P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結) 作:コンバット越前
そんな想いを常に併せ持つ生き物……男ってのは真にめんどくさいものでありますよ。
「ありゃりゃ。話には聞いてたけど、こりゃまた見事な金髪ね」
対暗部一派とのやりとりから一夜。俺は朝食を食べに食堂に向かっていたところ、昨日一日会わなかった鈴と出くわした。
「鈴か」
「おはよ。良かった、ちょうど一夏の部屋に行こうと思ってたから。食堂行くんでしょ?」
「まぁな」
「あたしも一緒するわね。いいでしょ?」
「そういやお前昨日クラスに顔見せに来なかったな。我ながら結構な騒ぎだったのに」
「あたし昨日休んだんだ。少し熱出て」
「大丈夫か?」
「うん。今はもう平気。で、ティナが昨日結構驚いて報告してくれたから、早速見てみようと思ったわけ」
「ふん。それでご感想は?」
「いいんじゃない?結構似合ってる……と言えなくもない」
鈴は周り比べ俺の変化にあまり驚きはないようで、それ以上は干渉してこなかった。
それはそれで少し寂しいと思うのはエゴだろうか。そんなことを思いながら鈴と並んで歩いた。
食堂に着くといつも通り女性の喧騒に包まれている。一日経っても、未だ俺の姿を見て遠巻きに騒いでいる人も多々いるが、俺自身は少し慣れて来ていた。
朝定食を注文し席に着く。鈴は酢豚定食を注文していた。酢豚、朝から酢豚。身体を張ってネタを表現する芸人のように、いかなる時も酢豚を表現する鈴は正に酢豚の申し子、骨の髄までSUBUTAガールだ。
「なによ?酢豚に文句あるの?」
「……いいや。ただ病みあがりだから軽いものの方がよくね?」
「病み上がりには酢豚が一番!中国四千年の歴史でそう定められてるの」
「そんな歴史があってたまるか」
「積み重ねてきた我等が酢豚の歴史。一夏にはまだ理解できないか……」
「したくねぇよ」
俺は心底そう思いながら返すと、日替わりの朝定食を眺める。
ご飯、納豆、焼き魚になめこの味噌汁。これぞ日本の朝御飯だな。素晴らしい。
「じゃあなぜ酢豚が病みあがりに良いか教えてあげる。あたしが思うに酢豚のお酢の効果が……」
「せっかく日本の良き朝飯に浸っていたのに酢豚講座なんざ止めてくれ。それより俺の姿見て何か他に言うこと無いのかよ?」
「なんだ気にかけて欲しかったの?」
「い、いや別に。そうじゃねぇけどよ」
「どーせまた弾とアホなことやった結果でしょう?」
「うぐ……」
当ってる……。
「……弾から聞いたのか?」
「聞かなくても分かるわよ。一夏のことなんて」
「ぐっ」
「それとも理由は千冬さん関係?構ってもらいたくて、少し遅れた反抗期してみたくなったとか?」
「グ、グム~」
ただただキン肉マンに出てくるキャラのように唸るしかない俺。
見透かされてるよちきしょう!
「ありゃー図星?こりゃまた子供っぽいことで」
「そ、そんなんじゃねェよ!舐めてんのかお前!」
「そして外見の変化と共に粋がってみる……まぁ手段としては無難なやり方ね」
くそったれ!
何なんだよコイツは……!
「まだまだ親離れ出来ない子供かな?一夏くんは」
「なんだよ。……人のこと何も知らないくせに、分かったようなこと言いやがって」
「ふぅ。何年あんたと一緒に過ごしたと思ってるのよ。伊達に幼馴染やってません」
さっき言ってた積み重ねてきた歴史というやつか?
幼馴染ってやつはホントに……。
「それに中学ん時も結構いたからねー。今のアンタみたいに長い休み明けに変わっちゃったりするのが。覚えてない?」
「うっ」
「でもそーゆーのは知らぬは本人のみで、実は周りからは『痛い人』扱いだという……」
「ううっ」
「そしてそれは後に黒歴史と痛い記憶となって、他ならぬ本人自身を苦しめるのよ!」
「やめろぉ!」
俺は叫んでいた。
黒歴史、痛い記憶……何か知らんがこれ以上は聞きたくない耐えられない。
「ふむ。ま、冗談はこれくらにして何があったわけ?聞いてあげるから話してみ」
「……別に何でもねェよ」
「ふーん。じゃあいいや、この話はお終いね」
「いや待てよ。待ってくれよ!その……千冬姉がさ」
「千冬さんが?どうしたの?」
気付けばあたかも誘導されるように、俺は胸の内をこの小柄な幼馴染に話していた。
我ながら情けない。だが一方でこうやって話すことが出来る安堵感も僅かに感じていた。
「なるほどねぇ。でも外見変えて相手の反応を期待するのは大小誰しもやってることだしね」
「そうなのか?」
「うん。それに金髪にするくらい別にいいんじゃない?誰かに迷惑掛けるわけでもなし」
「あ、ああ」
「千冬さんは何て?」
「まだ見せてない。ここ数日出張でいなくて」
「千冬さん何て言うのかしらね。でもま、程々にしときなさいよ?以上!」
そう話を打ち切ると、鈴は酢豚定食に取り掛かり始めた。
「おいしい!」満面の笑みで酢豚を頬張る。
俺は小さくため息を吐くと、納豆をゆっくりかき混ぜる。
結局胸に抱いていたガキっぽい想いを鈴にも話してしまった。弾や鈴相手ではどうも上手く誤魔化せない。自分を曝け出してしまうんだよなぁ。
やっぱ思春期を共に過ごした幼馴染ってのはやっかいなものだ……。
「おーりむ」
「あら」
「ひぃっ」
唐突に後ろから聞こえた声に俺の心臓は激しく脈打ちだす。
その声の主は悪魔。天使の仮面を被った小悪魔THEのほほん。
「おっはよー」
「お、おはようございます布仏様……」
「ちょっと一夏、アンタどうしたの?」
「そうだよおりむー。どうしたの?変な態度取らないで普通にしてよ~」
「へ?わ、悪い。まだ寝ぼけてんのかな?ハハハ……」
「あははー。安心してよおりむー。わたし約束は守る子だよー。……相手が破らない限り、ね?」
本音様は俺にウインクをすると、鈴に軽く頭を下げて去っていく。
俺は納豆をかき混ぜる手を機械的に動かしたまま、知らず小さく震えていた。
「相変わらずのほほんとしてる子よねー。ん?一夏本当にどうしたのよ?」
「何でもない……何でもないんだ……」
「そ、そう?」
「だが一つ忠告しておいてやる。最も恐ろしいのは、彼女のように一見平和そうに見える人だ……」
「ほえ?」
「お前は知らなくていい……。鈴よ、頼むからお前はそのままでいてくれよな……」
不思議そうにそうに首を傾げる鈴。
俺はそんな彼女に小さく笑いかけると、かき混ぜまくった納豆をかっ込んだ。
今日も一日騒がしくも何とか授業を終え、生徒が待ち望む放課後。俺は千冬姉の部屋の前に立っていた。早めの出張を終え学園に戻ってきたことを、帰りのHRで山田先生が言っていたからだ。
鈴に指摘されたように、思えばこの髪の切欠は千冬姉に気にかけて貰いたいという俺のガキ臭い想い。情けないがその通りだ。自分の想いは騙せない。
千冬姉は今の俺の姿を見てどう思うだろうか?
怒るか、嘆くか、呆れるか、それとも心配してくれるのか?
分からない。だから……確かめよう。
俺はゆっくりと深呼吸すると部屋をノックする。中から「入れ」という聞き慣れた声が聞こえ、俺はもう一度大きく息を吐くと部屋に入った。
「な……。おい!その髪はどういうつもりだ!」
入った直後にいきなり響く千冬姉の怒鳴り声。
やはり怒りで来たか。
さてどうしようか。
俺は案外冷静になって考える。自分の本音、家族への愛情を正直に話すか、それとも……。
「どういうつもりだと聞いている!」
少し黙っててくれよ。
千冬姉の怒鳴り声で思考を乱され、俺は顔を顰める。
「おい織斑!」
うっせぇなぁ。
段々腹が立ってきた俺は不貞腐れたようにズボンのポケットに手を突っ込む。大体何が『織斑』だ。いくら体裁があっても『一夏』と名前で呼んでくれるくらい別にいいだろ。
「織斑!お前なんだその態度は!」
……オーケー。やっぱ正直に胸のうちを話すのは止めだ!弾が言ってた不良路線!これで行く!
千冬姉の怒鳴り声にブチ切れて来た俺はそう結論付けた。
だいたい悪いのは千冬姉じゃないか。
二人きりの姉弟。両親のいない俺らは唯一の家族。なのに俺の寂しい気持ちを考えもしてくれない。目が合っても冷たく無視され、口を開けば説教と注意ばかり。
こんなことってあるかよ、これのどこか家族なんだよ。
例えここでは教師と生徒の関係だとしても、少しくらい俺の気持ちを汲んでくれたって罰は当らないはずだ。
「ふぅー」と大きく息を吐く。
ここが試練の場、この金髪は正にこの時のため。今こそ勇気を見せる時!さぁいざ行かん!
「織斑!」
「うっせー年増ババア」
今日から俺は変わる!
そんな決意の下、俺は唯一の大切な姉にガンを飛ばした。
「うっううっ……」
部屋に泣き声が響く。全てに絶望するような哀れな声。
「こんなの……こんなのって……」
自室に戻った俺は幼子のようにただ泣いていた。悲しみが止まらない。
「これが姉の、教師の……いや人間のやることかよ……」
真っ赤に腫れた頬がジンジン痛い。でもそれより痛むのは心。
「あんまりだぁぁぁ~!」
うおーん!
やるせない想いが号泣となって溢れ出ていく。
震える手鏡に映るは見事な坊主頭。
長く共に歩んできた俺の髪。それを一気に失った俺は、流れ出る涙を止めることなど出来なかった……。
反抗期。
それは男に生まれた以上大小誰しも経験があることでしょう(女性もですが)これを経験し、少年はまた一つ大人に近づくのであります。
まぁたまに永遠の反抗期にお入りになるヤバイ方もいらっしゃいますが……。
ともかく大人になる為の通過儀礼と言えるかもしれませんね。
しっかしこの反抗期と言うのは、大人になって振り返ると、結構その、『痛い』ものであります…。
私も当然それを経験した一人でありまして、中学何年時かは忘れましたが、とにかく家族がウザく感じるようになった時期がありました。その時期はいつも孤高を気取り「けっ!やってらんねー」といった態度を取っておりました。
父親はそんな私をニヤニヤ見ているだけでしたが、母親には随分と心配をかけたのを覚えています。
母に悪いと思いながらも、「もっと俺を分かってくれよ!」という妙な意地があり、罪悪感と苛つき感を常に同時に感じている状態だったと記憶しております。
正に気分は『ロンリー・ウルフ』
カッコつけ自分に酔っている正真正銘の『痛い人』でありましたね……。
長々とどうでもいいこと書きましたが、何でこんなこと書いたのかというと、先日家族と親戚一同で集まったのですが、その際反抗期の話題になり、自ずと私のことにも触れられ随分と笑われましてね……。私はその間、耳を押さえ悶絶するしかなかったという。全くやりきれませんなぁ。
反抗期、そして男の思春期と言うのは全くもって黒歴史な思い出が多いものです。
あなたの黒歴史は何ですか?
さて『今日から一夏』も次で終わりです。
あの家庭環境でグレない一夏は人間が出来てるなぁと思うこの頃。