あたし、ツインテールをまもります。   作:シュイダー

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前回で今年の投稿は終わりだと言ったな?
あれは、嘘だ。

いや時間取れて書き上がったので投稿いたします。
今度こそ今年最後、かなあ。区切り次第では、もう一話いけるかも知れませんが、まあ、あまり期待しないでください。


二〇一六年四月十四日 修正
 


1-12 二人の双房馬鹿 / 赤と青の決意

 総二、――レッドとドラグギルディ、互いの持った剣が打ち合わされ、硬い物同士がぶつかり合う音が響く。剣を受け止められたレッドは着地しながら体勢を立て直すと、再びドラグギルディに斬りかかった。ドラグギルディもさっきと同じく、その攻撃に冷静に対処する。

「そーじっ!」

 心配するなと総二は言ったが、ドラグギルディの強さは計り知れない。テイルギアとやらの性能がどれだけのものかは知らないが、いま打ち合った時も、ドラグギルディにはまったく怯んだ様子がなかった。おそらく、単純な力に限っても、ヤツには届いていない。

 総二を信じていないわけではない。むしろ愛香は、総二の武術の才能は自分以上だと思っている。だがそれは、あくまでも才能の話であって、現時点での武術の腕は愛香の方が上だ。

 いまは手合わせ、いやレッドの実力のほどを見るためか、ドラグギルディが守勢に回っている。しかし攻勢に出たら、あの凄まじい太刀筋をレッドが躱せるかわからない。

 変身を解除し、愛香はいままでつけていたブレスレットに手をかける。アルティメギルの思惑の上で使っていたとはいえ、これまで一緒に戦ってきた、いわば相棒を外すのは多少抵抗があった。だが、いま必要なのは、それ以上に強い力。ためらったのは一瞬だった。

 ブレスレットを外し、先ほどレッドから渡されたテイルブレスを右の手首につけると、これまで変身してきた時と同じように強く念じる。いままで以上の強い光が(ほとばし)り、変身が完了したことを知ると、自分の姿を確認するため躰を見下ろす。

「っ、な、なによ、この恰好」

 戸惑いと恥ずかしさに、思わず声が漏れた。

 手足をまとい、腰にもついている青を基調とした装甲は、これまでのものよりシャープな印象を受ける。これは別にいい。

 躰を覆う青と白のボディスーツが、これまでのものやレッドのものより露出が多く、(へそ)周りが覆われていないが、それもまだいい。問題は胸元のデザインだった。

 まるで胸の谷間を強調するかのような隙間が、胸元にあった。

 自身の小さな胸に強いコンプレックスを持つ愛香としては、あまり歓迎したくない衣装であった。

「なんで、こんな恰好なのよぅ、――――って、そうじゃないでしょっ、あたしっ!」

 張りつめていたものが緩んでいたのか、つい弱々しい声を漏らしてしまうが、総二を助けなきゃいけないのに、こんなことで(くじ)けていられない、と頬を叩いて気合を入れ直す。

 ツインテールも含めて、全体の色合いはいままでと大して変わらないので、これまで通りテイルブルーと名乗ろうと考えながら、剣戟の音が響く方向にむき直る。愛香を巻きこまないためか、それなりに距離が空いていたが、二人の戦いはすぐに確認できた。

「えっ?」

 視界に映った光景に思わず声が漏れ、眼を見張る。

 レッドが、ドラグギルディの剣と真っ向から打ち合っていた。

 視力などもこれまでの装備より強化されているのか、ドラグギルディの躰の動きはさっき以上によく見える。だが、先ほど愛香に振るっていたものより速くしているのだろうその剣は、やはり完全には見切れそうにない。その剣と、レッドは打ち合っていた。

 レッドとドラグギルディは、真っ向から何(ごう)となく打ち合うと、互いに大きく飛び退り、間合いを空けた。

「そーじ!」

 レッドの方にむかって駆ける。これまで以上の脚力だったが予想はしていたため、すぐに適応してスピードを上げる。

 着地して剣を構え直したレッドのそばで立ち止まり、ブルーは喜びと興奮を隠さず声を上げた。

「そーじ、すごいじゃない! あいつと打ち合えるなんて!」

 自分には見切れそうにない攻撃を防ぎ切ったレッドに対し、悔しさも妬みもなかった。自分の予想を上回る大好きな人のすごさに、トキメキだけがあった。

 レッドは一瞬だけブルーの方を見ると、すぐにドラグギルディに視線を戻し、口を開いた。

「ああ、なんとなくだけど、ヤツの剣筋がわかった。いや、感じたって言う方が正しいかもしれない」

「大したものだ、テイルレッドよ。たったこれだけの結び合いで、我の剣を見切るとはな」

 大剣を片手に佇むドラグギルディも、ブルーと同じように称賛の声をかける。なにかに気づいていたらしきレッドが、剣を構えたまま口を開いた。

「ドラグギルディ、おまえの剣は!」

「そう、我が振るうは!」

 確信のこめられたレッドの言葉に、なにを言おうとしているのか察したらしきドラグギルディが、言葉を繋げる。その張り詰めた空気に、ブルーは固唾を呑んで二人の言葉を待った。

 そして、レッドとドラグギルディが、同時に声を上げた。

 

『ツインテールの剣技(けん)!!』

 

「――――は?」

――カラララーッ。

――ネバァーッ。

――モァーッ。

 自分の耳がおかしくなったのだろうか。そう疑いたくなるような言葉がブルーの耳に届き、思わず間の抜けた声を漏らす。どこかでカラスの声が聞こえた気が、いや、鴉はこんな鳴き方しないはずだが、なんとなくカラスという名前が浮かんだ。どうでもいいが。

「テイルレッド、恐るべき戦士よ。我が神速の斬撃、これほどに早く見切ったのは、おぬしがはじめてぞ!」

「見くびるなよ。どんなに速かろうが、心のかたちをなぞられたら見えるに決まってるぜ。俺はいつだって、心にツインテールを想像(うつ)して生きてるんだからな!」

「敵ながら、あっぱれ! さすが、自らツインテールとなるだけの覚悟を持つだけのことはある!」

「っ」

 ドラグギルディの称賛の言葉が終わるあたりで、レッドの表情が一瞬だけ曇ったように見えた。レッドのその反応が気になったものの、理解しきれないヒドイ内容の会話に、ブルーの頭が痛くなる。トキメキを返せなどと言うつもりはまったくないが、もう少し単語と雰囲気を考えてほしい。あらゆる意味でブルーの予想を上回る二人のツインテール馬鹿に、そう思わざるを得なかった。

「フッ。では改めて、とくと味わってみるか! 極めに極めた、我が刃の冴えを!!」

 ドラグギルディが吼えると同時、その足元から轟音が鳴り響き、凄まじい勢いでレッドに近づき斬りかかる。

 いままで以上に、速い。

「うおおおおお!」

 雄叫びを上げながら、レッドはその斬撃と真っ向から打ち合う。無我夢中で剣を振り回しているようにも見えるが、躰への直撃はなく、ギリギリではあるが確実に(さば)いていた。

 再び何(ごう)となく打ち合うと、さっきと同じように大きく距離をとり、ブルーのそばにレッドが着地した。

「ふ、ふふ、はーはっはっはっはっは! 見事だ!」

 ドラグギルディはレッドを追わず、豪快に、(たの)しそうに笑い声を上げると、自身の大剣を肩に担ぎあげ、再びレッドの実力を称賛する言葉を続けた。

「見事なツインテールだ! 敵として出会ったのが実に口惜しい!」

 違った。いま称賛していたのは、ツインテールの方だった。

 先ほどの打ち合いの中でも、ドラグギルディの剣はどんどん速さを上げていったように思えた。それを凌いだレッドもすごいが、それでもドラグギルディの実力は、まだ先があるのではないかと感じる底知れなさがある。

 しかし、それだけの実力を持っているというのに、なぜこんなツインテール馬鹿(変態)なのか。いや、変態だからこそ強いのか。

 戦慄するとともに、一緒に戦う仲間ができたことで心の余裕が生まれたためか、どうでもいいことも考えてしまった。

「それはこっちのセリフだぜ。俺だって、そんなふうに心から笑ってツインテールについて語れるやつが友達にいたら、どれだけよかったか」

 こちらもツインテール馬鹿だった。

 どこか寂しそうなレッドの言葉に引きずられそうになるが、このレベルのツインテール馬鹿が身近に二人以上いたら、頭痛が止まりそうにない。いや、いたらいたで受け入れるが。

「その小さな躰で我の刃を受けきった腕前。舞うように放たれるおぬしの斬撃。そしてなにより、それに合わせ、空を踊るツインテール! このドラグギルディ、戦いの場で美に心奪われたのは久方ぶりのことぞ!」

 ドラグギルディにとっては、自分と真っ向から打ち合ったことよりも、レッドのツインテールの方が気になってしょうがないようであった。

 ほんとうに、なぜこんなにツインテール馬鹿(変態)なのか。

「ううむ。見れば見るほど奥深い。基本に忠実でありながら、それでいて眼を凝らすごとに様変わりする錯覚すら覚える。純粋なるツインテールへの愛で作られた超一流のツインテールとは、これほどのものか」

「歴戦で培われた審美眼ってやつか。その傷だらけの躰ってそういうことだろ?」

 レッドとドラグギルディの会話を聞き、改めてドラグギルディの躰を見てみると、確かにいたるところに傷があった。どれほどの戦いをくぐり抜けてきたのか、その傷がまさに、歴戦の戦士であることを物語っていた。

「傷だらけ、か。フフ」

 レッドの言葉にドラグギルディは小さく笑うと、マントを外してその背中をこちらにむける。

「だが、見よ。このドラグギルディ、背中に傷がないことを誇りとしておる」

「ふん、敵に背中を見せたことがないってやつか」

 ありがちだな、と言わんばかりの反応をレッドが返すが、それは逆に言えば誰ひとりとして正面から挑む以外のことができなかったという、ドラグギルディの強さの表れだ。軽く流していいものではない。

「無論、それもある。だが、それ以上に、いつか出会う至高の幼女に背中を流してもらうために、この背中を守っておる!」

「お前のいままでの戦いって、いったいなんだったんだよ!?」

「知れたことよ。生涯を添い遂げる至高の幼女と出会い、その属性力(エレメーラ)を手にするため!!」

「くそ、なんてやつだ」

 人間とエレメリアンの価値観の違いからくる愛の定義ともども、軽く流していいものではないはずなのだが、致命的に狂った単語のせいでどうでもよくなりそうになるのが、ほんとうにヒドイ。

「愛香、わかったぞ、こいつの強さの秘密が」

「えっ、あ、ごめん、なに?」

 精神的な疲れもあってどうでもいい気分になりつつあったブルーは、レッドの言葉に思わず生返事を返す。

 ブルーの反応にか、レッドは少し不思議そうにしながらも、気を取り直したようにドラグギルディにむかって声を張り上げた。

「ドラグギルディ、おまえは、純粋にツインテール属性だけのエレメリアンなんだな!」

「然り。そして、たったあれだけの結び合いで、おぬしが我の剣を見抜いた所以(ゆえん)もそこにある」

「なに?」

「そう。ツインテール属性は、共鳴し合うものなのだ!」

「共鳴だと!? 俺たちが!?」

「ただの類友だと思うわ、それ」

 なにやら盛り上がるふたりのツインテール馬鹿に、ブルーはため息を吐く。なんだか、ほんとうにどうでもよくなりそうだった。

 

「む?」

 ブルーの姿を見たドラグギルディが訝しむような声を漏らし、なにかを思い出そうとする仕草を見せた。

 続けてレッドの方を見ると、再びブルーに視線を戻す。やがて、納得したかのように頷いた。

「テイルレッドの強さ、もしやと思ったが、いまのテイルブルーの衣を見て確信したぞ。あの世界の戦士の差し金だな?」

「なに、どういうことだ?」

「ふむ、その様子では知らぬと見えるな。テイルブルーには先ほど少々話したが、ある世界に、我と対等に戦ったツインテールの戦士がいた。その、たったひとりで戦いを挑んできた少女が、いまテイルブルーがまとっている物と同じ衣をまとっていたのだ。フフ、その少女は、ツインテールにそぐわぬ下品な乳を携えておったがな」

「同じ衣だと!?」

「下品な乳って」

 ドラグギルディの答えに、レッドは驚きの声を上げ、ブルーは自分の胸元を見て、暗く沈んだ声を漏らす。

「だが皮肉よな。同じ衣をまとう戦士ゆえに、結末も同じとなる」

「なんだとっ!」

 激しい反応を見せるレッドとは対照的に、ドラグギルディは剣と闘気を収め、腕組みをして静かに語りはじめた。

「かつて我らと戦ったツインテールの戦士、そうだな、同じくテイルブルーと呼んでおこうか。彼女もまた、恐るべき強さを持ち、我らの侵攻を妨げ、世界の守護者(ガーディアン)として君臨していた。そう、彼女は確かに強かった。だが結果的に、それが彼女の世界を殺したのだ」

 淡々とドラグギルディは語る。思い出すように、どこか悼むように。

「侵略者を追い払う戦美姫(いくさびき)。彼女は、いつしか世界を上げて讃えられる女神となり、誰しもが彼女のツインテールに魅せられた。そして、ツインテールが世界中に広がった」

「それって」

「そうだ、テイルレッド。この世界と同じだ。ツインテールの戦士、テイルブルーに魅せられてツインテールが広がった、この世界とな。あとは、その広がったツインテールを我らが刈り取るのみ。――――皮肉よな。世界の救世主が、世界の破壊者となるのだから」

「そういうこと、か」

 ドラグギルディの話が終わり、レッドが納得したように呟きを漏らす。

「愛香は、気づいてたのか?」

「――――なんとなくおかしいとは、思ってたわ」

「そうか。――――なら、なんで戦い続けたんだ?」

「おぬしのためであろう」

 疑問というよりも、確認するかのようなレッドの言葉に、ドラグギルディが答える。

「おぬしが真にツインテールを愛するがゆえに、テイルブルーは我らと戦い続けたのであろう」

「そうなのか、愛香?」

「――――違う」

「えっ?」

「なに?」

「違うの。あたしは、そーじに嫌われたくなかったから」

 正直にこのことを話すのは怖い。総二に嫌われてしまったら。それでも、もう総二に嘘を吐きたくなかった。

「ライバルが増えるのも怖かったし、嫌な予感もあったけど、あたしっ」

 総二に嫌われたくなかったから、戦い続けてしまった。結果的にアルティメギルの手助けをしてしまった。

「そう、か」

 ブルーの答えを聞いたレッドは、それだけ言って黙りこんだ。彼女の様子に、ブルーははっとする。いまのような言い方をしたら総二は、また自分自身を責めてしまうのではないか。そんなつもりで言ったのではないのだ。

「そーじ、悪いのは」

「悪い。やっぱり、ずっと気を遣わせっちまってたんだな」

 総二が悪いのではない。そう伝えようとしたところで、レッドはブルーに近づいてくると、ブルーのツインテールをすくい上げ、優しく言葉を紡いでくる。

「そーじ?」

「礼を言うぜ、ドラグギルディ。これでもう、なんの憂いもなくなった」

「むう?」

 レッドの言葉に、ブルーはドラグギルディとともに困惑する。

「こいつらが一斉に奪おうとするってことは、世界に広がっているツインテールは一過性のブームじゃないってことだろ。ツインテールを愛しているからこそ、ツインテール属性が生まれるんだからな」

 不敵な笑みを浮かべ、レッドはさらに言葉を続ける。

「だったら話は簡単だ。ドラグギルディ、ここでおまえを倒して、アルティメギルをぶっ潰せば、世界にツインテールが広がっただけだ。万々歳じゃねえか」

「勝てると、思うのか?」

「勝つさ。俺のために、愛香は辛い気持ちを押し殺して戦ってきてくれたんだ。こんなところで無駄にさせねえよ。絶対にな」

「そーじっ」

 強い意思のこめられた、愛香の気持ちに報いるという総二の言葉。その言葉を聞いて、愛香の心に力が戻ってくる。

 そうだ、負けられない。愛香は改めてそう思う。

「ふ、ははははは! さすが、自らツインテールになるほどの覚悟を持った戦士だ!」

「ドラグギルディ。俺は、そんな大層なやつじゃない」

「なに?」

「この姿になったのは成り行きだ。そんな覚悟なんてものは、俺にはなかった」

 レッドは自嘲するように深くため息を吐き、顔を曇らせる。さっきブルーが一瞬だけ見た、暗く沈んだ表情だった。

「俺は、自分のツインテール馬鹿を疎ましく思ってた。ツインテールを愛していることに関しては、なにひとつ恥じる気はないけどな」

「そーじ?」

「このツインテール馬鹿のせいで俺は、(いま)だに自分の大切な幼馴染みに対する気持ちもわからない。ほんとうに、嫌だった」

「そーじ――」

「おぬし――」

 ずっと悩んでいたのだろう。はっきりとそう感じられる、辛そうな声音だった。

「だけどそれは、さっきまでだ」

「え?」

「む?」

 レッドが、再び不敵な笑みを浮かべて紡いだ言葉に、ブルーはドラグギルディとともに驚きの声を漏らす。

 レッドは、剣を持たない方の手で拳を作り、力強く言葉を紡いでいく。

「俺が、この世界で最強のツインテール属性を持てるほどのツインテール馬鹿だったから、いま、こうして戦うことができる。大切なものを、ツインテールを、そして愛香を守る力を得ることができた。だから」

 剣の切っ先をドラグギルディに突きつけ、総二(レッド)が吼えた。

「俺はもう、自分のツインテール馬鹿を恥とは思わねえ! これからもツインテールを愛し続ける! そしてドラグギルディ、おまえを倒す! アルティメギルもぶっ潰す! 愛香への気持ちの答えも見つける! これでコンプリートだ! 文句あるか!!」

 さっき以上の決意のこめられた総二の宣言に、ドラグギルディが愉しそうに笑った。

「フッ、おぬしの決意、しかと聞いた。だが、先ほどまでの立ち合いでわかった。おぬしの技量では、我には届かぬ」

 強がりでもなんでもないとわかる、自信に満ち溢れたドラグギルディの声。彼はそのまま言葉を続ける。

「おぬしの属性力(エレメーラ)は、確かにすさまじい。しかし悲しいかな、戦いの新参ゆえにか、技量が伴わぬ。我の剣を防ぐことはできても、攻撃の鋭さでテイルブルーに及ばぬおぬしでは、我を捉えることはできぬ」

「つまり、あたしがそーじと一緒に戦えば問題ないってことよね」

「愛香」

「一対一で、なんて恰好つけたこと言わないでよ? あたしたちは、ここで負けるわけにはいかないんだから、ね。――――それに、そーじがあたしのことを守るって言ってくれたみたいに、あたしもそーじのこと、守りたいの」

 こちらをむいてなにかを言おうとしたレッドを遮り、見つめ返しながら自分の気持ちを伝える。ひとりでは、きっと勝てない。けれど、二人なら。

「あたしには、あいつの剣を見切れそうにないから、あたしのこと、守って」

「――――ああ、任せろ。おまえは俺が守る。頼りにしてるぜ、愛香」

「うんっ」

 頷き合い、レッドとともにドラグギルディにむき直る。ドラグギルディは、静かにこちらを見つめていた。

「テイルブルー、おぬしは」

「あんたが言った通り、あたしは自信を持ちきれてない。ツインテールに対しても、そうなんだと思う。だけど」

 ドラグギルディがなにかを言う前に、言葉を紡ぐ。

「だけどっ、そーじはそんなあたしのツインテールを、一番好きだって言ってくれた。そしていまも、あたしを信じてくれた。だから」

 そこで言葉を切ると、頭のリボンのようなパーツを拳で弾く。頭にひとつの銘が浮かんだ。

「ウェイブ・ランス!」

 銘を叫んだと同時、三つ又の槍が手元に現れる。これまで使っていた物よりも力強さを感じるその槍を振り回し、構え、ドラグギルディを見据えて声を上げる。

「だから、ドラグギルディ。あんたを倒すわ。そーじを守るために。そーじと一緒に生きていくために!!」

「おお――っ!」

 ブルーの宣言を聞いたドラグギルディは、なにかに驚いたような声を漏らすと、さっき以上に愉しそうな笑い声を上げはじめた。

「フフフ、ハハハ、ハーハッハッハッハッハ! ――――面白い。ならば、抗ってみせるがいい、テイルブルー、テイルレッド!」

「いちいちそれぞれの名前で呼ばれるのもなんだからな、チーム名で呼んでくれ。いまから俺たちは、二人で一(つい)のツインテール、『ツインテイルズ』だ!」

「また安直ねえ」

 ドラグギルディにむかって、まるで友達に対するように言うレッドの言葉に対し、ブルーは苦笑しながら感想を漏らす。不思議と嬉しい気持ちがあった。

「い、いいだろ、別にっ」

「まあね。じゃあ、ツインテイルズ初の共同作業といきましょうか」

「ああ!」

 恥ずかしそうに言葉を返してくるレッドに、ブルーが笑顔でもって返事をすると、彼女も笑顔で声を上げる。そして再び、ドラグギルディにむき直った。

 ドラグギルディは、強い。たとえ二人がかりでも、勝てるかどうかわからない。

 それでも、負けるとは思わなかった。自分はいま、ひとりではない。

 信じやすくて、騙されやすくて、危なっかしいけど、優しくて熱くて思いやりがあってかっこいい、世界一のツインテール馬鹿(大好きな人)と一緒なのだから。

 ただ、ひとつだけ懸念があった。それは、アルティメギルの増援だ。ブルーとレッドの連携を阻害する存在が現れれば、勝てる可能性はほとんどなくなるだろう。その前に決着をつけなければ。

「いま、この戦場に我ら以外の者が来ることはない」

「は?」

「え?」

 唐突にドラグギルディの口から出た言葉に、ブルーとレッドは揃って声を漏らす。

 いきなりなにを言いだすのだ、とブルーが思ったところで、ドラグギルディが言葉を続けた。

「ツインテールを拡散させる作戦については、幹部以上の者のみが知る秘匿事項。士気に関わるのでな。おぬしたちが口走ってほかの者たちに知られるのは、我としても困る。それに」

 ドラグギルディはそこで言葉を切ると、いままで肩に担いでいた大剣を地面に突き立てた。そのまま挑発するように鼻を鳴らし、言葉を続ける。

「それに、属性力(エレメーラ)は強大でも技量の伴わぬ未熟者と、技量はあっても属性力(エレメーラ)の半端な半人前。二人相手にするには、ちょうどいいハンデよ」

「――――礼は言わないわよ」

「言ったであろう。ちょうどいいハンデだ、とな」

 口では馬鹿にするかのような言葉だが、見下すようには聞こえなかった。むしろ、思う存分戦おう、と言われているような気がした。

 ほんとうに律義なやつだ、と内心苦笑しながらも意識を切り替え、ブルーはいつでも飛び出せる体勢に移る。

 ドラグギルディもまた、地面に突き立てていた大剣を持ち上げ、迎撃の体勢をとった。

 そして、深呼吸をしたレッドが、ドラグギルディにむかって剣を突きつけ、力強い笑みを浮かべた。

「さあ。いくぜ、ドラグ」

 

「はーはっはっはっはっはっは! そこまでです、ドラグギルディ!!」

 

「ギルディ、――――って誰だよおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 レッドの言葉を遮った、空気をぶち壊す笑い声に対し、彼女は山中に響く絶叫を上げた。上げるしか、なかった。

 

 


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