P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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時折何故か思い出したかのようにISのSSがふと書きたくなる。
やっぱキャラが魅力的だからなのかな。





織斑一夏と少女たちの何気ない日々 2

※ こちらボーデヴィッヒ、任務を遂行する。

 

 

 

現在の時刻、深夜1時。私は為すべき任務を全うするためそっと自分のベッドを出た。

立ち上がるとシャルロットが眠るベッドを振り返る。微かな寝息が聞こえ一安心した。どうやらグッスリ眠っているようだ。

 

シャルロットは唯一無二の親友ではあるのだが、これから行う任務に関しては協力は得られない。むしろ顔を強張らせお説教されること間違いなしだ。この手のシャルロットのお説教は、何と言うか本能的な恐怖を感じるというか、要はメッチャ怖いのだ。故に勘弁願いたいのが本音である。

 

私は極力音を立てないように部屋を出ると、小さく安堵の息を吐く。気分はメタルギア。

そのままニンジャのように素早く静かに動く。部屋を出たとは言え油断はならない。任務達成までには数多くの障害がある。夜更かしする生徒、見回りの警備、教師の巡回etc……。中でも最大の障害は敬愛する教官だ。見つかった時点で私の身が一体どうなるの想像するのも怖ろしい。

 

それでも私はやらねばならぬのだ。この任務を。

なぜならそれは私がラウラ・ボーデヴィッヒであるからだ。

 

任務完了まであと少し。幸運にも邪魔なく目標の部屋にたどり着いた私は軽く額を拭う。毎回の如く今回も難しい任務だったが、ようやく完遂できそうだ。

 

「ムッ!」

しかし目標の部屋に侵入しようとした瞬間、行く手をカギに遮られた。

 

最近目標は戸締りに特に気を使うようになった、と風の噂と言うか鈴から聞いたのを思い出す。おそらくは鈴が幼馴染とやらの気軽さから、部屋に図々しく入り浸っているから目標が警戒したのだろう。全くとんだ酢豚である。

 

しかし私はラウラ・ボーデヴィッヒ。こんな障害などには負けない。

私は密かに忍ばせていたものを取り出すと、それをドアのカギ穴に差し込んだ。所謂ピッキングツールという代物だ。バイオの影響でピッキングに興味を持ったわけであるが、人生何が役立つことになるか分からないものだ。「何事も興味を持つことが大切だよ」シャルロットはよくそう言ってくれるが、本当にその通りだと思う。

 

数分の格闘の末、ようやく最後の障害を除いた私は目標の部屋に侵入する。

そのまま足音を忍ばせ目標に到達する。ペンライトを照らすと、シャルロットより僅かに大きな寝息を発する目標を上から見下ろした。

 

うむ。やはり嫁の寝顔は何度見てもよいものだ。

私はもう辛抱堪らなくなり、着ていた服を脱ぎ捨てると嫁のベッドに潜り込んだ。此度の任務もまた困難なミッションだった。暫しその勝利の余韻に浸っていたい……のだが、嫁の体温とベッドの中の温もりに直ぐに睡魔が襲ってくる。

 

嫁とベッドを共にすると、どうしてこうも眠たくなるのだろう。もっとその温もりを堪能したいと思っても、毎回すぐに耐えきれない睡魔が襲ってくるのだ。全く持って謎である。でもその謎はとっても心地よいものなのだ。だから力を振り絞って嫁にしがみ付く。

 

「おやしゅみ……」

ムニャムニャと何か寝言らしきものを呟く一夏に、私も舌足らずとなった挨拶を返し、そっと意識を手放した。

 

 

 

 

「ラウラ!俺のベッドに勝手に入ってくるなって言ってるだろ!」

「だって夫婦だから」

 

翌朝、目を覚ました一夏に毎度の言葉をかけられる。

しかし私はそれにも決められている言葉を返す。

 

後悔はない。例え一夏に注意されようが、シャルロットに説教されようが、皆に怒られようが、教官に罰を与えられようが、私は屈しない。この任務にはそれだけの犠牲を払うだけの価値があるのだ。

 

一夏は私の嫁。

そして私はラウラ・ボーデヴィッヒであるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

※ のほほ~んスロット!

 

 

 

「のほほんさんって、昔からのほほんさんだったの?」

「ん~?」

 

いつも通りの授業が終わった放課後、俺は明日の生徒会で使う資料の用意をしていたのほほんさんに、特に深い意味もなく問いかけた。

 

「どうしたのおりむー」

「いや何となく気になって」

「私は昔から私だよー」

「うーん。そうじゃなくて、何と言うか……」

「ん~?」

 

口元に手をやって考える素振りを見せるのほほんさん。

やはり仕草一つ見てものほほ~んな感じがする。

 

「その……癒し系というかほんわかしているっていうか」

「あ~なるほどー。性格のこと?」

「うん」

「そうだね~。自分のことだから何だけど昔からこんな感じかな?」

「ふーん」

 

やはりのほほんさんは昔からのほほんさんだったのか。正にのほほんな人だな。

俺は一人納得して頷く。

 

「でもねおりむー。私には一つ特技があるんだよ」

「へぇー。何それ?」

「その名も『のほほ~んスロット!』」

「ん?それって今は懐かしぷよぷよ……?」

「まぁまぁ。そういうことはいいから。とにかく知りたいでしょ~?」

「そうだね。どんな特技なの?」

「そのスロットの目に応じて様々な『わたし』を演じられるのだ」

「なにそれ?」

「物は試し。やってみよー」

 

するとのほほさんは右手を前に差し出したポーズのまま固まった。

 

「のほほんさん?」

「この右手がレバー代わり。じゃあおりむー、上下に押しちゃってくれる?」

「ハイハイ」

 

子供っぽいことするなぁ、と俺は小さく笑いがこぼれる。

こういう所が彼女らしいけど。

 

「うぃーん。がっしゃーん!」

俺がのほほんさんの右手を下に引くと、そんな機械音を真似てのほほんさんが動き出した。

 

「ピッ、ピッ、ピ。ちゃらららっちゃらーん」

「くく……どうなったの?」

 

彼女のおかしな様子に笑いをかみ殺した俺が尋ねる。

 

「『本心のわたし』の目が揃いましたー」

「つまり本音が本音を言うわけですね。分かります」

「くっだらねぇこと言ってんじゃないわよ。鈍感野郎」

「えっ?」

 

いきなりの驚きの発言に思わず目の前の少女をあ然と見つめる。

い、今のは一体……。

 

「の、のほほんさん?」

「時折忘れた頃に笑えねぇジョーク挟んできやがってさ。それを聞くほうの身になれっての」

「あの……」

「ウケてるとでも思ってんの?おめでたいわね!クラスの皆笑ったフリしてあげてるのよ!たった一人の男子生徒に気を使ってあげてさぁ」

「そ、そ、そんな!」

「大体なんなのよアンタ。鈍感にも程があるでしょ?過ぎた鈍さは人を傷つけること分かってんの?」

 

のほほんさんの豹変は俺の理解の範疇を容易に飛び越えてしまう。

どういうことだ?さっきのスロットお遊びで悪魔でも降臨させてしまったというのか?

 

それよりも、彼女の口からこういうのを聞くのはとにかく……キツイです。

 

「女の子が必死で想いを伝えているっていうのに、気付きもしないってのは最低だと思わないの?」

「お、俺は別に、あの」

「セッシーや二組の酢豚さんなんかは本人もアホだからどーでもいいけどさ。流石に他の女の子の精一杯

の告白を『鈍感』の言葉だけで無碍にするのは人として終わってるわ」

「そ、そんなこと」

「ないって?ウソつけ。大体ちょっと前にクラスの皆で話してたよね。去年のバレンタインのこと。なーにが『親切な子が多くて親が居ない俺に同情の義理チョコをたくさんくれたんだー』だよ!ふざけんなっての!女の立場から言わせて貰えば、そんな誰もが博愛精神に優れちゃいないっての!本気なのか照れなのか分からないけど、どっちにしろホントおめでたい人だね!」

「お、おれは……」

 

彼女の容赦のない口撃に俺は俯くしかなかった。

頼みますからもう勘弁して下さい……。

 

「尻お嬢や酢豚魔人はどーでもいいけど、かんちゃんまで弄び酷く傷つけようものなら、マジでそのフニャチンと種無し玉袋を切り取って……」

「うわぁぁぁぁぁ!『のほほ~んスロット!』」

 

耐え切れなくなった俺は、彼女の右手を引っ張って『のほほ~んスロット!』を強制始動させた。

 

「ピッ、ピッ、ピ。ちゃらららら~らら~」

「の、のほほん様?」

「『普段のわたし』の目が揃ったよ~。おりむー」

 

俺は安堵のあまりその場に崩れ落ちる。

どうやら助かった。もう少しで精神ポイントがゼロになるとこだった。ダメージは大きいけど。

 

「どう?おりむー。中々の特技でしょー?」

「……のほほんさん」

「なにー?」

「今後俺の前で『のほほ~んスロット』は絶対禁止でお願いします……」

 

 

 

のほほ~んスロット!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




のほほんさんは天使です(断言)


暗黒酢豚どないしよ……。



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