P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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美人局、出会い系、ネットの性別偽り、エッチ前のシャワーの間に財布諸共ドロン作戦、風俗での写真と実物全然違うじゃねーか詐欺、エトセトラ……。世の中には男の愚かしさを利用したトラップが多く存在します。良い子の男性は気をつけましょうね。
……まぁ見え透いた罠に引っかかるお馬鹿な獲物ちゃんも悪いんですが。





凰鈴音のハニートラップ

「よし。これで上がり」

「おめでとうシャルロット」

「流石ですわね」

 

シャルロットの勝ち鬨に、既に上がっていたラウラとセシリアが声をかける。

 

「今回はあたしが最後の二人に残っちゃったか」

「そうだな。それにしても……」

 

今回は参加せず勝負を見守っていた箒が小さくタメ息を吐く。

 

「またお前はドベ候補じゃないか。なんでそんなに弱いんだ一夏?」

「ほっとけ」

 

ぶすっとした表情で一夏は返した。

 

 

 

 

ババ抜き。

それは単純にして、相手のウソを見抜く洞察力、心を読ませないためのポーカーフェイスがカギとなる知的なゲームである。

 

今日も今日とてヒマを持て余し、唯一の男子の部屋に遊びに来ていたクラスメートと、その他一名の専用機持ちの面々。誰が言い出したのかババ抜きというレトロ遊びをすることになったのだが、一夏はこれで開幕から4連敗という暗黒時代の虎党のような負けっぷりを見せていた。一夏のように一直線な人間、悪く言えば単純な人にはこの手の心理戦ゲームはキツイのである。

 

「一夏との一騎打ちかー。こりゃ楽勝かな?」

鈴が既に勝ち誇った顔で小さく笑う。

 

「頑張って一夏!」

シャルロットの声援に一夏は力強く頷いた。これ以上の負けは男としてのプライドが許さない。

 

「一夏さんファイトですわ!」

セシリアの声援に一夏は力強く親指を立てた。その声援で男は幾らでも強くなれる。

 

「無我の境地だ嫁よ。欲を捨て無になることこそ勝利への道標」

ラウラの応援に一夏は敬礼を返した。無我の境地なぞテニスの王子様でもない限り使えないのだが。

 

「幼馴染としてこれ以上の醜態を晒すなよ」

箒の応援(?)に一夏は「幼馴染関係ねーじゃん」と心の中で反論した。もう少し優しくしてくれよ。

 

「ねぇ一夏。何か賭けない?」

そんな悩める猪少年に目の前の猫少女が意地悪な提案をする。

 

「賭けるって何をだよ」

「これで負けたら一夏5連敗じゃない。流石にそれは情けなさ過ぎるんじゃない?」

「うっせーな」

「その回避の為にも何かリスクを背負ってみるのも大事だと思うわけ。どう?」

「グム~」

 

鈴の言葉に一夏は押し黙る。確かに彼女の言葉も一理ある。『別に負けたところで何かあるわけではない』

そんな心の甘さがこの連敗に繋がっているかもしれないのだ。

 

「分かったよ。何を賭けるんだ?」

「何でもいいけど。そうねぇ……じゃあ負けたら相手の言うこと何でも一つ聞くってのはどう?」

「なっ!鈴さん!」

 

よかならぬ気配を嗅ぎつけたセシリアが吠える。お嬢様の恋に関する嗅覚は尋常ではないのだ。

 

「シャラップセッシー。これはあたしと一夏のサシの勝負よ。部外者は黙ってみてなさい」

「……何でもって、どこまでの範囲でのことだ?」

「別にそう大層なことじゃないわよ。なに?やる前から負けること考えてるの?チキンな一夏ちゃん」

 

ムカッ。

鈴の挑発に瞬間的に怒りが有頂天になる一夏。単純である。

 

「いいぜ。やってやるよ」

「そうこなくっちゃ。お遊びにしても多少の緊張感がないとね」

「ちょっと鈴……」

「ハイハイ、シャルロットも黙ってね。ぶっちゃけ一夏が勝てばそれでいいんだから。簡単でしょ?それとも何?アンタら一夏を信用できないんだ?」

 

そう言われれば彼に恋する少女たちは黙るしかない。

少女たちは意中の少年に『勝て勝て』パワーを送ると、酢豚に『負けろ負けろ』怨念を送り始めた。

 

そんなギャラリーが見守る中勝負は始まる。

 

「にゃふふふ」

笑いながら手持ちの二枚のカードをシャッフルしまくる鈴。こちらにはババはないのだから、必然的に鈴が持っていることになる。つまりババじゃない方を引けば上がりだ。勝負は一発勝負!一夏は気合を入れた。

 

鈴がかざす二枚のカード。一夏はそれを穴が開くほど見つめると、意を決して右のカードに手をやった。その瞬間鈴が「プッ」と小さく噴出すのが聞こえ、慌てて手を離す。鈴を再度窺うと目を逸らして口笛を吹いている。あやしい……。

 

次に左のカードに手を伸ばす。その瞬間鈴が小さく息を呑み、身体を硬直させた。ビンゴ!一夏はニヤリと笑うと狙いを決めた鷹のように鈴の左のカードを掠め取る。カードに触れた瞬間、鈴が大きく目を見開いた。

 

ざまあみろ、俺だってこう何度も負けてりゃ学習するんだよ!

一夏はドヤ顔で鈴を見返すと、勝利を確信して引いたカードを覗き込む。そして硬直した。

 

「はれ?」

そこに有ったのはイヤラシイ顔をした老婆が写っているカード、ババ。

 

「あははははは!」

鈴が一夏を指差して爆笑する。

 

「単純だねぇ一夏は。女の態度を簡単に信用しちゃいけないぞー」

「だ、騙しやがったな!」

「騙すのがゲームの基本。騙される方が悪いのが勝負の常。お分かり?一夏ちゃん」

「くそぉ……」

 

とはいえここで悔やんでも仕方がない。一夏は鈴に見えないように高速でシャッフルすると、二枚のカードをかざした。

 

こちらを面白そうに見てくる鈴を出来るだけ無視して、一夏は極力ポーカーフェイスを決め込んだ。

『がんばれ!』というギャラリーの少女たちの声が耳に力強く届く。さぁかかってこい!まだ終わらんよ。

 

「ねぇ一夏。ババはどっち?」

「教えるわけねーだろ」

「そこを何とか」

「うるさい。早く取れよ」

「右かな?左かな?トラップカードはどっち?」

「だから言わねーって」

「ハンタのクラピカ理論によると、人は二者択一の道を選ぶ際、多くは無意識に左を選ぶらしいわね?」

「そんな誘導尋問には引っかからねーよ」

「教えてくれたらパンツ見せてあげる」

「えっ?」

 

その瞬間一夏の視線が手持ちのカードに動く。鈴はその視線の行き先を確認すると、その反対側のカードを素早く掠め取った。

 

「ああっ!」

「ハイあーがり。残念だったね~一夏」

 

鈴が最後のペアになったカードを山に放り投げ、勝ち鬨をあげる。

 

「ちょっ、卑怯だぞ!そんな……」

「さっきも言ったけど、ゲームは騙されるほうが悪い」

「こんなのはあんまりだ!ズルだ!イカサマだ!」

「こんなしょーもない手にひっかかるアンタがお馬鹿なだけ。このスケベ」

「お、俺は悪くねぇ!男の本能に訴える手なんて、そんなの……!」

 

「いーちーかー」

鈴に醜い文句を垂れていた一夏は後ろから聞こえた声にビクッとなる。恐る恐る振り返ればギャラリーの皆様方がそれは怖ろしい顔でこちらを見ていた。

 

「一夏!貴様はそんな手に……恥ずかしくないのか!幼馴染として情けないぞ!」

「一夏さん。少し幻滅ですわ」

「ねぇ一夏。それはないんじゃない?」

「なんだ、一夏はパンツ見たかったのか?」

 

一名ほど分かってない眼帯少女がいたが、他少女たちの高まるプレッシャーに一夏は後ずさりする。

 

「違うんだみんな!これは男の悲しき性でありまして!」

『成敗!』

 

当然、怒れる少女たちが言い訳を聞くわけがなく、一夏はお決まりのボコボコにされた。

 

 

 

 

数分後、ボロゾーキンのように横たわる一夏を置いて、多少のストレス解消に成功した少女たちは各々帰り支度を始める。色々あったが今日も一日楽しかった。

 

「おーい一夏。生きてるー?」

鈴の声に一夏はうつ伏せに倒れこんだまま、右手の中指を上げる。ファック・スブタ!

 

鈴はそれに苦笑すると、一夏の下へ向かい手を掴んだ。

 

「ホラ一夏、起きなさい。行くわよ」

「何処にだよ」

「あたしの部屋」

「お前の部屋?なんで?」

「お馬鹿な勝負事とは言え約束は守らないとね」

 

鈴の言うことが分からず首を傾げる一夏。そんな一夏に鈴は頬を染めながら照れるように額を掻く。

 

「結果的にババ教えてくれたし、少しだけパンツ見せてあげてもいいかなーって」

「ハイ?」

「みんなの前で見せるのは抵抗あるし、あたしの部屋でなら……」

「行きます!逝きます!生きます!イクぞコラ!」

 

ノックアウトされていた一夏は瞬時に復活すると猛々しく吠えた。

うぉぉぉん!俺はまるで人間自家用発電所だ!

 

「いーちーかー」

「ヒッ」

 

猛る野獣となっていた一夏は後ろから聞こえた怖ろしき声に、瞬時に震える小鹿ちゃんと化す。

 

この男は本当に学習しない……。

 

「私はお前をそんな堕落した幼馴染に育てた覚えはないぞ!」

お前に育てられた覚えはねーよ。一夏は思う。

 

「一夏さん、ちょー幻滅ですわ。エロかっこ悪いですわ~」

お嬢様がそんなギャル語を使うなよな……。一夏はやるせなくツッコむ。

 

「ハァ……。一夏キミって人は……」

そんな失望の目を向けないで下さいよシャルさん。一夏は悲しくなる。

 

「後で私のパンツ持ってきてやろうか?」

もう少し常識を学べよラウラ。一夏は少女の成長を願う。でも今晩一晩だけでも貸して欲しいな。

 

「フッ。全く女ってヤツは……」

自らの命運を悟った一夏は、ニヒルな笑みを浮かべると、周りの少女たちを見渡した。そして大きく息を吸い込み、力強く宣言する。

 

「俺は悪くねぇ!」

『黙れ!このスケベ!』

 

案の定ボコボコにされた。

 

 

 

 

鈴は背後から聞こえるボカスカという打撃音をBGMに窓から景色を眺める。こんなのんびりとした平和な時間が一番なのだ。一名ほど平和じゃない者がいるが、自業自得といえばそれまでだし、彼女たちのストレス解消も兼ねた折檻も、もはや彼には慣れっこだろう。

 

とはいえ、やはり可哀想な気がしないでもない。

鈴は幼馴染の少年の叫び声を聞きながら考える。後でこっそりご褒美をあげちゃおうか。何せこちらには『何でも言う事を聞かせられる』権利があるのだ。抜け駆けしようが、パンツ見せようが文句は言わせない。

 

鈴は「うーん」と小さく伸びをして微笑む。

 

天下泰平事もなし。

後ろから轟く少年の断末魔を聞きながら、少女は戦いの日々の中での、一時の穏やかな時間に感謝した。

 

 

 

 

 

 

ハニートラップ。

それは男の本能を付いた女性の恐るべき狩猟手段。哀れな獲物ちゃんにならぬ心構えが大切です。

 

 

そういう訳でIS学園は今日も平和です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実は今話は多少の変化はあれど、私が体験した実話であります。ふと思い出したので書いてみました。

唯一大きく違うのは、私には当然その後の『ご褒美』なぞ存在せず、貰ったのは周りからの嘲笑だけというオチでしたがね。ハッハッハ!
……ピュアな少年の純情を弄ぶ女性なんて豆腐の角に頭ぶつけて泣いちゃえばいいんだ……。

ハニー・トラップ。
「美しい薔薇には棘がある」昔の偉い人はうまく言ったものです。いい女に誘われてホイホイついて行った挙句、全財産搾取されて「アーッ!」なことにならぬようイケメン以外は美しい花には気をつけましょう。



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