やまと復活 鬼神の護衛艦   作:佐藤五十六

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第62話

日本政府side

「きっちり殺りましたね?」

そう聞いているのは、直木総理である。

「はい、きっちり殺りました。

それで隊員が海軍作戦部長を合法的にボコボコにするために、ピストルを買ったのですが、それを必要経費として処理してほしいそうです。」

海上幕僚長が真顔で告げる。

ようは武器を持っていたという事実があれば、フルボッコにしても特に問題となることは無い。

「そのくらいなら、官房機密費から出しましょう。

でどのくらいの怪我を負わせたのかね?」

頷いた官房長官が尋ねる。

「大体、感触から全治一ヶ月といったところだと、報告を受けています。」

海上幕僚長が手元の資料を見ながら答える。

「情報本部の根回しのおかげで、特に問題は起こりませんでした。」

情報本部の対米諜報網は連邦捜査局(FBI)と仲の良いことは知られていない。

そのルートからの手回しのおかげで、この作戦における米国の協力を仰ぐことができた。

「愉快ですね。

やまと乗員の味わった苦痛からすれば、この程度でも甘いのです。」

「ですな。

悪因悪果、天網恢恢 、アメリカ人もその意味を知ってくれればいいんですがね。

それを期待できるほど奴らは賢くない。」

総理の言葉に繋ぐように官房長官は言う。

1941年に太平洋戦争を引き起こさせたように、2003年にはイラク戦争を引き起こした。

この戦争で米国は撤退するまでに、一説によると12000人が戦死して27000人が負傷したという。

さらには戦費として日本円にして、580兆円を拠出したという。

膨大な犠牲を払っても勝利できた太平洋戦争とは違い、どんな犠牲を払っても敗北だったイラク戦争では何も得るものが無い。

失ったものの方がはるかに多かったのである。

「来年度予算における在日米軍駐留経費の一部(思いやり予算)に関しては、全面的に凍結する予定です。

そのすべてを、紛争復興予算として再計上します。

あとは、ケインズ准将の再雇用ですね。」

総理は言った。

「そうですが、それは本人の意思次第だと思われます。」

海上幕僚長はそう言った。

なぜなら、軍隊における抗命は極刑に処されることもあるのである。

だが少なくとも、銃殺ということにはならないだろう。

不名誉除隊という形で処分されるはずだ。

日本のために戦ってくれたのだから、何か恩返しがしたいと思うのが人と言うものだ。

「航空自衛隊南西方面混成航空団司令の椅子を用意しています。

断られても、謝礼はどうにかして受け取ってもらいます。」

航空幕僚長が断言する。

それを見て、総理は大きく頷く。

「在日米軍撤退なんてことになると思いますか?」

この国家安全保障会議(NSC)は在日米軍撤退の可能性とその後の安全保障に関してだった。

官房長官は、この議題にイマイチピンと来ないようだ。

「この紛争を終わらせるのに、米軍が必要でしたか?

むしろ、我々の加担する必要の無い戦争にまで巻き込まれます。

対岸の火事は近ければ、何かしらの行動を起こす必要があります。

しかし、遠ければ物見遊山決め込めばよろしい。

牙は必要以上に見せびらかすものではありません。」

総理はそう言う。

これでも政権与党内では生粋のタカ派として知られているのである。

「米国は巨額の財政赤字を抱えていますからね。

削れるところはすぐに削るでしょうな。」

外務大臣は頷く。

「冷戦は終わった。

核抑止力に依存した平和など、とうの昔に崩壊しておる。

今の現代において、非対称戦が中心となっている。

この戦闘においては、米ソ両国の得意な物量攻撃が意味をなさないことは有名だ。」

国土交通大臣の言葉である。

これでも大学の時に、国際関係学について学んだという大臣の目は、今も慧眼であった。

「予算にゆとりが出れば、自衛隊の定員増を認めても良いかも知れんな。

非対称戦の主役となる陸上自衛隊普通科の方からはつねに人が足りないと言われていますからね。」

防衛大臣もそう言う。

しかし、ここにいる全員が感じている危機感を他の政治家は持ち合わせてはいないのだ。

「国を守るのは法律などではなく、人の意識そして努力であることに気付かないのかな。」

そうつぶやくのは、この紛争で部下をたくさん失った統合幕僚会議議長である。

日本政府side out

 


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