いぬがみっ!   作:ポチ&タマ

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 友達から聞いた小二~大二病の定義。
・小二病「なにがなんだかわからないけど、とにかくスゲー!」
・中二病「ひたすら格好良さを求める」
・高二病「シリアスなところに魅かれる」
・大二病「ある種の悟りを開く。諦観?(例:世界は所詮こうなんだから……)」

 なお、友達いわく大二病は小二病に進展することもあるらしい。人によってはループするのだとか。(例:世界は所詮こうなんだから……だが、だからこそそれがイイ!)
 さて、皆さんは何病かな? ちなみに作者は友達いわく小二と中二の間らしい。



第十七話「依頼」

 

「ふんはぁぁぁぁぁぁッッ!!」

 

 とある山奥に存在する滝つぼ。天から落ちる龍のような、凄まじい勢いと迫力で流れ落ちる水流。

 そこへ一人の男が拳を突き刺す。

 間髪入れず拳を引き、逆の突きを放つ。

 正拳突きと呼ばれる動作。

 一瞬、水を穿つも流れ落ちる水が瞬く間に穴を塞ぎ、そして再び新たな穴を穿つ。

 何度も。

 何度も。

 

「ぜいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」

 

 男は筋骨隆々という言葉がピッタリな風貌をしていた。

 鍛え上げられた筋肉はムキッと盛り上がりを見せ、赤銅色の肌が水滴を弾く。

 ナイフで刺すような冷たい水に膝まで浸かり、もう何時間もここで拳を振るっているためか、身体から濛々と湯気が立ち昇っている。

 鬼気迫る、まさに鬼のような形相。親の敵が相手でもここまでの形相はしないだろうと思えるくらい凄みのある顔つきだ。

 身に着けているのは赤い褌一丁。

 己のすべてを出し切り、自然へと挑むその姿はまさしく一人の武道家。

 

「しゃぁりゃああああああああああッッ!!」

 

 男が振り上げた足が滝の一部を割った。会心の一撃に男の顔に笑みが浮かぶ。

 

「ぬわっ」

 

 しかし、男は足元を滑らせて重心を崩してしまう。水中に転倒するそんな男をあざ笑うかのように、割れた滝が元の勢いを取り戻した。

 

「……未熟ッ!」

 

 バネ仕掛けの人形のようにすぐさま起き上がる男。全身ずぶ濡れなのを気にも留めず、先ほどよりも幾分か増した形相で己を責めた。

 

「未熟未熟未熟ゥゥゥ! なんたる様かッ!!」

 

 鼻息荒く近くにあった岩場に歩み寄り、唐突にヘッドバッドを執拗に打ち出す。

 ガンガンガンッ! ととても肉体が奏でる音とは思えない音を響かせながら、ついには岩を粉砕した。

 

「ぶるぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッッ!!!」

 

 何かに目覚めてしまったのか。はたまた、頭の打ちすぎで脳が逝かれてしまったのか。

 男は天へ届けといわんばかりの雄叫びを上げると走り出した。

 山を離れ、岩をよじ登り、すれ違う人に絶叫され、当てもなくただ本能と何かに拳を叩きつけたい衝動に従い駆ける。

 ひたすら駆け、ようやく男は自分の中に巣くう衝動をぶつける相手を見つけた。

 

「だっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 巨大な岩。何かをまつっているのか、しめ縄がされた岩に男は拳ではなく頭を叩き付けた。

 飛び散る岩の破片とわずかな鮮血。

 この男の行動が、後にある少年と少女たちが関わる原因となる。

 

 

 

 1

 

 

 

「――ん……んぅ……」

 

 カーテンの隙間から零れる朝日。まどろむ意識が覚醒へと向かう。

 小鳥のさえずりが耳に心地よく、小さく身じろぎをした。

 

「んー……?」

 

 ごろんと寝返りを打つと、ぱふんっと顔面に柔らかなものが納まる。

 芳香な香りが鼻腔をくすぐった。

 なんだ、この柔らかいのは……。

 顔面を柔らかく圧迫する物体。それでいていい匂いがする。

 まだ脳が正常に覚醒していないなか、謎の物体を掴んでみる。

 

「やぁん♪」

 

 謎の物体は手の中でくにくにと形を変え、柔らかな弾力で押し返してきた。

 ついでに、なにやら艶かしい声も返ってきた。

 ――…………!?

 

「もー。ケイタって意外とエッチなんだね♪」

 

 ようやく脳が起き出し、現状を把握することが出来た。

 何故か隣で添い寝しているようこの胸を揉んでいる、そんな現状が。

 

「……!? な、なにっ?」

 

 慌てて転がるようにして距離をとる。

 昨日は三人分の布団を敷いて、別々で寝たはずだ。なでしことようこはリビング、俺は和室としっかり男女で分けた。

 ようこもちゃんと自分の布団で寝た。

 それなのになぜお前さんが隣で寝てる!? 昨日別々の布団で寝たよね!?

 障子によって隔てられた室内には俺とようこのみ。

 時計を見てみると時刻は七時を回ったところだった。

 

「なん、なんで隣、寝てる?」

 

「ん? 啓太と一緒に寝たかったから。だってわたし、啓太の犬神だもん♪」

 

「その理屈、おかしい」

 

 思わず突っ込んでしまったが、深呼吸を繰り返して心を落ち着かせる。

 ……まったく、朝から変な汗かかせやがって。

 なにが楽しいのか上機嫌に笑いながら、四つん這いでにじり寄ってくる。

 

「失礼します啓太様。朝食の支度が整い――」

 

「ケイタ、わたしのおっぱい気持ちよかった?」

 

 スッと襖が開かれ、なでしこが姿を見せる。

 それと同時にようこが豊満な胸を自分で揉みながら、爆弾を投下しやがった……!

 

「……啓太さま?」

 

 あ、あれ? なんでそんなに笑顔が硬いのかな??

 おい、なんだその背後に視えるものは……! なでしこさん、アンタ一体いつからスタ○ドに目覚めたんだ!?

 

「んー、いい匂い! お腹すいたぁ~」

 

 おいちょっと待て。なにしれっとわたし関係ないもんとでも言いたげにリビングに向かうんだお前。

 おい元凶! カムバック!!

 内心狼狽する俺であったが、無情にもデフォルメされた可愛らしい子犬が前足を振り上げた。

 

 

 

 2

 

 

 

「まったく。ようこさんもあまりからかってはダメですよ?」

 

「からかってないもん。ケイタになら触られてもいいもーん」

 

「ダメです。女性が無闇に殿方へ肌を許してはいけません」

 

 ……どうも、皆さんおはようございます。朝から理不尽な仕打ちを受けました川平啓太です。

 なんとか誤解を解いたが朝から無駄に疲れたぜ……。甘い卵焼きがしょっぱく感じるのは何故だろう。

 ズズッと味噌汁を啜る。んー、美味。

 ちゃぶ台の上には白米と味噌汁、シャケの塩焼き、卵焼きが人数分並んでいる。

 これらはすべてなでしこが用意してくれたものだ。

 契約の時に一通り家事は出来ると言ってくれた通り、素晴らしい出来栄え。いや、想像以上の腕前だ。

 シャケの焼き加減がなんとも絶妙。味噌汁も延々と飲めるくらい美味しい。

 ぶーたれたようこを尻目に味わいながら食べていると、なでしこがどうでしょうと不安そうに聞いてきた。

 どうでしょうって、そんなアンタ……。

 

「美味い」

 

 この一言に尽きるでしょうに。

 グルメレポーターのような表現力がない俺には多くの思いを込めてそう言うしかない。

 

「そうですか。お口に合ってなによりです」

 

 ホッと安心したように一息ついたなでしこは自分も朝食を食べ始めた。

 

「へいは、ひょうははにふふほ~?」

 

「ようこさん、食べながら喋るのはお行儀が悪いですよ」

 

「ん。まずは飲み込め」

 

 ご飯粒を飛ばしながらガツガツと勢い良く食べ、口に入れたまま喋るようこを嗜める。

 

「もぐもぐもぐ……ごっくん。ケイタ今日はなにするの?」

 

「んー。今日は―ー」

 

「失礼します」

 

 虚空からすぅっと浮き出るように表れた一匹の犬神。

 濃紫色の髪で片目を隠した男はお婆ちゃんの犬神であるはけだ。

 はけは食事中の俺らを見ると朗らかに微笑んだ。

 

「お食事中失礼します」

 

「ん。いらっしゃい。食べてく?」

 

「いえ、大変魅力的ではありますが、今日のところは遠慮します。我が主からです」

 

「ん」

 

 差し出されたファイルを受け取る。

 内容は以前話していた仕事の紹介についてだった。

 ざっと目を通した俺ははけに大きく頷いた。

 

「……ん。お婆ちゃんに分かったって伝えといて」

 

「承知しました。……それにしても良い部屋ですね。昨日の今日でもうこんなにも家具を揃えたのですか」

 

 部屋を見回したはけが感嘆のため息をついた。

 俺も一緒になって部屋を改めて見回す。

 リビングには茶色を基調とした絨毯が敷かれ、ちゃぶ台がど真ん中を占領している。壁側にはテレビを置くためのスペースを作り、テレビ台はすでに設置済み。

 キッチンの方には食器棚と冷蔵庫、電子レンジ、電子ジャー。

 和室にはタンスとクローゼット、それと小さな収納棚。

 後はテレビと電話機を揃えるだけだ。幸い、お婆ちゃんから貰った資金はまだ余裕がある。その辺の管理はなでしこにお任せだけどね。

 依頼をたくさんこなして金を稼がないと。この家の大黒柱は俺なのだから。

 

「わたしが頑張ったんだよ!」

 

 ふんすと鼻息強めで胸を張るようこ。確かにこれらはお前さんの手柄だな。

 頭を撫でると「えへー」と相好を崩す。ちっ、可愛らしいじゃねぇか。

 ふと視線を感じた。なでしこの方を見ると「別に私、気にしてませんよ?」とでも言いたげに食事を続けているが、チラチラと撫でられているようこを――というより、撫でている手をチラ見していた。

 ああ、もう! 可愛いなぁ!

 食卓には三角形になるように座っているのでなでしこも手が届く距離にいる。なのでそちらにも手を伸ばし頭を撫でてやった。

 

「あ、はぅ……」

 

 顔を赤くして少し俯く。照れたときに俯くのが癖なのかな?

 左手には艶々した手触りのようこの髪。右手にはサラサラした手触りのなでしこの髪。

 同じ女の子でもこうも質感が違うのかー、などと考えていると、はけの小さな笑い声が聞こえた。

 

「ふふ……失礼。安心したのですよ。なでしこもようこも、啓太様と良い関係を築けているようで」

 

「当然」

 

 むしろ、もっともっと仲良くなってやるさ。

 

「では私はこの辺りで失礼します」

 

「ん。お婆ちゃんによろしく」

 

 やって来たときと同じく、すぅっと虚空に溶け込むように消えていくはけを見送り、改めてファイルに目を落とす。

 初仕事だ。気合を入れねば。

 

 




 滝つぼの場所は原作だと川の近くらしいですけど、当作では山になりました。
 次話はついになでしこ視点での話です。ちなみに過去最長文です。

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