いぬがみっ!   作:ポチ&タマ

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 ご指摘を頂きまして、以下を修正します。
・3歳 → 5歳
・啓太の容姿の詳細を追加。

 前話にて以下を修正しました。
・3歳で歩けるようになるのを1歳半に修正。
・それに伴い、歩けるようになった当時の様子を追加。



第三話「試験前日」

 

「むーん」

 

 姿見に映る自分をジッと見つめる。鏡の中の自分も無表情でジッとこちらを見つめ返してくる。

 に、ニコッ。

 そんな自分に微笑みかけるが、鏡の向こうの自分はギ、ギギギギ、とぎこちなく頬を引き攣らせた。

 

「……はぁ」

 

 ため息が出る。即座に無表情へと戻る自分に再びため息が漏れた。

 あ、どうも川平啓太です。時が経つのは早いもので先月五歳になりました。

 さて、活発に動き回れる年齢となった俺ですが、今現在ある悩み事に頭を痛めています。

 その悩みですが……。

 私、超無愛想な男の子のようです。

 と、いうのもこのマイフェイス、感じた喜怒哀楽を表に出すのが苦手のようで、もう無表情がデフォルトになってしまっているのだ。

 まるで表情筋はストライキして三叉神経は仕事をサボっているのではと勘繰ってしまうほど表情が乏しい。

 しかも喋ろうにも何故か短文ばかりで長文は息継ぎしないと喋れないという制限つき。

 無口無表情で同年代の子たちとは遊ばず、書斎の本を読んでいることから、本家の人たちからは薄気味悪く思われていたりする。お婆ちゃんやには心配をかけれしまっているし。

 なんてこった……俺、軽くコミュ症じゃねえか!

 新たな事実に愕然とした俺はコミュ症を改善するべく、こうして鏡の前で笑顔を作る練習をしているのだ。

 

「……ニコッ」

 

 ちっ、口で出してもダメか。

 あかんよあかんよ。このままじゃ友達出来へんよ。ぼっちになってまうがな!

 こんなコミュ症に憑こうと思う犬神なんかいないだろうし、そうなったら犬神使いになれないかも!

 

「うばー……!」

 

 ……ぬぁぁぁぁ! そんな最悪な未来を想像しちまった!

 ちくしょう! なんとしてもコミュ症を脱しなければ俺に未来はない!

 

「……」

 

 改めて鏡に移る自分の容姿を眺める。

 お婆ちゃんの犬神であるはけいわく、若かりし頃の主とそっくりの姿らしいこの身体。

 耳を隠す長さまである薄茶の髪に焦げ茶色の瞳。中性的な顔立ちはそれっぽい格好をすれば女の子に見えなくもない。まだ五歳だからと自分に言い聞かせる始末。大きくなったらタバコが似合うナイスガイになるんだ……。

 目指せバンダナ蛇男。

 しっかし、結構鍛錬で身体を鍛えているのに肉体的変化はあまり感じられないんだが。

 筋肉がついていないのはまだいい。ただ、なぜ未だに俺の肌はスベスベなんだ?

 ファン○ーションとか使ってないぞ??

 

「啓太様? どうされました?」

 

「……はげ」

 

 いつの間にか背後にお婆ちゃんの犬神であるはけがひっそりと立っていた。

 彼は俺の言葉に少しだけ顔を歪める。何故かはけの名前だけ正しく発音出来ないのだ。

 

「啓太様、はけです」

 

「はげ」

 

「……まあいいでしょう。それよりどうされました?」

 

「ん。なんでもない」

 

「左様ですか。では、主が呼んでいますので参りましょう」

 

「ん」

 

 はけと手を繋ぎとてとて歩く。

 彼に手を引かれるまま大広間へと向かう。あ、どうもこんにちは。

 すれ違う女中さんたちが頭を下げるので、俺もペコッと会釈する。無口無表情なのだからせめて愛想よくいかないとな。

 見れば女中さんたちが持つお盆のは湯飲みが複数ある。ということは、今日は誰か来てるのかな?

 ばいばいと手を振って先に進む。

 大広間の前まで来ると、扉越しにわいわいと賑やかな声が聞こえてきた。

 

「失礼。啓太様をお連れしま――」

 

「なんだと貴様! もう一度言ってみろっ!」

 

 襖をあけると怒声が出迎えた。

 なんだなんだ喧嘩か? いいぞもっとやれ!

 外面は涼しげな顔だが内心野次馬根性丸出しで騒ぎの中心を見てみる。

 騒いでるのは錫杖を握り締めた禿頭のお坊さんだった。怒りからか顔に血を上らせたその姿はまさに茹で蛸のようだった。

 お坊さん姿のオッサンが怒りを向けているのは何故かつなぎ姿の青年。彫りの深い顔が妙に渋い……。

 あー、このオッサンか。また騒いでんのかこの人は。

 もう一人の方は初めて見る顔だがオッサンはよく川平家に出入りするためか、何度か見かけた覚えがある。

 

「ああ、何度でも言ってやろう。刀自に大見得切って半ば無理やり依頼を横取りしたくせに悪霊を払えずおめおめと逃げ帰った自称霊媒師くん。どの面下げてここに来たのかな?」

 

「貴様……ッ、何度も言っているであろうが。あれは俺が逃げ出したのではなく、後輩に譲ってやったのだ! ベテランの俺が倒してしまっては将来有望の若者の成長の機会を奪ってしまうからな」

 

「ほう、成長の機会をねぇ。私が聞いた話では威勢よく向かったがまったく歯が立たず、連れていた後輩とやらに押し付けて自分はその背中に隠れていたとあるが。今時はこういうのを後輩に譲るというのかな?」

 

「だ、黙れ黙れ黙れ! さっきから黙って聞いていれば貴様、俺を誰だと心得る! 俺は京都にその人ありとまで言われた『不殺の天山』だぞ!」

 

「不殺ね。この話を聞いた後じゃ、その異名も真正面から受け止められないな。どうせ倒せなかったから不殺になったんじゃないのか?」

 

「き、ききき貴様ぁぁぁ~!!」

 

 おうおう、言うねぇあのつなぎのおっちゃん。ていうか逃げ帰ったのかよ。それでまあよくここに帰ってこれたもんだ。

 ただまあ、いつまでもこの言い争いを聞いてたら時間の無駄になるしな。さっさとお婆ちゃんの元に向かうか。

 の手から離れ、一人上座で瞑目するお婆ちゃんの元に向かう。

 

「お婆ちゃん、きた――」

 

「おや、啓太殿ではないですか!」

 

「……うあー」

 

 なんかオッサンの標的になっちまったんだけど。

 俺の姿を目にしたオッサンが何故かこちらにやってくる。というか、さっきまでの言い合いはどうしたお前。

 こちらに近づいてきたオッサンは勝手に俺の手を握りぶんぶんと上下させる。

 

「お久しぶりですな。自分、京都で霊媒師をやっております天山といいます。啓太殿の噂は前々から耳にしておりまして、是非――」

 

 うわー、始まったよ。まったく下心見え見えなんだけど。

 川平は裏の業界では名の知れた家系らしく、様々な業界の要人とパイプを持っている。そのため、川平の人間と強いパイプを持とうとする人間は多々居り、このオッサンもそのうちの一人だ。

 しかも俺は川平家の血筋に生まれた上に祖母の孫のためか、俺に取り入ろうとする輩が少なからずいる。酷い場合は子供だからと自分の傀儡にしようと画策する奴もいる。

 

「……ちっ、なんの反応もなしかよ、人形が」

 

 俺の反応が芳しくないためか、舌打ちとともに小さく罵言を口にする。

 うは、なんかここまでくると、もう怒りや呆れを通り越して笑えてくるな!

 ちなみに人形とは俺のことである。無口無表情だから人形みたいなんだとさ。もっぱら川平に悪意を持っている三流霊能者たちが好んで使う言葉なんだけどね。

 さて、俺がこういう奴らに言う言葉はただ一つだ。

 

「うっさい、つるっぱげ」

 

「な、なななっ」

 

 怒りのあまり戦慄くオッサン。そんな彼にベーっと舌を出して見せた。

 

「こ、このガキ……! 人形風情が舐めた口を聞きおって!」

 

 オッサンが錫杖を持つ手に力を込めた時だった。

 音もなく背後に忍び寄ったの、冷たい氷のような声が耳に届いたのは。

 

「そこまでです。それ以上啓太様に無礼を働くようなら強制的に退室させます」

 

 はけの身体から霊力が立ち上る。普段から冷静沈着のはけがここまで怒りを露にするとはちょっと意外だ。

 だけど、その心遣いは嬉しい。

 

「ちっ! こんなところ二度と来んわ!」

 

 はけの無言のプレッシャーと周囲の視線に晒されたオッサンは最後の最後まで悪態をつきながらも去って行った。

 

「はげ」

 

「はい」

 

「ありがとう」

 

「……いえ、当然のことをしたまでです」

 

 恭しく頭を下げるはけ。……これからははけと呼べるように発音の練習をするとしよう。

 何事もなかったかのようにお婆ちゃんの元に向かう。

 

「お婆ちゃん、きたよ」

 

「おお、突然呼び出してすまなかったね。色々と言われていたようだけど、大丈夫かい?」

 

「ん。問題ない」

 

「そうかい。さて、ここに啓太を呼んだのはね、明日啓太には基礎霊力を測る試験を受けてもらうためじゃ」

 

 どよめく会場。口々についに来たか、との言葉が聞こえる。

 はて、基礎霊力を測る試験というと……。

 

「……漬け物石?」

 

「おや、よく知ってるね」

 

 確か書斎の本で読んだ内容だと、漬け物石に霊力をぶつけてその損傷具合で保有霊力を数値化する試験、だったな。

 漬け物石を使うユニーク内容だったためよく覚えている。

 

「明日?」

 

「そうじゃ。啓太のほかにも受けてもらう子供たちがいるから、全員で十人たらずじゃな。これを機に友達を作りなさい」

 

「……頑張る」

 

「うむ。明日は寝坊しないようにの」

 

 基礎霊力を測る試験ね。さて、どうするべきか……。

 

 


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