お久しぶりです。最終投稿日2020年12月だってよ、ハハッ。
……申し訳ない。
久しぶりの投稿なのでリハビリも兼ねてます。
文字数は少なめになると思いますが、ご容赦ください。
赤道斎が大殺界のレバーを倒した瞬間、世界が鳴動した。
人の数だけ煩悩があり、世界の人口は八十億を超えている。
煩悩という強烈な念は日本を超えて、世界中から圧縮し、濃縮されて大殺界の元へと送り込まれる。
送り込まれた煩悩は魔力という形に変換され、各々が望む世界へと構造を書き換えていった。もし、ここが型月の世界であれば現在進行形で根源の渦が悲鳴を上げていることだろう。
ある者は女体にまみれた酒池肉林の世界を。
ある者は金・女・権力すべてを牛耳した俺様な世界を。
ある者は好きな人と二人だけで過ごす、優しい世界を。
ある者は毎日が祝日で働かなくても給料が入ってくる世界を。
煩悩という名の夢を一つ、また一つ叶える度に、激しいフレアのような炎が大殺界の中で吹き上がる。
刻一刻とカオスな世界へと変わっていく中で、今もなお金色の繭の中で踊り狂う大妖はニヒルな笑みを浮かべた。
「あのチ〇コ右曲がりの変態野郎、好き勝手してんな~。へっ、こりゃ面白くなってきたぜっ!」
大妖を封じていた繭に一条の亀裂が走った。
1
「ん……これは……ヤバイ、かも」
大殺界の稼働により霊力を根こそぎ吸われた挙句、体調まで崩してしまった。
ようこやなでしこたちも同じようで、プルプルした足でなんとか立っているといった様子だ。こんな状況なのに、生まれたての子鹿のようで可愛いと思ってしまった俺は、もう立派なバカップルだろう。
仮名さんも顔色が真っ青で、まるで下痢に見舞われているような様相を呈している。
「早く、大殺界を止めねば……っ!」
「このままだと……地上が、変態パラダイスに……」
栄沢汚水のような変態どもが溢れるカオスアイランドと化してしまう。それだけはなんとしても阻止しなければ!
でも体に力が入らない上、乗り物酔いしたみたいに気持ち悪いぃ……こんな時、エナドリがあれば……。
だが、いまさらそんな愚痴を言っても仕方ない。このまま大殺界を放置してしまえば、それこそ悔やんでも悔やみきれない結果になる。
(仕方ないか……どこまで持つか分からないが、耐えてくれよ俺の体っ)
かつて死神を相手に一度だけ使用したカード。脳内リミッターをすべて解除することで至ることが出来る『極限体』。
この状況で『極限体』になったら寿命が削れるだろうけど、致し方ない!
「コォォォォォォ……」
調息で心身の乱れを整えながら集中力を高めていくと、不意に凛とした声が風に乗って聞こえてきた。
この場にいない、第三者の声だった。
「東山真君の名において告げる! 大気よ、シンフォニーを奏でよ!」
突如現れた一陣の旋風が大殺界に直撃し、天井に走るパイプとの接続部が壊されたのだ。
「ヒーローは遅れた現れる、でしたか啓太さん」
「かおる~」
何でここにいるのかは一先ず置いておいて、グッジョブだ!
『魔力漏洩! 魔力漏洩! あかんわ、伝達路の一部がいかれてもうた! 自動修復プログラムを起動しまっせ!』
「ふむ。そう何事も上手くはいかぬものか」
薫の助太刀により霊力の消費がなくなった。調息で心身を整えながら、震える足に喝を入れる。
見れば仮名さんやなでしこたちも、なんとか立ち上がっていた。
「薫、どうしてここに?」
「それは僕のセリフですよ。赤道斎の魔導書を見つけたんですが、運悪くその中に封じされてしまいまして。なんとか脱出できないか探っていたら、まさか啓太さんたちが戦っているんですから」
「それは、なんというか……ご愁傷様?」
「はぁ……今頃せんだんたち心配してるんだろうなぁ」
落ち込む薫の肩を叩き慰める。その時は俺も一緒になってフォローしてやるから。
そのためには、なんとしても赤道斎を倒してここから脱出しないとな。
「やってくれたな川平薫。お前の動向も逐一把握していたが、まさかこの短時間でたどり着くとはな。少々見誤ったか」
「貴方が赤道斎……ですよね?」
局部が丸出しになった赤道斎の格好を見て、確認するように名を訪ねる。
そうだよな、こんな変態が世界最高峰の魔術師だとは思わないよな普通。
「如何にも、我こそ赤道斎」
「……あの、啓太さん」
鷹揚に頷く赤道斎を指差しながら引き攣った顔を向けてくる薫。
言いたいことはよく分かる。
「残念ながら本人」
あの変態が本当に我々が追っていた魔術師であるとわかると、一瞬スンとした顔をした薫だが、すぐに表情を引き締めた。
「それでは、あの大型の機械が例のSSS級魔導具“大殺界”ですか」
「ん。変態ワールドを作り出す危険なもの。大至急破壊しないと」
「させると思うか?」
「思わないけどする!」
調息で霊力も大分回復してきた。
まだベストパフォーマンスじゃないけど、万全な状態で戦えることなんて早々ないから、動けるだけまだマシというもの。
二振りの刀を創造した俺は前傾姿勢になると、仮名さんたちに視線を向ける。
「仮名さんとようこは前衛、なでしこと薫は後衛! 動き合わせてっ」
「応っ!」
「うん!」
「はい!」
「後ろは任せて、啓太さん」
仮名さんとようこ、そして俺が三方向に駆け出し、なでしこと薫も分散。
それぞれ別の方向からタイミングも合わせて攻撃を仕掛けた。
俺たちの戦いはこれからだっ!
2
「食らえ! 必殺っ、ホーリークラッシュ!」
「来たレ、赤道の血よ」
跳び上がりダイナミックに切り掛かるが、赤道斎はスッと手を翳すと深紅の輝きが放たれ、仮名さんを弾き飛ばす。
後ろに移動していたようこが得意の炎を見舞い、ようこと薫がそれぞれ援護する
「ひふなのこおりよ!」
「東山真君の名において告げる! 大気よ、シンフォニーを奏でよ!」
「だいじゃえんっ!」
「無窮の光よ、隔絶せよ」
なでしこの氷柱が弾丸のごとく射出し、薫が振るうタクトに従い風が鋭利な刃となって吹き荒ぶ。
そしてダメ押しとばかりに赤道斎の足元から立ち上る巨大な火柱。
さすがにダメージを与えたかと思いきや、赤い光に身を包んだ奴はまったくの無傷だった。
「戒めの縄よ、招来せよ」
半目でようこたちを見据えた赤道斎が指を向けると、そこから蜘蛛の巣のような荒縄が蛇のごとく地を走りながら殺到する。
「シィィィイッ!」
「無窮の光よ、隔絶せよ」
その悉くを両手の刀で細切れにしながら赤道斎に迫った俺は間合いに入った瞬間、上下左右の六連続斬りを繰り出すも、一秒に満たない呪文詠唱を前にすべて防がれてしまう。
「来たレ、赤道の血よ」
「ちっ! ……また振り出し」
掌から放出される光の衝撃波を横っ飛びで回避するが、次の瞬間には彼我の距離がまた離れてしまっている。
さっきからずっとこんな感じだ。こっちの攻撃はすべて光の衣で防がれるし、ようやく近づけたかと思うと先の衝撃波で牽制してはワープでまた間合いを稼ぐ。しかも何故かワープだけ無詠唱だし。
手加減してくれているのか分からないが、赤道斎が繰り出す攻撃はそこまで殺傷力が高くないのが唯一の利点か。
このままだとジリ貧だ。どうにかして流れを変えないと……。
「啓太さん、ここは一時退却しましょう」
不意に傍に寄ってきた薫が声を掛けてきた。
赤道斎に聞かれないように小声で話す。
「……大殺界はどうする?」
「考えがあります。啓太さん、僕を信じて」
薫ズルい! そんなこと言われたら、信じるしかないじゃないの!
俺より頭の良い薫なら何か打開策を生み出したのかもしれない。
「……分かった。なでしこ、ようこ、仮名さん。一時撤退!」
声を掛けると皆が俺のもとへ駆け寄ってくる。
よく分かってるじゃないか!
「逃がすとでも思うか?」
「逃げる! ようこ!」
「うんっ、しゅくち!」
そう、こっちには瞬間移動できるようこがいるのだ。
ようこの“しゅくち”により戦線を離脱した俺たち。だが咄嗟だったため座標がランダムになってしまったようで、見たことのない場所に移動していた。
狭い通路で天井や壁にはむき出しのパイプが無数に走っている。足元が濡れており天井のパイプから滴り落ちる水が木霊する。
「ここは確か……だとすると、こっちのはず……! 啓太さん、こっちです!」
顎に手を当てて何かを考えていた薫が走り出す。どうやらここに来たことがあるようだが。
「──で、どうする?」
走りながら薫に今後の作戦を尋ねると、彼は前を見据えながら腹案を口にした。
「大殺界の魔力変換機構ですが、実はそのコアは別の部屋にあるんです。それを壊すことが出来れば、大殺界はこれ以上魔力を得ることが出来なくなるはずです」
「なるほど。それはグッドアイデア」
「しかし、よくその部屋を知っていたな!」
「ここに来てから色々と探索したので、大体の見取り図は頭にあります」
仮名さんの言葉にT字路を右に曲がりながらの薫。
迷路のように入り組んでいるのに、それを暗記してしまうとは……やはり薫は頼りになる存在だ。
「すごいね薫、わたし絶対覚えられないよ!」
「はい。ですがここは赤道斎の領域、いつ奴が現れるか分かりません。気を引き締めて行きましょう」
なでしこの言葉に頷き返した俺たちは一斉にスピードを上げて、目的地へと向かうのであった。
2
「──で、これが?」
「はい、魔力変換機構のコアです」
薫の先導の元、無機質な通路を走り続けること五分。
辿り着いた先は至る所にパイプか走っている無機質なが部屋だった。
奥には祭壇があり、部屋の中央にはコアと思われるクリスタルが浮遊しながらゆっくりと旋回している。
「恐らくあのパイプを通って魔力を伝達していたんでしょう。そして、すべてのパイプはこの部屋に収束していました」
「なるほど、ここで魔力に変換して大殺界に送っていたのか」
薫の解説を聞いて納得したような顔をする仮名さんは、それにしてもと何とも言えない表情で口を開いた。
「奴はある意味可哀想な存在だ。赤道斎が活躍していたのは江戸時代。奴ほど才のある魔導は当時まったく理解されなかった。バテレン扱いで、公権力や民衆からも迫害されて。だから奴は己の作った魔導具しか頼れるものも愛情を返してくれるものも無かった」
「……それで今はあんなことになってるし、猶更だよね。昔、かの大妖怪と渡り合った魔導士なのに」
苦笑する薫の言葉に、ようこの肩が跳ね上がった。
そんなようこを尻目に今度は薫が語り始める。いや、あの、呑気に語ってる暇ないと思うんだけど……?
「世にも傍若無人な大妖怪。一度地を蹴れば三百里を瞬く間に駆け抜け、彼の操る炎はすべてを焼き尽くし、因果すらも干渉するほどの霊力を秘めた真の大妖怪。人間の街を支配しては好き勝手に遊んでいて、無敵だった」
「一方、魔導の理のすべてを己がモノにし、万物を自在に組み替え、如何なる願いも望むままに叶える大魔導士。彼は彼で孤独でしたが、思うがままに理想郷を作り上げ生を謳歌していましたが、ある日、両者は出会ってしまった」
あの、なでしこさん。なんで貴女まで語り部に? えっ、俺だけ感じないだけで、もしかして今そういう流れなの?
「力とその存在に絶対の自信を持つ者同士、争いは免れない。戦いは凄まじく、野が枯れ、山が変じ、海が干上がるほどの天変地異のような力のぶつかり合い。大妖怪に軍配が上がり、敗れた大魔導士は力の大半を失い、己の作った魔道具の世界に逃げ込んで長い眠りについた」
仮名さんまで!? ちょ、アンタまでボケに回ってどうすんのよ! えっ、やっぱこれってそういう流れだよね!? でも俺、赤道斎と大妖怪の物語知らないんだけど!
「程なくしてその地を離れた大妖怪には子供が出来たけど、結局我儘で傍迷惑なところは変わらなかった。大妖怪は……オトサンはいつも自分が正しいと信じてた」
あ、あれ、ようこさん? えっ、その大妖怪ってようこのお父さんのこと? っていうことは、俺のお義父さんになる人か……!
ていうか、いつの間にかシリアスな展開に!?
「挙句の果てには犬神たちに負けて封じられちゃうし、娘がいくら止めてって泣いて叫んでも好き放題やってたからね。人間の街丸ごとプレゼントするって言っても、全然嬉しくないのに。わたしは、普通のオトサンで良かったのに」
「……」
二歩、前に進んだようこは後ろ手に組みながら、穏やかな声で話を続ける。
「完全に封印されたわけじゃないけど、オトサンが封じられてからわたしも山の奥に幽閉されるようになって。世話役のなでしこしか話し相手がいなくてさ。なんでわたしがこんな目に遭わなくちゃいけないんだろうって、一時期はオトサンを恨んだこともあったけど」
「ようこさん……」
くるっと振り返るようこ。
「長い長い時間だったけど、ようやくすべてを笑い飛ばせるくらい楽しくて、嬉しいことが起こった」
その顔には満面の笑顔が浮かんでいた。
「あの日、ケイタと出会った」
長い沈黙の帳が降りる。
薫は微笑ましそうな視線をようこに向け、仮名さんは男泣きしており、なでしこも貰い泣きしていた。
そして俺は、異様に顔が熱いのを自覚しながら、ただ黙ってようこの頭を撫でている。
「ケイタ? あっ……! そ、それじゃあ、さっそく壊しちゃうね!」
ようやく自分が何を口にしたのか自覚したのだろう。
顔を真っ赤にしたようこは焦ったように走りだすと、クリスタルに向けて炎を放った。
ようやく自分たちが何をしに来たのか思い出したのか、各々表情を引き締める。
炎に吞み込まれるクリスタル。しばらく燃えていたが、炎が消えると傷一つ付いていないクリスタルが露わになる。ようこの“じゃえん”でノーダメか……。
なでしこに視線を送ると、俺の意図を察してくれたのだろう。真剣な表情で頷いたなでしこは大きく袖を捲くり、拳に霊力を注ぎ始めた。
「ええーい!」
爆音が響き渡り、衝撃が突風となって辺りを吹き抜けるが──。
「……マジか」
クリスタルは平常運転で回り続けており、傷一つ見当たらなかった。
なでしこパンチでも無傷とは、ヤベェ。この展開は予想してなかったぞオイ……。
「大殺界の魔力変換機構に目を付けたのはいいが、何も対策を練っていない訳がなかろう」
半目の赤道斎と大殺界が空間を超えて現れる。ついに追いつかれてしまったか、それとも誘われたか。
どっちにしろコアの破壊は限りなく難しいということが分かった。薫もこれ以上の策はないのか、苦々しい表情を浮かべている。
…………どうしましょう。
ストックを作ってから更新するスタイルに変えました。進捗状況は活動報告に挙げていきます。
次回で第三部完結です。