やまと復活 鬼神の護衛艦   作:佐藤五十六

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第59話

やまとside

昼の激戦を超え、今はもう夜である。

「平和ですねぇ。

艦長、もう出て来ていいんですか?」

「阿呆、まだ艦長じゃない、代理だ。

あと、まだ気を抜くな。

と言いたいところだが、あらかた戦闘は終わったんで風に当たりに来たんだよ。

戦闘情報センター(CIC)はなぁ、空気はこもる、湿気もこもる、熱もこもるで過ごしづらいんだよ。

何か悪いか?」

「いえ、そんなことは言ってないですけど。

それにしても、曇ってるんですかね。」

空を見上げた航海長はつぶやいた。

見上げた先にある、どんよりとした雲のようなものに覆われた空は、暗く一片の光すらも届かない。

「いや違う。

あれは、スモッグだ。

海の方に流れて来たのか。」

「スモッグですか?」

「ああ、どちらにしても希望はあるよ。

この国の人々が諦めない限りは。」

「そうですね。

パンドラの箱の話のように、途中で諦めたりしないで欲しいですね。

そうすれば、また、いつか綺麗な星空を眺めることが出来るでしょうか。」

「出来るよ、この国の人たちならな。」

「艦長、第二護衛隊群司令部より緊急通報です。

読み上げます。

緊急事態発生(エマージェンシーコール)とのことです。」

やまとside out

 

反逆者side

「許さんぞ、日本人。」

中国空軍採用の重爆撃機であるH-6に乗り込んでいるのは、空軍中将の男であった。

だが、この男が許さないと思っているのは、自分の部下を殺したことにではない。

そんなこと、豆粒ほどにも思っていない。

自らの出世の道を叩き潰したことにである。

どんな組織にもいる無能でかつ自分の出世にしか興味の無い阿呆である。

そう言う男ほど、いつもは威張り散らすくせに、いざとなると逃げ出すのである。

この男は、遂に人生からも逃げだそうと言うのだ。

この男の乗ったH-6はやまと目掛けて飛んでいく。

反逆者side out

 

護衛艦"いせ"搭載哨戒ヘリside

停戦命令受領後も、第二護衛隊群は間断なく警戒を続けていた。

その一つが、SH-60J/Kにより昼夜問わず行われる警戒飛行であった。

「対水上レーダーに反応。

これは、大型の航空機です。」

対空レーダーでなくとも状況と条件によっては対空目標を捕捉できる時がある。

今回はその条件をクリアしていた。

だからこそSH-60Kの搭載している対水上レーダーでも確認できたのだ。

しかし、そんなことはめったに起こらない。

だから機長自身も半信半疑であった。

それでも、同じ海上自衛官として、乗り込んでいるものがヘリもしくは護衛艦との違いはあっても、自らが乗っているものを失うのは悲しいのである。

「警報発令。

緊急事態発生(エマージェンシーコール)を通報。

急げ。」

機長は決断した。

これから起こることに対して、機長に責任は及ばない。

「これより、本機は目標に肉薄。

ミサイル戦を挑む。

91式携帯地対空誘導弾 (スティンガー)発射用意。」

「えッ、 91式携帯地対空誘導弾(スティンガー)ですか? 」

「その通りだ。

できる限り、本機で足止めする。

撃墜、撃破できれば良し。

できなくとも、時間を稼ぐ。」

「了解。

ソナー員、手伝ってくれ。」

機長の命令を受けた戦術航空士(TACCO)はソナー員と二人がかりで、 91式携帯地対空誘導弾を準備する。

「発射用意良し。

いつでも撃てます。」

「もうすぐ射程圏内に入る。

入ったら、91式携帯地対空誘導弾(スティンガー)を容赦なくぶっ放せ。」

海面高度を飛ぶH-6には、SH-60Kでも最大速度で飛べば、追いつける。

それでも固定翼機に回転翼機が接敵できる時間も限られている。

命中までは期待できないのである。

目標捕捉(ターゲット・マーク)

撃て。」

戦術航空士(TACCO)の声が乗員の耳に届いた瞬間、耳をつんざめくような音とともにミサイルが飛び出す。

白い煙の尾を引いたミサイルはそのまま、H-6の右主翼付近で近接信管が作動、破片を撒き散らした。

無論、無数の破片を受けてH-6の主翼には穴が開いた。

それでも、飛行には支障がない、そう判断できる。

だいたい、こういった 携帯式地対空誘導弾は固定翼機に対して使用するものではない。

だからこそ、命中しても致命傷にはなり得ないのだ。

「ちっ、外した。

急げ、次を撃つ。」

戦術航空士(TACCO)は機内に戻ると、新しい 91式携帯地対空誘導弾を取り出した。

改めて機体から身を乗り出すと、すぐにぶっ放す。

今度のミサイルは真っ直ぐ胴体に飛ぶ。

「当たってくれ。

頼む。」

戦術航空士(TACCO)が祈る。

今度は、きちんと胴体に命中する。

胴体から煙や炎の混ざったものを吐き出しながら、H-6はそれでも飛んでいく。

とてつもない執念に、SH-60Kの乗員がたじろぐ。

「これ以上は限界だ。

これより離脱する。」

護衛艦"いせ"搭載哨戒ヘリside out

 

中華民国空軍第401戦術戦闘機連隊第17中隊side

「スクランブル。

我が国の指揮下から離脱したH-6爆撃機が、沖合の日本艦隊へ進行中。

これを至急要撃せよ。

必要ならば攻撃して構わん。

以上。」

北京の 北京首都国際空港に総統の乗った航空機とともに、到着後そのまま待機していたのだが、これが早速転用された。

待機していた4機は離陸すると、管制塔と連絡を取る。

「了解。

目標の座標はどこだ?」

「不明、なれども日本艦隊に向かっているのは間違いない。」

「分かった。

日本艦隊上空に向かう。」

「了解した。」

4機のF-16は、北京沖合にいるはずの日本艦隊に向かって飛んでいく。

レーダーは既に出力の限界まで作動させている。

「こちら、シルバー1。

探索の状況を報告せよ。」

「シルバー2、発見できず。」

「シルバー3、同じく発見できません。」

「シルバー4、発見できません。

しかし、海面高度を飛ばれているとなると、厄介なのではありませんか?」

「確かに、厄介だな。

海面反射(シー・クラック)がひど過ぎる。」

この時、既にF-16はH-6を追い抜いていた。

「当初の予定通り、日本艦隊へ向かう。

オーバー。」

中華民国空軍第401戦術戦闘機連隊第17中隊side out

 

中華民国政府side

「H-6と言うのは、人民解放軍空軍時代に採用された大型爆撃機です。

旧ソ連のTu-16爆撃機をライセンス生産したものです。」

随伴していた空軍将校が総統に教える。

「それが一機、何者かに乗っ取られたということだが。

兵器の管理はどうなってたんだ。」

「分かりません。

最初の一報以来、情報が入ってこないのです。」

「台湾に待機中の海軍艦隊に急ぎ命令。

直ぐに黄海(ホワンハイ)に入り、日本艦隊を援護せよ。

以上だ。

直ぐに伝えるんだ。」

中華民国政府side out

 

やまとside

「戦闘部署復旧。

対空戦闘用意。

総員配置に付け。」

艦橋から、命令を発した上条はそのままの場所で観戦するつもりだった。

もう既に水平線上には、H-6が現れていた。

これでは、もう遅かった。

「戦闘指揮は、砲雷長に一任する。

好きなようにやれ。」

「了解。」

しかし、既に懐に入られている。

出来ることといえば、ESSMを乱射することくらいだ。

闇雲に撃っても、死を覚悟している人間は止まらない。

「副砲の射程内に入るな。」

こう上条が呟いたときには、距離にして9.7kmといったところである。

猛烈な弾幕が敵機を襲っているはずではあるが止まらない。

そして、やまとから2kmといったところでCIWS、SeaRAMが投入され、副砲とともに弾幕を展開する。

それでもまだ敵は止まらない。

まずいと感じた上条は、マイクを取り上げ艦内へ向け叫んだ。

「右舷にいる乗員は、持ち場を離れ左舷へ退避せよ。

繰り返す、右舷にいる乗員は、持ち場を離れ左舷へ退避せよ。

総員、耐ショック姿勢。」

そうしてやまとに敵機は突入した。

轟音が響き、火柱が立つ。

H-6には、およそ9tの爆弾が搭載できる。

それが満載されていたと推測できた。

それほどの爆発である。

やまとは大きく揺れる。

「ダメージ・コントロール。

応急運転(ダメコン)室、状況は?」

上条が叫んだ。

艦橋内では負傷者が多数出ていた。

なんとか、負傷せずに済んだ隊員が、負傷した隊員に応急手当を施していた。

ということは、艦内はもっと酷いことになっているだろう。

「もうやってます。

なお、火災は右舷エリアに集中しています。

死者はなんとか出ませんでした。

負傷者も20人程度で済んでいますが、隊員15名の安否が不明です。」

「そうか。」

機関科や航空科の乗員達が消火活動に入っているのだろう。

「なんとか凌いだか。」

上条はつぶやく。

やまとside out

 


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