いぬがみっ!   作:ポチ&タマ

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 ラスト。
 11/24 死神の性格に思うところがあったので、台詞を大幅修正しました。


第五十七話「絶望と恐怖を司る者」

 

 

「契約履行の時間だ。キミの魂をもらっていくぞ」

 

 ローブを着た男は美しい声でそう言い、お嬢様に近づいていく。

 ひょろひょろとした線の細い男だが、その体から禍々しい力を感じる。悪意や憎悪などこの世の負のエネルギーを凝縮したようなおぞましい気配。

 只者じゃないのは一目瞭然だった。

 コツコツと足音を鳴らしながら近づいてきた男は俺たちの存在に気が付くと、眉を顰めた。

 

「ん? なんだキミたちは。……ああ、わかったぞ。新堂ケイを守護する者だな。やれやれ、私も暇ではないのだがな」

 

 溜息をついた男は面倒くさそうに振り向く。

 

「致し方ない。さっさと用事を済ませてしまおう。煩わしいのは嫌いだからな」

 

「……」

 

 なんか独り言が多いなこの男。

 俺たちはそいつに警戒しながら訪ねた。

 

「……二つ聞く」

 

「なんだね?」

 

「……あなたが、死神? 新堂ケイを狙っている」

 

「その通りだ。私は絶望の君、恐怖を愛し絶望を食らう者だ。これから死に逝く者に無駄なやり取りは不要だろう。さっさと殺されたまえ」

 

 口の悪さは一旦、目を瞑るとして、予想通りこの男が死神のようだ。しかし人ならざるモノとの契約は絶対順守されるはずなのに、なぜ誕生日前日にやって来たんだ?

 それが腑に落ちなかった俺は直接聞いてみることにした。

 

「……なんで来た?」

 

「うん? おかしなことを聞くなキミは。二十歳になったその時、新堂家の人間の命を奪いにいく、そういう契約だ。故にただ一人の血族である新堂ケイの命を奪いに来たのだが」

 

「……誕生日、明日なのに?」

 

「なに?」

 

「……新堂ケイの誕生日、明日。二十歳になるの、明日」

 

「……」

 

 固まる死神。シンと静まり返る食堂。

 恐怖に震えるお嬢様、顔を引きつらせながら主を背にするセバスチャン。

 ようこは警戒した様子で身構え、なでしこはお嬢様たちの元に避難してもらっていた。

 

「……ふむ。今日は八月二十日ではなかったかね?」

 

「今日は十九日ですが……」

 

「……」

 

「……」

 

 セバスチャンの指摘に黙り込む死神。しばらく目を瞑って黙考していたが、やがてポンッと手を叩いた。

 

「うむ、どうやら日にちを勘違いしていたようだ」

 

 おぃぃぃ! 死神それで大丈夫なんか!

 お前のうっかりのせいでお嬢様が無駄に怯えてるんだぞー!!

 死神はマイペースに「誰だって失敗はするもの。それは人間も死神も同じなのだ」なんてのたまってやがる。

 イメージしてた死神と実物があまりにもかけ離れていて戸惑いを覚えるんだけど……。

 

「では私は出直すとしよう。さらばだ新堂ケイ、セバスチャン、少年少女たちよ」

 

 そう言って再び闇の渦に巻かれ消えようとする死神。

 セバスチャンとお嬢様はホッと一息ついていたが、俺にはある考えがあった。

 帰ろうとしている死神を呼び留める。

 

「……待つ。そのまま帰るのも味気ない。ちょっと遊んでいく」

 

「うん? それはこの私が誰だか知っての発言かね?」

 

「……当然。レッツバトル」

 

 シュッシュッとシャドーのまねをする。

 お嬢様には悪いがこれはグッドタイミングだ。契約によれば『二十歳になるまでは新堂家の者に関わるすべての者の命を奪うことはできない』らしい。

 だから勝負を挑んでも死ぬことはないし、なにより死神の実力を肌で感じることが出来る。そして、可能ならこのまま倒せばいいし、仮に負けたとしても手の内が分かれば対策を立てられる。

 

「ふむ。聞けば勝てぬと分かっていながら立ち向かうというのも人間の特徴であるらしいな。これもその例の一つか。私には理解できん思考だな」

 

 最初から勝てないと分かり切っているような口調がやけにウザったい。

 上等じゃねぇか。その自信、粉々に打ち砕いてやんよ!

 身体能力を強化した状態で臨戦態勢を取る俺。隣に舞い降りたようこも体に炎を纏い、いつでも仕掛けられるように姿勢を低くしていた。

 

「まあ、余興に興ずるのもたまにはいいか」

 

 死神がパチンっと指を鳴らす。

 すると、瞬間的に景色が入れ替わり、いつの間にか外に出ていた。

 夜空に黄色い月が浮かび、冷たい夜風が吹くなか、十メートルほど先にはローブをはためかせている死神が佇んでいた。

 どうやら館の屋上にいるようだ。こんな開けた空間があったのか。

 俺とようこの他にも、なでしこ、お嬢様、セバスチャンもいる。

 瞬間転移? ようこのしゅくちのようなものか? テレポート出来んのかよこの死神……。

 

「あそこはいささか戦いの場に相応しくなかったのでね。こちらに移動させてもらったよ」

 

 突然、景色が変わって驚いているお嬢様たち。は彼女たちはなでしこに頼もう。

 なでしこに視線を向けると意図を察してくれたのか、真剣な表情で頷いてくれた。

 

「啓太様にようこさん、お気をつけて。あの死神、並みの者ではありません」

 

「ん。お嬢様のこと、任せた」

 

「はい。くれぐれも無理をなさらないでくださいね」

 

 頷き返す俺。お嬢様とセバスチャンが真剣な表情でこちらを見ていた。

 

「川平さん! こんなこと私が言える立場ではありませんが、どうか! どうか、お嬢様をお助け下さいっ!!」

 

 どこか縋るような目に力強く頷く。お嬢様は複雑そうな表情を浮かべていた。

 そして、なでしこにお嬢様とセバスチャンの二人を館から連れ出すように指示を出す。

 俺とようこが進み出るのを見て不敵な笑みを浮かべる死神。

 

「我は絶望の君。恐怖を愛し、絶望を食らい、死を誘う負の化身。一応、名前を聞いておこうか、小さき守護者とその従者よ」

 

 小さい言うな!

 

「……川平啓太。ただの犬神使い」

 

「その犬神のようこ!」

 

 両手にいつもの刀を創造。二振りの刃が月の光に当たり、鈍い光を放つ。

 

「いく……!」

 

 クルッと回転させて逆手に持ち帰るとオーバースローで投擲する。それに合わせようこもピッと人差し指を突きつけた。

 銀色の目を細めた死神はまるで受け入れるように両手を広げる。

 避けない? 余裕のつもりか? なら遠慮なくいかせてもらう!

 

「……三、五、八、十、十一、十四、十八、二十三ッ!」

 

「じゃえん! 大じゃえん! 大じゃえん改っ!」

 

 投擲した瞬間に新たに刀を創造し、次々と刀を投げつける。身体操法で集中力を最大限引き出すことで、同時に最大四本創造することができる、俺が一番得意としている戦法。

 怒涛の勢いで創造した刀を投擲しながら、投げた刀の数を数える。三秒で二十三本か、なかなかの記録だな。

 ようこの巨大な火柱(特大版じゃえん)が死神を呑み込み、投擲した刀が次々と襲う。

 渦を巻く紅蓮の火柱が死神のいた場所の床を黒く焦がした。熱風が離れた場所にいる俺のところまでやってきて、その威力を雄弁に物語っている。

 

「やった!?」

 

 ようこの歓声の声。それを人はフラグというんだよ!

 

「……いや、まだ」

 

 予想していた通り、死神は先ほどと同じ場所に佇んでいた。

 自身を取り巻く炎をものともせずに涼しげな顔で立っている。周囲の地面には焼け焦げた刀が散らばっていた。

 俺の刀はまだしも、ようこのあの炎でもダメージゼロか!

 

「ふむ、なかなかの火力だが、生憎とこの身には届かないな。私に熱傷を負わせたかったら、今の十倍の火力で来たまえ」

 

 埃を払うような軽い動作で炎を消し飛ばした。

 防御力半端ないな。どうやって攻撃を届かせるか……。

 こりゃ、お嬢様には悪いけど、館を壊す勢いでいかないとヤバイかもしれない。様子見なんて言ってられないな!

 

「……ようこ、全力でいく。館の人間、全員しゅくちで遠くに避難」

 

「だね……。みんなごめんね、しばらくどっか行っててね!」

 

 ようこが地面に両手をつける。その体から妖力が立ち昇るとともに、ぶわっと濃緑色の髪が浮き上がった。

 

「とくだ~い、しゅくちっ!」

 

 館にあった微かな気配が一斉に消える。これで一般人は全員避難させたから、館のことを気にせず戦える。

 ようこの隣に歩み寄った俺は、死神から目を離さず小声で囁いた。

 

「……ようこ、気をつける。あの死神、恐らく俺たちより強い」

 

「うん、わかってる」

 

「遠距離がダメなら近接。ようこの爪ならいける」

 

 ぐっと腰を落とし、脚に力を入れる。

 ようこも爪を伸ばし、獰猛に牙を見せた。

 

「――ようこの力、見せてやれ!」

 

「おっけぇ!」

 

 そして、同時に駆け出す。

 床を踏み抜く勢いで弾丸のごとく飛び出す。ようこもトンと床を蹴った。

 身体強化を施した全力のダッシュは十メートルもの間合いを瞬時に零にする。

 容易に間合いに入ると想像していた武器を一振り創造した。

 

「おぉぉ……っ!」

 

「でぇぇぇいっ!」

 

 生み出すは鋼の大剣。飾りの一切を外し、ただ敵を斬り潰すことだけを目的にした無骨の大剣だ。

 身の丈以上ある分厚い刃を強化した筋力で無理矢理持ち上げる。

 ダッシュした勢いも加え、腰を最大限捻り、運動エネルギーをそのまま大剣に乗せて叩きつける様に振るう。

 回避行動を取ろうとしない死神は横薙ぎの一撃をまともに浴びた。さらには背後に回ったようこの鋭い爪が無防備な背中を切り裂く。

 確かな手応えを感じた。腰の高さで剣が体に沈み、分断するべく横切る。

 

「せぇやっ……!」

 

 確実に葬るため、剣の勢いを殺さずにそのまま一回転。そして剣の軌道を修正し、今度は袈裟懸けで振り下ろした。

 肩に背負うような形で振り下ろされた分厚い刃は、最初の一撃で上下に分断された死神を今度は斜めに分断する。

 斬ッ!と四つのパーツに切り離された死神。これは致命傷だろう!

 

「――ふむ。もう終わりかね?」

 

「……っ」

 

「うそ……」

 

 確かに手応えを感じた。それなのに、やつは何事もなかったかのように立っていやがった……!

 四つに分断したはずの体は血の一滴も流さず、元通りに修復されている。再生能力もあるのかよ! ていうか、修復時間早くねぇか!?

 ローブまでも修復されているのを見て言葉をなくす俺とようこ。

 その決定的な隙を逃すはずがなかった。

 

「勝負の最中にそのような隙を見せるとは、愚かと言わざるをえないな」

 

 はっと正気に戻った時にはすでに奴の指が目と鼻の距離にあった。

 人差し指を丸めた死神は、溜めた力を一気に解放する。

 パァンっ!と拳銃のような乾いた破裂音が響いた――。

 

「が……っ!?」

 

 頭が跳ね上がる。凄まじい衝撃が脳を揺さ振り、意識が一瞬持っていかれそうになった。

 デコピンというにはあまりにも次元が違う。

 吹き飛ばされる俺。数回バウンドしながら床の上を転がっていく。

 ようこの悲鳴のような声が聞こえた。

 

「ケイタ! っく……この! この!」

 

「うむ、元気があって結構なことだ」

 

 頭を振って意識をしっかり持ち直す。顔を上げると、凶爪を振るうようこの攻撃を死神は後退しながら軽やかに避わしていた。

 

「だが、いささか雅に欠ける」

 

 喉を狙った一閃を顎を反らすだけで回避した死神は、その場で旋回。鞭のようにしならせた脚で回し蹴りを放った。

 

「あぁ……っ!」

 

 腹部を蹴られ、俺の場所まで吹き飛ばされるようこ。なんとか彼女を受け止めることに成功するが、かなりのダメージを負ったようで、苦痛で顔を歪ませていた。

 

「……大丈夫、ようこ」

 

「う、うん。なんとか……」

 

 いたた、とお腹を押さえながら起き上がる。

 しかし、予想の数倍強いぞこいつ。師匠に匹敵するレベルじゃないか……?

 やべぇ、どうしようか?

 

「……とにかく猛攻をしかけるしかない、か。俺が近接で攻め続ける。ようこは遠距離でフォロー」

 

「わかった」

 

 作戦と呼べるほどではないが、お互いの役割を決めて頷き合う。

 その間、死神は攻撃もせずに興味深そうに俺たちを見ていた。

 余裕の表れか? 実際そのくらい実力差があるからな……。

 

「啓太様! ようこさん!」

 

 お嬢様とセバスチャンを避難させていたなでしこが戻ってきた。地面に膝をつく俺とようこを見て息を呑む。

 死神の視線がなでしこへ向けられた。

 

「うん? 確かキミも川平啓太の犬神だったかな? 今度はキミが相手をしてくれるのかね。よかろう、どこからでも掛かってきたまえ」

 

「わ、私は……」

 

 色を失った顔で狼狽するなでしこ。彼女は戦えないのだ。

 

「……ふむ。戦意はないとみえる。主が窮地に追いやられているというのに牙を見せないか。キミから神を傷つける牙の気配を感じたと思ったのだが、私の思い過ごしかね?」

 

「……っ」

 

「まあよい。戦わぬというのであれば、そこで主が敗北する瞬間を見届けるのだな。主の敗北に絶望を知る、それもまた一興」

 

 そう言って死神は興味が失ったかのようになでしこから視線を外した。

 なでしこは酷く悲しいような悔しいような、色々な感情がないまぜになったような顔で俯く。

 しかし、本来なでしこがそんな顔をする必要はない。

 なでしこが悲しむ必要なんて、これっぽちっもないのだ……!

 

「……なでしこが、戦う必要ない。それは俺の役目……。もとより、そういう約束」

 

 大剣を支えに立ち上がる。闘志でギラついた目を死神に向ける。

 うちのなでしこちゃんに、なにイチャモンつけてくれてんだっ!

 

「ここは危ない。なでしこも避難する」

 

 俺がそう言うと、俯いていたなでしこが顔を上げる。そこには何かを決意したような、毅然とした表情を浮かべていた。

 

「……いえ、私もここに居ます! 戦えない私ですけど、ここで啓太様とようこさんの戦いを見届けますっ! 私も、啓太様の犬神ですから!」

 

 嬉しいこと言ってくれるなぁ。こりゃ、頑張んないと格好つかないな!

 

「まだ立ち向かうか。うむ、大変結構。この程度で戦意を喪失されてはこちらも興醒めだからな」

 

 余裕の表情の死神。

 絶望と恐怖を司る、か。確かにこの力の差を見せ付けられたら、普通は戦意喪失して絶望するかもしれない。

 だが、生憎と俺は負けず嫌いな性格なんでね。そう簡単に敗北を認めるわけにはいかないのよ。

 女の子たちが見てる前では尚更な!

 

「いくぞ、ようこ」

 

「うん!」

 

 使い慣れた刀を二本、顕現させる。順手で柄を強く握り締めた。

 霊力を循環させて身体能力を向上させる。今の俺が出来る全力の強化。

 そして、床を思いっきり踏み抜き、稲妻のごとく跳び出した。

 ドンっと床が大きく陥没し、放射状にひび割れる。それと同時に空気の波が衝撃波のように発生する。

 

「ほぅ」

 

 瞬きよりも短い時間で接近した俺は気合の声を上げながら、両手の刀を縦横無尽に走らせた。

 斬っても斬っても再生するのなら、再生できなくなるまで斬り続けてやる。そんな熱情を刀に注ぎこみながら、息もつかぬ連撃を繰り広げた。

 やはり死神は無抵抗。防御姿勢も取らず襲い掛かってくる凶刃にその身を晒している。

 袈裟懸け、横薙ぎ、振り下ろし、斬り上げ、逆袈裟懸け。ステップを刻むように立ち位置を変え、怒涛の勢いで切り刻む。

 二十、三十と瞬く間に斬撃を積み重ねていき、有酸素運動から無酸素運動へ切り替わる。無意識の内に小さく雄叫びを上げていた。

 俺の実力は師匠のような超人の域には程遠い。音を置き去りにするような斬撃なんて放てないし、剣圧を飛ばして相手を斬るなんて不可能だ。

 そんな俺が持つ唯一の強み。それは、俺の能力である【霊力を物質化する力】にあると思う。

 霊力を元にした武器の創造。それは俺の手数の多さに直結する。

 屈むと同時に死神の両足を刀で突き刺し、転がって距離を取る。

 

「大じゃえんっ!」

 

 ようこの支援。死神の体を紅蓮の炎が包み込んだ。

 その隙に次の武器を創造。

 

「創造開始」

 

 生み出すは一本の槍。刺突を目的とした長柄の武器。

 鋭く尖った菱形状の穂先を死神に向け、全力で踏み込むと同時に突く。

 刀や剣などが線での攻撃なら、槍は点での攻撃だ。

 大気をボッと穿ち、死神の腹部、脇腹、心臓、喉に穴が開いた。

 今の俺が出来る全力の突きは一秒で四発。突く速度と槍を引く速度はほぼ同じ。

 十数回、死神の体に穴を開けた後、クルッと槍を回転させて刃と逆の先天部分である石突きで膝を叩く。

 人体の構造上、膝の真横を叩かれると力が抜ける。ガクッと膝が抜けたところを狙い、クルッと回して軌道を修正した石突きで足を掬うように打った。

 足を固定していた刀が砕け、スパァンッ、と足元を掬われて宙に浮く死神。一回転させて遠心力を加えた石突きを無防備な腹に向けて思いっきり振り下ろした。

 轟音とともに床が大きくひび割れ、破片が飛び散る。

 呻き声一つ漏らさない死神の口角は小さく上がっていた。

 

「まだまだ……っ!」

 

 膝を曲げて大きくその場でジャンプ。身体強化を施した跳躍は十メートルほど跳び上がることができた。

 片手で持った槍を大きく振りかぶると、渾身の力を込めて真下に投擲。

 死神の腹を貫いた槍は床に半ばまで突き刺さった。

 

「……ようこ!」

 

「うん……っ! くらえ! とくだ~い、大じゃえん改っ!!」

 

 ピッとようこが指差すと、槍で床に縫いとめられていた死神が巨大な火柱に包まれた。その炎は上空にいた俺の元まで達するほど。

 あらかじめ想像してあった、体がすっぽりと隠れるほど大きな楯を創造して炎から身を守る。

 身を守ることに成功したはいいが、流石に熱い!

 熱気までやり過ごすことは出来ないから、そこは我慢だ。

 渦巻く炎をやり過ごしたらすぐに楯を投げ捨て、先ほど創造した大剣を再び作り出す。

 そして、両手で強く握り締めた無骨の大剣を大上段から斬り下ろした。

 

「はぁぁ……っ!」

 

 体重と落下速度も加えた一撃は無数の煙の筋を上げる死神を一刀のもと両断にする。

 爆音を響かせながら床ごと盛大に斬り裂いた。

 斬撃の爪痕が残った床に仰向けの状態で横になっている死神。その体は見事に左右で分断されていた。

 今度はすぐ修復される様子は見られない。いい加減ダメージが通ったようだ。

 しかし、喜びもつかの間。

 両断された状態の死神はくっくっく、と喉の奥で押し殺すように笑い始めた。

 

「――まさかこの私を幾度となく分断するとは。人間とは脆く弱い生き物だと思っていたが、少し認識を改める必要があるか」

 

 左右に両断された状態でどうやって喋っているのか判らないが、死神の体が磁石のように引かれ合い、ピタッと切断面を合わせた。

 断面がすぅっと消えていく。焼け焦げ、破れたローブも元通りに修復されてしまった。

 

「しかし、種族の垣根を越えることはできない」

 

 ゆっくりと立ち上がり、コキッと首を鳴らす。

 その姿はまったくのノーダメージで、この程度の攻撃は屁でもないと言外に示しているかのようだった。

 

「人間にしてはなかなかやる方だが、その程度では私にダメージを負わせることは不可能だ。なに、嘆くことはない。これは当然の結果だ」

 

 俺の隣にやってくるようこ。後ろを振り向くと、両手を祈るように胸の前で組んだなでしこが不安そうな顔で見つめている。いつの間にか、なでしこを背にする形の立ち位置になっていた。

 

「どれ、一つ絶対的な力の差というのを教えてあげようか」

 

 死神は俺たちと向き合うと、静かに右手をかざした。

 そして――。

 

拡散せし波動の再収束(イグナイト・パリング)

 

 死神の手から無形の波動が放たれる。

 音波のように放たれた無数の波動には気が遠くなるほど膨大な力が宿っていて、俺たちの鼓膜が悲鳴を上げた。

 キィーン、と耳鳴りが響くなか立っていられず床に膝をつけた。平衡感覚が狂わされたのだ。

 

「あぁ……っ!」

 

「耳が、痛い……!」

 

 耳を押さえたなでしことようこも、たまらず膝をつけていた。

 波動が伝わった床も大きくひび割れていく。

 一秒だったかもしれないし、十秒だったかもしれない。

 気が遠くなる時間のなか、不意に波動が収まる。

 その途端――。

 凄まじい轟音と衝撃が辺り一面を襲った。

 

 




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