P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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あのゲームで日本の都道府県と各地名産を覚えたのは私だけではないはず。





凰鈴音の友情破壊ゲー (鉄道編)

「アンタらほんと仲いいよね」

 

この部屋の主、凰鈴音は寄り添うようにして本を読んでいる親友コンビに向けて唐突に言葉を放った。その親友コンビ、シャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒは不意の言葉に揃ってキョトンとした目を友人に向ける。

 

「どうしたの鈴。いきなり」

「べつに。何となくそう思っただけ」

「当たり前だ。シャルロットは私の大切な友人だからな」

「ありがとラウラ」

 

シャルロットが親友の髪にそっと手をやって礼を述べる。

 

「ふふ。羨ましい関係ですわね」

それを見た英国貴族セシリア・オルコットが紅茶を片手に優雅に微笑む。

 

「そうだな」

篠ノ之箒もセシリアに倣い湯飲みを片手に小さく笑う。

 

「セシリア。後で私にも紅茶を貰えないか?」

「勿論ですわ。その代わり箒さんもジャパン・ティーを淹れて戴けます?」

「ああ。喜んで」

 

箒とセシリアも己の好物を仲良く共有し合う。

 

そんな麗しく可憐な少女たちの午後のお茶会。

微笑ましく柔らかい空気を漂わせながら、何時ものように平和にのんびり過ぎようとしていた。

 

 

 

「その幻想を……ぶち壊す……」

 

不幸にもそんな酢豚の呟きが聞こえぬままに……。

 

 

 

 

「ねぇTVゲームやらない?」

唐突な鈴の提案に他の少女たちは顔を見合わせた。

 

「ゲームだと?」

「そうそう。箒はやったことないと思うけど、結構オモロイもんよ」

「ボクもあんまり……一夏に教えてもらって何回かやったくらいかなぁ」

「私は結構やるぞ。戦争モノの対戦がかなり熱いんだ」

「とにかくヒマだし、なんかやってみない?」

 

鈴が皆を見渡して提案する。

 

「私はお断り致しますわ。そんな低俗なものをする趣味はありませんの」

「一夏もゲーム好きなのに。その言葉後でそっくり伝えておくわね」

「ゲームとはなんて素晴らしき趣味でしょう!私もずっと興味がありましたの」

 

流石は変わり身の早さに定評があるセッシーである。

シャルロットと箒はそんな恋に命を掛けるお嬢様に小さく舌打ちした。

 

「……じゃあ、せっかくだしボクもやってみるよ」

「なら私もやってみるか」

「何をするんだ鈴。私の最近のお勧めはバトルフィールドなんだが」

「ごめんラウラ。それ系は初心者には難しいから」

「そうか……」

「また今度ね。……ここは初心者にも優しく、更には盛り上がれる定番のゲームにしましょう」

 

言いつつ鈴がゲームをセットしていく。

 

「なぁ鈴。私はゲーム類は初心者なのだが大丈夫か?」

「だいじょーぶ。基本ボタン押してりゃ進む奴をチョイスしたし」

「どんな種類のゲーム?」

「ボートゲームを多く揃えたわ。友情がテーマの素晴らしきゲームたちよ」

「友情を?ということは協力してプレイするということでしょうか?それは良いですわね」

「……まぁ間違ってないわね。協力プレイねぇ……」

「ん?どうした鈴」

「別に。とにかくやってみよっか。アンタら全員物覚えが速いし、すぐ覚えるだろうから」

 

そうして鈴は一つのゲームを起動させる。

 

「協力プレイ、出来ると良いわね……」

そんな呟きを発しながら。

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしろ!」

箒の怒号が部屋に煩く響く。

 

「セシリア!いい加減高価なカードを溜め込むのはやめたらどうだ!」

「あーらドベ常連の弱者がなにかほざいていますわね。見苦しいですわ~」

「貴様……!」

「ゲームとは言え、やはりその人となりが現れてしまうものですわね。お金持ちって罪ですわ……あら箒さん、また借金ですの?少しお情けを与えてあげましょうか?」

「コロす……」

 

 

「ねぇラウラ……どうしてさっきボクに貧乏神をなすりつけたの……?」

シャルロットの押し殺した声が重く響く。

 

「シャ、シャルロット違うんだ。あの時はどうにも仕方なく……」

「二人で協力して一位二位を狙おうって言ったよね……?」

「た、戦いとは常に無常で残酷なものであって……」

「ラウラ?」

「うっ」

「……分かったよ。ラウラがその気ならボクにも考えがあるから」

 

あれから早二時間。「うふふ、あはは……」といった乙女の桃色空間に支配されていた場に、もはやその名残は微塵も見えない。

そこに在るのは殺伐とした空気。尖ったナイフのように剣呑な空気が漂っていた。

 

 

まさかここまで熱くなるとは……。鈴は他の面子を横目に少しやっちまった感に襲われる。

ある程度想像通りとはいえ、ここまでだと少し怖い。というかコイツら全員沸点低過ぎ。

 

そしてそれは時間の経過と共に一層激しくなる……。

 

「ギャー!わ、わたくしの周りがう○ちだらけに!」

「あははははは!あーはっはっはっ!」

「箒さん!貴女という人はなんて嫌がらせを!」

「どうだ?う○ちに囲まれて動けない恐怖というのは。クソみたいな性格のお前にふさわしいカードだろ?」

「FUCK!順位を放棄してまでそんな汚いカードを溜め込んで!貴女にプライドはないのですか?」

「お前の真似をしただけだ。何が悪い」

「この卑怯者!」

「フン。何とでも言え。ところでいいのか?お前の近くにヤツが迫ってるぞ」

「え?」

 

プレイヤーを恐怖と怒りのどん底に引きずり込む存在。

ヤツ名は……『キングボンビー』

 

「Son of a bitch!」

「日本語で話せ。鬼畜米英」

 

 

「よし!次ようやく目的地か。長い闘いだったな……」

「……ポチっとね」

 

みなぶっとびカード発動!

 

「シャルロットォォォォ!」

「あ、ごめーんラウラ。つい使っちゃった。仕方ないよね?ボクは目的地まで遠かったし」

「ちょっ、ふざけるな!久しぶりの到着だったんだぞ!」

「ごめんね。でもこれが勝負の残酷さなんでしょ?ラウラがさっき自分で言ったじゃない」

「シャルロット……!」

「ふぅー。やれやれ結局ボクが一位みたいだね。セシリアも自滅していくし、やっぱりこういうのは手堅く真面目にやることこそが勝利への近み……」

 

陰陽師カード。

使いますか? → はい/いいえ

 

「……ラウラ」

「すまない……これは使いたくなかった……」

「それを使ったら……元には戻れなくなるよ?」

「シャルロット」

「ね?ラウラいい子だから。ボクは色々あったけど最後はラウラと笑って終わりt……」

「えい」

 

陰陽師カード発動!

 

「ラウラァァァァ!」

「勝負とは、かくも残酷なものなんだ……」

 

 

 

「潰し合ってるわね……」

アドバイザー的ポジで皆の戦いを一歩引いて見守っていた鈴は、その醜さにやるせなく天を仰ぐ。

 

まぁ大体分かっていたことでもある。それこそが友情破壊ゲーと名高い魔物の恐ろしさなのだから。

どんな紳士淑女でも、ガキでもおっさんでも、平等に愉しませ同時にブチ切れさせる魔の魅力……それがこの『桃鉄』にはあるのだ。

 

それでも何処かで願っていた。シャルロットとラウラならもしかしてと。

仲の良い親友コンビなら、自分たちが到達できなった境地『仲良く平和に協力プレイ』に到達出来るのではないかと……。

 

モッピーと尻?

あれは元から期待してないからどうでもいい。

 

とにかく先日このゲームが切欠で弾と一夏と大喧嘩になり、未だ険悪な状態が続いている自分たちのようにはならないと。……そう思いたかった。

 

少女は涙を流し、その優しき胸を痛める。人はどうしてこうも争いを止められないのか?

まぁどう考えても、半ば八つ当たりで皆にゲームを吹っ掛けた酢豚が諸悪の原因だが、彼女は気にしない。

都合の悪いことは考えないのが悲劇のヒロインの条件だ。

 

 

 

鈴はため息と共に静かに立ち上がるとドアの方に向かう。

後ろからは怒りに支配された女性の金切り声。おそらくそう遠くない未来に、箒の木刀かセシリアビームによって、あのゲームも御釈迦かも知れない。

 

それでもいい。そうやって女の子はまた一つ世間を知り、現実を知り、強くなっていくの……。

鈴は宿敵(とも)の成長を望みゆっくりとドアに手を掛けた。

 

それにどうせこの流れでの結末は、今までの経験から『鬼教師による説教』というオチだろうし。今のうち逃げるに限る。

鈴はそのまま静かに部屋を出ると、「うーん」と小さく伸びをする。

 

さて、一夏の機嫌が直ってるのを期待して遊びに行きますか。

そうして鈴はゆっくり歩き出した。

 

 

 

 

 

友情を試すゲームをする際は相手へのリスペクトと思いやりを忘れずに!それを怠ると悲劇が起きます。

 

 

そういうわけでIS学園は今日も平和です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まだ幼かった頃、親戚の集まりで大人たちが何故か桃鉄をやりだした。
初めは和気藹々とやっていたが、ゲームの年数を重ねるにつれ皆の笑顔が消えていくことに、子供ながらに恐怖を感じた。そして最後は……。
子供にとって絶対の存在である大人。その大人の醜い姿にああはなるまいと切に思った。

そして月日は流れ……。
先日友人たちとモモテツからのプロレスに発展してしまった私がいる。

歴史は繰り返されるというのか……。

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