いぬがみっ!   作:ポチ&タマ

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 明けましておめでとうございます。
 感想の多くに「いぬかみ懐かしい」のコメントを貰います^^
 原作開始前はさらっと流していますので結構時間の流れが速いです。

 ご指摘を頂きまして以下を修正します。
・誤字を修正。


第十話「破邪顕正」

 

 おっす! オラ、川平啓太! 前世の記憶持ちの八歳児だ!

 今、俺は薫と一緒にお婆ちゃんの部屋にいる。なんでも大切な話があるとのことで呼び出されたのだ。

 なんだろう。内緒でお婆ちゃんが大切に食べていた饅頭を一気食いしたことじゃないよな? バレてないよな?

 内心ドキドキしながらいつもの涼しげフェイスを保つ。

 対面に座るお婆ちゃんは難しい顔で腕を組み、隣には緊張した面持ちの薫がいる。

 

「もう八歳になったんじゃな。時が経つのは早いのぅ」

 

「……ボケた?」

 

「啓太くん失礼だよ!」

 

 首を傾げる俺を諌める薫。

 そんな俺たちに苦笑したお婆ちゃんは静かに語り始めた。

 

「お主らも我ら犬神使いの本懐を知っていような?」

 

 犬神使いの本懐っていうと、アレだよな。はじゃけんしょーだっけ?

 

「破邪顕正ですね」

 

「うむ。この意味はちゃんと分かっておるか?」

 

「……テメーの考えは間違ってる。俺が正義だ?」

 

「いや、まあ大雑把に言えばそうなのじゃが、もう少し言い方というものがあるじゃろう……」

 

 ため息を吐くとお婆ちゃん。薫や、その苦笑いはやめい。

 

「破邪顕正は仏教用語の一つでな、川平の開祖慧海様が掲げていた考えじゃ。破邪、つまりは邪道や邪説を打ち破り、正義を成すことを意味する」

 

 ああ、川平さん家の慧海さんね。たしか旅のお坊さんだったな。

 この辺の話はずっと昔から聞かされていた。

 犬神が住まう地で暴れていた大妖怪。当時の犬神たちではとてもではないが太刀打ちできず、そんな絶望的な中で現れたのが旅人の慧海だった。

 慧海は恐るべきカリスマ性で犬神たちを纏め上げ、彼の指揮のもと見事大妖怪を封印することに成功。

 その後、再び旅に出るところを慧海に心酔した犬神たちによって引き留められ、彼らの懇請を容れてこの地に住み着く。そんな話だ。

 

「しかし、残念なことに最近の犬神使いたちは頭が堅くての。正義は一つだと、己が正しいのだと妄信しておる」

 

 あー、親戚連中にそういう奴らたくさん居そうだわ。

 

「よいか啓太、薫。正義とは一つではない。お前たちからしてみれば悪に見えても、相手からしてみればそれが正義なのじゃ。世にはそんな話が山ほどある」

 

 なるほどな。その考えは俺も理解できる。

 例え話をするなら、その日を生き抜くのにも厳しい子供が盗みを働く。多くの人は盗みは罪であり悪だと言うだろう。

 確かに盗むのはよくないことだ。しかし生死が掛かっている少女からすれば形振り構っていられない状況である。また表に出来ない事情がある故、他に選択がなかったのかもしれない。

 また、違う例でたとえるなら、友人が納豆を食べていたとする。

 納豆を食べると早死にする! そんな迷信を信じていたとして、本人は友人に納豆を食べるのをやめさせようとする。これは本人からすれば自分の行いは正義だ。

 しかし、友人からすれば大好物の納豆を根拠の欠片もない迷信を理由に取り上げようとする。そんな彼こそが悪である。

 そんな話か。

 

「遠くない未来、お主たちも犬神使いになるじゃろう。なにが正義でなにが悪か、それを常に考えることじゃ。状況によってはこの二つの関係は逆転することもある。世の中に絶対という言葉は存在しないのじゃ」

 

 まあ犬神使いだけに限った話ではないがのう。最後にそう締めくくったお婆ちゃんははけが淹れた茶で一息を淹れる。

 

「……わかりました。僕、今の話を絶対に忘れないようにします」

 

 なにやら薫さんが感銘を受けたようです。まあ子供からしてみれば目から鱗の話だったかもしれないな。真面目な薫からしてみれば特に。

 俺? 俺は一つ頷いただけさ。

 

 

 

 

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 お婆ちゃんのありがたいお話を聞き終え、お昼も過ぎていたことから昼食にすることにした。

 ただ、今日は天気がいいから犬神の山でピクニックでもしようと思う。独りでな!

 薫も誘ったのだが、生憎この後は用事があるとのこと。お婆ちゃんも仕事関係で家を離れ、はけはその付き添い。

 と、いうわけで独り淋しくピクニックさ。大丈夫、独りなのは慣れてるし淋しくなんかないやい!

 もしかしたら、この間の女中さんがいるかもしれないし……いたらいいなぁ。いないだろうけど。

 あの後、女中さんとは会うことがなかった。家でも見かけなかったし、ホント誰だったんだろうか……。

 弁当が入ったリュックを背負い、険しい山道を歩く。

 ぐぅ〜とお腹の音が響いた。

 腕時計に目を落とすと時刻は一時過ぎ。

 

「んー……食べるか」

 

 こんなこともあろうかと、おむすびを二つ作っておいたのだ。

 山頂まであと十分くらいだし、ここで少し休憩を取ろう。

 適当な座れる場所を探して腰を下ろす。

 リュックから笹の葉に包まれたおむすびを取り出した。

 

「……おむすびにはやっぱり、沢庵」

 

 おむすびの横にはちょこんと沢庵が二つ。

 おむすびといったらやっぱり沢庵だよな! またはしば漬けでも可!

 

「……ん?」

 

 大口を開けてかぶりつこうとしたところで、不意に人の声が聞こえた気がした。

 耳を澄ますと、どこかで聞き覚えのある声が。

 

「楽しみっすね琢磨さん!」

 

「おう! 捕まえたらいくらで売れっかな?」

 

 おや? 誰かと思えば琢磨少年と子分ではないか。久々に見たなー。

 あのイジメ以来俺を避けるようになった二人。こうして姿を目にするのは久しぶりだ。

 琢磨少年は一抱えするほどの大きさのケージを持っている。

 

「……怪しい」

 

 非常に怪しい。怪しさ満点だ。

 なのでこっそりと跡をつけることに。

 彼らは茂みの奥へと向かっていった。

 

「あっ! いましたよ琢磨さん!」

 

「ははっ、引っ掛かってやんの!」

 

 木の影からこっそり様子をうかがうと、信じられない光景が目に入った。

 なんとトラップに掛かった動物を手にしたケージに入れようとしていたのだ。

 これはただ事ではない!

 慌てて飛び出した俺は勢いそのまま、暴れる動物をケージに入れようとしている琢磨を殴り飛ばした。

 

「……なにやってる、この馬鹿ども」

 

「ぶはっ!?」

 

 口より先に手が出るとはこのことか。それはともかく、激情に駆られてつい殴り飛ばしてしまった。反省も後悔もしていない。

 

「琢磨さん!」

 

 勢い良く吹き飛ぶ琢磨。すかさず隣で唖然としている子分に足払いをかけて、うつ伏せになったところを足で踏みつけた。

 

「くぅッ……! 離せぇ!」

 

「喋るな」

 

「ああああぁぁ!!」

 

 抵抗する子分を強く踏みつける。今の俺は激おこぷんぷん丸なんだ。

 脳内は相変わらず愉快なことになってるけど、マジおこモードだから気をつけろよ?

 

「――いってぇ……なんだぁ?」

 

 茂みから吹き飛ばされた琢磨が現れる。

 奴は俺の姿を認めると顔を引き攣らせた。

 

「なっ、て、テメェは……」

 

「おい」

 

 足の下でジタバタもがく子分を無視して琢磨少年を睨む。

 ヒッ、と声なき悲鳴を漏らした。

 

「お前、なにやってる?」

 

 罠に掛かった動物に目をやる。

 その子はどうやら狐のようで、前足から血が流れていた。

 可愛いもふもふ動物。それも狐。怪我。罠。

 色々な単語が浮かんでは消える。

 ……許さん。

 

「なにやってる?」

 

「お、俺は――」

 

 子分の背に乗せていた足をどかして琢磨少年に接近。腹に拳をぶち当てる。

 膝を突いて悶絶しているがそれに構わず、背中を蹴り飛ばして強制的に腹這いにさせてから逃げられないように足を乗せる。

 

「この子を捕まえてなにする?」

 

 言え。さもなくば死ね。

 殺しはしないが半殺しにはするつもりで殺気を浴びせる。

 

「ヒィっ!? わ、わかった、言う! 言うよ!」

 

 それから語った琢磨少年の話はなんとまあ。この心境をどう言い表せばいいのか悩む。

 どうやら犬神を捕まえて好事家に売り飛ばし、金を作ろうとしたようだ。そのため罠を仕掛けて捕獲しようとしたのだが、引っ掛かったのが犬神ではなく狐であり、まあそれでもいっかと思って捕まえようとしたと。

 八歳の子供が考えることではないし、ましてや犬神とともにある川平の人間にとって禁忌に値する内容だ。

 大事になる前に見つけることが出来てよかったが、かといって小事として扱っていい問題でもない。

 冷めていく怒りを感じながら人知れずため息をつくのだった。

 

 


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