皆さんこんにちは。お婆ちゃんから呼び出しを食らった川平啓太です。
霊力測定試験から翌日。結果は既に報告されているだろうから、恐らくそのことなのだろう。
渋面で手を組んだお婆ちゃんは厳しい目で俺を睨みつけた。
「啓太。なぜ呼ばれたか分かるかい?」
「ん。昨日の測定試験」
「うむ。報告を聞いたら、お前さんの霊力は一〇〇とあるんじゃが」
「違いない」
「……」
ジーッと俺を見つめてくる。無言の圧力につい視線を逸らしてしまった。
大きくため息をつく。
「啓太。お前、昨日の試験では手を抜いたね?」
その言葉に首を横に振る。
「全力」
「全力でこの数字かい? 馬鹿言っちゃいけないよ。お婆ちゃんの目は誤魔化せないよ」
違う、そうじゃない!
「全力で手を抜いた」
脱力するお婆ちゃん。
「なんで手を抜いたんじゃ?」
「……全力でやったら面倒になる」
「ふむ……まあ、啓太にもなにか考えがあるんだろうが」
おいおい、五歳児だぞ俺。ちょっと信用しすぎじゃないか?
お婆ちゃんにとって俺がどう映っているのかすごく気になるんだけど。
――このお婆ちゃん、好きやわ~。
「……もう一回計る?」
「うーむ、だがなぁ……」
「お婆ちゃんとはげなら、いいよ?」
「むぅ。本来は計り直しはしないのだが、まあ実際のところの霊力は気になるしのぉ。だが、記録外として計ることになるがよいか?」
「ん。むしろ、公式ダメ」
ま、ほんとのところは自身の霊力がどの程度なのか、俺も気にならないといったら嘘になるしな。
記録として残らないなら、全力も出せる。
それに、お婆ちゃんとはげは信頼できるから、この二人なら実力を知られてもまあいいかなと思う。
「よし、なら早速向かうかの。はけや、準備のほうを頼む」
「わかりました」
音もなくお婆ちゃんの背後に現れたはけはそのまま、スッと空気に溶け込むように消えた。
んじゃ、俺たちも裏庭に向かうかね。
1
さて、やって参りました第二回霊力測定試験。
第一回との相違点は参加者が俺だけで、ギャラリーがお婆ちゃんとはけの二人だ。
おっと、測定の前にやることがあったな。
「結界張って」
「結界ですか?」
「ん。たぶん、おっきい音がする」
「なるほど、わかりました」
大きく頷いたはけは懐から扇子を取り出した。
「破邪結界二式・紫刻柱」
扇子を一閃。俺たちを中心に結界が張られる。
紫色の結界は長方形の形をしており、縦に伸びていた。
「この結界は防壁のほかに防音の効果もありますので、安心して下さい」
「グッジョブ」
親指を立てると苦笑が返ってくる。解せぬ。
さてと。
漬け物石の前に向き直り目を閉じる。お婆ちゃんたちは離れたところに立っていた。
「すぅぅ……」
目を瞑りながら心を沈め、丹田から霊力を練り上げる。
「はぁぁ……」
練り上げた霊力は血流に沿って全身を巡る。
「すぅぅぅぅぅ……」
全身を巡る霊力は次第に均一化され。
「はぁぁぁぁぁ……」
凪いだ海のような静けさが内なる世界に訪れる。
瞑っていた目を薄く開く。
全身に分散していた霊力を一点に集中。
まるで渦に巻き込まれるかのようなイメージで以って、右手の拳に霊力を集める。
さらに集めた霊力を圧縮。
圧縮…………。
圧縮……。
圧縮。
「むっ」
「これは……」
拳を引き、腰溜めに構える。
狙うは漬け物石のど真ん中。
そこめがけて、打ち抜く……ッ!
「……っ!」
踏み込みと同時に放った全力の一撃は確かな感触を拳に残した。
一瞬の拮抗はすぐに破れ、拳を中心に衝撃が漬け物石全体に広がるのが分かる。
地を轟かす爆音。
漬け物石は無数の小さな破片となって砕け散った。
一メートル程の大きさの漬け物石が。
跡形もなく。
「……あれ?」
まさかの結果に思わず呆然としてしまった。
いや、精々薫と同じくらいの結果ないしはちょっと良いかな的なものだと思ったのに……あれー?
そうだ。お婆ちゃんたちのコメントを頂こう!
お婆ちゃん川平最強だし。こんくらいわけないよね!
「……」
「……」
しかし、その二人も呆然とした様子で絶句していた。
「……まさか、これほどとは」
「これは、恐らく過去最高記録なのは間違いないでしょうね……」
えっ? えっ? 過去最高記録??
ヘイ、お婆ちゃん! 俺の霊力はいくつなんだい!?
「お婆ちゃん。結果」
「う、うむ。まず間違いなく儂より上だろう。……恐らく三千くらいじゃな」
…………三千?
「確か、ここ数年は二千以上の数字を叩き出した人はいないはずです。中央からそのような話もありませんし。と、なりますと啓太様の名前は火がつく勢いで広まることでしょうね」
おいー! なんだよその「お前がナンバー一だ。富士山だ!」的な発言は!
やめれ~! 俺は面倒事が嫌いなんじゃー!
「お婆ちゃん。他言無用」
「……うむ。確かにこれは軽々しく口に出来ない内容じゃな。……っ! そうか、だから……」
……なに? その、これを懸念してのことだったのか的な目は。確かにそうだけど、度合いが違うからね。俺もここまでとは思ってなかったし。
まあいい。どうせこれは非公式の試験。記録に残らないのだから。
「ということで。落ちこぼれです」
そのコメントし難そうな顔、ごちそうさまです。