もう三十話か。なんかあっという間に感じます。
タイトル通り男女に分けて話を進めます。
どーも、川平啓太です。そんなこんなでフラノこと金髪巫女のねーちゃんに占ってもらいました。
薫曰く、フラノの能力である未来視を使った占いは的中率百パーセントを誇るらしい。それ、どこの銀座のママさん?
そんで占ってもらった結果が……。
「……抱き合う?」
「はい~」
「……頬、くっつけて?」
「です~」
「…………」
なんじゃそりゃぁぁぁぁぁ!!
いあいやいやいや、どんな未来だよそれ! いったい何があったの未来の俺!?
そんなBでLな展開とか、なにがなんでも全力で回避するしかない!
幸先不安だなぁ……。
なんともいえない空気が流れる。こほんと薫がそんな空気を入れ替えるように努めて明るい声を出した。
「次はいまりとさよかですね。見ての通り彼女たちは双子で髪を右で束ねているほうがいまり、左がさよかです」
「いまりです!」
「さよかです!」
『啓太様、よろしくお願いします!』
元気よく挨拶する双子の姉妹。
薄紫色の髪を片側に束ねており、可愛らしい顔立ちをしている。
双子というだけあってそっくりさんだ。正直髪を解いたら見分けが付かない。
「あたしたち植物の栽培をしてるんです!」
「啓太様も今度いらして下さいね!」
菜園かー。そういえばチラッと敷地内にガラスハウスのような建物が見えたような。もしかしてあれか?
そして、最後はちびっ子のともはね。
元気よく手を上げて自己紹介をする。
「そしてあたしが序列九位のともはねですっ、よろしくお願いします!」
「ん。この間ぶり」
ともはねとは二度目の邂逅だ。元気そうでなにより。
ともはねは小学生低学年、下手したら幼稚園児でも通ってしまうほど幼い容姿をしている。
薄茶色の髪は後頭部で左右に分かれている。
精神年齢も見た目相応で犬神の中でもかなり若いらしい。薫の犬神の中では言わずもがな。
互いに自己紹介も終わり、薫がぱんぱんと手を叩く。
「さて、僕は少し啓太さんとお話しすることがあるから、みんなはなでしこさんたちと親睦を深めてね。これから長い付き合いになるだろうから仲良くなるに越したことはないしね」
「かしこまりました、薫様」
せんだんが代表して返答する。扇子で口元を隠すのはデフォルトなのかな?
「……なでしこ、後は任せた」
「はい、啓太様」
「ケイター、わたしは~?」
「……良い子にするように」
「ぶーぶー! わたしだっていつもいつも問題起こしてるわけじゃないもんっ」
む、これは俺の失言だな。
そうだな。ようこもなんだかんだで成長しているし、俺も相応の態度で返さないと失礼か。
「……悪かった。みんなと仲良くな」
軽く頭を撫でてからなでしこに目配せをする。心得たとばかりに頷くなでしこに頷き返す。
ようこと犬神たちとの間には何かしらの溝があるようだからな、万一の時にはフォローしてやってな。
なでしこたちを食堂に残し、俺たちは薫の部屋に移動する。
薫の部屋は館の二階にあるようだ。
「……しかし、本当に広いな」
廊下だけでも人が五人横に並べる広さだし。
装飾品もなんか高級っぽいし。
「ウチは大人数ですからね。普通のアパートやマンションだと全員で住めないんですよ」
「いぐさ、だっけ。眼鏡の女の子。彼女の力で?」
「はい。パソコンに興味を示していたので試しに使わせてみたらいたく気に入りまして。あっという間にマスターしてしまいました。しかも気がつけばトレードで資金を増やしてるんですから、ビックリですよ」
「……トレードをこなす、パソコンに強い犬神、か。色んなのがいるな、犬神って」
「ええ。みんな魅力的で自慢の犬神ですよ」
そうこうしているうちに薫の部屋に到着した。
「さあどうぞ」
なんというか、薫の部屋は想像していた通りのものだった。
軽く俺の部屋の倍はある面積。照明は当然の如くシャンデリアで寝台は天蓋付きベッド。
サイドテーブルには水差しが置かれており、大型のプラズマ液晶テレビの前にはこれまた高そうなソファーがコの字型で配置されている。
見ればパソコンも今年の春に発売したばかりの最新式モデルだった。
いいないいなー。俺もこんな部屋に住みたいなー。
別に環境の差を妬むほど残念な思考はしていないが、純粋にこんなお家に住んでみたいとは思う。
俺もこういう豪邸に住めるように頑張らないと。それにはもっと大きな仕事が取れるようにならないとな。
思わぬところでやる気と気合が入った。帰ったら依頼のチェックしよう。
ふんす、と独り意気込む俺を不思議そうな目で眺めた薫は小型冷蔵庫から飲み物を取り出した。
「啓太さんはオレンジジュースとコーラ、どちらがいいですか?」
「……コーラで」
たまに炭酸が飲みたくなるのです。
俺はソファに、薫はベッドに腰掛け、しばらくゆったりとした時間を楽しんだ。
「……そういえば、どうだった? 向こうの生活」
「それはもう大変でしたよ。最初の頃は英語なんて話せなかったものですから身振り手振りで意志の疎通を図りましたね。案外何とかなるようですよ?」
「……どこだったけ。フランス?」
「イギリスです。啓太さんも一度行ってみるのをお勧めしますよ。ビッグベンやタワーブリッジとか観光名所がいっぱいありますから」
「……時計塔は見てみたい」
いつか皆で旅行に行きたいな。
ていうか、もしかして英語ペラペラ?
「まあ日常会話に困らない程度には。流石に流暢に話すことは出来ませんけどね」
「……それでも、すごい。俺なんて、英語まったくダメ」
英語の成績は三。この間の英語のテストは三十点だった。
あのテスト用紙をなでしこに見られるのが滅茶苦茶恥ずかしかった。というか、なでしこって学校での話とかよく聞いてくるから必然とテストのこととかも話してるんだよね。
いやぁ、テスト用紙を親に見せずに隠すもしくは捨てる学生の気持ちがよく分かったわ。あれは恥ずい。
知識はあるが、それを理解するのとはまた別なのだと思い知らされた次第。しかも俺の英語に関する知識って日常的に使用するものばかりだからなぁ。
あれだ、日本人が日本語を完璧に理解していないあれと同じだ。ん? 少し違うか? まあニュアンスは伝わるだろう。
「……仕事はお婆ちゃんから?」
「はい。本当は僕も規則に則って高校生になってからの予定でしたが、見ての通り大所帯ですからね。啓太さんという前例もあるしいいだろうとのことで、案外すんなり話は通りましたよ」
薫もお婆ちゃんから資金を援助してもらってはいるようだが、それにはあまり手をつけずに依頼やいぐさのトレードで稼いでいるようだ。
「啓太さんはもう何件も依頼を受けてるんですよね。どんな感じですか? 生憎、僕はまだ片手で数える程度しか受けていないので」
「ん? んー……まあ、大体は除霊だな」
物理的にだけど。
あとは迷子のペットを探したり、彼氏の浮気を確かめるべく隠し撮りして証拠を掴んだり、お祓いしたり、痴漢を撃退したり、パンツ泥棒を捕まえたり。まあ色々あるな、うん。
「なんか、なんでも屋みたいですね……」
というか、ぶっちゃけオカルト関連に比重を置いたなんでも屋です。
それはともかくとして、先ほどから気になる点があるのだが。
「……それ、契約の証?」
「あ、これですか? そうです、みんなとの契約の証ですよ」
薫の両手の指には銀のリングが嵌められていた。
九人と契約したため左手の小指以外のすべてが埋まっている。
なんか、ホストみたいだ。それも一昔前の売れないタイプ。
「啓太さんのはどれですか?」
「ん」
両手首に嵌められた無骨のブレスレットがなでしこたちとの契約の証だ。
なでしこは左手の銀色の、ようこのが右手の金色のブレスレッドとなっている。
霊力物質化能力で作った自前のため、装飾は一切ない。
「綺麗ですね。啓太さんによく似合うと思いますよ」
「ん、ありがと。……ところで」
オレンジジュースで喉を潤してから言葉を続ける。
「誰が本命?」
「え?」
「……こんだけ可愛い女の子、囲まれてる。本命の一人や二人、いるはず」
これは絶対にしようと思っていた定番の話題。
中高の修学旅行のような気分でずずいっと切り出した。
男同士、腹を割って話し合おうじゃまいか!
「いえ、そんな……。確かにみんな可愛いし魅力的な女性ですけど」
「魅かれる人はいない? 一人も?」
「……」
顔を赤くしたまま固まってしまう薫。ふっ、まだまだ青いな。
馬鹿にするつもりはないが笑ってしまったのが鼻についたのだろう。むっとした顔で珍しく反論してきた。
「そ、そういう啓太さんはどうなんですか? なでしこさんもようこさんも、どちらもすごくお綺麗な女性ですけど」
「……やらんよ?」
「いりませんっ」
からかうと顔を赤くしてシャウトする。この辺りは昔から変わらないなぁ。
まあそれはそれとして、俺の気になる女性ねぇ。
「……んー。なでしこ、かな?」
「……」
「……以外?」
「正直。まさか本当に答えてくれるとは思っていませんでした」
「……失礼な。けど、これが恋愛か家族愛か、よくわからない」
初恋もまだだしね。
綺麗、可愛いなど外見に惹かれたことはあるし、いいなぁと思った女性は今までに何人かいたが、はっきりと恋してると自覚できるほど強く意識したことはない。
強いて言えばなでしこがそうか。ただ、彼女に向けるこの気持ちも家族愛なのか、はたまた友愛なのか、それとも恋心なのか区別が付かない。
容姿は好みだし、結構仕草にドキッとしたりするけど。
前世の謎知識は『知識』として恋というのはどういうものなのか記憶されているが、そういうのとはちょっと違うしなぁ。
なにげに俺って結構遅れてね? 中二で恋したことないとか、意外とヤバイ?
「なるほど。意外ですが、そうだったんですね……」
まあ、ようこにも似たような気持ちを抱いてるけどね。なんていうか、バカな子ほど可愛いっていうか。
「――じゃあ、ちょっと恥ずかしいですけど、啓太さんだけ言ってもらうのもなんですし……」
室内には他に誰もいないにも関わらずキョロキョロと辺りを見回すと、小さな声で呟いた。
「その、せんだんが少し気になって……」
「……ほほぅ」
その話、詳しく聞かせてもらいましょうか。
「まあちょっと色々とありまして、気がつけば彼女の姿を探していたり、目で追うことがしばしば……」
薫は若干頬を朱色に染め、照れた様子を見せた。
青春してんなぁ。
「……泣かせる真似だけは、しないでな」
「そういう啓太さんもね」
おうよ。なでしこであれようこであれ、俺が彼女たちに流させる涙は嬉し涙と前から決めてるんだ。
くだらない話や世間話なども交えながら、しばし男二人で語りあい旧交を深めていると。
「啓太さんの携帯ですね」
携帯が鳴った。取り出してみると、表示されているのは最近になって登録した名前だ。
出てもいいかと目で問うと頷き返してきたので、とりあえず電話に出る。
「……もしもし?」
『おお川平かっ、よかった! 実は折り入って頼みがある……!』
そう切羽詰った声で仮名さんは叫んだ。
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