メリークリスマス!
ということで、一年ぶりの更新です。
遅れてゴメンね!
「――これで、とどめ……っ!」
「たいざーいちめん……」
転倒させた鎧武者の上にまたがり、その顔面に刀を突き刺すと、ビクンと大きく体を震わせた鎧武者は死に際の一言を述べ、完全に停止した。
ゴロンと転がり大の字になって寝転がる。つ、疲れたぁ……。
「どうやら、これで最後のようだな……」
歩み寄ってきた仮名さんは俺の隣に座りこむ。トレンドマークの白いトレンチコートはボロボロで、スーツも汚れている。まあ俺も似たような姿だけど。
「……仮名さん、お疲れ」
「川平もな。しかし、今回ばかりは厳しかった……」
本当に、近代兵器で攻撃してくるのは勘弁してくれ。マジで。生きてるのが不思議なくらいだよ……。
ロケランをぶっ放してくる鎧武者は、俺が囮となって誘導。その隙に仮名さんに奇襲してもらい、なんとか撃退した。
火薬の量を調整しているのか思っていたほどの爆発ではなかったけど、それでも重症を負ってもおかしくない戦いだった。執拗に追いかけてきてはロケランを放つという、ワンパターンな行動であったのも勝因の一つだ。これで高度な戦術とか駆使してきたらマジで危なかったな……。
何度も冷や汗を掻きながら、どうにかロケラン鎧武者を倒したのだが、俺たちの苦難はまだ終わっていなかった。
新たな鎧武者が姿を見せたのだ。真打登場と言わんばかりに悠々と歩を進める鎧武者は、異様な存在感を示していて、明らかにボス的な存在であると察することが出来た。
そして、この鎧武者も一癖ある敵で、ゴツイ近代兵器――軽機関銃を装備していた。それも一丁ではなく二丁。両腕にそれぞれ同タイプの機関銃を携えていたのだ。
まるでコマンドーのように楽々と機関銃を持つその姿に、血の気を引いたのは無理もない話だと思う。
実弾じゃなくゴム弾であったが、それでも当たり所が悪ければ最悪な事態に陥っていただろう。幸い、これも大きな怪我をすることなく、ロケラン鎧武者と同じ方法で倒すことが出来たが。
「…………赤道斎、絶対ぬっ殺す……」
「赤道斎?」
憎悪を込めた独白に、仮名さんが怪訝な顔をする。そういえば、赤道斎が復活したことを話していなかったな。それどころじゃなかったし。
ここで話してもいいのだが、先になでしこたちと合流した方がいいだろう。
「……その話は後で」
やはり鎧武者たちが脱出の鍵だったようで、固く閉ざされていた正門の扉が開いていた。別の空間に繋がっているようで扉の先は歪んで見えないが、早くここから出よう。
俺は刀を、仮名さんはエンジェルブレイドを手に頷き合うと、正門を潜った。
歪曲した空間を潜った先は小さなドーム状の広間で、石畳の造りになっている。広さは大体二十メートルくらいだろうか。
正面に扉が見える。敵影はない。
「――! なでしこ! ようこ!」
部屋の中央でなでしことようこが倒れているのが見えた。慌てて駆け寄る。
二人とも顔を歪めてうなされているが、ざっと見たところ外傷はないようだ。
体を揺さぶり、頬を叩いたりしてなんとか目を覚ましてもらう。
「うぅ~ん……」
「ん……ここは……?」
のろのろと顔を上げるようことなでしこ。目をしばたかせた二人は俺の姿に気が付くと、勢いよく抱き着いてきた!?
「うぅ……ケイタぁ、怖かったよぉ」
「スン、スン……」
声を上げて泣くようこに、静かに涙を流し、顔を押しつけてくるなでしこ。よく分からんが、とりえず頭を撫でておいた。
五分くらいだろうか。しばらく頭を撫で続けてようやく、二人は落ち着きを取り戻した。
「……大丈夫?」
「は、はい……ご心配をお掛けしました」
「うん。ごめんね?」
まだ目元が赤いけど、もう大丈夫そうだな。それにしてもどうしたん? 何があったの?
「えっとね……」
ようこの話によると、あのブラックホールのような穴に吸い込まれたと思ったら、気が付いたら知らない部屋にいたとのこと。しかも部屋には十を超える様々な犬たちがいて、襲い掛かられたのだとか。
そういえば、ようこって犬が大の苦手でしたね。俺やなでしこもいない密室の中で苦手な犬に囲まれる、か。確かにこれは泣くわ。
俺の場合は虫が苦手で、中でも蜘蛛が大嫌いだ。この世で一番嫌いな存在だと言っていい。ようこのように密室の部屋で様々な蜘蛛に囲まれると考えると……うわっ、鳥肌が! 俺でも泣くよそりゃ。
なでしこにも話を聞くが、言葉を濁して詳しい内容は教えてくれなかった。ただ、彼女にとって悪夢のような光景だったらしい。なでしこが泣くほどの悪夢ってなんだろ? 苦手なものってあまりないよね?
それとなでしこ、そんなに警戒しなくても仮名さんは赤道斎じゃないよ。
「あ、いえ、そうではないのですが……」
「ん?」
「いえいえ、なんでもないです! ……あの、啓太様は、衆道に興味なんてないですよね?」
恐る恐る、といった感じに聞いてくるなでしこ。しゅうどうって、修道? 宗教の修行の? なんで修道?
「……? 特にない」
別にどこかの宗教に入っているわけでもないし。
どこか仮名さんを警戒しているのは気になるところではあるが、無事になでしこたちと合流できた。なんか巻き込まれた感がする仮名さんだけど、赤道斎のことを話しておかないと。
敵はいないみたいだから部屋の真ん中でこれまでの経緯を説明する。赤道斎が復活したこと。まだ魔力なるものが回復していないこと。この世を混沌の世界に変えることが目的であること。俺が見知ったことを仮名さんに説明すると、話しを聞いた仮名さんは両手で血の気が引いた顔を覆った。
「なんということだ……」
うん、気持ちはよく分かる。あんな変態が自分の先祖で、しかも大それたことを考えている。さらにはそれを実現するだけの力量も有しているのだから、そりゃ顔を覆いたくもなるわ。仮名さん、責任感強いからなぁ。
「赤道斎はその昔、何者かに負けて以降、力の大半を失ったと聞く。復活したとはいえ、全盛期とは程遠いだろう。コンピューターのような機械を見たと言ったな?」
「ん」
「恐らく、それは"大殺界"だな。世界でたった一つのSSSランク指定の魔道具だ」
「どんな魔道具なのですか?」
なでしこの質問に仮名さんは渋面の表情で答えた。
「魔力量に応じてあらゆる願いを具現化するという究極の魔道具だ」
「あらゆる願いを叶える……」
遠い目をするようこは何を妄想しているのか、だらしない顔をしている。ようこのことだから、おむすびやチョコレートケーキ食べ放題なんて考えているんだろう。
しかし、あらゆる願いを具現化する魔道具って、そんなこと可能なのか。あの変態、やっぱアレですごい奴なんだな……。
「赤道斎が力を取り戻し、完全に復活すれば、世界を書き換えることも可能だろう。それは何としても阻止しなければならない!」
俺には世界を改変する方法なんて思いつかないから、今すぐどうこうなる問題じゃないだろうと高を括っていたが、まさか具体的な手段があったなんて……思っていた以上に事態は切羽詰まった状況だった。
「いくぞ川平! 赤道斎を止めるんだ!」
「ん! ……ところで、なんで仮名さんここに?」
「恐らく、少しでも魔力を補填するために私をここに連れて来たのだろう。確か、大殺界には霊力を魔力に変換する機能があったはずだ」
なるほど。完全にとばっちりですね。
それと、仮名さんって赤道斎にそっくりなんだね。同じ格好をして並んだら、見分けつかないよ。多分。
「……それについては言わないでくれ。複雑な気分なんだ」
苦虫を嚙み潰したような顔でそう言う仮名さんに、さもありなん、と胸中で深く頷いた。
それはともかく赤道斎と戦うことになったら、大殺界を破壊することを優先した方がいいな。
相手は変態とはいえ稀代の大魔導士。死神以来の格上との戦闘だ。厳しい戦いになるだろう。
扉の前まで移動した俺たちは顔を見合わせる。仮名さんはエンジェルブレイドを、俺は新たに刀を創造して次のステージに備えていた。なでしことようこも気合いに満ちた顔をしている。
頷き合った俺たちは意を決して、扉を開けた。
1
扉を抜けた先は、広い洞窟だった。
ここもドーム状の造りになっており、数百メートルはある広い面積を誇っている。天井を支えるかのように太い柱が円を描く形で建っており、中央には祭壇のようなものがある。
そして、祭壇の向こうには超巨大なコンピューターチックの魔道具、大殺界の姿があった。ただ、俺が見た大殺界はせいぜい二メートル程度の規模だったのだが、その数倍はある。少し見ない間に、成長しましたか……?
「赤道斎!」
「……仮名史郎か」
仮名さんの鋭い声に、祭壇の前に立っていた赤道斎がゆっくりと振り返った。
肩に木彫りのニワトリを乗せた大魔導士が胡乱な目を向けてくる。
相変わらずのフルチン姿で。
「我が子孫が居たのは予期せぬことであったが、おかげで望外な成果を得ることが出来た。感謝しよう。そして川平啓太よ。よくぞここまで辿り着いた――と、言いたいところだが、少々遅かったな」
『稼働率百パーセント。起動準備完了や!』
大殺界の上部に掲げられたパネルに文字が表示されていた。起動準備完了って、もう一刻の猶予もないよね!?
皆が逡巡する間もなく駆け出した。あれを起動させたら大変なことが起きる。本能に訴える明確な予感に突き動かされて。
(彼我の距離は――まだ数十メートルはある! 間に合うか!?)
懸命に走るそんな俺たちを尻目に、巨大な魔道具に歩み寄った赤道斎は、中心から生えているオールのような大きなレバーに手を置いた。
「苦節三百年。いよいよ、日の目を浴びる時が来た……行くぞ、大殺界! 我に、今一度の光を!」
ガゴンッという小気味良い音と共にレバーが倒れると、大殺界の上部に取り付けてあった電球が輝き始める。
色取り取りの光を放つパネル。大殺界そのものから紫電が迸り、まさに「稼動しまっせ!」とでも言うような様相を呈している。
それにともない、全身から力が抜けていくのを感じた。その力の抜け具合は、思わず立ち止まってしまうほどだった。
「なに……?」
「これは、霊力が抜けていく?」
ようこたちの身にも同様の現象が起きているようで、戸惑いの表情を浮かべている。
『魔力充填中! 魔力充填中! 充填率十五パーセント!
充填完了までおよそ七分! 予想以上の霊力でっせ! 大したもんや!』
そうか! 霊力の魔力変換! 大殺界には霊力を魔力に換える機能があるって、さっき仮名さんが言っていた!
まずいまずいまずい! 俺の身体能力は霊力で強化しているものだ。霊力が空っぽになってしまったら、肉体に依存したものになってしまう!
鍛えているとはいえ、人外魔境を相手にするのに、これは非常に心許ない!
(そうでなくても、人間には恒常性というものがある。霊力がある程度保持されている状態が当たり前なのに、唐突にそれが激減したら、そりゃ体調も崩れるよな……!)
急激に霊力が激減したため、力が抜けてフニャフニャだ。気分も悪く、平衡感覚も少しおかしい。あまり経験はないが、まるで乗り物酔いをした時のような感じだ。
「啓太さん、大丈夫ですか……!?」
「ケイタ……!」
なでしこたちの声が聞こえる。見れば、彼女たちも地に膝をつけて、苦し気な表情を浮かべていた。
(これまでもピンチな場面はちょいちょいあったけど、何気にこういうのは初めてだな……。これは、ちょっとヤバイかも……)
純粋な戦闘力の差や、時間との勝負という意味で窮地に陥ったことはあるが、デバフを食らったのは初めての経験だ。
こんな変化球いらないんだけど、と思いながら目の前の窮地を前に冷や汗を掻く俺であった
次回も遅くなる予定(フライング予告)