やまと復活 鬼神の護衛艦   作:佐藤五十六

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第54話

中国潜水艦side

「全弾、命中を確認しました。」

「これで、遠征68号の敵は討てたな。

バッテリーの具合はどうだ?」

「もう、10分ともちません。

至急浮上してください。」

「それは、無理な相談だ。

だろう、ソナー員?」

「ええ、後方より一隻のフリゲート(巡防艦)が、急速に接近しております。

既に、距離は、3200mです。

むらさめ型のようです。」

日本の海上自衛隊では、大型もしくは中型水上戦闘艦の類別は、護衛艦(DD/DE)一択である。

その中でも、特にむらさめ型護衛艦は、専門家の間で議論が集中している。

その議論とは、大型フリゲートなのか、通常の駆逐艦なのかである。

防衛省の広報課や、海上幕僚監部に聞いても、護衛艦であるとしか返って来ないはずだ。

「どちらにしても、敵がそこまで迫っているのだ。

逃げ切ることはできんだろう。」

だからといって、沈むのを座して待つような人間はいない。

「艦回頭、180。

メインタンクブロー、深度、20に付け。」

「了解。」

こうなれば、追って来るフリゲートと相打ちに持ち込むしかない。

その思いが艦長を突き動かしていた。

しかし、その手は思いっきりの外れであった。

「頭上に着水音。

ASROCです。」

ソナー員の報告が上がる頃には、遠征67号は何の手を打つこともできずに魚雷の命中を待つほかなかった。

「メインタンクブロー。」

その指示は遅く、中途半端な形となって実行された。

それが、はるさめ乗員が見たキロ型潜水艦の最期の姿である。

中国潜水艦side out

 

護衛艦はるさめside

はるさめの戦闘情報センター(CIC)では、艦長と砲雷長が海図を睨んでいた。

「輪形陣を超えているわけではないようだな。

発射点は、ここから遠くはないか。

砲雷長、どう考える?」

「そうですねぇ。

我々の能力からすればやまとの周りを丸裸にできますけど、それを敵さんが予想しているかですなぁ。

予想していたら逃げるし、していなければ二度目を狙って、留まってるでしょうが。」

「ふむ、じゃあヘリには、この辺をさらってもらうか。

本艦は、手前をさらう。」

そう言って艦長は、海図に書き込む。

「これで指示を出してくれ。」

「了解。」

砲雷長は側のタブレットから、データを空中のヘリに転送する。

12式海図投影システムとして制式採用されたこのシステムは、電子海図上にいろいろな情報を書き込める上に、データリンクシステムを通じて味方の艦艇や航空機とその情報を共有できるスグレモノである。

「対潜戦闘用意。

取り舵(とぉりかじ)、30。

アクティブで探査しているが、調子はどうだ?」

ソナー員の側に来た艦長は尋ねた。

「明瞭です。

反応も確認できます。

以外と近いですねぇ、距離、4000も無いですよ。」

「そうか、ASROCの射程内なんだな。」

劉仁率いる遠征67号は、潮の流れに乗りすぎたようだ。

はるさめというハンターに近付きすぎていたからだ。

「距離、3000まで近付いて、ASROCを真上に落としてやれ。」

「現在、距離、3200。

えッ、敵潜水艦回頭、180、ブロー音が聞こえます。

深度、20に付きます。」

「なるほど、見上げた根性の持ち主だ。

本艦を冥土の土産に連れて行くつもりなのだろうが、その手は喰わんぞ。

ならば、ここで仕留めるのみ。

予定からはちと遠いが、ASROC発射用意。

撃てぇ(テェー)。」

むらさめ型護衛艦は、VLAと呼ばれる垂直発射のASROCを前部のMk41VLSに装備している。

そのVLSからASROCが、撃ち上げられる。

そのロケットは、3200mを飛ぶと、弾頭の魚雷を切り離した。

パラシュートを開いた魚雷は、着水するとソナーを起動させ目標を捕捉する。

狙い違わず魚雷は、キロ型潜水艦、遠征67号の頭上に命中した。

「艦体、浮上します。」

ソナー員の声と共に、キロ型潜水艦、遠征67号は浮き上がった。

そして自らの姿を誇示するように、乗員達の意地を示すようにである。

そして、充分だと見たのか静かに海の中へと消えて行った。

沈没である。

その姿に艦橋にいた副長と航海科の乗員が、戦闘情報センター(CIC)にいた全員が敬礼していた。

武人らしい最期であった。

護衛艦はるさめside out

 


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