時期的にはバレンタインの話ですけど、本編ではクリスマスなのでこちらを書きました。
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・ヒロインをメインとサブに分離。
「ほー……」
流石は仮名さん。いい支払いっぷりだ……。
あ、どうもおはようございます。昨夜はどこぞの変態のせいで折角のクリスマスイブを潰された川平啓太です。
たった今、仮名さんからメールが届き、依頼料の支払いが完了したとの報告があった。
後日、明細が届くがメールには依頼料の百万に色をつけて十万プラスしてくれたようだ。この人とはまた一緒に仕事したいものだな。
「啓太様、準備が出来ました」
「ケイター! 早く行こっ」
「ん。じゃあ、行くか」
パソコンをスリープ状態にしてから立ち上がる。なでしこが取ってくれたジャンバーを羽織った。
えーと……鍵よし、財布よし、ガスの元栓よし、と。
んじゃあ、行きますか。
外に出ると寒気が押し寄せてくる。寒い寒い言いながらようこが左腕を取り自分の腕と絡め、なでしこが右手をきゅっと握った。
最近、三人で出かけるともっぱらこのポジションを取りますね、お二人とも。
「ねえねえ、くりすますぱーてぃってなに食べるの?」
ようこが無邪気な声で聞いてくる。
そう、今日は十二月二十五日。俗にいうクリスマス。
昨夜のクリスマスイブは依頼であまり二人に構ってあげることができなかったから、今日はパーティーでもして祝おうと思う。
そのための材料の買い出しに来ていた。
「んー。特に決まったものはない。けど、豪華なものが一般的」
まあ、無難に手羽先やローストビーフとかでいいかな。
料理はなでしこにお任せだ。ここ数か月で家電製品を使いこなし料理の腕を伸ばしているなでしこは今やスーパー家政婦さんへと変貌していた。
家のことでわからないことなどまずない。トイレットペーパーの数からティッシュの数まですべて把握しているのだ。
最初の頃は慣れない家電製品とかに戸惑った様子を見せていたが、今ではそこらの主婦よりもうまく使いこなせている気がする。なでしこの女子力には驚かされる一方だ。
こんな家事万能少女が俺の犬神だなんて、もう幸せ者だな。しかも甲斐甲斐しく尽くしてくれて犬神使い冥利に尽きるというものだ。
「ん……」
ヒューッと凍てつく風が吹き、なでしこの身体が震えた。
「……足、寒い?」
「え、ええ、まあ少し。この格好なので仕方ないですけどね」
なでしこの綺麗な足を見て、やはり寒そうだなと心の中で頷いた。
割烹着のような和服なため裾も膝下あたりまでしかない。
また、靴の代わりに草履を吐いているから、足の甲などが冷たいのだろう。
(やっぱりプレゼントにあれを選んで正解だったな)
プレゼントを受け取った時の反応が楽しみだ。
デパートに着き、早速地下の食品売り場へ向かった。
「啓太様はなにか食べたいものはありますか?」
カートを押しながら食材を吟味していたなでしこがそう尋ねてきた。
食べたいものか……。
「……肉?」
「お肉ですか。となると、ローストビーフ辺りかしら。サラダも作りますからしっかりお野菜も食べましょうね」
「……えー」
「駄目ですよ啓太様。好き嫌いは少ないほうがいいんですから」
「……ぶー、ぶー」
なでしこもあの手この手でなんとか野菜を食べさせようとしてくれるが、未だ俺の身体は受け付けぬ。
サラダならドレッシングがあるから辛うじて食べられるが、それ以外だとどのように調理しても大抵は無理。正直せっかく作ってくれたものを残すのはかなり心苦しいのだが、以前それで無理して食べて気絶したからなぁ。
さすがに野菜を食べて気絶するとは思いもよらなかった。
再び主婦顔負けの真剣な表情で食材を吟味するなでしこ。そういえばもう一匹の犬神がいないなと、辺りを見回すと。
「ケイタ~、見て見てー」
ようこがナニカの角を頭につけて戻って来た。
見覚えのある角の形に口の端が引き攣りそうになる。
「……それ、なに?」
「あっちのほうにあったから持ってきたの」
そう言って指をさした方向にはケンタッキーのコーナー。カー○ルさんの隣にちょこんと、クリスマスコスチュームを来たトナカイの姿が。
何故か、その頭部にあるはずの角が力ずくで折られたような形跡があるが。
無言でようこが持ってきた角を取り上げ、元の場所に戻す。……応急処置として接着剤を創造しよう。
「……ようこ、メッ」
「あいたっ」
ズビシッとチョップを食らわせる。器物破損で訴えられるでしょうが!
涙目で頭をさするようこにもう何度目になるかわからない説教をした。
食材も買い終わり、ある意味買い物のメインであるケーキ売り場へ足を運ぶ。
ショーケースの中には色とりどりのケーキが綺麗に陳列されていて、ようこの目を輝かせた。
「わぁ~♪ 見て見てケイタっ、チョコレートケーキがこんなに一杯!」
やはり真っ先に視線が向かったのはチョコレートケーキのようだ。
そういえば、なでしこの好きなケーキってなんだろう。疑問に思った俺は素直に尋ねてみた。
「なでしこ、何のケーキ好き?」
「私ですか? そうですね……どのケーキも好きですけど、強いて言うなら果物が載ったケーキでしょうか」
「……ふむふむ。なる」
なでしこはフルーツケーキが好きなのか。
じゃあ今日はフルーツにするかな。いつもはようこの好きなチョコ系だし。
「……ようこ。今日はフルーツ」
「チョコレートケーキは買わないの?」
「また今度」
頬を膨らませるようこを宥め、フルーツが一杯盛り合わせたケーキをワンホール購入した。
両手に買い物袋を引っ提げて帰宅。女の子に重い荷物を持たせるマネなんて出来ませんよ。
料理はなでしこにお任せだが、俺も簡単な手伝いを申し出た。ようこは一人テレビを見ている。
拙い手つきで食材を切っていく。刀の扱いは得意なのに、なぜ包丁だと上手く切れないのだろうか……。
想像していたようなスパッとした切り口にならず一人首を傾げていると、なでしこが背後に回りこんだ。
「そうじゃありませんよ啓太様。包丁を持つときはこう――」
そのまま抱きつくようにして包丁を持つ手に手を重ねる。
フローラルな香りが鼻孔を擽り、温かな体温が触れる掌から伝わる。
犬神といえど見た目はただの女の子。密着した姿勢に否応なく鼓動が高鳴った。
「押し潰すのではなく、手前に引いて――啓太様?」
「……え? あ、うん。……大丈夫、聞いてる」
本当は何を言っていたか、七割がた右の耳から左の耳へ通り抜けていたが。
なでしこの動きを真似して無心で切っていった。たぶん背後を意識したら手元が狂う。
クリスマス料理が血の味とか、どんなホラーだよ。
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完成したのは白米、味噌汁、ローストビーフ、鳥の手羽先、コーンポタージュ、サラダ。
どれも筆舌に尽くし難く、まさに絶品ともいうべき味だった。ローストビーフのタレとか超上手いんだけど! なでしこの料理スキルにマジ脱帽。
なでしこの味付けはさっぱりした薄味でしつこくなく、後味がいい。はけのも薄味だがなんだろう、何かが違うんだよな。たとえで言うなら、鰹出汁かほん出汁か。
もともと俺は濃い味付けが好みだったんだが、ここ最近はなでしこの味付けが好みになってきている。
「どうですか、お味は?」
「ん。美味」
味噌汁を飲んでホッとひと息つく。最近、俺の中での家庭の味というか、お袋の味がなでしこの料理になってきているんだけど。いや、お袋とか生で見たことないけど。
今までははけの料理が俺の中でのお袋の味だったが、ついにそのポジションが奪られたな。ん? となると、はけのは親父の味か?
……いや、止めとこう。想像の中とはいえ、うちのなでしことはけが夫婦関係だなんて軽く死ねる。そんな日が訪れたしまいには俺とはけでの全面戦争が勃発するぞ。
うちのなでしこは渡さんっ!
「啓太様?」
「――ハッ」
なでしこの声に妄想の世界から帰還する。いかんいかん、そんなありもしないIFの出来事なんか考えてしまった。
テレビの向こうではお笑い芸人が茶の間を笑わせようと一生懸命だ。
くすりともしないが、テレビの笑い声があると和やかな雰囲気になる。
なでしこたちと談笑しながらの食事は進み、あっという間にデザートのケーキタイムに突入する。
三人分に切り分けると、早速ようこが一口頬張った。
「ん~~~~!」
ふるふる震えると喜びを表すように俺の背中をパシパシ叩き、また一口。
――ふるふる、パシパシ!
――ふるふる、パシパシ!
ああ、うん。うぜー。もうわかったからやめなさい。アームロック食らわせますよ?
なでしこも好物のケーキにご満悦の様子だ。
俺も一口食べる。
(へぇ、美味いな)
タルトの表面には色とりどりのフルーツが乗っかり、その上を薄くゼリーでコーティングされている。
生地のサクサクとしたクッキーのような食感にずっしり詰まったクリームが絶妙にマッチしている。
あまりフルーツケーキの類いは食べない俺だったが、これはもう一度買おうと思わせる味だった。
「あー、美味しかった」
「ごちそうさまでした」
「……ごちそうさま」
ケーキも綺麗に食べ終わりごちそうさまをする。
――さて……。
「なでしこ、ようこ、ちょっと待つ」
「なんですか?」
「なに~?」
なでしこたちにその場に留まってもらい、一人和室へと向かう。
押入れの襖をあけて、奥のスペースに顔を突っ込んだ。
「…………あった」
取り出したものを手に持ち、再びリビングへ。
「……お待たせ。はい」
なでしこには長方形の大きな箱。ようこには平たい正方形の箱。
どちらもクリスマスラッピングで包装されている。
「啓太様、これは?」
驚いた顔のなでしこ。ん? 察してもらえなかったかな?
「俺からの、クリスマスプレゼント」
開けてみてと促す。
恐る恐るといった動きで包み紙を剥がす。
「これは……長靴ですか?」
現れたそれを見て目を丸くするなでしこに苦笑する。
「ん。ブーツっていう」
なでしこって草履しか持っていないからね。今の季節は寒いだろうし、足の保護も兼ねて編み上げブーツを買ってみたのだ。
目を丸くして驚いていたなでしこだったが、次第に柔らかい表情で微笑んだ。
大切そうに胸に抱き花が咲いたような笑顔を見せてくれる。
「ありがとうございます、啓太様……」
「ん」
「ケイター! ねえねえ似合う!?」
ようこが抱きついてくる。
その首にはオレがプレゼントした赤色のマフラーが巻かれていた。
「ん。似合う似合う」
「えへへー。ケイタも一緒に温まろっ♪」
何を思ったのか、ようこはマフラーの一部を解くとそれを俺の首に巻きつけた。
ちょっと長めのマフラーを選んだから長さ的にはギリギリ足りるが、その分密着した姿勢になる。
すぐ横にようこの顔がある。少し、顔が熱く感じた。
「えへー♪ 温かいね、ケイタ♪」
そうですね。でもなでしこの視線が痛いのでこの辺でお暇しますね。
なでしこは申し訳なさそうに眉をハの字にした。
「申し訳ございません。こんな素敵な贈り物を頂いたのに、なにもお返しするものを用意していなくて……」
来年は啓太様があっと驚くものを用意して見せます、と豪語するなでしこに微笑み返す。
まあ、楽しみにして待ってますよ。
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