すみません、今回は結構短いです。
次回はいつも通りの文字数になるので(汗)
「本当に大丈夫? ちゃんと一人で行ける?」
「寄り道するなよ」
「知らない人についていっちゃ駄目ですよ~」
「お菓子を貰っても断るんだぞ」
招待状を持ってこれから川平啓太の元に向かおうとするあたしに掛けられた言葉がそれだった。
玄関まで見送りに着てくれた皆が口々にそう言う。
「もうっ、子供じゃないんだから大丈夫だよ!」
まったく失礼しちゃう。もうでんぐり返しも出来るんだから!
プンプンと怒ると苦笑いした薫様が一歩前に出て頭を撫でてくれた。
「気をつけるんだよ。啓太さんによろしくね」
「はい薫様! いってきまーす!」
薫様の話だとお家から大体歩いて一時間くらいの距離みたい。
地図を片手に招待状が入ったリュックを背負い、元気よく駆け出した。
1
あたしの名前はともはね。薫様の犬神で序列第九位の女の子!
みんなの中では一番若いんだ!
今日はね、薫様のしょうたいじょーを川平啓太に届けるの。
なんでも川平啓太は薫様のお友だちでお互いの犬神を紹介しようとのこと。なでしこと会えるのは嬉しいけど……。
川平啓太。実際にあたしは見たことも会ったこともないけど、あまりいい話は聞かない。
どんな人か分からないけど、あたしが会って見極めてやるんだから! 悪い人だったらあたしたちが薫様を守らないと!
「ここでいい、のかな……?」
途中道に迷って人に聞きながら歩くこと一時間半、なんとか辿り着いた。
ここに川平啓太がいる。小さなアパートなのに、なんかゴゴゴ……と醸し出す負のオーラが見えそう。
こ、怖くなんかないんだから。あれよ、むしゃぶるいってやつだから!
ええっと、確か二階の一番手前……あっ、あった!
さあ、いくよ……!
「ん~……!」
ぴ、ピンポーンに届かない~! くっ、これも川平啓太のいんぼー!?
仕方ないから扉をノック。中からはーい、と女の人の声が返ってきた。
「あら?」
扉を開けて出てきたのは一匹の犬神。なでしこだった。
なでしこはあたしの姿に気がつくとニコッと笑顔を浮かべた。
「久しぶりね、ともはね」
「なでしこ! 久しぶり~!」
なでしこのお腹に抱きつく。なでしこもギュッと抱き返してくれた。
「今日はどうしたの?」
「あのね――」
ここに来た目的を話そうとすると、なでしこの後ろから男の子がやってきた。
なでしこより拳一つほど背が低いその子は小さく首を傾げた。
「……お客さん?」
「あ、啓太様」
――っ! この人が、川平啓太……!
薄い茶髪に、整った顔立ち。無表情でこちらをジーッと見つめる視線に居心地の悪さを感じた。
ちょっと怖いかも……。
生気を感じさせない目が少し怖かった。
「あの、川平啓太様ですか?」
「ん」
こくんと頷く川平啓太。表情が乏しいだけでなく口数も少ないみたい。
みんなが川平啓太を『人形』とか言っていてその時はなんのことだかわからなかったけど、直に会ってみるとなるほどと頷けた。
これは確かに、人形みたいだ。
「あたし、薫様の犬神のともはねって言います。今日は薫様から啓太様宛てにこれを届けるようにと言われて来ました!」
リュックからしょーたいじょーを取り出し川平啓太に渡す。
しょーたいじょーをチラッと一瞥した川平啓太はなるほどと呟きうんうん頷いた。
「……あがる」
「え?」
「……なでしこ、お茶」
「はい啓太様」
そう言って川平啓太はスタスタと奥に引っ込んでしまった。もうっ、声も小さくて何を言ってるのか全然分かんないよ!
「さあ、靴を脱いであがりなさい。お茶とお菓子の用意もしますから」
なでしこに促されて川平啓太の家にお邪魔することになった。
川平啓太という人間性を確かめたかったから、渡りに船ね。
でも、それはそれとして――。
「あの、なでしこ? ようこは……」
「ようこさんでしたら、お外で猫さんたちと遊んでますよ。なんでも集会に出席するのだとか」
ね、猫? 集会? なんのことだかよく分からないけど、ようこが居ないと聞いてホッとした。
さすがのあたしもあんなきょうぼーな獣と一緒に居たら寿命が縮んじゃう。べ、べつに怖くなんかないけどね!
頭丸かじりされても抵抗してやるんだから!
「さあ、どうぞ」
リビングに通されたあたしになでしこがお茶とクッキーを出してくれる。
ポリポリと食べているあたしの視線の先には薫様からのしょうたいじょーを読む川平啓太の姿が。
一通り読み終わった川平啓太はズズッとお茶を啜ると改めてあたしに視線を向けた。
思わず背筋が伸びる。
「……話は分かった。日時は指定の日でいい。十二時にそっちに着くようにする。薫によろしく言っておいて」
「わかりましたっ」
こくんと一つ頷いた川平啓太はあたしの目をジッと眺めると、唐突にこんなことを聞いてきた。
「……ともはね、だっけ?」
「そうですよ啓太様」
「ともはねは薫のこと、好き?」
その質問に目がキョトンとなる。多分、今のあたしはかなり間抜けな顔をしていると思う。
だって、あまりにも当然のことを聞かれたから。
なのであたしは、笑顔で元気よく答えた。
「もちろんですっ!」
あたしの言葉を聞いた川平啓太は少しだけ目を細めた。
「……そう。薫のこと、よろしくね」
その後少しだけお話してから川平啓太の家を後にした。
今日、実際に会って話をしてみたわけだけど、結局川平啓太の人となりはよく分からなかった。
表情が乏しくて口数も少なく、みんなが言うように『人形』みたいであるけれど。
悪い人じゃない、のかな?
んー、まだよく分かんない。結論を出すにはまだまだ調べる必要があるね!
ともはね、意外と口調が難しいです。女言葉は使わないし……。
次回はちょっと時間をいただいて、四月三日あたりの投稿になりそうです。