ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)   作:蜜柑ブタ

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前回、シンジ越しに尾崎に会いに行った初号機が尾崎を取り込もうとしたけど、オリキャラに阻止されました。

今回は、シャムシエル。

そして問題の二人の対照的な行動とその後。


特にケンスケファンの方は見ないことを推薦します!


オリジナルメカゴジラが、二話目にして壊れちゃう回です。



第二話  機龍フィア、機能停止!

 

 

 

第二話  機龍フィア、機能停止!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尾崎がシンジの傷ついた精神を治すために過度の精神感応能力を使いすぎてぶっ倒れた後日。

 第三新東京に、次の使徒が出現した。

 

 使徒が現れる…、それすなわち。

 

『東京湾にゴジラ出現! まっすぐ第三新東京を目指し進撃しています!』

 

 ゴジラが使徒をぶっ殺すために上陸してくることである。

 

 第三新東京は、地球防衛軍の出した厳戒令によりゴジラ迎撃エリアに指定されたため、そこに住む住民達は、地球防衛軍の保証のもと、他県へ移住を強制されることとなった。

 サキエル襲撃時にゴジラが来て、機龍フィアとネオGフォースの激戦は、すでに都民に知れ渡っており、その被害も凄まじかったため地球防衛軍の令で強制移住となってもすんなりそれを受け入れた。

 避難しつつ、移住の真っ最中の住民達の中に、ゴジラの襲来の放送を聞いて顔を怒りに染める少年が一人いた。

 鈴原トウジ。サキエル襲来時にシェルターに妹と共に避難したのだが、ゴジラの襲撃によってシェルターがもたず負傷者が出てしまったのだ。その負傷者の中に彼の妹がいたのである。

 だからトウジは、大事な妹に怪我を負わせた原因を作ったゴジラに憎しみと怒りを抱くようなったのである。

 だが相手は、授業や教科書でも耳にタコになるほど聞かされてきた伝説の怪獣王ゴジラである。なんの力もない民間人が相手になるわけがない。

 再び第三新東京に来たゴジラに、トウジはただただ悔しさに拳を握り、歯を食いしばって耐えることしかできなかった。

 そんな彼に悪魔の囁きがかかることとなる。

「なあ、トウジ…。ちょっと話があるんだけど。」

 クラスメイトで友人の相田ケンスケである。

 大人達の目を掻い潜り、物陰で二人はヒソヒソと話し合った。

「なんやケンスケ、こんな時に?」

「俺らもうすぐ他県に移住するだろ? それも地球防衛軍の命令で。」

「せやな。第三新東京がゴジラと戦うための戦場になるさかい…。」

「それなんだよ! ゴジラってさ、別に東京じゃなくったって世界中あちこちの都市や街を襲ってるのに、なんで第三新東京なのかって疑問湧かないか!?」

「んー、確かニュースじゃ、使徒がゴジラを呼び寄せて、第三新東京に使徒が必ず来るからそいでゴジラが来るからとかやったような…。」

「そこ、そこなんだよ! なんでゴジラは使徒を狙うのかって詳しい情報がまだ開示されてないんだって! ネルフのサイトも閉鎖されちゃってさ、パパのIDでも全然情報が得られないし、それになにより! 機龍ってあのゴジラそっくりのロボットだ! そうメカゴジラ!」

 ケンスケは軍事オタクである。

 ついでに学校では女子の写真を勝手に盗撮して、売りさばいているとか…?

 ついでに父親がネルフの職員なのを利用して勝手にIDを使い、ネルフのホームページに勝手にログインして軍事機密を引き出して、それを自作のホームページに掲載するという重大な違反を犯しているとか…。

 そんな彼が地球防衛軍の復活と対怪獣兵器の戦いに興味を持たぬはずがない。

「これはチャンスなんだよ! メカゴジラを生で! ゴジラと戦うメーサータンクとか戦闘機も見たいんだよ! そして映像に収めたいんだ! なあトウジ! ゴジラが倒されるとこ見てみたくないか!?」

「ゴジラが…、倒されるとこやて?」

 ケンスケの言葉の最後の方にトウジが反応した。

 ゴジラは憎いが子供である自分は戦うことはできない。

 だがゴジラが痛めつけられ倒される姿はこの目で見たい。

 しかし、戦場に勝手に侵入すればどんな罰が与えられか分かったものじゃない。

 しかし、しかしである。若さゆえに、トウジは、自分の感情に負けてしまった。

「ええで…。」

「さっすがトウジ! ありがとう!」

 ケンスケは、トウジがゴジラを憎んでいる理由を知っていながらこの危険なことに巻き込んだのだ。死ぬかもしれないというのに、己の欲望のためだけに親友を巻き込み、最悪戦闘の妨害になるかもしれないのに。

 

 

「安心してね。ちゃんとケンスケには、罰が当たるので……。」

 二人から完全に死角になっている場所に、背をもたれさせて二人の会話を聞いていた椎堂ツムグが、シーッと口の前に人差し指を持って行って、クスクス笑いながら誰か(?)に向ってそう言った。そして音もなくそこから姿を消した。

 機龍フィアに乗るために。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 地球防衛軍は、再結成後、大忙しである。そりゃセカンドインパクトの後、一回解散したのだから仕方ない。

 地球防衛軍としてのシステムを元に戻すのも勿論だが、新しい戦力を入れたシステムや新しい法案なども作らないといけない。

 だが使徒もゴジラも待ってはくれない。

 それはセカンドインパクトが起こる前から変わらない。怪獣(ゴジラ含め)は、待ってはくれないので準備ができないだなんて言い訳はできない。

 ネルフから徴収した使徒を識別するシステムで、使徒を示すパターンが表示された。

『パターン青! 使徒で間違いありません! 使徒と思われる物体は、現在第三新東京上空を飛行中!』

『ゴジラは、まっすぐ第三新東京に進撃をつづけています!』

「次の使徒は飛行タイプなのか?」

「いいえ、たぶん違うわ。何かに怯えて降りてこないだけだわ。」

「それ…、間違いなくゴジラでしょうな。」

 なんかイカっぽい使徒は、空から飛来してきてからずっと第三新東京の空を彷徨っていた。まるで降りようか降りまいか困っているような彷徨い方だ。

 しかしゴジラの存在に気付いていながら逃げようとしないあたり、使徒は使徒でどうしても譲れない何かがあるらしい。

 表情らしい表情のない不気味な見た目の癖になぜか伝わって来るのだ。ゴジラが怖い!ここにいたら殺されるって分かってるのに!っていうもどかしさが。

「波川司令…、自分は正直、使徒が少し気の毒に思えてなりません。」

「今は戦いの最中です。余計なことに気を取られず、集中なさい。」

「は、はい!」

 波川の傍にいた軍人が波川に使徒が気の毒だと言うと、波川は、軍人を叱った。

 

 やがて白い熱線が上空を旋回し続ける使徒に向かって放たれた。

 使徒はギリギリのところでそれを避け、慌てた様子で地上にふわりと着地した。

 それと同時に山の影からゴジラが雄叫びを上げながら出現した。

 使徒はゴジラを前にして怯えた様子で後退するが、逃げようとしない。というか逃げられないのだろう。ゴジラに見つかったら第三新東京から離れてもどこまでも追いかけられると分かってるから。

 そして使徒は、白く光る触手を二本出して、それを鞭のように振り回しゴジラを威嚇する。しかしゴジラの進撃は止まらない。光る鞭がこの使徒の武器だとしたらその程度で怪獣王を倒すなり追い返すことができたら、地球防衛軍だって苦労はしない。ゴジラがこれまで相手をしてきた怪獣達だってそうだ。

 やがてゴジラの影が使徒を覆った。こうして見ると大きさの違いがよく分かる。それは使徒も感じたようで振り回していた光る鞭をピタッと止めてしまっていた。触手がだらりと垂れる。もう、死を覚悟したらしい。

 ゴジラが再び雄叫びをあげた。

 

 ゴジラと使徒が対峙しているすぐ近くの小山では…。

「大迫力! ゴジラでっけ~~!」

「あれがゴジラ…。クソ…!」

 撮影カメラを片手に興奮しまくるケンスケと、ゴジラを見て悔しさに打ち震える対照的な二人の少年がいた。

 ゴジラが再び雄叫びをあげた時の衝撃波で、二人はたまらず耳を塞ぐことになる。

「あうう…、授業で見てる映像と本物はやっぱ違うなぁ。」

「鼓膜破れるかと思ったわい…。地球防衛軍は、なにしとんねん! はよこいや!」

 ゴジラの雄叫びの凄まじさに目を回しながら嬉しそうなケンスケと、耳が痛いことに悪態をつきながらまだ姿を見せない地球防衛軍に怒りを感じるトウジ。どこまで対照的な二人だった。

 第三新東京遥か上空では、しらさぎに輸送される機龍フィアが待機していた。

『まだ行っちゃダメなの?』

 機龍フィアのコックピット内でツムグが退屈そうに言った。

『まだだ。まだ合図が出ていない。大人しく待て。』

『あのさあ…。』

『なんだ!?』

 マイペースで緊張感がないツムグの声にしらさぎに乗っている軍人が苛立ちを隠さず怒鳴った。

『ゴジラのすぐ横の小山あるじゃん? あそこに二つ…、小さい生命反応があるんだけど…。』

『……はあ? 都民は、強制移住の作業は終わっていないが、すでに避難させてあるはずだ。』

『抜け道なんてどうやっても塞げないって。』

『…それは、本当なのか?』

『何が~?』

『ゴジラの横の小山に人が残っているってことだ! 貴様、とぼけるんじゃない!』

『そうだね。俺は肉眼で見えるけど、男の子が二人いるよ。一人は、なんかカメラ構えてるし。』

 

『しらさぎに告ぐ! 機龍フィアを投下させろ!』

 

 そこに機龍フィアの出動命令が入った。

『お待ちください! こちらしらさぎ! 椎堂ツムグからとんでもない情報を入手!』

『……こちら司令部、何があったのです?』

『ゴジラの横にある小山に子供が二人いるということを椎堂ツムグが言いました! 生命反応の確認をお願いします!』

『分かりました。機龍フィアは、確認が取れるまで待機。』

 その通信のやり取りがあって、間もなく。

『……遠隔カメラで二人の少年を確認! 避難所のミュータント部隊に救出に行かせる! しらさぎは…、ああっ!』

『なんだ!? 応答を!』

 司令部ではないオペレータからの報告を受けていたら、急にオペレータが悲鳴をあげたので、驚いた。

『機長! 使徒が!』

 しらさぎのパイロットの一人が悲鳴に近い声で報告した。

 第三新東京にゴジラの熱線による大爆発が起こったのだ。

 

 二番目に来た使徒も、前に来た使徒サキエルと同様に、ゴジラに成すすべもなく敗北した。

 熱線による一撃死だったのが、右肩と腕を奪われて無様に這いずって逃げようとする姿を晒したサキエルと比べたら、若干マシ…だったかもしれない。

 やはりATフィールドは意味をなさず、ATフィールドを張ったのが肉眼で確認できたものの、ゴジラの熱線はATフィールドを簡単に貫通し使徒を一撃で焼き尽くしてしまった。

 使徒を焼き尽くしても熱線の勢いは止まらず、ゴジラが首を横に動かしたため第三新東京が放射熱線による爆発で炎上した。

 爆発の余波は、ゴジラの横の小山にも及び、衝撃波が二人の少年の体を転がした。

「ひいいい…! し、使徒って化け物が…、いいいいいいい、一撃で! すげえ! ゴジラすげえ! さすが怪獣王!」

「地球防衛軍は、ほんま何しとんや! わいらの街が破壊されとるのに!」

 怯えた悲鳴をあげながら、それでもますます興奮しカメラのシャッターを連射しながら、ビデオカメラも使うという器用さを発揮しながらゴジラを称えるケンスケと、地球防衛軍が来ないことにますます怒りを膨らませるトウジ。やっぱりどこまでも対照的。

 次の瞬間。そんな二人は、恐怖で失禁することになる。

 ゴジラがギロリッと、顔を自分達の方に向けたのだ。さすがのケンスケも持っていたカメラを落としたのは言うまでもない。

 二人は完全に忘れていた。ゴジラがなぜ破壊を行うのか。なぜ地球防衛軍という組織が誕生するほどの事態になったのかを。

 ゴジラは、とんでもなく恐ろしい炎を使い続けた人類の罪を決して許さないのだ。

 ゴジラの背びれが青白く輝き始めた時、巨大な鉄の塊…、機龍フィアが上空からゴジラに向って降下してきた。

 

 

「ゴジラさーん。悪いんだけどこっちの相手をしてよ。」

 ゴジラに向けてツムグがそう言った。

 ゴジラは、落下してくる影に気付くと熱線を中断し、落下してきた機龍フィアを避け、距離を取った。

 そしてちらりと小山の方を見る。ミュータント部隊が急いで二人の少年のところに向っている。二人は助かるだろう。

「ま、正直さ。どっちでもよかったんだ。あの子達が死んでも死ななくても。でも見捨てたってばれたら、まだ疲れて寝てる尾崎に嫌われちゃうじゃん。それは、ちょっとヤダから…。ごめんね、ゴジラさん。」

 視線をゴジラの方に戻すと、ゴジラがいかにも機嫌を損ねたという風に低いうなり声をあげてこちらを睨んでいた。

 

 

 トウジとケンスケがいる小山では。

「つ、つつつつつ、ついに! メカゴジラが来たーーーーーー!! すげぇ! どんなテクノロジーであれだけ忠実にゴジラの形を再現出来てんだろ!? しかも空から下りてきたし! 特撮なんて目じゃない! ああ、これでメーサータンクとか戦闘機とかがくれば完璧なんだけどな~。」

「あれが…、ゴジラを追っ払った機龍っつーロボットかいな…。なんでもええ…! ゴジラをぶん殴ってくれーーーー!」

 やはり全く違う反応をし、それぞれ現れた機龍フィアに向って叫んだ。機龍フィアが現れてゴジラに睨まれた緊張感から解放されたケンスケは、大慌てで落としたカメラとビデオカメラ拾い上げ撮影をまた始めていた。

 二人のその叫び声が二人を救出するために緊急出動したミュータント部隊に発見されるきっかけになる。

 

 

 二人の少年がミュータント部隊に救出されている間に、ゴジラと機龍フィアの戦いが火蓋を切った。

 熱線が効かないというのは、前の戦いで学んだゴジラは、その巨体と重量からは想像もできない速度で、機龍フィアに突撃し、体当たりした。

 機龍フィアは、ジェットを噴出させてその体当たりに耐え、体制を整えると、左フックをかまそうと左手を振りかぶったが、ゴジラにひらりと躱された。前の戦いでのアッパーカットがよっぽど痛かったのか、ゴジラは機龍フィアの拳を警戒しているようだった。

 その後も怪獣王と怪獣王を模したロボット(生体部分有)が肉弾戦戦を繰り広げることになり、お互いに大ダメージを与えられず戦いはなかなか終わらない。

「う~ん、ゴジラさん、やるなぁ。冷却弾を使いたくても、こないだの戦いで砲弾とか射撃武器の回路がまだ直ってないんだよね…。だから肉弾戦しかできないなんて…。ははは…、一応機龍フィアって地球防衛軍の最終兵器だよね? 大丈夫かな? まあ、いいや、そろそろ勝負を付けようか、ゴジラさん。リミッター解除! ワンandツー!」

 実は万全な状態じゃなかった機龍フィア。

 ツムグは、戦いを終わらせるため七つのリミッターの内、二つを同時に解除した。

 機龍フィアのコックピット内に警報が鳴り響きだしたが、構わらずツムグは、二つリミッターが解除された機龍フィアを動かした。

 目をパイロットのツムグと同じように黄金色の光を宿した機龍フィアは、肉眼では捉えられない速度でゴジラに体当たりをかました。

 ゴジラは、口から血を吐き、そのまま第三新東京から機龍フィアと共に遠ざかって行った。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 目を金色に光らせ白目を血走らせたツムグが、大絶叫をあげた。

 体当たりでゴジラを寄り切りし続けていたフィアがふいに姿を消した。

 ゴジラがそのことに驚く間もなく、後頭部に機龍フィアの尻尾の一撃が入り、ゴジラの体が前に倒れた。

 倒れたゴジラの頭を機龍フィアが容赦なく踏みつけた、踏みつけた時の衝撃で地面が割れ、周りにヒビが広がった。

 機龍フィアは、足を退けると、すぐさまゴジラの尻尾を掴みジャイアントスイングをしてゴジラを遠くに放り投げた。

 しかしゴジラも黙って痛めつけられてばかりではない。放り投げられながら体制を整え、地面に着地すると背中を赤く光らせ、赤い熱線を機龍フィアに浴びせた。

 普通の熱線ならほぼノーダメージで防げる。だがより強力な熱線になったらそうはいかない。赤い熱線は、機龍フィアの機体を焼いた。

 しかし二つのリミッターを外した反動で理性が一時的に吹っ飛んでいるツムグは、機龍フィアが傷つき、コックピット内で危険を知らせるアラートが鳴り響いても火花を散らしても構わず、熱線の中を突き進み、ゴジラの腹部にドリルに変形させた腕を突き刺した。

 ゴジラは、たまらず熱線を吐くのをやめ、苦悶の鳴き声をあげた。

 その時、機龍フィアに異変が起こった。

 体の関節という関節から黒い煙を噴出し、ついに口から一瞬の炎と大量の煙を吐いた。そして輝いていた目から光が消え、しゅううっと首を下に垂れさせてしまい、ぴくりとも動かなくなった。

 

 異変が起こった機龍フィアに言葉を失っていた前線部隊は、機龍フィアがどう見ても壊れましたといわんばかりの状態で止まったことに騒然となった。

「機龍フィアが……。」

「機龍フィアのDNAコンピュータからデータ送信確認! 機龍フィアは、過剰運転と熱暴走を防ぐため強制シャットダウンしたもよう! パイロットのG細胞完全適応者の安否は不明!」

「しらさぎは、機龍フィアを守るため、ゴジラに砲撃を開s…、っ!?」

 上空で待機していたしらさぎが機龍フィアの非常事態に対応するべく動こうとした時、もう一つの異変が起こった。

 ゴジラが目の前で動かなくなった機龍フィアをジッと見て、それからゆっくりと機龍フィアから離れていくと、なんと背中を向けて東京湾へと帰って行ってしまったのだ。

 あとに残されたのは、黒い煙をプスプスと機体のあちこちから立ち昇らせてまったく動かない機龍フィアだけだった。

 これには、しらさぎの搭乗者達も、その様子を見ていたトウジとケンスケを保護して移動していたミュータント部隊も、他の前線部隊も、映像で戦場を見ていた地球防衛軍の司令部などもただ茫然とすることしかできなかった。

 1秒して我に返った者がいて、それをきっかけに機龍フィアの回収が迅速に行われ、ゴジラによる被害報告、そして避難場所から勝手に抜け出し、危険な戦場に忍び込んだ二人の少年にきつい罰が与えられた。もちろんケンスケが戦場を撮影したデータが詰まった撮影機器は、没収された。

 だがケンスケがかなり機械に強いことがトウジの口から洩れたたため、撮影映像を他の方法で残しているかもしれないと疑われ、他県への移住のために積み込まれていた積み荷からケンスケの大量の荷物が運び出されることになった。

 ケンスケは、人権侵害だとか、パパがネルフの職員だから訴えてもらうとか叫んでいたが、ネルフはすでに実権を失っており、ケンスケの父親はネルフを辞めて地球防衛軍の特に一般人の対応をする部署、つまり普通の公務員と変わらない仕事をしているところに転職していたのだが、片親で子供を養うためほとんど家に帰らないことや普段父親と顔を合わせず部屋に籠って盗撮した映像の編集や掲示板などに参加しているケンスケはそのことを全く知らなかった。ケンスケの父親に確認したところ、留守録とメールにネルフを辞めたことや転職したことを送っておいたらしいのだが、ケンスケは、父親のいつもの自分の趣味(盗撮含む。父親は盗撮のことは知らない)を良く思わないお叱りの言葉が入っていると思い込み留守録を聞くことなく、メールも差出人を見ただけですぐに削除してしまっていたらしい。

 ケンスケは、父親の転職のことを警察組織の取調室で知らされ、愕然としたという。ネルフが実権を完全に失っていることも同時に伝えられたが、今度は地球防衛軍がネルフを切り捨てたことについて立場も弁えず勝手に職員に質問攻めし、ネルフが保有するエヴァンゲリオンがゴジラを呼び寄せる要因になっているというネットでの書き込みの事実確認を行おうとしたため、その情報の入手先について調べるたところケンスケが父親のIDで不正ログインやハッキングをして軍事機密をネットに流していた、あるいは別のハッカーの存在が発覚しネット住民達の一斉捜査が行われ国内、外国問わず逮捕者が何人も出る騒ぎになった(中には指名手配されていた大物のネット犯罪者もいた)。あとケンスケが情報や盗撮した写真を買っていた業者も見つかり逮捕されるという事件まで起こった。

 その間にケンスケの荷物を調べていた監査官が、ケンスケが盗撮の常習犯であることがカメラ専用の記憶媒体やパソコンのデータから知ってしまい、廃校になった第三新東京市立第壱中学校を調べたところ女子更衣室、女子トイレなどに卓越した技術を持つ犯罪者顔負けの巧妙な隠しカメラが仕掛けられており調査しに行った人間達を驚かせると同時にケンスケをもはや未成年という免罪符で罪を軽くできないとしてケンスケへの罰はますます重たい物になっていった。

 盗撮の罪の重さや、国家機密への不正アクセス、そして勝手に安全圏から出て(しかもクラスメイトを巻き込んで)危険な怪獣の出現エリアに入ったことがどれだけ沢山の人の迷惑をかけたかを丁寧に小さい子供でも分かるように説明したのだが、ケンスケは、盗撮は自分はジャーナリストを目指す自分を鍛えるための経験値稼ぎと御小遣い稼ぎを兼ねたものだと盗撮された少女達への罪の意識や盗撮映像を売りさばくことがどのような結果を生むのかを全く考慮しておらず、さらには人には知る義務があると主張したり、地球防衛軍の規制を知る義務の侵害だと酷い自己中心的な言い訳を言うばかりで一切反省しなかった。

 このまま少年院に入れても更生はできないと判断した大人達は、彼の父親にケンスケの罪を知らせ、承諾を得てケンスケを特別厚生施設に送ることが決まった。更生施設行きが決まった時と、護送される時、ケンスケは、大変見苦しい姿を晒したという。ケンスケの悪行のことは、どこから漏れたのかあっという間にクラスメイト達の間に広まり、ケンスケへの印象は最悪、評価も落ちるところまで落ちたそうだ。

 ケンスケの父親は、子供をまともに育てられなかった責任を取って仕事を辞め、ケンスケがやった犯罪の被害者達に謝罪し、遠く離れた田舎で隠居した。ケンスケの父親の誠意ある対応に、被害者達や被害者の保護者達も本当に彼がケンスケの父親なのかと本気で思ったぐらい驚き、その誠意を受け入れて逆にケンスケの父親を憐れに思った。子は親を選べないが、親もまた子を選べないのだ。

 あと彼が務めていた職場人間達も事情を聞いたが辞めることになった彼にお別れの花束を渡すなどしてせっかくできた新しい職場の仲間がいなくなることを惜しんだそうだ。そのためか犯罪を犯すような子供を育てた父親として世間から白い目で見られることも、心無い罵声も悪口が書かれた張り紙などもなかったそうだ。中には遊び半分に批判するのを楽しんでいるタイプの人間が様々な角度からケンスケの父親を貶そうとしたが、ケンスケの父親の人柄と誠意を知る者達によって妨害されたため被害はほとんどなくケンスケの話題はやがて忘れられていった。

 そんなケンスケとは対照的に、ケンスケの言葉に乗せられてゴジラが地球防衛軍に撃退される姿を目に焼き付けてゴジラへの怨みの感情を発散したかったトウジは、自分達がゴジラ出現エリアにいたために避難所の警護にあたっていた戦力の一部を二人の救出のために裂かなければならなくなって、応援していた地球防衛軍に多大な迷惑をかけてしまったことを深く反省し、取調室で説明を行った職員に向って床で頭を打ち付けて、泣きながら謝罪の言葉を叫びながら何度も何度も土下座を繰り返した。

 職員や警察官達に宥められて落ち着きを取り戻したトウジは、前回のゴジラ襲撃で妹が負傷したことばかりに目が行っていたため全く他のことが頭に入らない状態だったが、あの時シェルターが壊れた時の犠牲者は彼の妹だけじゃなく、彼の妹よりも重傷で中にはいまだ意識不明、あるいは社会復帰が難しい障害を負ってしまった者や、死亡した者も何人もいたことを初めて知った。ゴジラを憎み、ゴジラと戦う地球防衛軍に期待を寄せているのは自分だけじゃないのだと理解し、自分とケンスケがやったことはそんな人達の希望や想いを完全に踏みにじってしまった愚かな行いだったとまた深く深く反省した。

 面会に来た家族と車椅子に乗った怪我がまだ癒えていない妹に、トウジは、自分がやったことを職員の説明も交えて家族にすべて伝えた。すると車椅子に乗った彼の妹が兄のトウジをビンタした。

 そして彼女は、言ったのだ。自分の兄は本当の漢になるっていつも豪語してる、憎しみや恨みに捉われない真っ直ぐな馬鹿だと。

 叩かれた頬を押さえて妹が涙ぐみながらそう叫んだことで、トウジは、罪の意識から解放されることになる。もちろん自分がやったことを忘れたわけじゃない。

 ただ自分が真にやるべきことが何なのかを妹の言葉で悟ったのだ。

 ゴジラをただ恨むのではなく、友人の言葉に惑わされて命がけで戦う地球防衛軍に迷惑をかけてしまったことに対する罪の意識に捉われるのではなく、ゴジラとはいわずとも大きな脅威から自分や家族のように被害者になってしまった者達がこの先でないように、今度は自分が守る番だという考えに行き着いたのだ。

 将来は、人を守る職業に…、地球防衛軍に入隊する。トウジは、その場で家族と地球防衛軍の職員に向って宣言した。

 家族は、一瞬呆気に取られたら、トウジが自分が犯した罪を反省し、それにとらわれることなく未来を見据えて元気を取り戻したことを喜び、妹はそれでこそトウジだと明るく笑った。

 彼に付き添っていた職員や、面会室の出入口にいた地球防衛軍の軍人や警察関係者達は、少年の決意に涙ぐみ、だが同時にゴジラとの戦いは、子供達の平和な未来は、自分達大人が築かなきゃならないと語り合い、できることならトウジが命の危険にさらされる地球防衛軍に入隊する前にゴジラを倒して将来の選択の幅を広めてやらなきゃなと、現在進行形で人々の平和のために命がけで戦っている者達は自分達が背負う使命と戦いへの決意を新たにしたという。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、地球防衛軍の兵器格納施設に収容された機能停止した機龍フィア。

 機龍フィアの開発と整備に関わっていた科学者の一部が機龍フィアの酷い有様にショックで泡を吹いて倒れたとか。

 使徒とゴジラが来るまでに前の戦いでの傷を修理しきれていなかったのもあるが、まだまだ改良中とあって戦闘にならなければ分からない問題点が多々ある機龍フィアは、ゴジラと戦うためとはいえ七つあるリミッターの内、二つを同時解除した途端に脳と繋がっているDNAコンピュータから逆流してきた信号でパイロットの椎堂ツムグがバーサーカー化してしまい、機龍フィアの機体の耐久性を無視して凄まじい近接攻撃でゴジラを攻撃し、赤い熱線を真っ向から浴びながらもドリルで腹を刺したまでのかなりの成果であったがリミッター二つを同時解除した反動による機体への負担と機体の損傷のためDNAコンピュータの判断で強制シャットウダウンがなされた。

 ゴジラがあのまま追撃していたら機龍フィアは、パイロットの椎堂ツムグごと破壊されていただろう。悔しい話だが、見逃してくれたゴジラに感謝しなくてはならない。なぜ見逃したのかは謎であるが、過去にゴジラは、機龍フィア以外のメカゴジラに情けをかけたように今回のような行動をとったことがあったので、今回もそれに似た理由があったのかもしれない。

 一つ以上リミッターの解除の問題と、パイロットの椎堂ツムグがバーサーカー化したことについて、技術部は、上層部からこってり絞られた。念のため追記しておくが開発担当者達がこうなることはちゃんと想定してそのための対策はとっていた。しかし頭の中で描いた予想図と現実は違う。いまだ未知数の椎堂ツムグのG細部と人間の細胞の融合した細胞で作ったDNAコンピュータが一つ以上のリミッター解除するとパイロットの椎堂ツムグにそんな影響を与えると予想していなかった。

 3式機龍の時もそうだが実戦になって分かる部分があまりに多すぎる。

 しかし使徒シャムシエルの襲来のこの一件で、機龍フィアは確かに機能停止する事態に陥ったが、同時に科学者や技術者も予想していなかった良い変化を起こした。

 それは、損傷していて修理が必要だった機体の伝達回路が素体として使われていた椎堂ツムグの細胞によって生物と無機物が融合した形で修復され回路の修理が必要なくなったことだ。

 また熱線で焼け焦げ、煙を吹いた関節部分も細胞の働きで自動的に再生を始め、修理する部分は表面の装甲と人の手が必要なジェットと射撃武器などの武装だけだった。なお外装部分も、一部細胞が浸食しておりその内装甲も修理がいらなくなるのではと予想された。

 生体細胞が無機物と融合し、更に破損を修復する様は、機龍フィアの開発に携わった特にマッドだと言われるタイプの生物学者達を狂喜乱舞させた。彼らにとって機龍フィアの開発も、その材料として細胞を提供した椎堂ツムグも自分達の好奇心と研究意欲を満たすための足掛かりで道具にしか過ぎない。

 機龍フィアの開発と改良、そして戦いの記録は、生物化学部門の糧にもなっていた。

 G細胞の素晴らしい特性は、セカンドインパクト前から研究者達に知られていた。だがその副作用(怪獣化)ゆえにいまだにうまく利用する方法が見つからないままだった。

 そんな時に現れたのがG細胞を取り込みながら人間の形と意識を保っているG細胞完全適応者である椎堂ツムグである。

 椎堂ツムグの細胞は、怪獣化の副作用なくG細胞を活用できる光が見えたとして科学者達はこぞって彼の細胞を研究した。

 しかし調べれば調べるほど、椎堂ツムグの細胞は、ゴジラと同じく持ち主に依存しており、他者に与えれば拒絶反応が起こることが分かってしまった。動物実験で末期癌に侵された病気の動物に椎堂ツムグの体液から採取した細胞を与えたところを凄まじい勢いで癌細胞を正常な細胞にしていったが、治癒の過程で凄まじい細胞の変異に耐えきれずその実験動物は死んでしまった。怪獣化はしなかったが、解剖したところ全身を侵していた悪性の腫瘍は綺麗になくなっていて、それ以外の体の不調も改善されていたという記録が残された。また投与されたツムグの細胞も死体を変異させず死体の中に僅かに残っている程度で治療の過程で消耗してツムグの細胞が消滅することが分かった。つまり酷い怪我や重い病気の体になら本物のG細胞と違い体内に残らないのだ。

 結論として、怪獣並みの生命力がなければ医療目的に椎堂ツムグの細胞は使えないということが分かった。人間の細胞と融合した純粋じゃないG細胞とはいえ、そのパワーは凄まじくただの人間はおろか、ミュータントでも健康体になる代償に即死してしまう。隅々まで健康な死体…、まったく嬉しくない。

 生物の細胞は、それ一つ一つが大なり小なりパワーを持っている。そのパワーの強さは個体により違うが、例えば電気ナマズや電気ウナギなどのように自らの体で放電という凄まじい現象を武器にするような体と細胞の並び方を持つ生物がいるが、彼らの放電は命をかけた武器である、つまり多用できない。それに比べて怪獣ともなるとデンキナマズなどが命がけで行う放電も息をするように簡単に行う。怪獣と普通の生物では、細胞のパワーが違いすぎることの表れだ。

 どうにかしてG細胞のパワーを抑えられないかと試みる研究が行われているが、G細胞は制御しようとすればするほど、細胞が抵抗し、薬品などを使用した場合抵抗力をつけてより厄介なものに変異したため、危うくバイオハザードが起こりそうなったこともあった。

 G細胞を活用する研究を熱心にやっている科学者達が、八方塞がりだと頭を抱えているということが科学者の卵達の間でもっぱら噂になっている。

 研究そのものは国家の命令で行われているが、8割ゴジラを完全抹殺する方法を探す、残り2割が有効活用する方法を探すためみたいな割合である。

 過去、個人的な目的のためにG細胞(ゴジラの)を利用し、ビオランテという怪獣を誕生させた科学者の一件もあるので、G細胞を扱うための規制はかなり厳しい。またビオランテのような怪獣を生み出せばゴジラを呼び寄せる要因にもなるからだ。

 ともかくG細胞は様々な目的を達成するために毎日研究されているのである。

 

 

 そしてG細胞の研究に一筋の光をもたらしたと一時期謳われたG細胞完全適応者の椎堂ツムグは、その頃…。

 

 

「…火傷、打撲、骨折などは収容された時にはすべて完治していました。ですが、脳へかかった負荷が大きかったらしく、まだ意識が戻っていません。」

 青い顔をした医者兼科学者が椎堂ツムグの体の状態を記した書類を挟んだボードを両手で持って、司令部の面々に説明した。

 ツムグは、ごっついカプセルの中で眠っている。強化ガラス越しに表情は苦しそうに歪められているのが分かる。

「やはりDNAコンピュータからの信号の逆流が原因なのですね?」

 波川が聞くと、担当医は恐らくと頷いた。

「脳は、肉体すべての機能を司るもっとも重要な器官です。昆虫のように脳を持たない生物ならまだしも、椎堂ツムグは、怪獣並の生命力をG細胞から手に入れていますが、一応…“人間”ですからね。人間は、特に脳が多く発達している生物ですから、脳へのダメージは、ゴジラと比較したら遥かに大きくなるのでしょう。あとこれはあくまで推測なのですが、彼の脳の奥に埋め込んだ監視装置と自爆装置がDNAコンピュータからの信号で大きく揺らされた脳を圧迫したという見方もできます。」

「回復の見込みはあるのですか?」

「脳波は、随分と弱っていますが、時間を経るごとに徐々に回復に向かっています。目を覚ますまでそれほど時間はかからないと思います…。意識が戻ればあっという間に元通りになるでしょう。ただの人間なら間違いなく脳死していたでしょう。さすがG細胞と言うべきでしょうか…。しかし今までどんな実験でも気絶すらしなかった椎堂ツムグが意識を失うほどとは…、あの、私ごときが意見をするのもなんですが…、新型メカゴジラは、本当に使えるのですか?」

「……そのことは、技術部にすでに言っています。今回のことでDNAコンピュータの大幅な見直しを行うと報告を受けているわ。椎堂ツムグには、まだ死んでもらっては困るのよ。まだ椎堂ツムグ以外のパイロットでも十分な戦闘ができるように調整も次の対策もできていないのですから。」

「…はい。」

 冷たさしか感じられない波川の口調と言葉に、担当医は、恐怖を感じながらもなんとか返事をした。

 波川は、司令官としての立場があるため時に冷酷で残酷な決断を下さなければならないことは多々ある。

 椎堂ツムグの件もそうだ。貴重な検体であり、ゴジラを倒すこととG細胞の平和利用に繋がるかもしれない希望。それと同時に最悪最強の人類の敵になりかもしれない危険すぎる可能性もある存在。

 椎堂ツムグが発見されたのは、今から約40年前。

 ゴジラとゴジラと敵対した怪獣との戦いで壊滅した街で、特に遺体の発見すら困難な場所で不自然に無傷な姿で発見されたたった一人の生存者。それが椎堂ツムグであった。どこが不自然だったかというと、彼は大きな瓦礫が散らばる場所の影で座り込んでおり、衣服は破れて半分以上焼けていて、その下の肌は火災による煤まみれになっていたのと、血だけじゃなく骨や内臓から出る特有の体液が彼が座り込んでいる場所を中心に大量に流れた跡がカラカラに乾いていたことだ。保護した時に汚れを落としてみると、傷は一切なく、精密検査をしても骨折も内臓に損傷もない健康体そのものだったのだ。発見した時の状況から見て明らかにおかしいということで細胞の検査をしたところ…、彼がゴジラの細胞で変異した人間だということが判明したのだ。そして彼は、G細胞完全適応者という名称を付けられ怪獣を研究する機関に送られた。

 椎堂ツムグの名前は、彼の本名ではない。彼が発見された場所にあった看板などの文字を繋げて付けた適当な名前だ。

 本名その他。一切不明なのは、彼が保護された時、自分のことについて何も覚えていなかったからだ。

 ただ、漠然とゴジラのことと、ゴジラのおかげで自分の体に大きな変化が起こり生き延びたということだけを覚えていた。そのせいか彼は、ゴジラに対し、ある種の尊敬のような信仰のような感情を抱いている。ゴジラのことをわざわざ「ゴジラさん」と呼ぶのは、40年前から変わっていない。

 人間でも怪獣でもない自分自身の立場や、監視下に置かれて様々な惨い実験をやられてもどこまでもマイペースで、当時の科学者達や地球防衛軍の者達を困惑させたと言われている。

 発見された当時、10代後半か、20代前半ぐらいの外見はまったく変わっておらず、G細胞の不死の力が彼を本当に不老不死にしたのでは思われているほどだ。記憶がないので正確な年齢は不明だが、20代だったとしたら、今年でもう60は過ぎている計算になる。

 外見は若いまま、すでに60歳を過ぎている彼の扱いは変わっていない。むしろ機龍フィアが開発されることが決定された時、恐らくもっとも過酷な実験に身を捧げなければならなくなった。

 ゴジラを倒すための兵器を開発し、実戦でしか得られないデータを収集して彼以外でもゴジラと対等に、それ以上に戦うことができるようにするために機龍フィアに乗せて戦わせる。一歩間違えればツムグがゴジラの思考に侵されてしまう可能性も、彼に埋め込まれたナノマシンや機器によって管理され、もしもの時は体内のそれらの機器のセットされたもしもの時の保険と、機龍フィアもろとも自爆するようプログラムされている。データを取るためとはいえ人類の敵になる可能性を高めてしまうゴジラに接近させる機会を与えているのはいつでも殺せるよう(殺せるぐらいの痛手を負わせる)にされていたからだ。

 二体目の使徒の襲来と二回目のゴジラ進撃とその戦いで脳へのダメージを受け、今までどんな実験でも気絶すらしたことがなかったのに意識を失う事体が起こった。

 このことは、機龍フィアのDNAコンピュータを大幅に見直し、更なる改良がされる糧になった。

 あと機龍フィアの素体になっている彼の細胞が機龍フィアに浸透し、生物と機械の完璧な融合による自己修復能力を機龍フィアが手に入れる結果を生み出した。

 波川は、椎堂ツムグがいる施設から去った後、大きなため息を吐いた。

 波川は若くない。椎堂ツムグのことはよく知っているし、対話だってしている。椎堂ツムグの扱いについては、超危険レベルの毒物か兵器を扱うような規定になっているが、組織の内部では椎堂ツムグのマイペースさがベテラン勢に浸透してしまったのかはたまた勝手に監視施設から自由に脱走しては気楽に組織の人間に話しかけてきたりする姿に慣れてしまったのか、組織の中で神出鬼没、勝手に脱走はするけど外界に影響を与えたり悪さはしたことがない椎堂ツムグの行動を一々咎めなくなってしまった。

 大問題なのだが、その勝手な行動が思わぬ助けになることもあり、もう誰も問題視しなくなったのだった。

 そうなれば椎堂ツムグのことを長年知る人間は、少なからず情を持ってしまうようになる。波川もそうだ。担当医の前でああは言ったが本当は心が痛かった。昏睡状態に陥った椎堂ツムグを心配していた。

 しかし椎堂ツムグの犠牲がなければ手に入らない平和な未来のため、情を捨てなければならない。人間らしい優しさなどが欠如したマッドなタイプの科学者達はともかく、人間らしい心を持って下の者達を導いていかなければならない波川は、人間らしい良心と冷たい司令官として立場の間で苦しむ。

「ゴジラが人間を許さないのは、こんなことをずっと昔から続けて何も変わろうとしないからなのかしら…。」

 波川は、迎えに来た車内で、窓の外を眺めながらそう呟いた。

 

 ゴジラは、人類が作ってしまった最悪の兵器の炎とまき散らす毒を浴びて生まれた。

 そして人類を断罪する、人類の罪そのもののように人類を蹂躙する。

 もしもG細胞完全適応者の椎堂ツムグが人類の敵になったなら、それは自業自得だ。散々惨い実験に利用し、その細胞からゴジラを殺すために兵器を開発し、そしてその兵器に乗せて彼にとって命の恩人、あるいは神に等しいであろうゴジラと戦わされているのだ。

 はっきり言って、椎堂ツムグが人類のことをどう考えているのか分からない。いつ敵になってもおかしくはないのに、彼は、マイペースに人類に付き合っている。

 

 終わらないこの繰り返しが、いつか終わる日を、ただ願うことしかできない。波川は、自分の机に積まれた書類に目を通しながらそう自虐なことを考えた。

 

 

 半日ぐらいの時間が経過して、椎堂ツムグは、意識が戻った。

 目を覚ました彼は、担当医や研修医達を見つけて目が合うなり、子供みたいに笑って。

「おはよう。」

 っと元気に挨拶したそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




冷静な指揮官だけど、完全に冷徹ではない波川。
貴重な検体扱いだけど、特に気にしてないオリキャラ君。
壊れたけど勝手に再生、バージョンアップしたオリジナルメカゴジラ。

トウジとケンスケは、まったく違う処分となりました。ケンスケファンの方すみません。

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