やまと復活 鬼神の護衛艦   作:佐藤五十六

63 / 74
第60話

やまとside

H-6の特攻のあと、上条は艦橋から戦闘情報センター(CIC)に移っていた。

応急運転(ダメコン)室。

今、現在の死傷者の数は?」

「死者、14名。

負傷者、38名です。」

「火災はまだ消火できないのか?」

「現在も行っています。」

上条も部下を信頼していないわけではない。

むしろ優秀なくらいである。

そんな彼らがここまでてこずっている場面を見たことがなかったからこそ、この状況が信じられないのである。

9tの爆弾それにH-6の機体が爆発した衝撃は艦内各部を破壊していた。

「右舷での浸水も確認されています。

排水もしていますが、間に合いません。

右舷への傾斜、15度。」

やまとは現在、大きく傾いていた。

乗員は何かに掴まりながら、各自の仕事を継続していた。

「最悪の場合も想定せねばならないか。

出来るならしたくはないが。」

そう言って、マイクを取り上げようとした上条を、砲雷長が制止する。

「我々を信じてください。

それは、最後の手段です。」

「分かった。

それにしても、注排水機能が廃止されたのは、きついな。」

建造された当初の大和型戦艦には、注排水機能があり、釣り合いを取ることができた。

しかし、それは2006年の大改装のおり、廃止されている。

「そういえば、護衛はきっちりしてもらってるんだろうな?

今のままだと、次の攻撃で沈むぞ。」

「それはもう完全に、がっちり周りを固めてます。」

第二護衛隊群司令部は大和が特攻を受けた事実を重く見て、すぐさまやまとを中心とした輪形陣に組み直した。

「Link16復旧しました。

戦術単位としての第二護衛隊群を確認。

上空に、中華民国空軍のF-16を確認しました。

第一、第四の各護衛隊群を確認。

こちらに合流する模様。

あとは、航空自衛隊のF-15がスクランブルしました。

これもこちらに合流する模様。

それとは別に、台湾海軍の艦隊がこちらに来てます。

Link16を切ってませんから、攻撃意図があるわけではないようです。」

「分かった。

次は無いだろうが、一応、再度の攻撃に備えよ。」

やまとside out

 

中華民国空軍第401戦術戦闘機連隊第17中隊side

日本艦隊の無事を確認したあと、引き返して捜索を行っても、H-6は見つからなかった。

そこで、日本艦隊の上空に戻るとそこには一隻の炎上している軍艦があった。

「何がどうなっているんだ?」

といいつつも、旋回しながら確認して気づいた。

H-6が突っ込んだのでは無いかと。

「ペキン・コントロール。

こちら、シルバー1。

任務失敗(ミッション・フェイリャ)

やまとは炎上している。

繰り返す、やまとは炎上している。

なお、周辺空域に、H-6の影は無し。」

「了解した。

貴隊は、航空自衛隊F-15の合流まで上空援護に付け。」

「了解。」

中華民国空軍第401戦術戦闘機連隊第17中隊side out

 

日本政府side

「やまとが大破、炎上?」

直木総理は、その報告を国会で聞いた。

国会は通常国会の会期中であり、日中紛争の勃発の報告と、それの終結の報告を行うためだ。

「その通りです。

しかも、この情報は現地に展開している第二護衛隊群司令部よりの報告であります。」

海上幕僚長の言葉は、これが真実であることを保障するものであった。

「中華民国外交部に問い合わせたところ、中華民国の指揮を良しとしない空軍将官がおり、その一人の暴走という回答がありました。」

「では聞くが、海幕長、空幕長。

たった一人が、国の財産たる空軍の航空機を掠め取れるのか?」

「通常は不可能でしょう。

ただ、中華民国政府が人民解放軍をどこまで支配下に置けているのか、そこが問題かと思われます。」

「あとの可能性としては、何処かの機関の支援を受けていたかですね。」

「となると、候補の筆頭は米国かな?」

総理の確認に、自衛官は頷く。

「じゃあ、彼らには釘をささねばなりませんねぇ。

我々としても、容赦するつもりはありません。

必要すらも感じません。

自衛隊の最高指揮官として命じます。

自衛隊の総力をあげて、今回の件の首謀者を表舞台に引きずり出しなさい。」

「了解。」

そう言うと、総理は本会議場へ消えていった。

日本政府side out

 

真の首謀者side

「スターク大将やりました。

オペレーション・シンメトリー、無事終了しました。」

海軍情報部所属の海軍将校が報告した。

場所は、ワシントン.D.C郊外にある海軍が保有している一軒家、所謂セーフハウスというやつである。

「そうか、でやまとはどうなったのだ?」

「海上自衛隊内に確保したモールによると、大破炎上中とのことであります。」

「私の海軍作戦部長(CNO)としての仕事も終わりだな。」

米海軍作戦部長、スターク大将、読者の皆さんもご存知だろう。

物語の最初の方で、大和を沈めようとして失敗した御仁である。

それでもなお、諦めていないのだから恐れ入る。

「流石に日本は同盟国だ。

第二次世界大戦の時のようにはいくまい。」

「となると、秘密作戦しかないのですね。

運よく紛争が起こってくれて助かりました。

とにかく、ウ゛ァージニアが失敗に終わったからこそ、第二段階(セカンドフェーズ)へ移行できました。」

「コリンズ大尉はこの紛争が偶然だと思っていたのか?」

「えッ、違うんですか?」

海軍情報部の将校は驚いた。

「中国の中央軍事委員会には、多数のCIAの中国人エージェントが潜入している。

彼らを使えば、中央軍事委員会の結論を歪ませる事など容易い。

1940年代にスターリンが我が国にしかけた政治工作と同じ事だよ。」

「なるほど、それで都合よく紛争が起こったわけですか?」

「そうだ。

一度火が付いてしまえば、中国と日本、どちらが潰れても構わない。

共倒れが一番だがね。

そこを我々が取り込むという寸法だよ。」

真の首謀者side out

 

情報本部対米情報課side

総理からの命令が伝わった防衛省情報本部では、すべての部署が忙しくなった。

ここは、アメリカの諜報網を管理している部門である。

ここでは主に、米国内における政治と軍事についての情報を収集している。

こう言った情報収集は通常、外務省の人間が行うべき事であり、直木総理も渋々外務省にやらせていたものの、大した情報も集められなかったために防衛省に移管された。

その時に、外務省内の優秀な人材も引き抜いたのは、あとの話である。

「ハンティントンの"文明の衝突"という論文を知っているか?」

外務省出身の分析官が部下に聞く。

この男は、有名私立大学の社会学部を卒業して、外務省に一般職員として採用され、駐米日本大使館に配属された。

そこで、組織の裏と表を見て、ほとほと嫌気がさしていたそうだ。

だから防衛省から引き抜きの話が来たときに飛びついたという。

「高校のころに、サラッと習ったくらいで覚えてないんですよ。

それがどうしたんですか?」

「それはな、確か米国の戦争戦略に関する論文だったんだが、21世紀の米国の戦争戦略は異文化間によるものと定義されているんだ。

どういうことか理解できるか?」

そのことを聞かれた部下は、首を横に振る。

「要するに、自分たちと違う文化は認めない。

そう言う狭量な戦略へと転がっていくというわけだ。

元々、アメリカ人はそう言う部分に狭量というか自己中心的なところがあるからな。

2003年のイラク戦争しかりだよ。

日本人とは大違いだ。」

そう言うと、その分析官は現地からの報告を、読みはじめた。

「現地からの情報によると、やっぱり海軍作戦部長が暗躍していたらしい。

それにしても、何処に入ったらここまでの情報が集められるのやら。」

情報本部の知らないところで、現地の工作責任者(スパイマスター)達は、連邦捜査局(FBI)と協定を結んでいたらしい。

連邦捜査局(FBI)側も、日本政府の諜報網が技術情報が目的でないことを重々承知している。

なにせ彼ら連邦捜査局(FBI)は、中央情報局(CIA)とは仲が悪い。

しかも、中央情報局(CIA)の人間は憲法の規定により国内で活動できない。

連邦捜査局の人間も自分たちの優位のために、借りを作りたくはない。

対外的な情報について不足する分については、日本の情報本部から得ていたのだ。

だからこそ、連邦捜査局(FBI)の黙認のもと、互いに互いの情報を利用しあっているのだ。

今かれらが見ている情報は、ほとんどの部分が連邦捜査局(FBI)の情報が元となっていた。

「おいおい、交通監視システムの情報なんて連邦捜査局(FBI)しか手に入らないんじゃないか。」

そう言いつつも、顔は嬉しそうだ。

「至急報告書にまとめる必要があるな。」

情報本部対米情報課side out

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。