いぬがみっ!   作:ポチ&タマ

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 H.28 12/19 仙界で術関係を学んだ仙人の名前を変更。【探耽究求】は名前だけ灼眼のシャナから拝借しました。



第四十話「級友(下)」

 

 

 今回の悪霊は隠密性に優れているようだ。

 普通の悪霊と比較するとちょいと面倒な相手だが、まあそれならそれでやりようはある。

 兄に縋っていた妹ちゃんが落ち着いたてきた頃を見計らい、いくつか質問をした。

 

「いつから変だなって思った?」

 

「一週間くらい前から……」

 

「なんで変だなって思った?」

 

「時々記憶がないの。起きたら物がこわれてて……。病気じゃないかなってお医者さんに行ったんだけど、変なところはないって」

 

「なるほど。いつ頃記憶が無くなる? 昼間? それとも夜?」

 

「う~ん、夜……かな?」

 

「記憶が無くなる前に気がついたこととかある?」

 

「……そういえば。少し寒気がする、かな? でも沙耶の勘違いかもしれない」

 

「そう……わかった。ありがとう」

 

 それじゃあ今度は三島くんだな。ヘイ、お兄ちゃん! ちょっと話を聞かせてくれよ!

 本人に聞かれないように妹ちゃんから少し距離を取る。あ、ようこは妹ちゃんの相手をしてあげて。

 

「どのくらいの頻度で悪霊がくる?」

 

「そうだな……ここ最近だと頻繁だな。前に沙耶がおかしくなったのが一昨日だった」

 

「ん……。三島くんから見て、今日悪霊は来ると思う?」

 

「……多分、来るな。最近は一日置きで暴れまわるから、恐らく今日か明日辺りにでも」

 

 ふむふむ、なるほどね。だとすれば結構早く解決できるかもしれんな。

 俺がいる日に悪霊が出てきてくれる。いくら隠密性に優れていようが向こうからやってくるのなら祓うのはさして難しい話ではない。問題なのはどうやって居場所を特定するか、だったからな。

 まさに飛んで火にいる夏の虫。

 やっこさんも退魔師がいるなかで憑依しようとは思わんだろうから、ようこには奴が来るまで離れていてもらって、俺も霊力を抑えておこう。

 よしよし。だいぶプランが固まってきたぞ。

 

「それで川平。結局沙耶ちゃんの変貌は悪霊の仕業なのか?」

 

 おっといけない。その辺りのことを詳しく説明してなかったな。

 先輩の問いに肯定し、詳しい説明を始めた。

 

「……間違いない。本人の体に霊力の残滓が残ってた」

 

「霊力?」

 

「……まあ、指紋のようなもの。指紋が人それぞれ違うのと同じ。霊力の質も人それぞれ違う。ましてや負の霊力、悪霊以外考えられない」

 

「そうか、やっぱり霊の仕業なんだな……。それで、その悪霊はまだ沙耶に取り憑いているのか?」

 

 妹の身が心配なのだろう。不安そうな面持ちを浮かべていた。

 

「大丈夫。今は沙耶ちゃんの体から離れている」

 

「そうか!」

 

「でも――」

 

 ぱあっと花が咲いたかのように顔を輝かせる三島くんを遮って、言葉を続けた。

 喜んでるところごめんね。でもこれを言わないとぬか喜びさせちゃうから。

 

「このままだとまた同じことになると思う。肝心の悪霊を退治しないとダメ」

 

「ちっ、そうか……。その悪霊がどこにいるのか分かるか?」

 

「そこまでは。かなり隠密性に優れてる。見つけるのは難しい」

 

「マジかよ……」

 

 肩を落とし落胆の色を隠せない。しかしそんな三島くんを安心させるように先輩が肩を叩いた。

 

「安心しろ。川平ならなんとかしてくれるさ。なあ川平!」

 

 うっ、正直そんなに期待を寄せられるのも困りものなんですけど。まあなんとかしますけどね!

 任せろと言外に頷き返し、固めていたプランを提示した。

 俺の説明を受けていた三島くんは段々と顔を輝かせ、やがて獰猛に笑った。

 

「なるほどな。それならどうにかできそうだ」

 

「問題は奴が現れるか、だな」

 

「腰を据えて挑む」

 

 二人は小さく首肯して俺のプランに賛成してくれた。

 さて、後は妹ちゃんにも協力してもらうために簡単に説明しないと。インフォームドコンセント、インフォームドコンセント。

 不安を与えないように説明するのって結構頭を使うんだよな、こういうのって。

 膳は急げと言うことでようこにある道具を自宅から取りに行ってもらっているうちに、妹ちゃんの協力を得るための説明をする。不安を抱かせないように所々ぼかしながら五分、なんとか了承を得ることができた。

 

「ケイタ持ってきたよ~。これでいいの?」

 

「ん。ありがとう」

 

 ようこが持って来てくれた鞄を受け取り、軽く頭を撫でる。なんかお使いばかり任せてすまんな。

 一応、鞄を開けて中身をチェック。入れっぱなしだったから多分大丈夫だとは思うが……うん、ちゃんとあるな。

 数点ある道具のうち筆と墨汁を取り出した。

 

「習字?」

 

「ん……。書くのは文字じゃないけど」

 

 習字道具のそれをセット。霊力を注いだ墨に筆を浸す。

 さて、と。

 

「じゃあ、お願いできる?」

 

「……うん、恥ずかしいけど。こっち見ないでね?」

 

 頬を紅潮させた妹ちゃんが上着に手をかけたのを見て男衆は回れ右。背後で衣擦れの音がする中、小さく「……いいよ」と声が掛かった。

 振り返ると羞恥で顔を染めながら真っ白い背中を晒している妹ちゃんの姿が。上着で体の前面を隠しているとはいえ、やはり肌を晒すのは女の子にとってはとても恥ずかしいのだろう。

 妹ちゃんのためにも一秒でも早く済ませよう。さもないと、大魔王お兄さんが降臨しちゃう。

 殺気が鋭利な刃物となって背中にグサグサ刺さる中、墨汁が染みた筆を手に取った。

 

「始める。くすぐったいだろうけど、我慢して」

 

「う、うん。がんばる」

 

 では――。

 背中の中央ライン、肩甲骨の高さ――第五胸椎あたりに筆を置き、大きく円を描く。

 

「ん……!」

 

 続いて円の内側にもう一つ円を。円と円の間に出来たスペースを神代文字というアルファベットのような文字で埋めていく。

 次に円の中心に五芒星を描き、これまた神代文字をちょこちょこと付け足していく。

 

「ひぅっ……、んっ、ふぅっ……」

 

 しかし、仙界(向こう)で習った知識って意外と役立つんだよなぁ。俺の戦闘スタイルは後方支援じゃないからあまり使わないと思ってたけど。

 神言文字に楔形文字、梵字などどこの考古学で習うのこれって言いたくなるものを教わり、術の理念を習い、数々の術を構成している文字や記号の意味を叩き込まれたあの地獄の日々。前世の謎知識は糞ほどの役にも立たず、毎日知恵熱を出してたなぁ。まあそんなコンディションで師匠の修行や体作りに励んでた俺も俺だけどね!

 探耽究求の教授、教えてくれてありがとうございます! 当時は超スパルタだったからマジ泣きそうだったけど習った術、結構使えますよ!

 

「ん。これでよし」

 

「……できた?」

 

 妹ちゃんの背中に特性の墨を走らせた俺は完成したそれを見て満足げに頷いた。

 肌を筆でくすぐられて身をよじるのを我慢していた妹ちゃんは大きく息をついた。いやー、我慢してもらっちゃってゴメンネ!

 妹ちゃんの背中には魔方陣のような紋様と呪文が中央に描かれている。特性の墨に霊力を宿して書いたものだから乾けば肌と同化して墨が見えなくなるし、お風呂に入っても落ちることはない優れものである。

 前を服で隠していた妹ちゃんに礼を言い、上着を着てもらう。

 事が終わるのを傍でじっと見守っていた三島くんが近づいてきた。

 

「これで大丈夫なんだな?」

 

「ん。その道のプロから教わった術式だから、問題ない」

 

 まあ術の類はあまり得意ではないけどね。

 

「そうか……。じゃあ後は仕掛けをして待つだけだな」

 

「ん。早速準備する」

 

 鞄の中から拳大ほどの水晶玉をリビングに、等間隔になるように六つセットする。

 あまり活用する機会がなかった商売道具だ。今回は大いに活躍してもらおう。

 起動鍵を設定して……と。

 よし、これで準備OK。あとは獲物が引っかかるのを待つだけだ。

 

 俺の考えた作戦はいたってシンプルだ。

 まず悪霊対策その一として、リビングの四隅に水晶玉を設置。こいつを起動させると簡易結界を張ることができるため妹ちゃんには今日、明日となるべくこのリビングで生活してもらう。

 恐らく悪霊が活動を始めるのは夜だ。なので就寝の際もリビングで寝てもらい、悪霊をこのリビングへ誘い出す。もちろん一人だと怖いだろうから、寝るときは三島くんも一緒です。

 そして、妹ちゃんの背中には悪霊対策その二として俺手製の術式が書いてある。効果は悪意ある者の干渉を防ぐというもの。要は「こっちくんなっ」だ。

 これで悪霊が妹ちゃんに憑依しようとしても弾き出される。そして弾かれたところに結界を発動させて袋の鼠にするのだ。妹ちゃんたちにはすぐさま後退してもらい俺が盾となるため身の安全性もばっちり。某セキュリティ会社顔負けのディフェンス能力を見せ付けてやるぜ。

 悪霊がやってくるのは今日か明日と睨んでいる。そのため俺とようこは明日まで三島くんの家に泊めてもらうことになっている。

 まあ要約するとだ。

 

 妹ちゃんに干渉妨害の術式を施し、リビングに結界を張れるアイテム設置。

 ↓

 悪霊、そうと知らずノコノコやって来ては妹ちゃんに憑依しようとするも失敗する。

 ↓

 混乱している隙に乗じて結界発動。貴様はもう逃げられない!

 ↓

 バーカバーカ、悪霊のばぁぁぁかっ、絶望を抱いて溺死しろ!

 

 と、こんな感じのプランである。俺たちが滞在しているときに来てくれればあり難いんだけどなぁ。

 まあ気長に待ちますか。来ないなら来ないでまた考えればいいし。

 

 その日の夜は三島くんの手料理をご馳走になりました。

 うちのなでしこと負けず劣らずの料理だった。なんでも仕事の都合上両親が不在がちなため妹ちゃんの料理は三島くんが作っているらしい。だからエプロンがよく似合うんですね。

 妹ちゃん想いな上に熱い性格、家事も得意で料理は絶品。

 ……やべぇよ。もう今日だけで三島くんのイメージが完璧に砕け散ったよ。もう粉々。

 なんでこんな人が番長だなんて呼ばれてるんだろうか。

 疑問に思った俺は湯船に漬かりながら聞いてみた。え? 今どこかって? お風呂だよ。お・ふ・ろ!

 なんか知らんが今日一日でめっちゃ仲良くなった俺たちは親睦を深めるという名目で裸のお付き合いをすることになった。発案者はオタク先輩である。

 ようこも妹ちゃんと一緒にお風呂に入った。まあ護衛が必要だからね。きゃいきゃい楽しそうな声が聞こえてきましたよ。

 

「ああそれな。俺が一番知りたいわ」

 

「クックックッ、川島が番長とは……。まあ確かに頷ける見た目はしているがな」

 

 そして語られる番長秘話。その真実を聞き、俺は無言で湯船に沈んだ。

 

 

 

 1

 

 

 

 その時はなんの前触れもなくやってきた。

 夜十時を回ると、妹ちゃんは眠たそうに船をこいでいたため俺たちも早めに寝ようと布団を出した。とはいえ寝るのは俺とようこを除いた皆。俺たちは寝ずの番をするつもりだ。

 一日の徹夜くらいどうってことはない。修行時代は精神修行と称して七日間不眠で座禅を組んだこともあったし。

 ちょっとしたお泊り会のような浮かれた空気が流れるなか、そろそろ寝ようかと照明を切ろうとした時だった。

 

 ――空間からにじみ出るように黒いもやが出現した。

 

 それらは一箇所に集まり人魂のような形を取ると、キヒキヒ気持ち悪い思念を漏らしながら、ふらふら~と妹ちゃんの下に向かった。

 妹ちゃんは突然現れたそいつを見て身体を凍り付かせている。三島くんたちも硬直してしまい身動きが取れない様子だった。

 そいつは何事もないように妹ちゃんの中に入っていき――。

 

『キヒッ!?』

 

 バチッと電気が流れるような音が響き、強制的に弾かれた。拒絶の術式は思惑通りの結果をもたらしてくれたようだ。

 

封鎖結界起動(バイタルク・リ・ディアンテ)!」

 

 リビングの六ヶ所にセットした水晶玉を起動させる。淡い光を灯した水晶玉がそれぞれに光の筋を結び、リビングを囲う六芒星を形成。

 簡易結界が張られ、リビングと外界を切り離した。

 急に現れた魔法陣に驚く三人を手招き、俺の後ろへ。

 よーし。これで思い通りの状況に持っていくことが出来たぞ。

 

『キヒヒヒヒッ』

 

 悪霊はキヒキヒと訳の分からん声を上げながら俺たちと対面した。

 そいつの外観は一般的な人魂を少し大きくしたものだ。大体、人の頭くらいの大きさである。

 全体的に淀んだ黒。瘴気のようなモヤを漂わせおり、二つの鋭い眼光が灯っている。

 ようやく罠に嵌められたと気がついたらしい。リビングから出られないと悟るや否や、こちらを睨みつけてきた。

 どうやら俺たちを敵と認識したようだ。

 

『キヒッ、キヒヒッ』

 

「……気持ち悪い奴。さっさと片付ける。――ようこ、じゃえんはなしで」

 

「うん!」

 

 三人を背中に庇いながら短刀を一本創造する。他所のお宅で暴れ回るのはご法度だからな。

 突然取り出した刃物に三島兄妹が目を丸くした。凄いんだか凄くないんだか微妙な手品を見たような反応は止めてください。

 弁解するわけじゃないけど。弁解するわけじゃないけど! 背後を一瞥してボソッと一言呟いた。

 

「……霊能力」

 

「そ、そうなのか」

 

「すごいね……」

 

 だからその気遣うような目は止めなさいって!

 ええい、もういい! お前らは大人しく庇われていなさい!

 

『キヒッ!』

 

 悪霊はその身体から炎の玉のようなものを飛ばしてきた。

 難なく爪でなぎ払ったようこは一気に接近して凶爪を振るう。鉄すら切り裂く爪だ。食らえばひとたまりもないだろう。

 だがまあ、この程度でやられるわけが――。

 

『キヒィィィィィッ――――!』

 

 避けるか防ぐか、なにかしらの行動を起こすと思っていたのだが、悪霊は素直にようこの爪をその身で受けた。

 断末魔の悲鳴を上げながら切り裂かれる悪霊。今の一撃は悪霊にとって致命傷だったのか、負の霊力を辺りに撒き散らしながらやがて消滅した。

 は……? もしかして本当にこれで終わり? ……えー、なにこの消化不良ー。

 戦闘力、たったの五だよ! ゴミ虫だよ!

 なんか俺の中でこれじゃない感がすごいあるんだけど……。まあでも、これで妹ちゃんの生活と平和が守られたのならよかったんだよね?

 はぁ、なんか無駄に疲れた。

 最後の後始末として残留した負の霊力を浄化してと。うん、これでよし。

 

「終わったのか……?」

 

「ん、終わった。もう大丈夫」

 

「思いのほか呆気なかった気がするんだが川平」

 

「同感。でも、沙耶ちゃんに付いてた負の霊力も一緒に消えたから。これで解決」

 

 妹ちゃんにも、もう大丈夫だと告げると大きく表情を緩めた。安心したようで、ふにゃふにゃに腰が抜けてる。三島くんも安堵の吐息を零し礼を言ってきた。

 ああ、いいのよいいのよ。これが俺のお仕事なんだから。

 もう大丈夫だとは思うけど今日はこのまま泊まっていくとしよう。ないとは思うが、悪霊違いなんてことも考えられるし。

 ん? ああ、報酬ね。お金は要らないよ。別にクラスメイトからお金を無心するほど性悪じゃないつもりだし。

 そうだなぁ~。まあ考えておくさ。

 

「ん……。ようこ、よくやった。えらい」

 

「えへへ~。ケイタの撫で撫でって気持ちいいから好きっ」

 

 悪霊を退治したようこの頭を撫でる。ようこも頬を緩ませて機嫌よさそうに尻尾を振っていた。

 ……ん? 尻尾を振っていた?

 

「――お、おおおお、おじょ、おじょう……ッ」

 

 ハッと反射的に振り返る。

 そこにはこれでもかと目を大きく見開き、口をあわあわさせた先輩の姿があった。

 先輩の目はある一点に釘付けになっている。

 その場所を辿ると、やはり嬉しそうにブンブンと振られた大きな尻尾。

 

「ぉぉぉぉおおおお嬢さんんんんんんンン――――ッ!!」

 

「ひゃあっ! な、なに!?」

 

 異様なまでに目を輝かせた先輩は俊敏な動きで背後に回りこみ、至近距離からようこの尻尾を凝視した。俺の目でも一瞬追いきれなかったとは、やはりこの人侮れない。

 

「おおおぉぉ……! この大きさ、この動き……! 明らかに作り物のそれと一線を画している……まさに本物ッ!」

 

「な、なっ、なっ……」

 

 ようこの今日の服装はカジュアルな半袖のTシャツとスカート。スカートは膝上数センチと少し短めのものだ。

 尻尾を隠しているときは問題ないが今は露出させて、しかも上機嫌に振られているとなると、その分スカートは捲れるわけでして。

 そしてそして、尻尾を凝視しているということはすなわち、お尻を凝視しているのと同義で。

 

「本物の『猫娘変化』だァァァァァ!!」

 

「しんじゃえ変態! しゅくちっ! だいじゃえんっ!」

 

 顔を真っ赤にしたようこは指先に霊力を集めて周囲のものを瞬間移動させる能力【しゅくち】を発動。先輩を庭に移動させると特大の炎を生み出しオタクを丸焦げにした。

 あれでもちゃんと火加減はしているみたいだ。黒焦げになりながらもピクピクと痙攣している。

 ま、まあ正当防衛ということでスルーするか。今のはどう考えても先輩が悪いんだし。

 あぁ、しかしまあやっぱり先輩にはバレてしまったか。大の獣娘好きなオタクだから、これから面倒なことになるんだろうなぁ……。

 

 

 

 2

 

 

 

「は? 本当にそれでいいのか?」

 

 翌日の放課後。昨日と同じく俺たちは屋上でダベっていた。

 すでに三島くんに向ける姿勢や考えは百八十度異なり、旧知の仲のような気軽さで以って接することができる。この威圧的な外見も中身を知った今となれば、ギャップとして好意的に受け止めることができた。

 あれから妹ちゃんの様子を聞いて、特に異常はないと判断。このまま経過を見て問題が出なければ、この依頼は達成となる。

 と、なると次に話し合わなければいけないのは依頼の報酬について。

 三島くんはバイト代から出せるだけ出してくれると申し出てくれるのだが、流石にそれを受け取るわけにはいかない。

 ということで、足りない頭をフル回転させて出した答えが――。

 

「だけど、友達になることが報酬だなんて……。いくらなんでも割に合わないぞ」

 

「大丈夫。他ならない俺が納得してる」

 

「そりゃそうだが……」

 

 急に赤ん坊を預けられた子育て経験のないパパさんのように太目の眉を寄せて困った顔を披露する三島くん。

 

「うぅむ……」

 

 腕を組んで難しい顔をするが、そこまで考え込まなくてもいいのに。

 

「俺、友達少ない。新しい友達は歓迎」

 

「それで報酬として俺と友人になると?」

 

「ん。なにか問題でも?」

 

 そう言うと、一瞬キョトンとした顔を浮かべた三島くんは豪快に笑い出した。

 大気が震えるような大きな声だった。

 

「ハッハッハッ! 確かに、なにも問題はねぇな! わかった。今日から俺と川平は友達だ!」

 

「ん。よろしく」

 

「おうっ、こちらこそよろしくな!」

 

 友好の証として硬く握手をする。三島くんの手は見た目相応に大きくゴツゴツして、そして温かかった。

 

「……そういえば、なんで時々睨む?」

 

「お前がモテない男子の敵だからだよ!」

 

 なにその理不尽。

 まあいいや。これでまた一人友達が増えたんだし。やったね啓太!

 

「かわひらあああぁぁぁぁぁぁぁ――――――っ、けいたあああぁぁぁぁぁぁ――――――っ!!」

 

 ああ、また来ましたか……。

 屋上の扉を蹴り開けてやってきたのはオタク先輩、河原崎直己。

 予想通り先日のようこの一件以来、付き纏ってきた。

 ようこに合わせろようこに合わせろと五月蝿い。

 正直無視してもいいのだが先輩には恩があるし、なによりこの人がケモノ娘に向ける情熱は純粋なものと理解しているから断ろうにも断れずにいる。

 だけどなー、肝心のようこがなー。あれ以来先輩のこと毛嫌いしているというか、警戒してるからなー。

 さて、どうしたものか。ようこさんともう一度会わせてくれと、肩を揺さぶられる。

 とりあえず先輩の頭にチョップを入れておいた。

 

 




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