お待たせしました、ファッション痴女さんの登場です。
二〇一六年三月六日 修正
伸ばした手が空を切ったことに気づき、総二は自嘲するように深くため息を吐いた。
自分以外に誰もいないアドレシェンツァの、カウンター席。日曜の昼下がりだが、いつものように、店主である母がどこかに行ってしまったため、閉店となっている。最近は、なぜか客が少しずつ増えてきている気がするが、それはともかくとして今日は休みだった。
愛香がいないのは、いつものこととなってしまった、アルティメギルとの戦いにむかったためだ。それでも、愛香がそばにいないことが、慣れることはない。いや、プライベートならばともかく、大切な女の子をひとり戦わせていることになど、慣れたくはなかった。
愛香の無事を祈りながらも、気持ちが落ち着かず、無意識の内に彼女のツインテールを触ろうとして誰もいない隣に手を伸ばし、空ぶっては我に返ってため息を吐く。愛香がいないときは、それを繰り返してばかりだった。
自分にできることを探したが、現実的なものは思い浮かばなかった。
愛香に気を遣わせないようにこっそりと鍛錬を再開してみたが、師であった愛香の祖父はすでに亡く、できることなど、昔に習った型を反復したり、筋力トレーニングなどがせいぜいであり、そもそも鍛えたところでエレメリアンに通用するのか、という思いもあって、成果は上がらなかった。
なにより、力が欲しいのは、いまなのだ。長い時間をかけて鍛錬をしている暇などない。愛香が苦しい思いをしているのは
それでも結局、戦う力がない自分にできるのは、戦いに行った愛香の無事を祈ることだけだった。愛香を信じて、待つ。それが、自分の戦いだ。しかし、そう思い定めても、心のどこかでそれを認めることができない。そんな自分のことを、女々しいやつと思いながらも、やはり割り切ることはできなかった。
そして、今日はいつも以上に落ち着かなかった。
愛香なら大丈夫だと自分に言い聞かせ、
再びため息を吐いたところで、ふと、あの日のことを思い出す。謎の少女と出会い、アルティメギルが現れ、愛香が変身した、あの日。その、謎の少女がいた店の奥の席に、なんとなく顔をむける。
「――――」
眼が、合った。
いつの間にいたのか、奥の席に、誰かが座っていた。上半身を隠すように新聞紙を拡げているため、姿ははっきりとはわからないが、とにかく人が居た。なぜか新聞紙に穴を空け、そこからこちらを見ている。
新聞紙の穴から覗く瞳と、少しの間見つめ合う。
「よし」
無視しよう。口の中で小さく呟くと、不審人物の見本と言える相手に対し、頭に思い浮かんだ提案になにひとつ抵抗することなく、総二はそう思った。
そこで、またあの日のことを思い出す。あの日も、誰もいなかったはずの店内に、あの『少女』がいたのだ。
まさか、と思った時、その客が新聞紙を
店を出るのか、と思ったが、その少女は総二の方に近づいてくる。まるで、あの日の『少女』のように。いや、こう言ってはなんだが、行動のせいで、あの『少女』よりも怪しいが。
少女が、総二の目の前で立ち止まった。まさか、という思いが、ひょっとしたら、という期待が、総二の胸に湧き上がる。
少女が、口を開いた。
「相席、よろしいですか?」
「――――はい?」
いまは閉店状態で、席はガラガラである。勝手とは思いながらも、いろいろな意味で予想を外され、総二は思わず間の抜けた返事をしてしまう。
見たところ、総二や愛香とそう変わらない年頃だろう。絶世の、とつけてもいいくらいの美少女だ。愛香も美少女と呼んでさしつかえないが、それ以上かもしれない。身長は、愛香と総二の間くらいだった。
そして、愛香とは比べものにならない大きさの胸と、その谷間を強調する薄手の服、まではいいが、なぜか白衣を
碧眼と、真っ先に眼を引くだろう銀髪からして、日本人ではないだろう。まるで、創作の世界でしかお目にかかれないような、神秘的な雰囲気があった。それにしても惜しい、と総二は思う。
この美しい髪なら、さぞかし見事なツインテールになっただろうに。
そこまで考えて、はっと我に返るが、眼が彼女の髪から離れない。一番好きなツインテールは愛香のものだ、と言っておきながら、ほかの女の子の髪に見惚れてしまうなどと自分を叱るが、これだけはどうしても治らないのだ。ほんとうに、生態の域に達していると思わざるを得なかった。
「――――?」
その髪に見惚れていると少女が、ニタリと笑ったように見えた。クスッ、ではない。ニタリ、である。邪悪さを感じるというのは言い過ぎかもしれないが、なにか腹黒いものを感じさせる笑みのように思え、視線が彼女の髪から外れる。
気のせいだとは思うのだが、もう少し危機感を持ちなさい、と愛香からも言われているので、多少警戒することにして、少女に問いかけることにした。
「ええと、俺になにか用、ですか?」
わずかに腰を引いて、心持ち距離をとる。
少女はそれに気づいた様子もなく、あるいは無視しているのか、さらに総二に近づいてくる。
「はい。あなたに、大切な用があって」
「――――大切な用?」
まったく見覚えがない相手なのだが、なんなのだろうか。
「私は、トゥアール、と申します」
「はあ。トゥアール、さん?」
「トゥアール、で結構ですよ。敬語もいりません」
「はあ」
名前からして、やはり外国人なのだろうが、妙に気安い対応をとられ、再び間が抜けた言葉を返す。
少女、トゥアールが笑みを浮かべた。
「ツインテール、お好きですよね」
「大好きです」
どんな時であろうとも、自分の好きなものなら胸を張って主張する。そんな男で在りたい。などというものではなく、条件反射というか
トゥアールが満足そうに頷き、白衣のポケットに手を入れ、なにかを取り出した。
ニパッ、とでも音がつきそうな笑顔を浮かべ、彼女が再び口を開く。
「では、なにも言わずに、このブレスレットをつけてくれませんか?」
「脈絡ないぞ、おいっ!?」
なぜ、あの問答からそんな要求に展開するのか理解、できないわけではないのだが、その直前の、いまいち理解しがたい言動からにじみ出る怪しさも加わり、ツッコミを入れざるを得ない。
「――――」
大きく息を吐いて気を取り直すと、差し出されたブレスレットとやらをまじまじと見つめる。思い出すのは、やはりあの日のこと。あの日、あの少女も、ツインテールは好きか、と聞いてきた。というか、最初にそう聞いてくるかと思ったら、相席よろしいですか、である。予想外にもほどがある。
それはそうとして、いま、世の中には、テイルブルー関連のグッズが現れてきている。テイルブルーの身につけているブレスレットもそのひとつだが、それは蒼色。トゥアールの差し出してきたブレスレットは赤色で、形も細部が異なっていた。
もしかしたら、これを身につければ、変身できるのではないか。ツインテールを、そして愛香を守る力を得ることができるのではないか、という期待に、鼓動が跳ね上がる。
「さあ、つけてください」
そんなふうに思ったりもするのだが、怪しさ満点の言動ばかり行うトゥアールに、警戒レベルを上げざるを得ない。あの少女も得体が知れない相手ではあったが、こちらは得体が知れない以上に怪しすぎである。
再び総二が微妙に距離をとると、トゥアールが、ぽんと手を打った。彼女は朗らかな笑顔を浮かべ、口を開く。
「総二君。私よ、私」
「――――はい?」
さっき以上に気安く、というか、やたらとフレンドリーな口調に変わり、総二はさらに戸惑う。
「私、私、ほら、私よ、トゥアール。実はちょっと困ったことになっちゃって。ねっ、このブレスレット、つ・け・て?」
気のせいか、胸の谷間を強調するように前かがみになり、総二の顔を覗きこむように懇願してくる。最後は
なぜこんな、怪しさ大爆発の行動をとるのか。突然オレオレ詐欺を行ってきたトゥアールに対し、総二の警戒心の上昇はとどまることを知らない。
「っ?」
待て。そこで総二は、ふと気づく。
自分は、名前を教えただろうか。
いや、言った覚えはない。なのになぜ、彼女は総二の名前を知っているのだ。
いよいよ怪しさが核爆発したトゥアールに、総二は傍から見てもわかるような警戒態勢をとった。
「お代はいただきませんから! つけるだけ! つけるだけでいいですから! つけてください! つけてくれないと困ります! なんでしたら、私が、おつけしますから!」
トゥアールの懇願が続けられるが、どうもブレスレットではなく、ナニか別のものに聞こえてしまうのは、気のせいだろうか。
「つけてくれたら、なんでも言うこと聞きますから!」
「えっ?」
悲痛な――どこか嬉しそうというか、ノリノリに見えるが――トゥアールの言葉に、警戒していたはずの総二の心が揺さぶられた。
男の
「な、なんでもっ?」
「はい!」
揺れる、きれいな銀色の髪に眼が吸い寄せられ、聞き返すと、はっきりとした返事をされ、ひとつの思考に支配される。
この美しい銀髪がツインテールになれば、どれほど自分の眼を潤してくれることだろう。
そう考えたところで、愛香の姿が頭に浮かぶ。
いや、浮気じゃないぞ、愛香。俺はただ、美しいツインテールを見たいだけだ。絶対に浮気じゃないからな。
心の中で愛香にそう釈明しながら、総二は思わず前のめりになる。
「私になにをしても構いませんっ。王道でも、ちょっと特殊な感じでもっ。むしろ特殊なこと、大・歓・迎ですっ!!」
「――――」
言葉のあと、顔を赤くしながらハァハァと息を荒らげはじめるトゥアールに、先ほど揺れた総二の心と、前のめりになっていた躰が静かに、しかし即座に戻る。
言葉は、理解できる。
思考が、まったく理解できない。というか、この娘、むしろ怖い。
「大丈夫ですから! ちょおーっと前金代わりに、この辺を両手でガバーっとどうぞ! ささっ、驚きのふんわり感ですよ!!」
「ちょっ、ストップ、ストップ!」
もはや、怪しさが超新星爆発を起こすほどに高まったトゥアールが、その大きな胸を突き出し、両手で掴むようにして総二にのしかかってくる。慌てて押し返したところで、トゥアールが叫びを上げた。
「っていうか、これをつけなければ、世界中からツインテールが消えてなくなってしまいますっ!!」
「ちょっ、ちょっと待ったっ! 愛、じゃなくって、テイルブルーがいるのにっ」
「ですから、そのテイルブルーが負けると言ってるんですっ!!」
「っ!?」
愛香の名前を言いかけてなんとか訂正し、反論しようとしたところで、遮ってきたその言葉の内容に総二は絶句する。
愛香が、負ける。その言葉に一瞬呆然とし、はっと我に返る。
「ど、どういうことだよ!?」
「えいっ」
「あっ」
慌てて詰め寄ったところで、トゥアールに腕を抱えこまれ、そのまま右の手首にブレスレットを押し当てられる。ふうっと
「よかった。これなら、間に合うはず」
「――――」
身動きが、とれなかった。腕を包む柔らかい感触に、総二の顔が熱くなってくる。
総二は、性欲がツインテールへの愛に転化されていると言ってもいいほどだったが、愛香への意識の変化などから、最近はイロイロな知識を勉強している。それもあって、愛香と触れ合っている時などは、その知識に振り回されてしまうこともあった。それに、羞恥心はもともと人並みにある。
要するに総二はいま、その胸の感触にとても
すまん。すまん、愛香。
妙な罪悪感に駆られ、心の中で愛香に謝ったところで、トゥアールが総二の腕を離した。彼女は再び白衣のポケットから、なにかを取り出す。
そのトゥアールを横目に、総二は右の手首につけられた赤いブレスレットを、改めてじっくりと見る。やはり、愛香の物に似ているが、違う物だ。繋ぎ目がなく、なにか不思議な力で固定されているのか、引っ張ってもびくともしない。
トゥアールの方に顔をむけた瞬間、あの日と同じ閃光が、視界を包んだ。
視界がもとに戻ると、総二が予想していた通り、店内ではなかった。緑に囲まれ、木々があり、人工物らしき物はまったく見当たらない。どうやら、人里離れた山奥のようだった。
そこまで把握すると、トゥアールの方に顔をむける。
彼女が再び手元のなにかを操作すると、宙に画面が現れた。
「っ、まずいっ」
「っ!?」
画面に映った映像に、トゥアールが焦りの声を上げ、総二は言葉を失い、呆然とする。
画面に映し出されていたのは、アルティメギルが宣戦布告を行った時に見た、黒い、竜を思わせるエレメリアンと、ボロボロになったテイルブルー、――愛香の姿だった。
「――――愛香っ!!」
傷ついた愛香の姿に総二が思わず叫びを上げると、肩に柔らかみのある感触が置かれる。トゥアールの手だった。
真剣な表情で、彼女が口を開く
「もはや、一刻の猶予もありません。総二様、いまは行動しましょう」
「っ。ああ」
トゥアールのその言葉になんとか動揺を鎮め、頷き返す。
再び真剣な顔で、トゥアールが口を開いた。
「では、まずは私の服を脱がせてください。っていうか破ってください。――――あ、そうだ。こう、私の両腕を頭の上で押さえつけて、総二様は、こう、片手で。で、もう一方の手でブラをむしり取って」
「おうっ! ――――ってなんでだああああああああーーーーーーーっ!!」
あまりにも自然に言い出してきたため、一瞬ほんとうにやりそうになったが、ジェスチャーまで交えてとんでもないことを言い出すトゥアールに、総二は全力でツッコミを入れ、彼女の肩を掴んだ。
「早くこれの使い方をっ」
トゥアールの肩を掴み、ブレスレットに眼をむけながらそこまで言ったところで、ふと思い浮かんだことに言葉が止まる。ほんとうにそれが、使うために必要なことだったら、どうすればいい。そういったことをするのは、いや、自分がそういうことをしたいのは、愛香だけだ。乱暴なことはしたくないが、いずれやるかもしれないプレイのひとつ、いや、そうではない。いまはそんなことを考えている場合ではない。だが、愛香を助けるためには。
「すいません、確かにいまは時間がありませんね。
「さっきの行動どんな
「このブレスレット、テイルブレスによって生成される戦闘用スーツ、テイルギアは、身体能力を大幅に強化します。そのスペックは、いま愛香さんがつけている物とは比べものになりません。さらには、精神力によりその出力が増減するため、気力を
いままでの人生で出したことがない全力のツッコミを、二連続で行ったことにより肩で息をする総二に、トゥアールが力強く説明をしてくる。その言葉に無理やり気を取り直し、少し気になったことを聞く。ツインテールが好きかと聞いてきたことから、そうなのだろうとは思うが、一応の確認である。
「――――わかった。それで、これもツインテール属性で動くのか?」
「はい。それに、総二様のツインテール属性は、テイルブルーである愛香さん以上の強さ。この世界における最強のものです。さっきも言ったように気力が、そしてツインテールへの愛が高まれば、さらに出力は強化されます!」
「そうか。――――よしっ!」
ブレスレット、テイルブレスをつけた右手を胸の前に構え、強く念じる。
ツインテールを、そして、誰よりも大切な幼馴染み、愛香を守るための力を、俺に与えてくれ。
そして、愛香が変身したあの時のように、いや、あの時以上の光が、テイルブレスから
光が収まり、総二は自分の姿を確認するため、まず、手を見た。
違和感が、あった。
赤と白を基調としているが、テイルブルーのような機械的な装甲が、手をまとっている。だが、問題はそこではない。
小さい。自分の手は、こんなに小さくなかったはずだ。
嫌な予感に駆られ、下を見る。
やはり、テイルブルーと似た、レオタードのようなボディスーツに、手甲と同じ色合いの装甲が、腰や足をまとっている。違和感が、ますます強くなった。
胸は常の通り平坦なものだが、問題は、その下だ。小さい、というか、股間に盛り上がりがない。手で触ってみても、引っかかるものはない。男の象徴である大切な相棒は、どこに行ってしまったのだ。
嫌な予感が、さらに強くなる。
手を、頭の方に持っていく。頭の横で、なにかに触れた。
ツインテール、だった。グローブ越しにも伝わるその見事な感触に一瞬我を忘れかけ、頭に浮かんだ疑問に躰が硬直する。
なぜ自分の頭に、ツインテールがあるのだ。
「総二様、こちらを、ご覧になってください」
声にふりむくと、店で見せた以上に顔を赤くしてハァハァと息を荒らげるトゥアールから、どこからか取り出したのか手鏡を渡される。そのトゥアールの顔の位置も、さっきまでより高い位置にあり、見上げるかたちになっていた。
とてつもなく、嫌な予感がした。
恐る恐る手鏡を覗きこむと、赤く長い髪の、可愛らしいツインテールの幼い女の子の顔が、見えた。手を上げてツインテールを触ると、鏡の中の少女も同じようにツインテールを触る。顔を引きつらせると、やはり少女も顔を引きつらせる。
「お、おっ」
自分の声とは思えない、甲高い声。もはや、疑うべくもない。
「女になってるじゃねーかあああああああーーーーーーっ!?」
幼い少女の叫びが、山中に響いた。
「あぁ――――」
あまりものショックに総二は膝から崩れ落ち、地面に手を突いてうなだれた。ツインテールが地面についてしまうことを頭の冷静な部分が指摘するが、躰が動いてくれない。それほどまでに打ちのめされていた。
これは、罰なのか。あまりにもツインテールツインテールとうるさかったために、そんなにツインテールが好きなら、いっそツインテールになってしまうがいい、とビババな光線を慈悲深き元神から浴びせられてしまったのか、などとわけのわからないことが頭をよぎる。
どうすんだよ、女になっちまって。戻れるんだろうな。戻れなかったらどうすんだ。愛香を連れて、女同士でも結婚できる国に行くしかないのか。いや、愛香はこんなんなっちまった俺のことを受け入れてくれるのか。いや、そもそも――――。
頭を埋め尽くすのは、愛香のことだった。女の子になってしまった自分を、愛香が受け入れてくれるのか。それが問題だった。
おまえ、もうそれ恋愛感情でいいよ、とどこからか聞こえた気がしたが、それに反応する前にトゥアールの声が届く。
「ああ、すてきです、総二様っ。うへへへ、大・成・功っ!」
「おおーーーーいっ!!」
立ち上がり、トゥアールにむかって叫ぶ。
首につけたチョーカーにかかるほどに
「どういうことだ、トゥアールッ。なんで俺は、女になっちまったんだっ!?」
「総二様」
総二の叫びに、トゥアールは瞳を閉じると自身の胸に掌を当て、静かに答えはじめる。
「総二様。大きな力を手に入れるためには、それ相応の代償が必要となるものです。その覚悟が、そしてそれを乗り越える意思こそが、人を強くするんです」
「っ!」
いま大切なのは、ツインテールを、そして、愛香を守ることだ。女の子になってしまったことを気にしている場合では、ない。
絶対に、守る。そう考え、拳を握りしめる。
「そう、だな。トゥアールの」
「うへへ、幼女かわいいよ、幼女」
「言うと、おおおーーーーーい!?」
気持ちを切り替え、トゥアールの言葉に肯こうとしたところで、彼女の口から飛び出すスルーしきれない発言に、総二は再び叫びを上げる。
トゥアールは真剣な表情――なぜかキリッという音が聞こえた気がした――になり、再び口を開いた。涎は未だに口元についたままだが。
「毒を以て毒を制す、と言います。敵が変態である以上、戦う者もある程度HENTAIさんでなければ、太刀打ちできませんっ!!」
「HENTAIって言うなああああああーーーーーーっ!!」
日頃から気にしている自分のツインテール馬鹿を指摘されたように感じ、総二は再び山中に響く絶叫を上げた。
『そうか。――――そう、だな。おぬしはそういう娘だ』
「はっ!?」
映像から聞こえるエレメリアンの声に、総二の意識が引き戻される。
見ると、アホな漫才をやっている間に、愛香がトドメを刺されそうな雰囲気になっていた。
まずい。総二は慌ててトゥアールにむき直る。
「トゥアール、俺はどっちの方向に行けばいいんだ!? あと、このテイルギアで気をつけておくことはないか!?」
「むかう方向は、いまそちらにお送りしました! 基本的な使い方は、愛香さんのものとさほど変わらないはずです! また、機能の説明は脳内に直接行われます! そしてなによりも、意思を強く持つことです! テイルギアは、精神から生まれる武装! 意思で御せない道理はありません!」
「わかった!」
「そして、これを!」
納得の返事を行った総二に、トゥアールが言葉とともに青いブレスレットを差し出してくる。
「これもテイルブレスです! 愛香さんなら扱えるはず! 渡してあげてください!」
「おうっ!!」
返事をするとともにテイルブレスを受け取り、反応のある方にむかって力いっぱい跳躍する。
「うおっ!?」
予想していた以上に高く、速く跳び上がったことで焦るが、トゥアールの言葉をすぐに思い出し、意思を強く持って、自分の動きをイメージする。
着地し、再び跳び上がる。さっき以上に高く、速いが、今度は動揺はない。いや、もっと高く、もっと速く。
愛香のもとに急ぎながら、自分の動きとテイルギアの機能を、可能な限り確認する。
――――愛香、待ってろ。すぐに俺が行く。もう、おまえだけを戦わせねえ!!
戦場にむかって、さらに速く、高く跳ぶ。
世界のためではない。ツインテールを、そして、愛香を守るために。
「っ!」
見えた。愛香の目の前で、エレメリアンが剣を振り上げていた。その体勢で固まっているように見えるエレメリアンのことが少し気にかかったが、その眼で直接見る、傷ついた愛香の姿に、総二の頭がカッとなった。
「待ちやがれえええええええええええーーーっ!!」
声も
「むうっ!?」
跳躍の勢いのまま、総二は蹴りの体勢でエレメリアンに突っこむ。声か、それとも気配かは知らないが、エレメリアンはそれを正確に察知して片腕で受け止める。とはいえ、それは別にどうでもいい。ダメージを与えるのが目的ではないのだ。
着地すると、すぐに愛香へ近づき、彼女を横抱きにしてエレメリアンと距離を離す。いつか愛香にしようと考えていたお姫様抱っこを、こんなかたちでやることになるとは思っていなかったが。
愛香の顔を視線だけで見ると、彼女は困惑に満ちた表情を浮かべていた。こんな姿になっているのだから、当然であるが。とにかく、ギアはボロボロであるが怪我はないようで、総二はホッと安堵の息を吐く。
「おおっ、なんと見事なツインテールをした幼女だ! テイルブルーのものに勝るとも劣らん! おぬし、何者だ!」
感嘆するような声のあとに続けられたエレメリアンの言葉を聞いて、今度はそちらに視線をむける。不思議とどこかで会ったような気がするが、いまは置いておく。
「俺か? いいぜ、知りたきゃ教えてやる」
この姿で愛香と、――テイルブルーとともに戦うのだ。名前など、決まっている。
「俺は、テイルブルーとともに在る、ツインテールのもう
不謹慎かもしれないが、思わず笑みが浮かんでしまう。自分の無力さが嫌だった。いまは、違う。戦うための、大切なものを守るための力がある。
鋭くエレメリアンを睨みつけ、相手に、いや、世界に吼える。
「テイルレッドだ!!」
やっぱりトゥアールが出ると雰囲気がいろいろ変わるなー、というか、ドラグギルディとの関係が少し変わっているため余計にそう感じたり。
『BLACK RX』で体を鍛えるんじゃなくて超能力を発現させようとして特訓した女の子がいましたが、エレメーラってそんな感じ。実際に超能力発現させたあの子はすごすぎ。
以下補足です。あとの方に加筆。
補足って言うか、まあ原作通りなんですけどね、トゥアール。
頭脳明晰、思いやりもあって、心が強く、痴女はファッションで実は乙女。
これで終われば完璧なのに、変態でロリコン。
さらには、フォクスギルディ戦とかトイレとかで総二がやばいって時に欲望優先する人ですし。
少し変えることも考えましたが、彼女のシリアス強くすると雰囲気がまじめ一辺倒になりかねないので。