栄沢汚水、このキャラも結構濃かったなぁ……。
ただ原作に比べてこっちの方が変態度は濃いです。
十二月二十四日。今年もクリスマスイブが訪れた。
街は浮き立ち、世のカップルはイエス・キリストの聖誕祭など知ったことかとばかりに謳歌していた。
中央通りでは木々にイルミネーションが施されて、夜の街を優しく照らしている。
街のいたるところではカップルや家族連れが楽しそうに、幸せそうに各々の時間を過ごしていた。
待ち合わせ場所としてよく活用される街時計の前で一人の少年が壁に寄りかかっていた。
黒のジャケットに白のカッターシャツ、ジーパンという出で立ちをしている。
歳は十三歳くらいだろうか。まだ少し幼さい顔付きをしているが、十分美形で通る顔立ち。薄茶の髪は柔らかい風に揺られ、一五二センチという自分の身長を気にしているのか、身長差のあるカップルを目撃すると目が若干細まる。無表情なため少しだけ近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
腕時計に目を落とす少年。時刻は午後七時を回るところだ。
待ち合わせ時刻まであともう少し。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
そんな少年の前に一人の女性が走り寄ってきた。
女性は美少女だった。
桃色の髪は耳を隠す長さで両端だけ伸び、走ってきたのか頬が少しだけ朱く色付いている。
割烹着のような和服姿の少女に気がついた少年は無表情のまま片手を上げた。
「やあ」
表情に反して声は少しだけ柔らかかった。
「ごめんなさい……っ、待ちましたか?」
「ん、大丈夫。待ってない。……違った。いま来たところ」
少年の言葉に少女は小さくはにかんだ。
「優しいですね……。でも、たまには怒ってもいいんですよ? そうしないと私、きっとどこまでも貴方に、あ、あ、甘えちゃう……から」
喋っていて何故か顔を赤くする少女。
並んで立つと少女のほうが拳一つ分、背が高いことが分かった。
それを確認した少年は小さく眉根を寄せた。
しかし、すぐにハッと無表情に戻ると少女の唇に指を押し当てる。
「ノン。怒ることなんて不可能。……君はボクのためお洒落した。嬉しい」
「そんなの、当たり前です。だって、あ、貴方と過ごす特別な日だから……」
少女はポケットからプレゼントを取り出した。
「――受け取ってください。私の素直な気持ちが込められてます……」
少年も無表情で拳大ほどの大きさのプレゼントを取り出す。丁度、指輪が入るくらいの大きさだ。
「……ならボクも。素直な気持ちを、キミに」
少女は微笑み、プレゼントを受け取る。大切に胸に手を押し当てた。
少年は眉根を小さく寄せると耳に手を当ててそっぽを向いた。
小さく口が動いている。
「…………この後どうする。抱き寄せてキス? ……ん? ようこ??」
誰かと連絡を取っているようだ。少女は隣で微笑みながら、小さく首を傾げる少年を見つめた。
連絡を終えた少年が改めて少女と向き直る。
「どうしましたか?」
「……ん、なんでも」
一歩踏み込む。互いの吐息が感じられるほど距離が狭まる。
小さく瞳が揺れる少女を真っ向から見据え、その腰に手を回した。
「……えっ? け、啓太様?」
「静かに……」
真剣な目が自分に向けられている。ドキドキと鼓動が高鳴るのを感じた。
しかし、そんな少女に冷や水を浴びせかける第三者が乱入してきた。
「ちょっと、人の男に何をしているのかしら?」
いつから居たのか。一メートルほど離れたところにまた別の女性が立っていた。
お尻の高さまである緑色の長髪を三つ編にして、暖かそうなファーに身を包んでいる。
紅緋色の瞳は挑発的な色を放ちながら、少年と抱き合う少女を睥睨していた。
「ようこさん!?」
慌てて少年から離れる少女。その隙を突き歩み寄った緑髪の女性は少年の腕を抱き寄せて見せた。
「まったく。人のいない隙に男を掠め取るだなんて、イイ趣味してるわね。この泥棒猫」
「なっ、そんなことしません……!」
ぷんぷんと激昂する少女をふんっと鼻で笑った緑髪の女性は一転して甘えるような声を出しながら少年にしな垂れかかった。
「ねぇ、ケイタ? そんな泥棒猫なんかのプレゼントより、わたしのプレゼントを受け取ってよ」
うりうりと白魚のような指で少年の胸をぐりぐりする女性。
もちろん、プレゼントはわ・た・し、との言葉に少女が柳眉を上げた。
「ようこさん、それは台本にないですよ? そもそもようこさんは私の後のはずでは?」
「人生台本だけで生きていけないわよなでしこ。時にはあどりぶも必要なんだから」
さきほどまでの甘い雰囲気は何処へやら。キャーキャー騒ぐ少女たちを余所に少年――川平啓太は小さくため息をついた。
「……仮名さん、どうする?」
『うーむ。まさかここでようこくんが出て行くとは思ってもみなかった。これでは昼ドラになってしまう』
耳に当てた小型イヤホンから渋い男性の声が返ってきた。
ここから少し離れたところで事態を見守っている仮名史郎からの返事だ。
「……そもそも、これ。なに?」
『むっ、妹から借りた少女漫画をいくつか参考にしたのだが、何か変だったか?』
「……展開、ベタ」
『べ、ベタ……』
未だキャーキャー言い合う少女たちからこっそりと離れる。
コホンと、小さく咳払いする声がイヤホンの向こうから聞こえた。
『まあいい。とりあえずこのままデートを続けるんだ。ターゲットを補足したら知らせてくれ』
「……了解」
通信を終了した啓太は小さく白いと息を零した。
1
「……結局、こうなったか」
俺の左には腕を絡めて豊満な胸を押し付けるようこ。右には恥ずかしそうにちょこんと手を繋いで楚々と歩くなでしこ。
世の男性が見たらさぞかし顰蹙を買う光景が広がっていた。
どうも皆さんこんばんは。美少女の板ばさみに合い、現在進行形で怨嗟の視線を集めています川平啓太です。
男一人と女二人のデート。こういうのをダブルデートというのだろうか。生憎、前世の謎知識にはこういったデートを経験したという記憶はないから名称が不明だ。
いやね。俺もデートしたことあるよ? 前世でだけど。一対一の普通のデートだけど。
何この修羅場を招くようなデート。まるで俺がプレイボーイみたいじゃないか!
本来なら最初になでしこ、次にようこと一人ずつデートをして変態魔王、栄沢汚水をおびき寄せる作戦だった。
しかし、なでしことのデート中に何故かようこが乱入した結果、このような一対二の変則デートになってしまった。
うぅ、やらせとは言え、何気に今世で初めてのデートだったのに……。ちょっと残念に思う俺が居ます。
まあこの状況を役得だと感じる俺もいますがね!
「ねえケイタ。この後ってどうするの?」
俺の腕を抱きしめながら甘えるように身を寄せてくるようこ。
「私は啓太様が行くところでしたら、どこでも……」
それに対抗するように、反対側のなでしこも握った手にキュッと力を込め、少しだけ距離を縮めた。
右に可愛い系美少女なでしこ。左に綺麗系美少女ようこ。
まさに両手に花の状況に男たちの視線が一層強まる。彼女持ちの男でさえなでしこたちに視線が吸い寄せられ、自分の恋人に頬を抓られているのだ。
今はこの無表情がありがたい。もし人並みに表情豊かだったら間違いなく、だらしない顔をしているだろう。
人生で初めて自分の表情筋に感謝の念を寄せた時だった。
「妬ましい……世のカップルどもが。世のリア充どもが妬ましい……」
突然、強い風が吹いたかと思うと、一人の男が宙に浮かんでいた。
黒いマントで身を包んだ男は血走った目で眼下を睥睨している。街の人たちはまだ男の存在を認知していなかった。
――きたか……!
「……ターゲットらしき男、出現」
『今顔を確認した。あの男が栄沢汚水で間違いない。早速頼めるか?』
「ん……撲滅する」
なでしこを逃がし、ようこと二人で変態を撲滅しようとする。が――。
「貴様ら……リア充どもなんてみんな消えればいいんだあああああああ――――――ッ!!」
バッ! と男がマントを全開にすると、その下から紛うことなき裸体が姿を見せる。
「きゃあー!」
男のシンボルを直視してしまったなでしこが手で顔を抑え俯いた。
「うぅ……」
あのようこも頬を上気させて視線を反らした。
栄沢の汚物を見ないように視線を外す二人を見て、俺の中でふつふつと怒りが込み上げてくるのを感じた。
――うちの犬神にセクハラするとは、いい度胸じゃねぇか……。
その汚ならしい○○○を削ぎ落とし、滅殺してやる!
いつものように刀を創造しようとするが、数瞬先に栄沢が次の手を打ってきた。
「世のリア充どもに、聖夜の導きよ――!」
そして、栄沢の股間が突如輝き出した!
「うわぁ、なんだ!?」
「きゃぁぁぁー!」
股間から発した光に当てられた男たちの服が消失し、素っ裸になる。
突然、彼氏が裸になり悲鳴を上げる声がそこらかしこで発生した。
「……むぅ。なんて悪趣味な」
幸いここまで光が届かなかったから俺の服は無事だが。
しかし、街は男の奇行に阿鼻叫喚と化している。それまでのクリスマスムードが木っ端微塵に砕けた瞬間でもあった。
とりあえず、なでしこを遠くに避難させる。涙目でこくこくと頷いた彼女は早足でこの場を離脱した。
もう一人の相棒であるようこはその場に留まっている。
「……いける?」
「う、うん。大丈夫」
まだ少し頬は赤いがようこがうなずく。 頼もしい限りだが、ようこも女の子。あの変態を相手にするのは酷というものだろう。
どうしても助太刀が必要な時以外は俺メインでいこう。
「川平!」
なでしこと入れ違いで仮名さんがやってきた。右手にはメリケンサックのようなものが嵌められている。
「あれが栄沢汚水か。聞きしに勝る変態だな」
「ん。同感」
栄沢は哄笑の声を上げながら股間を輝かせている。
「いやぁぁぁー!」
「うわぁ! こっち来んなぁ!」
さっさと変態を駆除して事態を収拾しないと。
「ふはははは! 惨めに逃げ惑え愚民共! 神は貴様らの裸を所望している!」
「神の意志を勝手に捏造するな馬鹿者。お前の悪行はそこまでだ」
変態の前に立ち塞がる仮名さん。地に足をつけた栄沢がゆらりと振り向いた。
俺とようこは離れたところで待機している。まずは敵の戦力を見極めないと。
「むっ。何者だ?」
「栄沢汚水。お前の悪逆非道な行い、断じて許すわけには行かない。すべての祝祭を祝う恋人に代わってこの仮名史郎が成敗する!」
「ほう。この露出卿の我に真っ向から挑むと? 面白い、なかなか脱がしがいのある者が出てきたではないか」
仮名さんがメリケンサックを構えた。
「いくぞっ、エンジェル・ブレイド!」
メリケンサックの親指の方から白い霊力で構成された刃が伸びた。
光り輝くその刃を構え、栄沢に突貫した。
「聖なる力で魔を払え! 必殺、ホーリー・クラァァァッシュ!」
「ふん。たかだかその程度で、この我の怨念を払えるかッ! 収束せよ、股間ブレイド!」
……信じられないことに、栄沢の股間から放たれていた光が一点に収束し、縦に伸びた。
まるで剣のような形をしたその光は仮名さんのホーリー・ブレイドと拮抗してみせる。
こ、股間から伸びた光で斬り合うとか、絵ずらが……。
酷い光景だ。
「ちっ! なんてふざけたような力だ……っ!」
「ふはははは! ぬるい、ぬるすぎる! その程度の力で露出卿たる我に歯向かおうなど、百億万年早いわっ!」
「ぐっ!」
栄沢が大きく股間を動かし剣を振るうと、その勢いに負けて弾き飛ばされる。
その隙を突き、股間の剣の一部から射出された光が一本の矢のように仮名さんへと放たれた。
「うおっ!」
間一髪跳ね起きて回避する。光の矢はサンタコスチュームで飾り付けされたカー○ルサ○ダースに突き刺さり、マネキンを素っ裸に変えた。
そのおぞましい光景に俺も仮名さんも息を呑む。
「あの光を受けたら裸にされるのか……」
「はははは! さあ、お前も我の仲間になるのだ」
「誰がなるかぁ――!」
叫び跳躍する仮名さん。
大体、敵の強さも分かってきたことだし、俺も参戦するか!
「ようこ、そこにいる。援護が必要なとき、合図する」
「うん!」
「ん。変態撲滅する」
仮名さんの跳躍しての振り下ろしの一撃を股間の剣で迎え撃つ栄沢。
その隙を突き、創造した刀を三本投擲する。
「ぬっ!? ちぃっ!」
転がって回避した栄沢は俺が居る方向を睨みつけた。
「この露出卿たる我に土をつけさせるとは……何者だ!」
「……貴様に名乗る名前、ない。変態撲滅」
両手に刀を一本ずつ把持して栄沢の前に姿を躍り出る。
「川平か!」
「ん。ここから参戦」
「助かる」
刀を構える俺を凝視する栄沢。
その熱視線になぜか背筋が震えた。
風にたなびくマントがやけに目に付いた。
「な、なんだこの気持ちは……まさか、露出卿の我がそんな……っ」
なんか知らんが狼狽している今のうちに!
先手必勝、とばかりに刀を強く握り斬りかかる。
「くっ」
右の袈裟斬りを股間の剣で受ける。しかし、左の逆袈裟斬りを防ぐ手段がない。
栄沢は上体を限界まで反らし斜め下からの斬撃をやり過ごすが、胸に小さな傷を残した。
傷口から黒い瘴気がわずかに零れる。
「くらえっ」
「ちぃっ!」
背後から仮名さんが上段で振りかぶる。
それを大きく跳躍して回避し、再び宙に浮かんで空へ逃げた。
「ふ、ふふふははははは……まさか、まさかな。こんなことが起こるなんて……」
突然一人笑い出す変態。あおの尋常ではない様子に仮名さんが目を細めた。
「なんだ?」
「……さあ?」
一人笑い声を上げていた栄沢はピタッと止まると、上空から真っ直ぐ俺を見つめてきた。
その視線にまたもやゾクゾクっと背筋が震えた。
「少年、感謝するぞ。貴様のおかげで我はまた一つ、露出の扉を開いた」
そう言い、何故か――何故か頬を赤らめて俺に熱視線を送った。
「まさか……我にショタの属性があるとはな!」
背筋があわ立った。
「さあ、貴様も露出の良さを知るがいい!」
「川平っ!」
「ケイタ!」
変態の股間から伸びた光が俺を貫く。それはすなわち俺の裸を意味する、が。
俺の姿を見て、奴は唇を戦慄かせた。
驚愕に染まる表情で目を見開く。
「ば、馬鹿な……! なぜ、なぜ我の力が利かないんだ!?」
そう。俺の服装はまったく変わっていなかった。
仮名さんが説明を求める目を向けてきたので一言。
「……俺の能力」
「……っ! そうか、君の霊力物質化能力で脱がされた途端、服を創造したのか」
そう。奴の服を剥ぎ取る力は地味に脅威。羞恥心を押さえながら戦うというのは、理性ある者ではなかなか出来ないからだ。
いくら俺でも素っ裸で叩けるほど神経が太くない。
服を剥ぎ取られたら戦力が激減する。ではどうするか?
考えた俺はある言葉を思い出したのだった。
偉人は言った。パンがなければケーキを食べればいいじゃない、と。
そして閃いたのだ。
――服がなければ服を作ればいいじゃない。
なので、仮名さんが戦闘している最中、必死になって俺と仮名さんとようこの三人の服装のイメージを繰り返していたのだ!
「ようこ……ッ!!」
自分の変態能力が利かないことに驚くその隙に、ようこへ合図を送った。
「くっ! ならば繰り返し、少年に露出の良さを教え――」
「じゃえん!」
「ぐああ――――っ!」
変態の身を赤い炎が包み込む。間髪入れず、俺自身もありったけの刀を創造し次々と投擲する。
殺さねば。今すぐ殺さねば。血一滴、髪の毛一本すら残さず滅殺せねば!
じゃないと、俺の貞操が激ヤバなんじゃぁぁぁぁぁ――!!
感じる寒気を怒気に、殺気を乗せて計十八本の刀を全力で投擲した。
「ぐぅぅ……! ま、負けるものかっ! 我は、我は誇り高き露出卿なんだ……! 負ける、ものかあああああああ~~~~!!」
炎を散らし、全身のいたるところに刀を突き刺しながらも、なお股間から強い光を発する変態。
それを見て、俺は自重するのを止めた。
こいつはここで必ず殲滅しないと。世のため人のため。
そしてなにより、俺のため――。
「ようこ……! 俺を、奴の後ろに……!」
「……! うん! しゅくち!」
ようこの物質転送能力『しゅくち』で変態の背後に瞬間移動する。
「なっ!?」
「……堕ちろ!」
全霊力を循環させて身体能力を劇的に向上させた俺は変態の背中を蹴り飛ばし、地上へ落とした。
「創造開始! ……フッ!」
さらに五百の霊力を込めた刀を四本創造し投擲する。それらは奴の四肢に突き刺さり地面へと縫い止めた。
「仮名さん、今……!」
「応! 栄沢汚水、覚悟っ! 必殺、ホーリー・クラッシュ!」
「ぐああああああ!!」
四肢を縫いとめられて身動きが取れない変態を聖なる光が斬りかかる。
断末魔の悲鳴を上げる変態だったが、途中不気味な笑い声を上げた。
「ふ、ふふふ……我は不死身…………何度でも、よみがえ――」
「うっさい。粗チン」
脂汗を流しながらも不敵な笑みを浮かべていた変態だったが、俺の一言が奴を凍りつかせた。
止まっていた時間が動き出す。変態はかすれる様な声で言った。
「わ、我の逸物は、大き――」
「短小」
変態の目から滂沱の涙が流れ出る。
――女の子で駄目なら、君に一言大きいって、言って欲しかった……。
それが変態の最期の言葉だった。栄沢汚水は泣き笑いのまま、すぅっと消えていった。
天に昇った変態に一言。
「寝言は寝て言う」
ばっさりと切り落とした俺の隣で仮名さんが肩をすくめた。
2
「見た目にそぐわず結構辛らつだな……」
「変態に掛ける慈悲なし」
奴が残していったマントを拾い、刀で細切れにする。それをようこが燃やし灰にした。
汚物は消毒しないとな。この場合は焼毒か?
「なにはともあれ、これで任務完了だな」
「ん。依頼料」
「銀行振り込みでいいか?」
「ん」
「少々色を足けておく、期待しているといい」
「ん! 楽しみにしてる」
どちらともなく笑い合い、手を差し出して硬く握り合う。
男だからこそ分かり合えたような、心地よい空気が流れた。
「では、私はこれで失礼する。また会おう、川平」
「ん。また」
くるりと背を向けて去っていく仮名さん。最後まで振り向かず歩み去っていくその背中を見送り、俺も振り返った。
少し先で心配そうにこちらを見つめる犬神の姿を認め、フッと微笑む。
「……帰ろ。なでしこ、ようこ」
いつぞやの時のように左腕をようこが抱きしめ、右手をなでしこが握る。
あー、折角のクリスマスイブだったのに、変態のせいで台無しになっちゃったな。明日はちゃんと祝おうな。
ん? おお、それはいいな。じゃあ夜は家でクリスマスパーティーをするか!
それじゃあ、明日の昼はパーティーの買い出しだな。なでしことようこも一緒に行くよな?
仲良く歩きながら会話に花を咲かせる。
街燈の明かりが三人で寄り添う影を作った。
ちょ、ちょっとやり過ぎましたかね?
感想や評価、お待ちしております。