの方に顔をむける。仮面で覆われているためはっきりとはわからないが、微笑みかけたようだった。

 ここまでのグダグダな流れと怪しい仮面のせいで、いまいち感動できなかったが、気にしてはいけないのだろう。

「ドラグギルディ。私は、あなたたちアルティメギルと戦っている時、なにかおかしいとは思っていたんです」

 仮面ツインテールの語りがはじまり、いったん彼女の言葉に耳を傾ける。仮面ツインテールの声はどこか抑揚が感じられず、感情を押し殺しているようにも思えた。

「なぜ、敵がこんなにも弱いのか。なぜ、彼らの目的であるはずの属性力(エレメーラ)の奪取に、本気さが感じられないのか。世界がツインテールに染まっていく中、迷いが私の心を支配していきました」

 そこで仮面ツインテールが、顔をうつむかせる。ブルーにはそれが、涙をこらえているように見えた。

「きっと、止める(すべ)はあったはずなんです。なんでもいい。私が、世界の人々がツインテールへの興味を失うようにふるまえばよかったはずだったんです。でも、私はできなかった。世界に芽吹いたツインテール属性を消したくなかったんです」

 自分も同じだ、とブルーは思った。ブルーも、なにかがおかしいとは思っていたのだ。しかし、もしもブルーが、ツインテールへの関心を人々から失わせるようなことをして、そのためにツインテールが減ったら、そしてそれによって総二に嫌われてしまったら。そう考えると、どうしてもできなかったのだ。

 ドラグギルディの話からも、仮面ツインテールは総二に次ぐくらいツインテールを愛していたのだろうことは予想がつく。その苦しみは愛香以上だっただろう。どれだけ悩んだことだろうか。仮面ツインテールの声は平坦なままで、それがなおさら彼女の悲しみと後悔を感じさせた。

 いたたまれなくなり、ブルーは衝動的に口を開く。

「あたしもいっ」

「私に憧れてツインテールにした可愛いロリッ()たちが、もとの髪形に戻っていくのが怖かったんです」

「――――」

 自分も同じだと呼びかけようとしたところで耳朶(じだ)を打った言葉に、ブルーの口がピタリと止まった。

 なにか妙な言葉が、聞こえた気がした。

 レッドの方を見るとあちらも同じだったようで、お互いの眼が合った。真顔だった。彼女の瞳に映るブルーの顔も、真顔だった。

 とりあえず話の続きを聞くために、再び仮面ツインテールの方に顔をむける。

「その心の隙を突かれ、私はドラグギルディに負けた。基地にこもって策を練っている間に侵略は進められ、世界からツインテール属性は消えた。二度とツインテールを愛することのできない、灰色の世界になってしまった」

 それだけ聞くと、別にどうでもいいことに聞こえてしまうのが、いろいろな意味で恐ろしい。

「さまざまな属性を奪われ尽くし、世界から覇気が失われた中、私ひとりだけがツインテール属性と幼女属性を残していた。私が、道行くロリッ()のスカートをめくってもろくに注意されない、冷たく、寂しい世界でした」

「誰ひとりツインテールにできないなんて、地獄だっ!!」

 いまの話で反応するべきは、そこではない。

 レッドの言葉にそんなことを思いながらブルーは、仮面ツインテールの変態(ロリコン)っぷりに気が遠くなった。傍から見れば白目でも剝いているのではないだろうか、と頭の冷静な部分で考える。

 仮面ツインテールはブルーの反応に頓着せず、告白(自白)を続けた。

「そして復讐を決意した私は、テイルギアと戦いのデータをもとに、与えられたテクノロジーを徹底的に分析しました。ロリッ()のちっぱいを後ろから揉んでもリアクションすらされない虚しさを糧に、認識攪乱装置(イマジンチャフ)を完成させ、元気一杯のロリッ()たちを求め、世界間航行の技術を解析しました」

「ヒドイ、ヒドすぎる!!」

 なんでよりによって、ロリッ娘(それ)で復讐を決意するのか。なんでよりによって、ロリッ娘のちっぱい(それ)を糧にするのか。なんでよりによって、求めるものが元気一杯のロリッ娘(それ)なのか。

 どこにツッコんだらいいのかわからない、あまりにもヒドイ話に、ブルーは頭を抱え、倒れそうなほどにのけぞり、仮面ツインテールのヒドさに対して叫ぶ。

 叫んだが、やはり仮面ツインテールは気にすることなく話を続けていく。

「そして、けじめとして、私の持つツインテール属性を(コア)に、もうひとつのテイルギアを完成させました。それが、――――総二様、あなたにお渡ししたテイルギアなのです」

「俺のテイルギアが、――――じゃあトゥアールは、自分からツインテール属性を手放したのか!?」

 驚愕するレッドの声になんとか気を取り直して体勢を戻すと、仮面ツインテール、いや、トゥアールの言葉から、彼女がとても強い心を持っていることを感じ取った。

 レッド、――総二ほど、愛香はツインテールを愛しているわけではない。そのため、ツインテールがなくなること自体には、それほど深刻になれない。愛香がツインテールを守るのは、あくまでも総二のためなのだ。

 それでも、大切なものを守るために、その大切なものに対する気持ちを手放さなければならないとしても、自分にそんな決断ができるとは思えなかった。

「あとは、装着できなくなった私のテイルギアを、テイルブルー、愛香さんに託した。これが、すべてです」

「へー、これお下がりなんだ。どうりで胸のところが、へー」

 トゥアールの最後の言葉に、ブルーは彼女の胸と自分の胸を見比べてしまい、思わず暗い声を漏らす。おそらくいまの自分の眼は、一切の生気が感じられないことだろう。

「執念か。仮面ツインテールよ、どうやら我は、おぬしが持つツインテールへの深き愛を侮っていたようだな。大したものだ」

 心からの敬意を感じさせる賞賛の言葉をドラグギルディが紡ぎ、その声にブルーも気を取り直す。

 自分も、戦場ではひとりで戦い続けてきた。だが、それはあくまでも、守りたいもの、大切なものがあり、支えてくれる人が、――総二がいたからこそ、どうにか戦い続けることができたに過ぎない。

 トゥアールは、守るものをなくし、大切なものに対する気持ちを手放しながらも、ひとりで彼女なりの戦いを続けてきた。ほんとうにすごいやつだと、心から思う。

 そして同時に、言動のところどころでわかってしまう残念っぷりも、理解してしまった。

 聞くのが怖いが、嫌な予感に衝き動かされ、ブルーはトゥアールに問いかける。

「えっと、トゥアール、だっけ。ちょっと聞きたいんだけど、なんでそーじはちっちゃい女の子になってるの?」

「総二様がテイルギアをまとうとロリッ()になるのは」

 ブルーの問いに答えていたトゥアールが、そこで言葉を切った。気のせいか、さっきの話の時とは違い、その声には抑えきれない様々な感情が混じっているように思えた。

 わなわなとトゥアールが躰を震わせる。一拍置いて、カッと眼を見開いたのが、仮面越しにもわかった。

「私の趣味ですよ! 悪いですかっ!?」

「開き直ったあああああああああっ!?」

「開き直るなあああああああああっ!!」

 できれば当たってほしくなかった予想があまりにもヒドイ叫びで肯定され、レッドは驚愕の、ブルーはツッコミの叫びを上げる。

 その真性の変態(ロリコン)っぷりを前に、ブルーは反射的にトゥアールを殴り倒しそうになったが、変身した状態で殴るのはさすがにまずいだろうと頭に浮かび、叫ぶだけにとどめる。このトゥアールという相手には、ある程度加減すれば別に大丈夫なんじゃないか、という考えがなぜか思い浮かんだが、さすがに自重した。

「それに! 幼女の姿なら油断を誘える上に、注意を引きつけることもできます! アルティメギルと戦うにはベストのスタイルです!!」

「そっちの理由だけを言えばいいだろうがあああああああああああああああああああ!!」

「もはやなにを言ったところで言い訳にしか聞こえんわあああああああああああああ!!」

 とってつけたようなトゥアールの説明に、二人でさっき以上の叫びをぶつける。

 叫び終わったところで、ドラグギルディの声が耳に届いた。

「よき仲間を持ったな、テイルブルー」

「なんでこんな会話で感動してんのよあんたはあああああああああああああああああ!!」

 なにが彼の心の琴線に触れたのかは知らないが、目の端に光るものを見せ、なにやら少し震える声で呼びかけてきたドラグギルディにもツッコミを入れる。いろんな意味で疲れ、ブルーが肩で息をしはじめたところで、レッドが疲れたようにため息を吐いた。

「あー、わかったよ。納得はできないけど、理由があるなら、仕方ない」

「ですよねっ。幼女かわいいですもんねっ!!」

「黙れ」

 無理やり自分を納得させるようなレッドの声に欲望丸出しの言葉を返すトゥアールにむかって、いろいろと思考に黒いものが混じりはじめたブルーは端的にツッコミを放った。

 ほんとうに、グダグダとしか言いようがなかった。

 

「仮面ツインテールよ。そこまで弁を尽くさずともわかっておる。どれだけ打ちのめされても、こやつらのツインテールは、いささかの輝きも失っておらぬ」

 さっきまでの空気を無視して、いや、まったく気にせず、ドラグギルディが言葉を紡いだ。

「だが、いかな輝きで照らそうと、覆らぬ闇もある」

 ブルーとレッドにむき直りながら、ドラグギルディが言葉を続ける。かつての宿敵に再会したためか、彼からはいままで以上に強烈な気迫が感じられた。

「先ほども言ったな。それが認められぬならば、抗ってみせるがいい。もっとも、ひとりが二人になったとて、なにも変わらぬだろうが、な」

「――――さっきの言葉、ちょっと訂正させてもらうぜ、ドラグギルディ」

 そのドラグギルディにまったく臆した様子もなく、レッドが笑みを浮かべながら言葉を返す。ドラグギルディに負けないほどの気迫を漲らせたレッドは、トゥアールを見やりながら言葉を続けた。

「ツインテールは、左右の髪を支える頭があって、はじめてツインテールだ。つまり、だ」

 ドラグギルディにむき直り、レッドが声を上げる。

「俺とブルー、そしてトゥアール。俺たちは三人で、ツインテイルズだ!!」

 戦っているのは、愛香(ブルー)総二(レッド)だけではない。テイルギアにこめられたトゥアールの思いも、ともに戦っているのだと。トゥアールの想いを汲み取った総二の言葉から、愛香は総二の優しさを感じ取った。

「ああ、なんて凛々しくすてきな幼女っ。涎が止まりませんっ。うぇへへへ」

「そ、うよぉ。さ、三人でー、うん、ツインテイルズ。――――はぁ~あ」

 しかし、想いを汲み取ってもらったトゥアール当人は、マスクの隙間から涙ではなく涎をすさまじい勢いで垂れ流し、愛香(ブルー)もまた、総二の優しいところを見れて嬉しくはなったものの、できれば総二(レッド)と二人で、と考えていたためにいろいろと複雑な思いを持て余し、テンションを下げる。

 やはりとことんまでに、グダグダであった。

 

 

 安全な場所まで退避したトゥアール、いや、仮面ツインテールを見届け、レッドはブルーとともに、いつの間にか手から消えていた武器を改めて呼び出す。

「愛香、ちょっと待ってくれないか?」

「え?」

 ブルーに声をかけてから、ドラグギルディにむき直る。もう一度だけでも、話がしたかった。さっきは場の空気をぶち壊した仮面ツインテールにツッコんだが、もう一度話す機会を作ってもらったと思えば、むしろ感謝するべきかもしれない。

「ドラグギルディ。譲歩とかはできないのか? たとえば」

「おぬしはまだそんなことを言うのか? 先ほども」

「俺はっ!」

「っ?」

 怒りを含んだドラグギルディの言葉を、レッドが声を上げて遮ると、彼と愛香は訝しげな反応を示した。思った以上に大きな声が出たことにレッド自身も驚くが、これだけは伝えたかった。

「俺は、ツインテールのことで話せる友達ができて、嬉しかったんだ」

「そーじ――」

「おぬしは、我を友と呼ぶのか? 我は、エレメリアンなのだぞ?」

「それがなんだってんだ。人間がエレメリアンを友達だと思っちゃいけないってのか?」

「我らは、いくつもの世界を侵略してきた。数えきれないほどの、人の属性力(エレメーラ)を奪ってきた。そして、おぬしの大切な少女も利用した」

「それはっ、――――それでも俺は、おまえを憎いとか思えねえんだ」

 さっき自分が戦いをためらってしまった時も、ドラグギルディは総二の迷いを振り切らせてくれた。トゥアールの話も、ただ彼は罪を受け入れるようにじっと聞いていた。ブルーに仲間ができたことに、小さく涙も流してくれた。最後のはいろいろとヒドイ流れだったが、それはともかくとして。

 ツインテールの話ができて、ほんとうに楽しかった。はじめてツインテールのことで熱く語り合える相手ができて、心の底から嬉しかった。あの『少女』と、ドラグギルディとツインテールのことで盛り上がって、隣で呆れながらも、愛香が総二たちのことを見て微笑んでいて、そんなふうに過ごせればと考えていけないのか。

「俺は」

「そこまでだ、『テイルレッド』」

 ドラグギルディが掌をむけ、言葉を遮る。さっきのような怒りは感じられず、レッドに言い聞かせるような穏やかな声だった。首を横に振り、どこか寂しそうな、しかし強い決意を感じさせ、彼は言葉を続ける。

「どちらが上の存在か、などと大それたことは言わん。だが、食い食われる連鎖の中、話し合いなどしょせん不可能なのだ。我らは、人の心を喰らうエレメリアン。おぬしたちは、人の心を守るために戦う、人間の戦士。戦う理由など、それだけでよい。それだけで、よいではないか」

「だけどっ」

「我はおぬしたちの属性力(エレメーラ)を喰らいたい、と言ってもか?」

「っ!」

 レッドをまっすぐに見つめるドラグギルディの瞳には、やはり強い意思があった。本気で言っているのだと、総二は直感(ツインテール)で感じ取る。

「わかったであろう。それが我ら、エレメリアンなのだ」

 ドラグギルディは突き放すように、だがどこか優しく言葉を紡ぐ。

「おぬしは、守ると決めたのだろう。ならば、ためらうな。我の屍を越えてみせよ。我を友と呼ぶのなら、それが我に対する友誼(ゆうぎ)の証と思え」

「ドラグギルディ――」

 彼の名を呼び、目を伏せる。拒絶ではなく、彼もまた、総二を友と思ってくれているのだと、不思議と感じた。

 それでも、彼は戦うと決めたのだ。エレメリアンとして。

「そうか」

「そーじ」

「心配すんな、愛香」

 心配そうに呼びかけてきた愛香に、守ると決めた大切な幼馴染みの少女に、優しく微笑んで返す。

 総二も、守るために戦うと決めたのだ。

 守るという言葉で、すべてが許されるなどと思わない。だとしても、大切なものが奪われるのを黙って見ていることを、正しいとは思えなかった。そしてドラグギルディも、そう伝えてきている気がした。

 決意をこめ、ドラグギルディを再び見据える。満足そうに、ドラグギルディが小さく頷いた。

「さあ。存分に仕合おう、『ツインテイルズ』」

 言葉とともに、ドラグギルディが闘気をぶつけてくる。

 恐れはしない。守らなければならないものがあるのだ。そう強く思う。

 ブルーが槍を構え、レッドも同じく手に持った剣を構える。

「勝とう。そーじ」

「ああ、そうだな、愛香」

 憎いわけではない。

 それでも、戦わなければならない。

 生きるために。

 守るために。

「いくぜ」

 レッドの声と同時にブルーが飛び出し、こちらも一拍遅れてそれに続く。

 ドラグギルディは泰然と構え、迎え撃つ。

 それぞれの守るもののために、今度こそ戦いがはじまった。

 




 
表現を変える以外に、ところどころを『俺ツイπ』の台詞に変えてみたり。ほんとうにあれは良コミカライズだったと思います。


いまだに悩むツインテイルズって漢字。
双房隊、双房団、サブタイの双房集、それとも他の何か。
 

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