P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結) 作:コンバット越前
※注 但しこの調査時、皆アルコールにより『出来上がった』状態だった為、調査に信憑性は全くございません。
「いちかー?おーい」
「あら?いませんわね」
今日も無事平穏に学校が終わった放課後のこと。セッシーとスブタの英中凸凹コンビは天下のスケコマシ男の部屋を訪ねていた。
しかしドアを開けども愛しの彼の姿は無い。二人は部屋を見渡しながら小さく肩を落とした。
「全く一夏のやつ何処ほっつき歩いてんだか。放課後遊ぼうって約束してたのに」
「そのうち帰ってきますわよ。一夏さんは約束を破る方ではありませんし」
「何よ分かったように言っちゃってさー。フンだ、じゃあ部屋で待ってよっと」
「ちょっと鈴さん!」
遠慮なくズカズカと主不在の男の部屋に入っていく鈴。当然セシリアが眉をひそめる。
「一夏さんがいらっしゃらないのに!勝手に殿方に部屋に入るなんて」
「いいのよ。あたしと一夏の仲だもん」
「どんな仲ですか!ただの幼馴染でしょう?とにかくそんな無作法はわたくしが許しません!」
「うっさいなー。じゃあお行儀のよろしいお嬢様は部屋の前で立って待ってれば?」
「ぐぬぬ」
「ふふん」
鈴は意地悪く笑うと、一夏のベッドにダイブしてそのまま布団に潜り込んだ。
「なっ!一夏さんの匂い漂うベッドの中に……じゅるり。なんてうらやまけしからないことを!」
「それなんて日本語?」
「と、とにかくはしたないですわ!早く出てきなさい!」
「へいへい」
イモムシのようにベッドから這い出る鈴。
「まったく!貴女という人は!」
「アンタも結局部屋に入って来てんじゃん」
「貴女の監視ですわ!何をなさるか分かったもんじゃありませんから」
「さいですか」
鈴はやれやれと小さく伸びをする。
「ん?」
そこであるモノが目に入ってしまった。さっきは見えなかったが布団をめくったせいで現れたモノ。すなわちベッドの中にあったモノ。
「これは……」
「なっ!ななな」
セシリアがソレを見て口を半開きに驚愕した。
それはぱんつ。一夏のおパンツ。ワンサマー'sトランクス。しかもあたかも使用済みのように皺になっているお宝(?)モノ。それが今少女二人の前に顕在していたのだ!
「うわー。一夏って意外と派手なパンツ履いてんだー」
「あわわわ」
セシリアさん、リンゴのように顔を真っ赤にする。
しかし鈴の指摘も尤もであった。百獣の王ライオンと天昇る龍がこれでもかと大きくプリントされていて、色も鮮やか。何とも派手なおパンツである。
「そういや下着を派手にする奴って実はムッツリだって誰かが言ってたわね」
「え?そ、そうなんですか?」
「そういやアンタもいつも派手な下着だもんね。このムッツリスケベ」
「な、なな、な……」
「ふむ」
恥ずかしさに震えるセッシーをよそにスブタは顎に手をやり考え込む仕草を見せた。
異性のパンツ。それは人の本能を刺激するもの。それは男も女も変わらない(たぶん)
「ねえベッドの中にあったんだし、これ流石に着用済みってわけじゃないよね?」
「知りませんわよ!」
「よし。……おりゃ」
「ちょっ!」
何と酢豚娘はいきなりそのおパンツを手に取った!
「生暖かい。ベッドの中にあったから当然かー」
「はわわわわわわ……」
「流石にあたしは変態じゃないから匂い嗅いだりしないけど。でもこの手触りは中々……」
「あばばばばばば……」
「ふーむ」
変態だー!というツッコミはさておき、あたかも哲学者のように考え込みながら男のパンツを弄繰り回すチューカスブタ娘。その姿に純情英国お嬢様は言葉にならない声を発して悶絶する。
そんなカオスな光景が主不在の部屋で展開されていたのであった。
「全く貴女という人は!」
あれから暫く経って、ようやく平静を取り戻したセシリアが鈴に吼えた。ちなみに未だ部屋の主は帰って来ない。
「うっさいわねぇ」
鈴はそう言うとゴロンとベットに寝転がった。ちなみにその手には未だパンツが握られている。
「いい加減それを離しなさい!」
「それってなーに?」
「うっ……そ、それはそれですわ!」
「ふふ。何?アンタも触りたい?」
「ふざけないで下さい!」
「無理しちゃって」
「鈴さん。非常識という皮を纏っているチャイニーズに常識を求めるのは無理があると存じてはいますが、それでも幾らなんでも人の下着で遊ぶなんて許されないことですわよ」
怒りのせいか結構酷い差別発言をする英国淑女。
そこには未だ騎士制度が残る国を母国に持つ少女の深層にある、アジア諸国に対する差別意識という闇があった、かもしれない。
しかし鈴は気にする様子もなく何かを考え込むように目を閉じていた。パンツ握ったまま。
「ねぇセシリア。あたしね常々思っていたの。男女の不平等について」
「えっ?」
いきなりの酢豚的社会風刺発言にセッシー驚愕。
「どうして男と女ではパンツというものに対し異性からの目が違うのかって」
「あの、唐突に何言い出すんですの?」
「パンツの用途は男も女も同じ、秘所を覆い隠す為のもの。本来それだけのもののはずなのに、世の男共は女性のパンツを覗くために日々ありとあらゆる手段を模索しているわ。まるで繁殖期のエテ公の如く鼻息荒く懸命になって……。その情熱を世界の平和の為に向けることが出来たなら、どんなに輝かしい未来が待っているでしょうに」
鈴はその優しい胸を痛め世界を憂う。
男ってのはホントどうしようもねぇな!
「セシリア。これから先、人は何処に向かっていくのかしら……」
「少なくとも貴女の逝きつく先は檻付きの病院ですわね」
「まぁつまりアレよ。要は女のパンツだけが性の対象に見られるのが納得できないわけよ。男が女のパンツをそういう目で見るというなら、コッチだって同じようにしてやってもいいでしょ?」
「鈴さん。貴女本当に大丈夫なんですか?頭とか脳とか」
「だからあたしたち女が男のパンツに興味を持つのもおかしくないし、罪じゃない」
常人には理解の及ばぬスブタ理論を並べる少女。
セッシーは思う。このチューカ娘、少し足りない人だと内心思っていたが、ここまで終わっていたなんて。
「鈴さん。今ならまだ間に合うかもしれません。一度先生に診てもらいましょう。私も付き添い致しますから」
「けどここからが本番なのよ、セッシー」
しかしセシリアの友人としての優しさなどおかまいなしに鈴は止まらない。
「セッシーではありませんわ!」
「そんなのはどうでもいいのよ。今は重要じゃない。ただあたしは別にふざけてこんな事をしてるんじゃないのよ、マジで」
ウソつけ。
セシリアはジト目でチューカ娘をにらみつけた。
「まだこっちに来て日が浅いアンタは知らないだろうけど、日本にはあたし達の常識が及ばないことが多々あるのよね」
「どの国も貴女の祖国からはそう言われたくないと思いますけど」
「シャラップ。ウナギゼリーやニシンパイを喜んで貪り食っているようなメシマズ国は黙ってなさい。アレは幾らなんでも酷すぎだわ……ってそんなことどーでもいいのよ!だからパンツなのよ!パンツ!」
「何なんですか本当に」
「日本ではね、好きな異性のパンツを頭に被ることで愛を示すという狂った文化があるわけよ」
「またお馬鹿な戯言を……」
「いやマジなんだけど」
「えっ?」
鈴の真剣な表情にセシリアが面食らう。
「いやこれ冗談抜きに。ホントに」
「なっ……い、いや騙されませんわよ!そうやってまたわたくしをからかって!」
「ごめん。これはマジに冗談じゃない」
「そ、そ、そんなことあるわけ」
「だから言ったじゃない。この国には理解の及ばぬことがあるって。あたしだって少し悪乗りしたトコはあるけど、完全にふざけていたわけじゃない。少しでもその日本の文化に慣れないといけないと思って……」
そうして鈴はギュッとパンツを握り締める。
そこには今まで隠していた彼女の苦悩が表れていた。
「あたしも異性の下着を頭に被るなんて狂ってるとしか思えない。でもこれが日本なのよ!」
「そんなの信じられませんわ!」
「甘いわね。これを見てみなさい!」
そうして鈴は一夏の部屋の本棚から一冊の本を取り出した。それを驚愕しているセシリアに渡す。
「キャー!なんですのこの表紙は!」
そこに描かれていたのは女性のパンツを顔に装着し、自身は上半身裸に下はふんどしのような意味不明の摩訶不思議な格好をした男が、目を三角に華麗なポーズを決めていた。
「『変態仮面』人は彼をそう呼んでいるわ……」
「へ、へ、へ、HENTAI?」
「そう変態。ホントにそういう名称なのよ。その絵の通り女性のパンツ被って変身するわけ。正確には『クロス・アウッ!』って感じに服を脱ぎ捨てるんだけど」
「こんなの酷すぎですわ!人権団体に即刻有害指定図書として抗議致しますわ!」
「黙りなさい。そうやって一々抗議したり騒ぎ立てる連中のせいで、業界はどんどん規制が厳しくなってるんじゃないの!あんまりよ!日本は、あたしの好きな日本はこんなに不自由で小さい国だったというの?」
日本を愛し、ジャパン文化を愛する少女は勢いのままそう吼えた。
鈴はかつての日々を思う。そう、昔の少年誌、例えばジャ○プなんかは今とは比べものにならない程エロかったと。いや○ャンプだけじゃない。漫画にゲーム、昔はどれももっと自由があった。夢があった。
それなのに!すべての事に噛み付くエセ人権団体とやらのせいで!
そんな規制だらけの文化に未来などあるのかってんだ。
「まったく!ホントやりきれないわ……」
「貴女は何なんですの……?」
「ああもう!また話がズレちゃったじゃない!だからパンツだって言ってんでしょーが!」
「なんで貴女が怒るんですか」
怒りたいのは自分の方だとセシリアは至極当然なことを思った。
「日本は相手のパンツを被って愛を示す文化がある。じゃあどーするのかって話よ」
「あの、わたくしは未だ信じられないのですが。いくら極東の地の野蛮人な文化とはいえ……」
「謝れ!日本人に謝れ!」
「あ、すみませんでした。つい」
「ついでにイギリスは中国にも謝罪しろ!アヘン戦争の恨み!未だ我が同胞の心から消えず!」
「……」
セシリアは天を仰ぎ、この地での人間関係について改めて思った。
自分は友だち選び間違えたのだろうか?
「あーもう!だからそーじゃなくて、パンツの事だって何度言わんのよ!何回話逸らせば気が済むわけ?」
「毎回脱線させるのは貴女でしょうが。それで、貴女の言葉は誓って事実なのですか?」
「モチのロンよ」
「貴女のお可哀想な頭と同じくらい信じられませんわね。それにチャイニーズの言う事ですし」
「よし後で殺す。……それはともかくこれだけはマジだって。この漫画映画化もされてんだから。しかも空前絶後の大ヒット。それくらい日本人にとっては『異性のパンツを被る』というのは当たり前で且つ尊い文化として認識されてるわけよ」
「……信じられません。わたくしは信じません」
「しつこいわね。じゃあ今度一緒にその映画レンタルしてみる?つーか疑ってんなら今携帯で本当に商品化されてるか検索なりしてみればいいじゃん。それであたしの言ってる事が嘘じゃないって分かるから」
「ううっ頭が痛いですわ。この国って一体……」
「だから他国は昔からこう言うのよ。『神秘の国ジャパン』ってね」
それ違う。神秘って絶対そういう事じゃない。
しかしセシリアはそうツッコむ気にもならなかった。日本と自国との文化の違いに頭を悩ませ、深く傷ついていたからである。というより想い人とのことを。
……嗚呼!例え二人に大いなる愛があったとしても、文化の違いというのはやはり大きいのでしょうか?
セシリアは神にそう問いかける。そして自分達に待ち受けるであろう愛の困難を思いその胸を痛めた。
いつも通りの妄想大爆発で悲劇のヒロインを演じきっている少女。それを鈴は冷めた目で見つめる。
コイツいっつも妄想してんな。
「それでセシリア。アンタはどうするの?」
「えっ?何がですか?」
「日本にはそういう狂った文化がある。それはこの本をバイブルとしている一夏も例外じゃない」
「そ、それは」
「アンタにそれを受け入れる『覚悟』はあるの?」
「うっ……」
うろたえるセシリア。
そりゃ「人のパンツ被るのに抵抗なんてナッシングでーす」だったら逆に怖いわ。
「あたしには……その『KAKUGO』があるわ」
しかしお嬢様の葛藤を他所に酢豚は力強く言い切った。パンツ握り締めながら。
「例えそれがどんなに狂っていて、受け入れがたいものだとしても。それが一夏の望みだというのなら」
「酢豚さん……じゃない鈴さん。貴女は……」
「アンタはどうなの?」
「わたくしは……」
「アンタの一夏への想いはそんなもの?所詮は上辺だけの薄っぺらいものなの?」
「なっ!」
鈴の言葉にセシリアが目を剥く。その言葉は受け入れられない。
自分の想いが薄っぺらいなんて、そんなことあるわけないのに!確かに過ごした年月しか誇るものが無いアホな幼馴染連中に比べたら、自分は彼と共に過ごした日は浅いだろう、それは認める。でもそれをカバーして有り余るほどの想いが自分にはある。ライバルたちにも決して負けない想いの強さが。
強き意思が点っていくセシリアの目。それを目にして鈴が満足したように小さく笑った。
「セシリア。どうやら『覚悟』は決まったようね」
「貴女がわたくしをどう思おうと構いません。しかしわたくしの一夏さんへの想いを疑われることだけは……断じて我慢なりませんわ!」
「ふふ。それでこそあたしのライバルね!セシリア」
もはや言葉はいらない。
鈴は宿敵(ライバル)に握手を差し出すようにパンツを差し出した。
「さあ。このパンツを取りなさいセシリア」
「…………えー」
例え色々覚悟完了したとしてもそれはそれで別である。
だって人様のパンツだし。それとこれは話が別というものだ。そもそもこの酢豚がおかしいのであって、一般の感覚を持つ女の子なら誰だって普通は躊躇する。
しかしこのまま手に取らないというのも負けたようでムカツク。
負けず嫌いのセシリアさん。一夏パンツを前に大いに悩みまくっていた。
「どうするの?セシリア」
「くっ!」
「ただ言っておくけどこれを手に取ったら最後、もう純粋純情穢れの無いお嬢様には戻れないわよ。アンタも『向こう側』の人間になってしまうわ」
どんな側だよ。
この酢豚と同じ側だということだろうか。やっぱ嫌だなぁ。
「それでもいいと言うなら……それでも一夏への想いを貫きたいのなら……!」
酢豚が一人熱く続ける。
「アンタの目に、この一夏パンツがそれでも眩しく映ると言うのなら……!」
もはや酢豚は止まらない。
「捨てなさい!アンタを縛るプライドやら常識やら何もかも全部!そうして今までの自分と決別して、初めてこの一夏パンツを受け取ることが出来るのよ!」
そして酢豚は皺くちゃになったワンサマーパンツを高らかに掲げた。
セシリアの目には、窓から差し込む僅かな陽を浴びたそのパンツが、あたかも神の祝福を受けたかのように、そしてあたかも一夏がそこで微笑んでいるかのように輝いて見えたのだった……。
上下編であります。セッシーは果たして悪魔(酢豚)の誘惑に耐えることが出来るのか…?
……ま、まぁ私のアホ作品ですし、何となくオチが想像できる方もいるかもですが。
いや~。それにしてもパンツって不思議ですね。ただの布切れに過ぎないのに、どうして男はあんなものを見るだけの為に命をかけるんですかね?
全くエロしか頭に無い男ってのはサイテーですよ。私には断じて理解出来ませんね!(目を逸らしながら)