いぬがみっ!   作:ポチ&タマ

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 六話目
 書いてて楽しかった(笑)


第四十九話「幼女」

 

 

 あぐらをかいた俺の膝の上には二人の幼女が腰掛けている。

 腰まである濃緑色のストレートヘアのようこ似の幼女。膝の上に座って身動ぎせず、ジッと前を見据えている。

 両端だけ肩に掛かった桃色のショートボブのなでしこ似の幼女。こちらは落ち着きがなさそうにキョロキョロ周りを見回している。

 二匹の犬神と非常によく似た幼女。そして、姿を消したなでしこたち。

 はい、状況を見てどう考えてもこの幼女が当人ですね。なんでこうなっちまったんだ!

 

「……それで、なでしこたちがこうなったのは、その退化水のせいってこと?」

 

「はいっす。元々退化水はボクたちタヌキが求愛する時に少量顔に塗って使うっす。人間とさんでいうところの香水のようなものっすね。ただ成分にヤコバ草っていうのを使ってまして、これを食べると一時的に体が小さくなっちゃうんっすよ。それで退化水も同じ効能がありまして、これを飲むと小さくなっちゃうだけでなく、知能も幼くなっちゃうんっす」

 

マジか。なんてこった……プレミアなお酒だと思ったら幼女になる水だったなんて!

あれ? でも俺はなんともないけど。

 

「あー、それはっすね、人間さんには効かないんっす。効能があるのは妖怪だけなんっすよ。だから犬神さんも効果が出てしまったわけでして」

 

 本当に申し訳ありませんっす!

 土下座する勢いで深く頭を下げてくるタヌキ。とりあえず頭を上げるように言った。

 

「こうなったものは仕方ない。効果が切れるまでどのくらい?」

 

「コップ一杯分くらいなら大体一日っすね」

 

 一日か、よかった。これで半年や一年って言われた時はどうしようかと思ったよ。

 一日くらいならなんとかなるだろう。ようこたちの世話くらい。幸い今日は依頼入っていないし。

 しかし、なでしこたちが幼女化するとは思ってもみなかったけど、可愛いなぁ。二人ともそのまま幼くした感じで。カメラがあったら絶対に撮ってたわ。あとで怒られるとしても。

 

 でも意外や意外。正確は今の彼女たちとは全然違うんだな。

 なでしこは内向的でちょっと怖がりな感じ。さっきから俺の服を掴んでは部屋の中を見回したり、タヌキが喋るとビクッと体を震わせたりしている。

 そして、ようこ。意外と言えばこの子が一番意外だった。

 俺の膝に座ってからまったく身動ぎ一つしないんだ。あまりに動かないから寝てるんじゃないかと顔を覗き込めば、ちゃんと反応して見上げてくる。

 だけど、その目に感情らしい色があまりないんだよね。表情も無表情だし。

 まるで昔の俺を見ているかのようだ。今でこそ少し表情を動かせるようになった俺だが、昔はそれこそ表情筋ストライキ起こしてるのと言いたくなるくらいまったくの無表情だったから。

 今のようこが丁度そんな感じ。無表情を素にした感じで。よく親戚連中に人形と揶揄されていた俺だけど、俺以上に人形っぽいんだもの。

 

 不意にようこが動いた。

 それまでジッと前を見ていた彼女は振り返ってこちらを見上げると、幼い声でこう言った。

 

「けーた、だっこ」

 

 んっ、と無表情で手を差し伸べてくる。ああ、こういう甘えん坊なところは大して変わっていないのね。

 こう言ったら変だが、ようこがちゃんとようこしていることに少し安堵を覚えた俺だった。

 

「はいはい……」

 

 一旦なでしこを膝から降ろし、立ち上がりようこを抱き上げる。幼女化したから非常に軽い。

 ようこはかすかに頷くと俺の首に腕を回してきた。

 俺は子供をあやすようにぽんぽんと背中を軽く叩いた。

 

「……満足?」

 

「うん」

 

 ならよかった。

 ズボンを引っ張られる感覚に下を見る。そこにはもう一人の幼女、なでしこが泣きそうな顔で俺を見上げていた。って、泣きそうな顔!?

 ど、どうした! おなか痛いのか? それともトイレか!?

 

「けーたしゃまぁ……なでしこもだっこぉ」

 

 ――ズギューンッ、と。俺のハートを何かで射抜かれた……。

 思わずなでしこを抱き締めたくなる、が――。

 

「……ぐっ」

 

 そんな邪悪な欲求を唇を噛んで耐え、鋼の精神で自粛する。

 大きく深呼吸を一つ。そこでようやく、本来の精神状態に戻ることが出来た。

 ――危ないところだった。あやうくキャラ崩壊を起こすところだった。

 なんだろう。なでしこだと、ともはねや幼女化したようこにも感じない保護欲――父性のようなものが沸き起こってくる。

 この子は魔性の子や! 幼いながらにして魔性の子なんや!

 脳内でそんなくだらないログを流していると、無視されていると勘違いしたなでしこが目に涙を溜めはじめたぁぁぁぁぁ!

 

「ぐすっ……だっこぉぉ……」

 

「今すぐ」

 

 ようこを一旦降ろし、今度はなでしこを抱き上げる。

 キョトンとした顔のなでしこは何が起きたのか理解すると、にぱっと花が咲いたような笑顔を浮かべギュッと首に抱きついてきた。

 非常に上機嫌なようで、尻尾がパタパタと揺れている。なでしこは抱っこが好きだったんだな……。

 大人になったなでしこもそうなのかしら? 今度試してみたい。多分無理だろうけど!

 

「けーたしゃま、けーたしゃま」

 

「……ん?」

 

 頬をぺちぺちされてなでしこに視線を向ける。

 至近距離から翡翠色の瞳が真っ直ぐ俺を見つめていて、不覚にも一瞬ドキッとしてしまった。

 

「あのね? えっと、なでしこね?」

 

 なにやらもじもじし出す。恥ずかしそうに頬を赤らめたその姿は幼女といえど女の子なんだな、と感じさせられた。そういえば、幼い女の子と書いて幼女だったね。

 ぼんやりした目でなでしこを見ていると、もじもじしている彼女はギュッと目を瞑り「えいっ」と可愛らしい掛け声を上げて。

 

"チュッ♪"

 

 と、頬に唇を落としてきた。

 ――……な、なでしこにキスされたぁぁぁぁぁぁ!?

 ビックリした顔で彼女を見ると、なでしこは「えへへ……」と可愛らしい笑顔を向けてきましたよこんちくしょう!

 

「なでしこ、けーたしゃまのことすきっ」

 

「ようこも」

 

 下から幼い声が。見下ろすと俺のズボンを小さな手で掴んだようこが紅緋色の目でこちらを見上げていた。

 抑揚のない声でありながら、純粋な気持ちが篭った言葉を投げかけてくれる。

 

「よーこも、けーたのことすき」

 

 嬉しいやら気恥ずかしいやら、なんとも言えない感情がこみ上げてくる。

 ようこはそのまま透明な目でこちらを見上げながら。

 

「だから、よーこもけーたにちゅーする」

 

「……それはちょっと待つ、うん」

 

 ちなみにタヌキは、なでしこがキスしてきたあたりでずっと目を塞いでました。ボク見てませんよー、とでも言いたげにな。

 

 

 

 1

 

 

 

 とりあえず、今日一日なんとか乗越えればいいんだ。

 だぼだぼな服から、至急幼女服のワンピースを創造してそれに着替えさせた俺。

 子供向けのテレビ番組を例の如くなでしこたちを膝の上に乗せた状態で一緒に見ながら、今日一日の予定を頭の中で整理していた。

 お昼はすでに食べたから夕食を外で済ませて――あ、タヌキがいるから無理か。じゃあ出前でも頼むか。

 んで、学校の宿題を済ませて、二人を風呂に入れて、寝かしつけて一日終わりか。

 何気に子守りをするのって初めてだな。親戚の子供は殆んど同年代だし、幼い子を相手にしたのはともはねくらいだ。

 テレビではお姉さんが子供たち相手に紙芝居をしている。大人しくテレビを見ていたようこがこんなことを聞いてきた。

 

「けーた。あかちゃんってどこからくるの?」

 

 ……おうふ。

 子供に聞かれたら困る質問ベスト三に入る話じゃないですかやだー。

 見た目相応に知能も低下しているため、こういう子供特有の質問とかしてくる。先ほども「なんで空は青いの?」と聞かれたばかりだ。

 なでしこも興味があるのか、無垢な目で見上げてくる。

 どうしよう、なんて答えようか。めしべとおしべの話をしても分からないだろうし、やっぱりメジャーなキャベツ畑やこうのとりの話が無難か?

 世のお父さんお母さんも苦労して答えてるんだなぁ。

 寝転がっていたタヌキもにょきっと顔を上げた。

 

「……あー、あれだ。コウノトリが運んでくる」

 

「こうのとり? とりがあかちゃんはこんでくるの?」

 

「そう。赤ちゃんが欲しいって神様に頼む。コウノトリが赤ちゃん運んでくる」

 

 まあ、そのためにはコウノトリをおびき寄せるための餌を庭にまかないといけないがな!

 

「……? かみしゃまにたのめばきてくれるの? なでしこもたのむ!」

 

 はいはーい! と手を上げるなでしこ。

 幼少期のなでしこは内向的だけど打ち解けたら活発になるタイプなのか。それだけ心を許してくれているということなのかな。

 あの大和撫子を体現したようななでしこにこんな時期があったと思うと感慨深いなぁ。

 微笑ましい気持ちになりながら優しく聞いた。

 

「……なでしこ。赤ちゃん欲しいの?」

 

「うん! あのね、あかちゃんがきたらね? なでしこがおねえちゃんになるの!」

 

 そっかー、赤ちゃんが来たらお姉ちゃんになるのかー。

 非常にほっこりしました。

 

「よーこも」

 

「ん?」

 

「よーこもあかちゃんほしい。……なでしこよりはやく」

 

 何故かなでしこに対抗するようにようこが食いつく。

 お子様の対抗発言になでしこがむっと顔をしかめた。

 

「なでしこのほうがはやいもんっ」

 

「よーこのほうがはやい」

 

「なでしこ!」

 

「よーこ」

 

「むーっ」

 

「(・ε・) 」

 

 こらこら喧嘩しないの。ようこも無表情で唇だけ尖らせない。

 味のある顔をするようこに苦笑すると、タヌキが要らぬことを口にした。

 

「でも子供が欲しいならまずは(つがい)にならないといけないっすね」

 

『つがい?』

 

 この頃のなでしこたちは(つがい)とは何か、よく知らないようだ。

 

「そうっす。お父とお母になるんすよ。人間でいうところの結婚をするんっす」

 

「けっこん」

 

「けっこん……」

 

 感情のよく読めない顔で「けっこん」と口ずさむようこ。意味を分かっているのだろうか。

 なでしこは頬を赤くして軽く俯いている。こっちは意味を理解しているようだ。

 こくこくと頷いたようこが顔を上げた。そして、これまた厄介な爆弾を投げかけてくる。

 

「よーこ、けーたとけっこんする」

 

「むっ……!」

 

「そうすればあかちゃん、とりがはこんでくる」

 

 可愛らしいことを言ってくれる。

 しかし、なでしこは看過できないのか、再びようこに食ってかかった。

 幼いなでしこは結構負けず嫌いなんだな。それとも同じ犬神のようこに対抗意識があるのかな? いるよね、やけに対抗意識を持ってる子って。

 

「なでしこも! なでしこもけーたしゃまとけっこんしゅる!」

 

 そういって抱きついてくるなでしこ。よーこも無言で身を寄せてきた。

 幼女に挟まれる俺。子供は体温が高いから熱い。でも嬉しいっす。

 もう二人ともテレビそっちのけだね。

 

「ううん。よーこがけっこんする」

 

「なでしこだもんっ」

 

「よーこ」

 

「なでしこ!」

 

 そして勃発する第二次幼女大戦。お互いに睨み合うだけで掴みあいにならないぶん平和的だ。

 このままだと俺まで飛び火しそうだから、そうそうに話題を変えないと。なにか二人の気を逸らすものはないかな……。

 そこで思い出したのが、昨日コンビニで買ってきたアイスだった。

 

「……アイスあるけど、食べる?」

 

 二人の目が輝く。

 

「あいすっ」

 

「食べる!」

 

 喧嘩していたことなど忘れ、二人は冷蔵庫に向かって掛けて行った。

 みんな大好きスーパーカップのバニラ味をなでしこ、抹茶味をようこに渡しテーブルにつく。

 二人してシャキーン!と右手にスプーンを構えた。

 

「あむあむ……」

 

「おいしー!」

 

 スプーンごとアイスを口の中であむあむし、ゆっくり溶かして食べるようこ。

 ひょいっ、ぱく、ひょいっ、ぱく、ひょいっ、ぱく、と一定のリズムで淀みなくスプーンを口に運ぶなでしこ。

 アイスを食べる姿だけでも二人の性格がよく現れていた。

 ちなみにタヌキはアイスが食べれないようなので、たまたまあった饅頭を渡してる。

 アイスも食べ終え、そろそろ飯時なので出前を頼むことに。とはいってもなでしこたちだけでなくタヌキもいるからな。何を頼もうか。

 

「……タヌキ、ピザって食べれる?」

 

「ピザッすか? 大好物っす! 滅多に食べれないっすから」

 

 食べれるのかよ。化けタヌキの生態は普通のタヌキとは違うのかね。

 

「……なでしこ、ようこ。ピザでいい?」

 

「うん」

 

「ちーずとろとろ~!」

 

 二人も大丈夫なようだ。

 じゃあ普通のマルゲリータピザと子供に受けそうなハワイアンデライトとやつにしようかね。

 ピ○ーラに出前を頼み、幼女の相手をしながら待つこと三十分。

 注文したピザが到着した。

 

「……ようこ、なでしこ。皿出して」

 

「うん」

 

「はーい!」

 

 なでしこたちに食器を出すように頼み、ピザをテーブルの中央に置く。

 外箱を開けると、ピザ特有の芳ばしい香りが漂ってきた。

 

「いい匂い~」

 

 なでしこがうっとりと目を閉じて匂いをかぐ。パタパタと尻尾が揺れていた。

 自分となでしこ、ようこ、そしてタヌキの分とピザを取り分ける。

 

「すみません啓太さん。ボクまでご馳走になって」

 

「気にしない」

 

「でも、犬神さんがこうなったのもボクのせいですし。御礼をするはずだったのに、ご迷惑をかけてしまうようじゃタヌキ失格っす……」

 

 そう言って俯くタヌキ。悔し涙なのか、目から透明の雫がぽろぽろと落ちた。

 なでしこたちが幼女化してから元気がないなと思ったけど、やっぱりまだ気にしていたのか。

 こうして三年も前の出来事の礼をしにわざわざうちまで来たのだ。責任感が強いタヌキだからこそ余計に塞ぎ込んでいるのだろう。

 なでしこたちには悪いがぶっちゃけ俺からすれば、この状況は十分お礼に値するんだけどな。彼女たちの幼少期には前々から興味があったし、これがこんな形で叶うとは思ってもみなかった。

 人形みたいに無愛想だけど愛嬌があるようこや、今の姿からは想像がつかない天真爛漫ななでしこ。俺の知らない彼女たちの一面を知ることができただけで、十分恩返しを受けたと思っている。

 席を立ったなでしことようこは悲しむタヌキの頭を撫でて慰めた。

 

「たぬき、かなしいの? いいこいいこしてあげる」

 

「たぬきさんなかないで? なでしこもかなしくなっちゃうよ」

 

 幼女二人に慰められるタヌキの図。ああ、本当にカメラを持っていないことが悔やまれる!

 俺も出来るだけ柔らかい声で落ち込むタヌキに語りかけた。

 

「……本当に気にしなくていい。失敗は誰でもある。御礼の気持ちだけでも本当に嬉しい」

 

「うぅ、啓太さん……犬神さん……! ボク、一人前のタヌキになったら、絶対に啓太さんに恩返ししに来るっす!」

 

 また恩返しする気かいな! 今度はなんの恩だ!?

 でもまあ、元気が出たようだから水を差すのもなんだし、ここは曖昧に頷いておこう。

 

「……楽しみにしてる。じゃあ食べる。……いただきます」

 

 いただきますを唱和した俺たちは、熱々のピザに手を伸ばした。

 タヌキの足じゃ流石に取れないようだったから、結局俺が食べさせるハメになったけどな!

 どうやってピザを食べてきたんだこいつ等は……。

 

 

 

 2

 

 

 

 お子様の夜は早いと言うことでお決まりの絵本やお話で寝かしつけ、俺もなでしこたちの隣で寝た。三人で川の字になるようにだな。ちなみにタヌキは俺の枕元である。

 んで、翌朝。昨夜は就寝が早かったこともあり、五時前に起床。

 どことなく圧迫感を覚えたから隣を見ると、ようこが見慣れた美少女姿で俺に抱きつく形で寝ていたのだ。

 左腕に感じる柔らかな胸の感触や女の子の匂いなどを全神経を働かせて意識の彼方へ飛ばし、ようこの奥のほうを見る。

 ようこの奥で眠るなでしこも、ちゃんと大人の姿に戻っていた。

 どうやらタヌキの言うとおり、一日限りの効果だったらしい。

 なんだかんだで気疲れしていたのか、ようやく日常が戻ったと深く息を吐き出す。幼女に合わせて創造した服も今の二人に合う様に大きくなってたけど残念とか思ってない。俺は紳士だから!

 

 ――そういえば、昨日の記憶ってどうなってるんだ……?

 

 不意にその考えに気がついた。

 もし、記憶にあるようなら。我が犬神たちは地獄を見るかもしれない――。

 とばっちりを受ける覚悟は、してた方がいいかも……?

 

「ん、んん……ふぁぁ」

 

 最初に目を覚ましたのはやはりというか。我が家で家事を担当するなでしこだった。

 上体を起こし小さく欠伸をしたなでしこは、隣で眠るようこを見て、その隣で彼女に抱きつかれている俺を見て――固まった。

 

「えっ……え、えっ?」

 

 思考が働かないようで意味のない音が漏れる。

 なるべく刺激しないように、優しく声をかけた。

 

「……おはよう」

 

「お、おはようございます、啓太様……。えっ? ええっ? えっと……どういう状況でしょう?」

 

「……昨日のこと、覚えていない?」

 

「昨日ですか……?」

 

 これは一種の賭けだが、どうだ……?

 なでしこは記憶を遡るようにしばし目を閉じていたが、やがて小さく首を振った。

 

「……ダメです、覚えていません。昨日何があったんですか啓太様?」

 

「んー、なに朝ぁ……?」

 

 ようこも目が覚めたようで俺の体を解放し、もぞもぞと起き上がる。

 そして、彼女も俺となでしこ、そして自分を見下ろし、きゃっと可愛らしく口元に手を当てた。

 

「ケイタのエッチー。同時に相手するつもりなの?」

 

「なんの話だ……」

 

「あいた」

 

 平常運転でからかってくるようこの頭をぺしっと叩き、彼女たちに軽く説明する。

 昨日はタヌキが三年前の恩返しにやってきて、そのお礼として持って来てくれたお酒を飲んで酔ってしまったこと。

 二人とも早々に酔いつぶれてしまったため同じ布団に寝かせ、自分も軽く酔いが回ったから一緒に寝たこと。

 そう説明すると、なでしこは頭を下げてきた!

 ええぇぇぇ! なんで頭下げんのぉぉぉ!?

 

「すみません啓太様。昨夜はお手間をお掛けしてしまって。それにしても私が酔いつぶれてしまうなんて……長らくお酒を飲まなかったからでしょうか?」

 

「気にしない。俺もあまり覚えてないし」

 

「うー、わたしも全然覚えてないわ」

 

 首を傾げるようこ。

 とりあえず、二人とも昨日の記憶はないようだ。

 よかったよかった、なのかな?

 

「すぴー……」

 

 そして一匹だけ気持ち良さそうに鼻ちょうちんを膨らませているタヌキ。

 動物の朝って早いんじゃないの?

 

 




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