P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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中VS英の究極・至高の酢豚対決を書きたかったが、サブタイ違いだと断念。

予定通りに進まないものです。姉どこ行った?


織斑一夏の姉 (中)

セシリア・オルコットは空港に来ていた。

携帯で時刻を確認する。まもなく現れるはずだ。セシリアは久しぶりの親友との再会に心が弾んだ。

ただ酢豚が原因で再会するとは思わなかったが。人生とは不思議なものである

 

「お嬢様―!」

自分を呼ぶ懐かしい声にセシリアは手を上げた。

 

 

 

「チェルシー!久しぶりですわね」

「ええ。お嬢様もお元気そうで」

 

久しぶりの再会にお互い笑顔が広がる。

 

「それにしても結構な荷物ですわね」

「ええ。調味料やら何やら沢山持ってきましたから」

「チェルシー、やる気ですのね……」

「勿論です。覚悟してくださいね、時間は限られていますから。スパルタでいきますよー」

 

大げさに握りこぶを作る彼女にセシリアは苦笑した。

 

「そういえば一夏様は?お目にかかるのを楽しみにしていましたのに」

「それなのですが……一夏さん急用が出来まして、明日の夜まで戻らないそうなんですの」

「ええっ!そうなんですか?ガッカリです。会っていろいろお話したかったのに」

「そうですわね。私も貴女を紹介したかったのですが」

「ハァ……。でも仕方ありませんね。じゃあお嬢様、さっそくホテルで特訓ですよ!」

 

 

 

 

オルコット家の者にシングルやダブルと言った概念は無い。ホテルと言えばスイート。しかも特上。これしかないのである。

こうして二人の英国淑女はキッチン付のスイートを貸しきり、向かい合った。

 

「いいですかお嬢様?料理をする上で大切なのは基本です。教科書どおりやれば大きく失敗することなど普通はありません。お嬢様のが普通にならないのは、スパイスも調味料も分からないクセに何でも入れちゃうからダメなんです」

「むむ、チェルシー。私だって……」

「シャラップ!お嬢様、私は今だけは使用人でも、友人でもなく、先生として接するつもりですから」

「は、はい」

「ではさっそく料理の基本、調味料から軽く勉強していきましょうか」

「よろしくお願いしますわ!」

 

 

 

「チェルシー。何ですのこの鷹の爪とは!私に鳥さんの爪を入れろと言うんですの?」

「お嬢様。それはただの名称で実際はトウガラシです」

 

「チェルシー。タバスコは赤で辛い、故に少量なのでしょう?ということはこの緑のタバスコは辛くないので沢山入れろ、ということなのですね!」

「どうして勝手に変な自己理論を結論付けるんですか。さらにさっそく盛大に入れてますよね。行動する前にご自分の考えの是非を考えてください」

 

「チェルシー!このハバネロなる調味料、鮮やかな色をしていますわ。美しい、もっと沢山いれましょう。そうしましょう」

「お嬢様、マジメにやってる?しかもまた勝手に入れやがって下さりましたね。こん畜生」

 

「チェルシー。……ふふふ。この芳しい香り。締めはこの香辛料を噴きかけて完成ですわ!」

「セシリア。それアナタ用の香水だよ……」

 

香水を料理に嬉々として吹きかける主兼親友の姿を見て、チェルシーは頭を抱えた。言葉遣いも主に対してではなく、お馬鹿な友人に対してのソレになった。

少なくてもあの香水は料理に吹きかけるために、遠く離れた英国から持ってきたわけじゃない。

 

「うふふ。私なんだかレベルアップしているのを感じますわー!」

「気のせいだよ」

 

優雅にくるくる回りながらまた違う香水を料理に吹きかけるセシリア。

これマジで本人に食わせようかな?チェルシーは香水たっぷりのパスタを見てそう思った。

 

 

 

 

 

所変わって市内のカフェではいつもの面子がお茶をしていた。

 

「あーあ。一夏の奴まーた急用だってさ。つまんないの」

鈴がストローを下品にくわえる。

 

「仕方あるまい。千冬さん絡みだからな」

箒が熱い紅茶をすすった。シャルロットは、このカフェで箒が緑茶でも頼んだらどうしようかと思ったが、どうやら杞憂に終わったようで安心した。

 

「ハフッハフッ……熱いけどこのパンケーキ旨いな」

ラウラはいつも通り美味しいものに夢中である。

 

「ラウラ。ゆっくり食べないと火傷しちゃうよ。ところでセシリアも友達に会っているんだよね?」

シャルロットがラウラの口の周りをハンカチで軽く拭いて、皆に尋ねた。

 

「ああ。そうらしいわね。なんでもセシリアの幼馴染で、友人で、メイドなんでしょ?」

「ややこしいな。アイツが言うには友人は料理上手らしい。教わってレベルアップしてくると息巻いていた」

「ハフハフ……セシリアがレベルアップなんて無理だろ箒」

「もうラウラったら。そんなこと言わないの」

「うんにゃ、ラウラは間違ってない。あの暗黒料理破壊お嬢様のレベルが上がるなんてことは……絶対にあり得ないのだ!」

 

鈴が立ち上がって力強く宣言する。

だよねー、と少女達の笑い声が上がる。

そうしてセシリアお嬢様は、本人の知らぬところで今日も友人にdisられていた。

 

 

 

 

 

「ハクション!……フフ。また誰かが私の噂をしているのでしょうか?美しさとは罪ですわ……ハッ、もしかして一夏さんが!うふふ一夏さ~ん」

「そんだけコショウ山盛に振り掛けりゃ、くしゃみくらい出ますよ」

 

そして毎度変わらずのセッシーであった。

 

 

 

 

次の日、チェルシーは隣のキングベッドで太平楽な顔をして眠る親友を見て、小さくため息を吐いた。

元からオルコット家の当主という肩書きを脱ぎ捨てて、友人として接する場合は「アホの子」のような部分を多少見せていた子であったが、ここまでだっただろうか?しばらく見ないうちに成長どころか、悪化している気がする。アホ具合が。

 

「でも、それはいいことなのでしょうね……」

そう、それはセシリアが、ありのまま自分を素直に出しているということ。それはきっと飾る必要も無く、彼女が幸せに過ごしていることに他ならないのだから

 

「この日本でお嬢様は良き友人達に巡り合えたのですね……」

電話や手紙で知った、セシリアの友人達にチェルシーは今一度心で礼を述べる。側にいられない自分の代わりに、セシリアを笑顔にしていてくれることに感謝を。

 

一夏様。箒さん、シャルロットさん、ラウラさん、酢豚、本当に……。

 

 

……酢豚?酢豚魔人!

母親のような暖かい気持ちでセシリアを見ていたチェルシーの心が急に燃え上がった。酢豚魔人、彼女こそはパイナップルを酢豚にぶち込む野蛮人ではないか。

そうだ、このままではいけない。なんとしてもセシリアに頑張ってもらい、彼女をギャフンと言わせなくては。これは自分のプライドの問題でもある。「パイナップル賛成派」VS「反対派」の代理戦争なのだ。

 

 

「お嬢様!……起きてください」

「うう~ん。一夏さ~ん。うへへ……」

「セシリア!」

人には見せられないアホ面を晒す親友を、チェルシーは叩き起こした。

 

 

 

「ということで昨日から今朝まで、お嬢様には少しの向上も見られませんでした。やる気あんのか?ていう感じです。どうしようもないレベルです」

「チェルシー?あのですね……」

「いいですかお嬢様、昨日も言いましたが料理は基本が大事なのです。もはやお嬢様に調味料云々を教えるのはヤメです。どうか私の言うとおりに作ってください。それだけでいいのです」

「チェルシー?でも……」

「余計なモノを加えず言うとおりに。いいですね?後、時々は味見をすること。これも大事です」

「チェルシー!わたく……」

「じゃあさっそくやりましょう。まずは基本的な伝統料理から」

「チェル……」

 

セシリアに料理の本質を教えるのは、オラウターンに講義をしているようなものだ。

 

出来るメイドであるチェルシーは早々に結論付けると、もはや余計なことは教えないことにした。とにかく余計な手順や考えを起こさせず、自分のコピーを作らせる。これしかない。

それにしても天才肌で何にでも器用にこなすセシリアが、何故料理に関してはこうまで破滅的になるのだろうか?チェルシーは首を捻った。

 

様々な想いが入り混じりながらも、時間が限られる中、彼女は出来る範囲でセシリアを鍛え上げていった。

 

 

時間は冷酷にも過ぎて行く。そして彼女が日本に滞在する時間が終わろうとしていた。

 

 

「お嬢様。結局私が教えたいことの十分の一も教えられませんでしたが、良く頑張り……頑張ってないですよね。全然なっていませんでしたが、まあ生徒がセシリアというのを考えると仕方ないのでしょう」

「あの?私凄く貶されている気がするのですが」

「心残りは山ほどありますが、御武運を祈っております。どうか悪しき酢豚娘をその手で!」

「チェルシー。分かりましたわ!私に任せなさい!」

「全然任せられない気がするのですが、杞憂だと信じます。ではお嬢様、私はこれで失礼します。……久しぶりにお会いできて良かった。元気なお姿を見られて。どうか皆様にもよろしくお伝えください」

「チェルシー……私も」

「名残惜しいのでここでお別れにしましょう。それとしつこいですが、くれぐれも御作りになった料理に余計な手を加えてはいけませんよ?」

「分かっていますわ」

「では失礼します。どうかお元気で」

 

 

 

そうしてチェルシーは短い日本滞在を終えて、英国へと帰国して行った。

セシリアは寂しい気持ちになりながらも、前を向いた。手にはチェルシー助言の下、作り上げた料理がある。これを一夏に食べてもらうのだ。「美味しい」って喜んでもらうのだ。

 

セシリアは「よしっ」と気合を入れると、学園への道を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





スーパーで半額になったショートケーキを買った。食べた。
甘かった。一人で食うケーキは本当に甘かったよ……ちきしょう!

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