いぬがみっ!   作:ポチ&タマ

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 連投三日目。
 先日、15000円したマウスを買いました。
 ケンジントンの「スリムブレイドトラックボール」という初めて見るタイプのものだったので、つい買ってしまいました。
 使い心地は抜群にいいんですが、慣れるまで時間が掛かりそうです。


第二十二話「教育方針」

 

 人気のない夜の公園。街灯がほんのりと暗闇を照らす空間を鋭い剣戟の音が木霊する。

 俺の前には全身に切り傷と火傷を負った上半身人間、下半身蛇の蛇女が満身創痍の姿でありながら、未だ敵意の衰えない目で睨んでくる。

 両手に把持した刀をしっかりと握りしめながら、敵意の込めた視線を睨み返した。

 

「憎い……憎い憎い憎い憎い憎い……! 私を捨てた男も、私を邪魔するお前も、なにもかもが憎いッ!!」

 

 蛇の癖してなかなか速い動きで迫り、鋭く尖った爪を向けてくる。

 それを刀で受け止め、弾き返し、返す一閃で手首を両断した。

 

「ぎゃあああああ! 私の手がぁぁぁ!」

 

 斬り落とされた手首を押えながら離れる蛇女。その隙を突き、今度はこちらから間合いを詰めて無防備な胸に刀を突き刺す。

 

「がっ……!」

 

「ようこ!」

 

 バックステップで離れながら相棒の一人である犬神の名を叫ぶと。

 

「任せてケイタ!」

 

 じゃえん、という言葉とともに蛇女が炎に包まれた。

 

「創造開始」

 

 何千、何万と繰り返してきた刀の想像にして創造。

 一秒にも満たないわずかな時間で投擲用の刀を六本創り出し、鋭い呼気とともに投擲。

 寸分の狙い違わず、すべての刀が蛇女に突き刺さった。

蛇女は今度こそ未練の言葉を残す間もなくこの世を去った。

後に残ったのは長い髪の燃えカスのようなもの。

 

「……ふぅ。依頼完遂」

 

「やったねケイタ!」

 

 空からふよふよ降りてきたようこがそのまま俺の肩に抱きついてくる。

 心地よい疲労と重みを感じながら今回の功労者の一人の頭を撫でた。

 

「ん……。ようこも頑張った。偉い偉い」

 

「んふー♪」

 

 満足そうな鼻息を零しながらぐりぐりと額をこすりつけてくる。

 今回はとある男性からの依頼。

 内容は「最近変な女が付きまとってくるんです。引っ越したばかりで誰も知らない家の電話番号を知っていたり、呪ってやるなんて手紙が届いたり、なんかすごく気味が悪くて最近じゃまともに夜も眠れません。もしかしたら悪霊か何かかもしれないです。お願いですから祓って下さい」というもの。

 依頼料はなんと五十万。どこかの社長さんらしくポンと大金を出してくれた。

もうすぐさま飛びついた俺は実際に話を聞くべく依頼主とコンタクトを取ることにした。

 とはいっても相手が俺だと依頼主も不安だろうから、俺の使いとしてなでしこを向かわせた。

 待ち合わせ場所はカフェテリアのため、なでしこたちの後ろの席に俺が座り、依頼主たちの話を聞きながら、その都度、風玉という遠くに言葉を運ぶ零法でなでしこに指示を出し、詳細を聞き出したというわけだ。

 もっぱら最近では、依頼主とのコンタクトが必要な時はこのような方法で聞き出している。相手も俺が犬神使いであることを知っているため不審に思うことなく喋ってくれるからありがたい。

 そして聞き出した情報だと、もう粘着質なストーカーだとわかった。勝手にかかってくる電話や手紙なんてまさにそれでしょう。

 ただ二つ気になったのは、その依頼主の話で実際に目撃したことがあるようなのだが、次の瞬間には姿が消えていたらしい。

 そしてもう一つが、依頼主に微々たる気配だが霊力が付着していたのだ。

 以上の点から相手は人間ではなく魑魅魍魎の類いのストーカーだと当たりをつけて捜査を開始。

 依頼主が住まう地域の周辺を歩き調べ、霊力が強い場所をいくつかピックアップ。そのうち一番霊力が強い場所をようこと二人で待ち伏せていたのだ。

 なでしこには依頼主を遠目から監視してもらい、もしストーカーが出たら連絡をくれるように伝えてある。

 そして山を張ること三日。結構あっさりと見つかりました。

 呪うだとか憎いだとか連呼してたしもう一目見て悪霊だと分かった。なので早速除霊タイム(物理)と洒落込み、つい先ほどあの世へ送ったというわけだ。

 いやー、さすが蛇だけあってしぶといわー。なにあのタフネス。斬っても焼いてもその都度立ち向かってくるとか、軽くホラーなんだけど。いや存在自体がホラーなんだけどさ。

 まあいいや。蛇女も倒したことだし依頼完了ってことで後に依頼主にメールを送るかな。というか新しく手に入ったパソコンがインターネットよりメールを開く回数の方が多いってどういうことだろう?

 そうして俺はようこを連れて家で待つなでしこの元へ帰ったのだった。

 

 

 

 1

 

 

 どうも皆さんこんにちは。寒さには意外と強い川平啓太です。

 季節は冬。テレビの予報だと今年は例年になく一番冷えるらしい。

 もうすぐクリスマスだ。今までだとお婆ちゃんやはけなどの身内だけで祝っていたが、今年は俺の犬神になってくれたなでしことようこの三人で迎えるつもりだ。

 

(クリスマスプレゼントも用意しなくちゃな……)

 

 男の俺が女性が好むものをチョイスするのは些かハードルが高いが、頑張る。いざとなったらはけにも助けてもらおう、うん。

 

(幸いなことに予算はあるからな)

 

 俺が依頼を受け持つようになってから早二か月。先日の蛇女の件を含めると七件目の依頼を達成した。

 結構まずまずな感じで熟せていると思う。今のところ全部の依頼を達成できているし、依頼主も満足してもらっているから今後リピーターも増えていくことだろう。そうあると願いたい。

 なので今のところ資金も順調に稼げている。ちなみに自分で稼いでおきながら毎月、我が家の家計を担っているなでしこにお小遣いを貰らっているけど。月五千円だ。

 貯金は全額で三万円。これならそう高いものでなければ十分良いプレゼントを買えるだろう。

 なでしこやようことの関係も良好だし、すべていい感じで回っている。

 

「……うーん」

 

 さて、いま俺はなでしことようこの三人でドコノショップに来ている。というのはそろそろ俺たちも携帯を持ち歩いたほうがいいと思ったからだ。

 本当ならパソコンの購入で大金が飛ぶから携帯はもう少しあとにしようと思っていた。しかし運がいいことに、学校のとある先輩が最新のパソコンを購入したため一昔前のバージョンのノートパソコンを譲ってくれたのだ。

 その人とはとある事件を切っ掛けに知り合ったのだが、ぶっちゃけ学校でも俺は無口無表情、さらには実家が霊能関係であるため不思議ちゃんで通っている。まあクラスの人たちとはそれなりに受け入れられているから孤立はしていないのだが……。

 そんなこともあり、その人――河原崎先輩になぜか気に入られている俺はそれなりの付き合いをさせてもらっている。先輩や学校での話はまたの機会にしよう。

 

 閑話休題。

 そういうことで依頼も順調だし、お金にも余裕が出てきてたから三人分の携帯を購入しようと思ったわけだ。

 とりあえず、近くのドコノショップに来た俺たちはなにかいいものが無いかと物色しているのだが。

 

「えーと、どれも同じに見えますね」

 

「ケイター。ケイタイってなぁに?」

 

 そう。どう違いがあるのかさっぱり分からんのです。

 いやね、携帯は知ってるよ? ガラケーとかスマホだとか。基本的な機能も一応知ってるよ?

 だけど、ぶっちゃけ仕事やプライベートでしか使わないから、通話とメール機能さえあればいいんだよね。てか、スマートフォン高ぇな! こんなのが六万もするのかよ!

 いらねいらね。使いこなす自身はあるけど必要性がない。ガラケーで十分だ。お、ゼロ円携帯あるじゃん。

 

「……決めた。これにする」

 

 俺はゼロ円携帯の黒いガラケーにした。

 こういう電子機器に弱いなでしことようこにそれぞれどういう機能があり、どんなことが出来るのか説明するが、結局俺と同じゼロ円携帯で良いと言い出した。

 

「……いいの? ちゃんとしたのでも、いいよ?」

 

 なにもこんな一昔前の古びた携帯にしなくても……。まあ俺も同じだけど。

 困ったような顔でなでしこが首を傾げた。

 

「いえ、私には無用な長物になると思いますから、それなら啓太様と同じ物のほうが」

 

「わたしもわたしもー! ケイタとお揃い~♪」

 

 さいですか。ていうかようこ、お前さん携帯がどういうものなのかちゃんと理解できたか?

 まあいいや。本人達の意思を無視して押し付けるのもあれだし。なでしこは白いガラケー、ようこは赤いガラケーを購入した。

 三人の契約名義は俺。同意書は保護者であるお婆ちゃんに名前を書いてもらった。

 

「やった、やった、やったった~♪ ケイタとお揃い~!」

 

 帰路に着くとようこはご機嫌な様子で笑顔を浮かべた。

 なでしこも嬉しそうに微笑みながら隣を歩いている。

 帰ったら番号の登録や設定しないとな。

 

「これでいつでもケイタとお話できるんだよね?」

 

「いつでも無理。授業中ダメ」

 

 ようこのことだから授業中だろうがお構いなしで掛けてきそうだな。ちゃんとマナーモードの設定もしておかないと。

 

「……まあ、気軽に電話かけてきていい。なでしこも」

 

「はい、啓太様」

 

 なでしこはなでしこで遠慮して緊急時以外掛けてこなそうなイメージが……。いや、むしろ「今日のご飯は何になさいますか?」とか献立のことで掛けてくるかも。

 帰宅早々、早速携帯を取り出す三人。

 俺は前世の謎知識の助けもあり、ちゃちゃっと設定を完了させた。

 

「うーん……うぅ、うわぁぁん! わかんないよ~!」

 

「申し訳ありません啓太様。その……」

 

 説明書を読むことなく携帯を弄っていたようこだったが、早速ギブアップ。

 その隣でなでしこも申し訳なさそうな顔をしながら小さく手を上げた。

 

「……はいはい」

 

 苦笑した俺はなでしことようこの携帯の設定も済ませて、ついでに俺の番号とアドレスを登録。俺の携帯にも二人の番号を登録した。

 

「……はい。もしメールもするなら、アドレスは自分で考える」

 

 こんな感じねと俺のアドレスを見せると、ようこは首を傾げ、なでしこは難しそうな顔で画面と睨めっこした。

 

「これが、アドレスですか? なにやら暗号のようなのですが……」

 

「暗号の様なもの。その文字を正しく入力する。じゃないと送れない」

 

 でもメールは必ずしも覚えなくちゃいけないわけではないから。通話の掛け方と出方はちゃんと覚えてね。

 まあ、しっかりと覚えるまでちゃんと教えるから。だからようこ、説明書を千切って遊ぶのはやめなさい。

 誰が掃除すると思ってるんだまったく。……はい、なでしこさんお願いします。

 

 

 

 2

 

 

 

 時刻は十時を回った。

 俺となでしこは和室で正座をして向かい合っていた。ちなみにようこはすでに夢の中である。

 

「それで啓太様、大切な話というのは?」

 

「ん。ようこのこと」

 

「ようこさん、ですか。彼女がなにか……」

 

 心配そうな不安げな目で俺を見つめる。ようこにあんな態度を取られながらも心配できるとは、本当に友達思いなんだな。

 本人は隠せているつもりだろうが、この狭い空間の中だ。さらにはいつも一緒に居るから、ようこがなでしこを邪険に扱っているのは知っている。

 が、俺が口を挟むところではないだろう。まだ全部理解しちゃいないが、なにやら複雑な前後関係があるようだし。

 

「ようこの修行について。お婆ちゃんからの条件。犬神の修行って?」

 

「そうですね……。私たち犬神は主人に尽くし、従い、敬います。ようこさんの場合これらが少々弱い印象がありますので、これらを学習していければと思います。それと、いささか人間社会の常識や倫理というものが欠けていらっしゃいますので、その辺りのお勉強も必要ですね」

 

「ん……最後の方は超同意」

 

 俺の言葉に苦笑したなでしこは優しい表情を浮かべた。

 

「ですが、ようこさんの啓太様へ向ける思いは本物です。ちょっと騒がしく思慮に欠ける行動を取るかもしれませんが、そこだけは疑わないで上げてください」

 

 たしかにようこは目を離すとすぐに売り物に手を出そうとするし、人の物を勝手に取るし、時たま俺をからかって遊ぶし、道徳や倫理というのが欠けている。

 が、あいつが俺に向ける笑顔は曇り一つなく、それが混じり気のない純粋な好意であることくらい分かっている。

 

「……大丈夫。疑ったことは一度も無い」

 

 まあバカな子ほど可愛いっていうしな。アイツの場合見た目は綺麗だけど、社会常識がないからバカに見える!

 

「……それで、どうしよっか。ようこの修行」

 

「そうですね……。正直、私なんかにようこさんの修行の監修が勤まるのか不安ではありますが……」

 

「ん。一緒に頑張ろ」

 

「……はい」

 

 さすがに犬神の心得なんかは分からないが、一般常識とかなら俺も教えられるし。あ、そっか!

 一般常識や社会常識を俺がメインで教えて、犬神に関する内容はなでしこが教えればいいんだ! ようは役割分担だな。

 どうよこれ?

 

「そうですね、私も自信を持って一般常識に答えられるか少し自信が無いので、そうしていただくと助かります。それなら何を教えればいいのか明確になりますし」

 

 よし決まり。

 じゃあようこを立派な犬神にすべく頑張りましょう!

 

「……これからもよろしく」

 

「え? えっと、はい。こちらこそ?」

 

 今後、同じ苦労を分かち合うことになるであろう。

 一緒に色々な意味で頑張りましょうと、握手を交わした。

 

 

 

 3

 

 

 

「啓太様、総家様からお電話です」

 

 ようこの教育方針が決まった次の日。お婆ちゃんから一通の電話が届いた。

 いつも用事がある時ははけを通じて知らせてくるため、こうして電話をかけてくるのは珍しいケースだ。

 

「……? もしもし」

 

『おお、啓太か。すまんのいきなり』

 

「大丈夫。で?」

 

『うむ。ちとお前さんに頼みたい仕事があるんじゃが』

 

 ほう、仕事ですか。

 まだまだ俺の知名度は低いため、こうしてお婆ちゃんから依頼を紹介してもらっている。

 いつか依頼主から直接、依頼を貰いたいものだ。

 

「……依頼?」

 

『うむ、そうなんじゃが……。あー、今回は少々特殊な依頼でな……』

 

「……?」

 

 珍しいな、お婆ちゃんが言い淀むだなんて。

 特殊な依頼とは一体なんぞ?

 

『……正直、これをお前さんに紹介していいものなのか、わしにも判断に迷うところなんじゃが……まあ、何事も経験あるのみじゃ。依頼主には啓太を紹介しておいたからの』

 

「ふーん。ま、いいけど……。で、依頼主は?」

 

『――仮名史郎。特命霊的捜査官という鎮霊局の者じゃ』

 

 お婆ちゃんが紹介した名前が今後の人生に大きく関わってくると、この時の俺には夢にも思わなかった。

 

 




 ついに変態という名の運命に翻弄される男、変態特命捜査官が登場!

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