お久しぶりです。しばらくはこちらの執筆に集中したいと思います。
細々とやっていきますので、またお付き合いしていただければと。
親戚連中の無遠慮な眼差しや悪口が鬱陶しく、落ち着いて飯が食えん。どうも親戚が集まる宴会は苦手なんだよな。
屋敷の反対側に位置する離れ。そこの座敷に俺はいた。
ここに集まり歌えや飲めやのドンチャン騒ぎをしているのは人間ではない。俺以外の全員が人外と呼ばれるモノたちだ。その多くは犬神たちで、主が大広間で飲み食いしている間、懐かしい友と親睦を深めたりしている。その他にも猫又やタヌキ、鬼、幽霊、のっぺらぼう、小人、ろくろ首などもいる。出されている料理も人間と同じものだ。
一室にここまで妖たちが集まっているから妖気が半端じゃない。多分、外から見たらこの部屋だけおどろおどろしていることだろう。
犬神のほとんどは人化しているが中には早速本性に戻り寛いでいる子もいる。巨大な犬に戻って後ろ足で顎の辺りを掻いてます。すっごいもふもふしたいです。でも余所の子だから我慢する。
誰も触れていないのにひとりでに畳がドスンドスンとリズムを取り、障子がガタガタと揺れて音を奏でる。それをBGMに酒を飲み、飯を食らい、面白おかしく騒ぐ。皆、酒臭い吐息を吐いているが浮かべている笑顔は妙に優しかった。
「キキッ!」
「……ありがと」
小猿が空いたコップにジュースを注いでくれる。お礼を言うと二カッと歯を見せて笑った。
――やっぱこっちのほうが居心地いいわ。
なんというか、取り繕わなくていい。素の自分でいられるというのかな。向こうの場合、宗家の人間としてそれなりに礼儀正しくしないといけないし。堅苦しい空気は嫌いなのです。
ぐぃっとジュースを一気飲みする。濃厚なこの葡萄の味は、いつぞや飲んだ覚えがある。そうだ、あの双子姉妹のジュースだ。今度会ったら林檎ジュースをお願いしてみよう。
ところで、隣でちびちびと酒を飲んでいるのっぺらぼうの少女が、なんだか落ち込んでいるような雰囲気を漂わせてるのだが。さっきからキミ、ちびちび酒飲んでるけど、どうしたん? なんか悩みがあったら聞くで? おっちゃんにぶっちゃけてみぃ。
「……」
「……ふむ」
ふむふむ。以前ニンゲンに顔がないのを笑われてしまったと。ああ、それで落ち込んでいるのね。ていうか仮にも妖相手なのに、すごいねその人。
しかし、少女よ。そんなことで落ち込む必要はないのだよ。
「……大丈夫、こう思えばいい。それがキミの個性」
「……?」
「そう。世の中、個性がない人も多い。顔がないなんて個性、キミ以外誰も持ってない。キミは勝ち組」
だから胸を張れ。ほれ、コップ空じゃねーか。
空いたコップにジュースを注いであげると、のっぺらぼうは恐縮した様子でぺこぺこと頭を下げた。なんだよこの子、中身は結構可愛いじゃないの。
のっぺらぼうの少女は俺の言葉に元気が出たようだ。そうよね、これが私の個性だものね!と言うように、ふんすと気合を入れると一気にジュースを呷ったのだ。おお、いい飲みっぷりだね!
ささ、もう一献と再びジュースを注ごうとすると誰かに肩を叩かれた。
振り返ると、そこには大きな赤鬼がしゃがみこんでいた。三メートルほどの身長はある彼は先ほど赤鬼や青鬼たちと一緒に酒を飲み交わしていたと記憶しているけれど。何の用だろう?
「……酒飲み対決?」
赤鬼たちとの酒飲み勝負で何故か連敗するから助言を頂きたいと、その赤鬼は言った。なぜ俺に助言を頼むし。
仕方ないからここは勢いで乗り切ろう。大丈夫、鬼たちって種族的に結構脳筋ばかりだから!
「……思い込みの力は強い。水だと思って飲めばいい」
やはりこの鬼も脳筋だったようで、俺の言葉になにやら感銘を受けたようだ。なるほど、と大きく頷くと意気揚々とした態度で仲間の元へ向かっていった。
「……なに?」
気が付けば何故か多くの犬神が俺の前で順番待ちをしていた。ここは相談所でも悩み相談室でもねぇぞ!
しかし、縋られたら余程のことがない限り断れないのが俺である。ああ、ノーといえる人間になりたい……。
――とりあえず話を聞くだけだかんな。必ずしも何かアドバイスが出来るとは限らないかんな!
一番先頭の犬神から話を聞く。
「主人の浪費癖が激しくて。なんとか改善して欲しいのですが、どうすればいいと思いますか?」
「……お前が財布を握れ」
「そっか、私が仕切ればいいのね!」
はい、次!
「最近、主が寝付きにくいようなのです。そのせいで寝不足になってしまっているようでして……」
「……お前が枕になれ」
「なるほど……。以前、添い寝は安眠効果があると聞きました。そうですね、試しにやってみましょう」
キミの主も男だったよな。男同士の添い寝とかア゛ーな展開しか思い浮かばん! とりあえず、主は色々と頑張れ!
「一輝様にガールフレンドが出来たんですけど、それ以来なんだか疎外感を感じてしまって……。どうしたらいいですか啓太様……」
「……その思いを聞かせてやれ」
「うぅ……。ちょっと怖いですけど、頑張ってみます……!」
それでもダメだったらそれまでの男ってことだから見切るのも一つの道よ。色々な理由はあるが、契約解除して野良の犬神に戻る子もそこそこいるって聞くし。
まるで銀座のママさんにでもなった気分で悩み相談を解決していく。一応俺なりに考えて返事しているから、いい加減な答えは返していない。今のところ皆納得して帰っていただいております。
十人目の悩み相談が終わり、一区切りついた時だった。背中をこう、ぽふぽふと叩かれる。
はい新規様ご来店ー、と振り返るとそこには見慣れたタヌキの姿があった。
「……おお、タヌキ」
「啓太さん、こんばんはっす!」
赤いちゃんちゃんこを着た彼はぺこっと頭を下げた。お前も来てたのか。
宴は楽しんでいるか聞くと、タヌキは元気よく頷いた。
「はいっす! お料理も美味しいですし、川平さんの皆さんにも犬神さんにも良くしてもらってるっす!」
「……そう。ならいい」
それから互いに最近の出来事などしばし談話を楽しんでいると、何かを思い出したタヌキは風呂敷からとあるものを取り出した。
「以前は川平さんにご迷惑をおかけしましたので、今日はとっておきのものを持ってきたっす!」
以前タヌキの命を救ったお礼として恩返しにやってきてくれた。その時に持ってきたくれた飲み物をなでしこたちが飲んだ途端、幼女化してしまうという事案が発生。想定外の出来事だが、今にして思えば貴重な体験だったな。もう随分前のことで既に許しているというのに。本当に律儀なタヌキだ。
今度用意してくれたのは三つの小瓶だった。それぞれ赤、黄、青色とビー玉のようなものが沢山入っている。
「これは霊薬丸といって、それぞれ効能が異なるっす。これが説明書っす」
小瓶と一緒に紙切れを渡してくる。そこにはそれぞれの効能が書かれていた。
・青色は膨大なエネルギーが含まれており、これ一粒で三日分の消費エネルギーを摂取できる。しかも満腹効果も得られて一粒食べるだけで三日は元気! 美肌効果もあるよ!
・黄色は滋養強壮。色んな栄養素が凝縮しており体に超良い。毎日飲み続ければ長生き間違いなし!
・赤色は霊力を生み出す霊薬。これ一粒で元気百倍! 武○なんかに負けないもん!
――なにこの説明書。読むと気が抜けるんだけど……。
まあ、これを読む限り前回のようなことにはならないで済みそうだな。むしろ青と赤の効能とかすごいじゃん。赤色なんて仕事でお世話になるかも。
だけど服薬の際の注意事項とか書いてないな。一度に何錠まで服用していいのかも書いていないし。その辺どうなってるん?
「それなら二枚目の方に注意事項が書いてあるっす」
「……一枚しかないけど」
ぺらぺらと紙を揺らす。うん、一枚だけだな。
「え? ちょっと待ってくださいっす」
風呂敷の中をごそごそと漁り、ひっくり返しても見るが出てこない。サァっとタヌキの顔から血の気が引いていく。
おいおいおい、まさか――。
「……すみません、どうやら家に置いてきちゃったみたいっす!」
やっぱりか! このうっかりさんめ!
まあいいや。折角くれたんだからありがたく貰っておこう。その説明書も見つかったらよろしくな。
「はいっす!」
「……ありがとな」
感謝の言葉とともにタヌキの頭を撫でる。やっぱりもふもふ動物はいい。心の潤いじゃ~
「ケイタ!」
「――啓太様! ここにいたんですね!」
背後から非常に聞きなれた声が。振り返るとなでしことようこが立っていた。
ようこは腰に手を当てて頬を膨らませ、なでしこも軽く怒った表情を浮かべている。子供を叱るお姉さんといった風貌だ。
「もう勝手にいなくならないでください! 探したんですからねっ」
そう言い子供にするように「めっ」と指を立てて叱った。な、なでしこお姉ちゃんだ!
ようこはやれやれと肩を竦める。俺の傍で群がっていた犬神たちに気がつくと、パチパチと目をぱちくりさせた。
「な、なにこの子たち? ケイタ、なにしてたの?」
「……啓太の相談室?」
もしくはお悩み相談所でも可。
1
二十二時を回った頃には流石に宴会も終わり、親戚や来賓の人たちも続々と帰路についていった。
使用人や犬神たちが手分けして宴会場の後片付けに追われている中、啓太はとある報告をするため祖母の部屋に訪れていた。
座卓に座り、早速薫がプレゼントしたキセルをふかしている。啓太は宗家と対面する形で座り、その両隣になでしことようこが腰を下ろした。
人数分のお茶を汲んでくれるはけに礼を言う。
「今日はありがとうの啓太、なでしこ、ようこ」
「ん。俺も楽しかった」
「ほっほっ、それはよかった。して、話というのはなんじゃ?」
大事な話があるといい、珍しく真剣な顔で自分の部屋を訪ねてきた啓太。無表情がデフォルトなため傍目からすればいつもと変わらないように見えるが、啓太と近しい間柄ならどことなくピリッとした空気を感じるだろう。緊張している証拠だ。
コホンと咳払いして調子を整えると、単刀直入に言った。
「……なでしこたちと付き合うことになった」
これ以上ないほど、簡潔な言葉で。
「……は?」
「えっ?」
予想外な話に一瞬思考が止まる宗家とはけ。
しばし考え、何を言っているのか理解すると、それぞれ驚愕の表情を浮かべた。
啓太は目を見開き言葉が出ない様子の二人に淡々と語りかける。両隣に座るなでしことようこも真剣な表情だ。
「……だから、付き合うことになった。なでしことようこの二人と」
「二人と?」
同時に二人の女性と交際するのは珍しいケースだろう。祖母が二股かと目で問う。
それに対して啓太は臆さずに頷いた。なんの後ろめたいことはないとでもいうように。
「ん。それは全員了承済み」
「はい」
「うん」
啓太の言葉に追随する形で頷くなでしこたち。それを見て本気なのだと悟った祖母はそうか、と呟き深くキセルを吸い込んだ。
白い煙をゆっくり時間をかけて吐き出す。
「……まあ、お主らが納得しているなら、ワシは何も言わん。しかし啓太よ。分かっているとは思うが、法的な手続きは一切できんぞ? もちろん婚姻関係を結ぶことも認められん」
「……それは仕方ない」
今の日本では表向き、妖の存在は認知されていない。人外との婚姻関係も認められていないのだ。
ニンゲンと正式に協力関係を結ぶ妖は内閣官房直下の霊的事象対策特務機関――俗に中央や鎮霊局とも呼ばれている機関に名前が登録される。これがいわば戸籍のようなものだ。なでしこたち犬神も当然、政府に登録をしており戸籍や住民記録もされている。だが、それでも人間と妖怪の結婚の法はまだ作られていなかった。
異種族同士の婚姻はいつの時代もなかなか認められないのだ。
「私は啓太様のお側にいられるのであれば、それで十分です」
「わたしも。一緒にいれるなら、結婚できなくてもいいよ」
宗家は目を閉じると、しばし黙考する。はけも静かな眼差しを啓太たち三人に向け、成り行きを見守っていた。
真剣な面持ちで宗家を見つめる啓太たち。やがて目を開いた宗家は鋭い視線を投げかけた。
「なでしこにようこ。二人は心の底から啓太のことを好いていると言い切れるか? 何があっても啓太を愛し続けると誓えるか?」
その言葉に顔を見合わせるなでしことようこ。やがて、なでしこの方から自分の素直な気持ちを口にした。気負いも不安もなく、自然と胸の内にあるものを紡いでいくかのように言葉に淀みがない。
「はい。この方にお憑きしたその時から、私のすべてを啓太様に捧げました。心も体も魂も、です」
「それをどう証明するつもりじゃ? 昨今、スピード離婚なんて言葉も出てくるくらいじゃ。誓い合った者たちもすぐに分かれる世の中になった。言葉だけなら何とでも言えよう」
温厚な祖母にしては随分と強い言葉を使っている。睨むかのように鋭い眼差しを向けているその様子は、なでしこを責めているようにも見えた。
流石に言い過ぎだと、啓太が口を開いたその時。なでしこは毅然とした態度で言いきった。まるで祖母の言葉を一蹴するかのように。
「もし、万に一つ……いえ、兆に一つもあり得ませんが、啓太様に捨てられたのではなく私から身を引いたその時は、潔くこの命を散らして見せましょう。心を偽るほど落ちぶれたというのであれば。生き恥を晒したくありませんから」
まあ、そんなことありえませんし。啓太様も私やようこさんを見捨てるなんて、そんな無体なことをやるはずがないと信じていますので。そう言葉を締めくくり、啓太に微笑みかけた。何故かその笑顔に寒気がした啓太は壊れた人形のように首を縦に振り続ける。
「わたしも! ケイタのこと愛してるし、私がケイタの側を離れるわけがないもん。もしケイタから離れようとしても無駄だよ。離してあげないんだから」
ようこも啓太の方を見てにっこり笑う。両サイドから自分に微笑みかける少女たち。これは何かのホラーですかと言いたくなるような光景だ。
なでしことようこの言葉を聞いて得心がいったように何度も頷く宗家。そして、今度は居心地が悪そうに座り直す啓太を見た。
「啓太、お主はどうなんじゃ。ここまで言ってくれるなでしことようこを裏切らないと言い切れるか?」
その言葉に背筋をしゃんとした啓太は真剣な面持ちで大きく頷いた。
「……当然。惚れた女を裏切るくらい、男捨ててない」
「二言はないな?」
「くどい」
ジッと互いの目を見つめ合う。
緊張が張り詰めた空気の中、宗家が口元を緩めた。
「よう言った! それでこそワシの孫じゃな!」
カッカッと笑う祖母にきょとんとした目を向ける啓太。なでしことようこも呆気にとられた顔をしていた。はけは一人微笑み静かに頷いている。
ぽりぽりと頬を掻いた啓太が祖母に尋ねた。反対じゃないのか、と。
「まさか。反対する理由もあるまいし、言ったじゃろ。お主らが納得しているのなら、ワシは何も言わんと」
「えっと、じゃあさっきのやり取りはなんだったの?」
ようこの質問に表情を崩しながら答える。
「もちろんお主たちの気持ちと覚悟を確かめるためじゃよ。ないとは思っていたが、万一半端な気持ちでいたのならワシも考えざるを得ないからの」
「……でも、普通こういうの反対しない?」
拍子抜けするほどあっさり認められた啓太が純粋な疑問を口にする。異種族の恋愛は基本タブーとされていたのだから、その疑問も当然だ。
しかし宗家はケロっとした様子で言った。
「他はどうか知らんが、うちでは認めておるぞ。それに前例もあるしの」
「前例ですか?」
「うむ。今から二十年ほど前じゃな。慎二という男が己の犬神と結婚したんじゃ。今では二人の子供に恵まれて順調に家庭を築いておる」
――まさかの先駆者!
寝耳に水の話だった。まさか前例がいるとは思わなかったのだろう。開いた口が塞がらないその様子にニヤニヤした顔を浮かべる宗家。隣でははけが小さくため息をついていた。
「主も人が悪いですね……。覚悟してこの場に臨んだくらい分かるでしょうに」
「なんじゃなんじゃ。お主だって涼しい顔をしながら楽しんでおったではないか」
「…………ちょ、ちょっと待ってちょっと待って」
仲良く言いあう二人を見て正気に戻った啓太が割って入る。
「……さっきお婆ちゃん、婚姻関係結べないって。その人結婚してる?」
「おお、そのことか。もちろん妖として法的手続きは取れんが、人間としてなら話は別じゃろ?」
「……あ」
婚姻手続きは紙の上で行われるものだ。実際は妖であろうと、人間と記載さえしてしまえば法律上なんの問題もなくなる。もちろん発覚すれば違法扱いとして処分されてしまうがそこは政府がひっそりと対応してくれるのが暗黙の了解だった。裏の世界にも繫がりがある政府は妖の存在を当然のごとく認知している。彼らがニンゲンにどれほど貢献してくれているのかも。それを鑑みれば婚姻関係の偽装くらい見逃してもいいと思っているかもしれない。汚い世の中である。流石にその辺の大人の事情までは説明しなかったが。
「……それじゃあ、結婚できる?」
「うむ。なんの問題もないぞい。お主たちにその気があるなら、であるがの」
宗家のお許しが出た途端、なでしことようこの顔が輝く。そして、何かを期待する目で啓太を見た。
「啓太様……」
「ケイタ……」
――えっ、なにこの展開?
予想していなかった成り行きに戸惑いを隠せない啓太。当初の予定なら祖母に交際の報告だけして終わりだったのに、いつの間にかプロポーズの流れになっている。どうしてこうなった!と内心頭を抱えた。
両隣からは期待の目を、前方からはニヤニヤした目を向けられる。内心はタジタジだが、得意のポーカーフェイスで平静を装う。しかし、頬を伝う汗がその心を雄弁に物語っていた。
右を向き、左を向き、前を向き、上を向き、下を向く。やがて観念したのか、それとも覚悟が決まったのか、小さく息をつくと顔を上げた。普段よりキリッした面構えに見え、なでしことようこの胸が高鳴る。
そして、二人が見えるように一歩下がった位置に正坐で座り直した。
「なでしこ、ようこ」
『は、はい……っ!』
緊張で裏返りそうになる声を抑えながら、祖母とはけの観客を前に決定的な言葉を口にする。一目で分かるほど、珍しく顔を赤く染めて。
ありったけの勇気を振り絞り、一度目の告白よりも強く、深い気持ちを込めて。
今、プロポーズの言葉を――!
「二人のこと幸せにするから、俺も幸せにして。俺と……将来結婚してください」
告白の言葉とともに深く頭を下げる。しんと静まり返る室内。
返事は言葉ではなく行動だった。啓太に飛びかかるようにして抱き着いたのだ。なでしこが首に、ようこが腰に抱き着いた。
「ゲイダァァァ……わだじ、う゛れじいよぉぉぉぉぉ~~~~っ! うわあああぁぁぁぁぁんっ!」
「……ぐすっ……すんすんっ……! はい、喜んで……! 私、喜んで啓太様の妻になります!」
心の底から湧き上がる歓喜に滂沱の涙を流した。ぎゅっと抱きしめる腕に力が籠もる。
抱き着かれながら感涙にむせぶなでしこたちに啓太はようやく全身の力を抜いた。
声を出して高らかに泣き、腰に抱き着きながら顔をぐりぐりと擦り付けるようこ。声を押し殺しながら啓太の首に顔を埋め、泣き顔を見せまいとするなでしこ。啓太はそんな二人の背中をいつまでも撫でていた。
「よかったのぅ。しかし、孫のプロポーズを見ることが出来るとは思わなんだ」
「ええ。まさかこのような場面に立ち会うことが出来るとは思いませんでした。この通りバッチリカメラに収めることができたのは行幸ですね」
「……おい」
いつの間にか一眼レフのカメラを手にしたはけの言葉に思わず突っ込みの声を入れてしまう。先ほどまで手ぶらだったのにどこから取り出したのやら。
やがて落ち着きを見せた二人は頬を染めて恥ずかしそうに体を離した。
彼女たちを微笑ましい目で見ていた宗家は居住まいを正し、なでしことようこに向けて深々と頭を下げた。
「なでしこ、ようこ……。啓太のことを頼んだぞ」
「はい!」
「うん!」
宗家としてではなく、啓太の祖母としての言葉になでしこたちは大きく頷いた。
なんか書いてたら流れ的にプロポーズまで言ってしまった……。
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